“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act98 だから言ってるんだよ、次元が違うって

 極低温の氷の壁でどうにか攻撃を回避し、防戦一方だったきららの横を一陣の風が通り抜けた。それはビョルン=シュトゥルムの胸元へと両手に持った剣を突き立てようとする。

 

「タバサ!?」

 

 思わずきららはその相手の名を呼んでいた。

 あれだけの数の敵をこの短時間で片付けてきたことに驚きつつも、ビョルン=シュトゥルムが対応を迫られたことで一息つく間が生まれる。その機を利用し、ほんの少しでも体力回復に努めようと考えていた。

 

 とはいえ、それも長くは続かない。初撃はやはり相手に通らず、続けて放った連撃も同様。反撃の斧を回避しつつ、これ以上この場に留まるのは難しいと判断したタバサは、ヒットアンドアウェイへと戦い方を切り替えた。地面から低温の火柱(テルミットマイン)を、空からは炎の塊(メテオシャワー)氷の槍(ブリザード)を降り注がせながら間合いを取る。

 

「オッケー、ちょっとは息が整った。凍豹拳!」

 

 タバサの去り際の攻撃と合わせ、きららが氷の拳をビョルン=シュトゥルムの顔面へと叩き込む。僅かにたたらを踏んだ相手だったが、すぐに雄叫びを上げての反撃へと移っていた。

 

「ダメだな。今のままだとなんとかなりそうな気配が見えない。ずっとこんななの?」

 

 ウルグリムの近くまで後退したタバサが問いかける。

 

「いや。あの若き指揮官の奇策で惜しいところまでは追い詰められた。今戦っている彼女の忍法だろうが、彼と姿を入れ替えて隙を作り、大技を叩き込んでいる。その時の攻撃で奴が狂戦士のようになっているのはあの斧が原因だということまでは突き止めた。……それより、向こうは片付いたのか?」

「あの程度は敵じゃない。でもこっちはどうしようもない。……今の話だと斧をどうにかすればよさそうではあるけど、このままだとそれも難しそうだな。扇舟の毒ならもしかしたら、って思ったんだけど……。効いてない感じかな」

 

 その言葉に扇舟が重々しく頷く。

 

「とにかくきららの負担を減らそう。連れてきたネイスは手があるって言ってたし、その前にやられちゃったら元も子もない」

 

 タバサがそこまで言って再び飛び込もうとした、その時だった。

 

「真の力に目覚めろ! 霜の鬼神の族長、ラグナロク=シンモラの娘……きらら=フレイヤ!」

 

 不意に、小太郎の叫ぶ声が聞こえた。

 その瞬間、場の空気が変わっていた。きららから明らかにこれまでとは別な気配が漂っている。内面を見通す能力に優れたタバサは思わず総毛立たせていた。

 

「……マジか。さっきまでは少し雰囲気が変わって強くなった、ぐらいにしか感じてなかったけど、あれはまるで別人だ。見た目が変わってるってのもあるけど、それ以上に次元が違う」

 

 タバサのその言葉の通り、きららの姿は別人のように変わっていた。

 雰囲気は大人び、普段髪とアクセサリで隠している角がはっきりと現れ、足元から上る氷のオーラに全身が包まれている。

 

「……これが……ママが私にくれた力……」

 

 ポツリと呟き、きららは手のひらに小さな氷の結晶を作り出した。が、すぐにそれを消し、目の前の相手へと視線を移す。

 

「ウオオオオオオオオオッ!」

 

 その姿にビョルン=シュトゥルムが吠えた。これまでの怨嗟の叫びとは違う、どこか喜びを含んだような咆哮。

 

「ガアアアアアアアアアアアッ!」

 

 そのまま一気に踏み込み、きらら目掛けて戦斧を振り下ろそうとする。が、きららは避けようともしない。

 

「危ない!」

 

 思わず叫んだ扇舟だったが。

 

「いや、多分……」

 

 タバサがそれを否定しようとしたところで、まさしくその通りとなった。振り下ろされる斧にきららは事もなげに軽く触れ、それだけで軌道を簡単に逸らしてしまう。ビョルン=シュトゥルムはなおも連続で斧を振るうが、その全てが同じようにあっさりと防がれている。

 

「ど、どういうこと……?」

「私やウルグリムが戦闘中に常時展開してる力に“ベールオブシャドウ”ってのがある。ナイトブレイドの技法で敵の精神に僅かにとはいえ影響を及ぼし、敵の動きを鈍らせるってものなんだけど、それは今言ったように精神に働きかけてって形を取ってる。でもきららのあれは、おそらく物理的にも鈍らせてる」

「超低温の世界というやつだな。あれだけの冷気を放てるものはケアンでもいるかわからない。冷気の扱いを得意とする我々ナイトブレイドや、尋問官(インクィジター)が取り扱うルミナリの遺産ともまた別物。先ほど友が言った通り次元が違う、と言えるだろう」

 

 もはや自分たちが手を出す必要もない。直感的にそうわかった3人は完全に観戦モードに入っていた。先程まで援護していた静流と小梅も見入ってしまっているようである。

 

「ガアア……あああっ……ラグナ……ロク……!」

 

 狂戦士の斧であるケラウノスに操られているはずのビョルン=シュトゥルムの口から、理性の残る言葉がこぼれ始める。母の名を呼んでいることに気づいたきららは一瞬表情を緩め、それから彼の手に持つ斧を睨みつけた。

 ケラウノスが振り下ろされる。だが、きららが左手でその斧を掴んだ瞬間。いつの間にか振り抜かれていた右の拳により、凍りついた斧は粉々に砕け散っていた。

 

「……右拳を出したタイミングが全く見えなかった」

「だから言ってるんだよ、次元が違うって。ケアンなら半神(アセンダント)扱いされるレベル」

 

 驚く扇舟と対照的に淡々と答えるタバサ。とにかく、戦闘は終わったのだった。

 

 

 

---

 

 吹雪はやんでいた。

 戦いの後、慣れない力を使ったせいか元の姿に戻って気を失ってしまったきららだったが、しばらくしてから目を覚ましていた。今は静流によってある程度治療されたネイスから説明を受けている。

 

 死んだと思われていたきららの母であるラグナロク=シンモラは実は生きていた。きらら自身、その理由を知りたいようであったが、ネイスの口からは言えないらしく、いつかきららが直接母に会いに行くという話となっていた。

 

「畏まりました。ラグナロク様にそう伝えておきます」

 

 跪いたまま、頭を垂れてネイスはそう言った。きららが族長であるラグナロクの娘だと正式に判明したことで態度も変わったのだろう。

 そのまま去ろうとしたネイスだったが、タバサと扇舟に気づいて声をかけてくる。

 

「味龍の店員にも世話になった。今度店に品を降ろす時に便宜を図らせてもらう」

「あら、それは助かるわ。今後もご贔屓に」

 

 そう言った扇舟に対して小さくフッと笑い、ネイスは去っていった。

 

 一方、斧の支配から解放されたビョルン=シュトゥルムは、もう戦闘の意思こそ無いものの、別な意味で面倒なことになっているようだった。

 

「狂戦士の斧などに操られてラグナロクの娘に襲いかかるとは何たる不名誉! この命を持って償わせていただく!」

 

 どうやらビョルン=シュトゥルムはかつてラグナロクと戦ったものの敗れているらしい。そこに漬け込まれた形で斧によって操られ、ラグナロクの娘である可能性が高いきららを襲うように仕向けられた、ということだった。

 そこまではいいのだが、本来のビョルン=シュトゥルム自身は良く言えば武人的、悪く言えば短絡的で頭が固い性格だったらしく、自害するしか無いと言い出している。それに対して「そんなのは意味がないでしょ」というきららと衝突し、死ぬ死なないで言い争いになっていた。

 

「……帰っていい? 事件は無事解決。雪はやんで結界も破れた。春桃に早く顔を見せたほうがいいかもしれないし」

「えぇ……。一応あの2人の事の顛末まで見届けないの……?」

「私から言わせてもらえば、死にたい奴は勝手に死ねばいい。それにきららの母親云々は私には関係ないし、興味もない」

「やれやれ……。こういうところは相変わらずだ、我が友は」

 

 タバサに対して扇舟とウルグリムは呆れるしかない。

 

「……あ、じゃあ帰る前にこれだけはっきりさせておきたい。なんできららって急に強くなったの? ふうまが名前を呼んだから?」

 

 少し考えた様子を見せた後、扇舟が口を開いた。

 

「ふうまくんだから、というのはさておき、真の名前を呼ばれたからというのはあるかもしれない。真名、ってやつね」

「なんで? 名前ってそんなに大切?」

「場合によっては。真名を知ることで力の源泉となることもありうる。特に彼女はおそらく真名を知らずに生きてきた。しかし真名を知り、己のルーツ……つまり、霜の鬼神の族長の娘だと自覚したことで、今まで眠っていた力が呼び起こされた、とも考えられるわね」

「ふーん……。じゃあウルグリムも本当の名前を呼んだら強くなるの?」

 

 なるほどといった感じで扇舟の話を聞いていたウルグリムだったが、急に話を振られて思わず苦笑が浮かぶ。彼は皇帝直属の存在であるファーストブレイドになった際に名も身分も全て捨てている。今の名は、ケアンの神話の中から名前を拝借しているに過ぎないからだ。

 

「私の場合は元々の名前のルーツに強さの秘密があるとか、そう言ったことはまったく無い。むしろ私よりも君のほうが……。いや、今の発言は少々迂闊だったな。撤回する」

「別にいいよ。私の場合だって、名前があったであろう『前』の存在は『私』じゃないんだろうから。つまり私には真名……だっけ、それは存在しないし、あんなふうに都合よくパワーアップもできないってことか。……それはそれで少し残念ではあるけど」

 

 タバサは自分の名前に頓着していない。つけてもらった名前を気に入ってはいるようだが、「自分」という個を識別できればそれでいい、というのが根っこにある考え方だ。

 とはいえ、今日は隠れて監視していたであろう相手を探し出すことができなかった。もしきららのように力に目覚めることができれば、その邪魔だった存在を見つけ出すこともできたのではないだろうか、と考えたのだった。

 

「……まあいいや。とにかく私はもう帰るよ。きららもあの様子じゃまだ時間かかりそうだし」

 

 きららとビョルン=シュトゥルムの言い合いはまだ続いている。先程「興味がない」と言い切った通り、あとは当事者たちの問題で別にどうなろうと構わないというのがタバサの考えであった。

 

「おい、本当に帰る気か? 確かにそこまで強く止めることもできないが……」

 

 と、そこでそんなタバサの様子に気づいた小太郎が声をかけてきた。

 

「私のやることは終わったし、事件自体は解決でしょ。だったらこれ以上私がいても……」

 

 タバサがそこまで言った、その時だった。彼女はビョルン=シュトゥルムから聞こえてきたある単語に反応していた。小太郎への言葉を切って、まだ話している2人の方へと首を向ける。

 

「ちょっと待った。話に割り込んで悪いけど、今何て言った?」

「何だ、ラグナロクの娘と話をしているのだ。お前などとは……」

「いいからタバサの質問に答えてあげて」

 

 きららに命令され、小さく唸ってからビョルン=シュトゥルムは口を開く。

 

「狂戦士の斧の件か? 仕組んだのは死霊卿の配下のアヌビスと言う者で……」

「そう。ありがとう、もういい。……()()()()()

 

 後の言葉は誰にも聞こえないほどにポツリと呟き、タバサは歩き出した。

 

「あ、ちょっとタバサ!」

「やっぱり帰るのか?」

 

 きららと小太郎の声を背中で聞き流し、首だけ後ろに向けつつタバサは答える。

 

「バイトに戻る。2人ともよかったら後で味龍に来て。私のバイト代から出すよ」

 

 そう言って歩きながら、心の中で今聞いたその名前を反芻していた。

 

(不知火の件の時も、アンブローズは結界を張ったのはおそらくそのアヌビスって奴だと言っていた。実際戦って強敵だったっても言ってたし。その時といいこの間のセンザキの時といい、絡んできてるのはどっちも死霊卿、か。……邪魔だな)

 

 ケアンにいた頃によく感じたように、心が苛立っているのがわかる。

 この世界にいつまでいるのかはわからない。だから深く首を突っ込むべきでは無いかもしれないともわかっている。しかし――。

 

(明確な敵意を持ってケンカを売ってきてるし、多分ふうまにも迷惑をかけてるだろう。なら……場合によっては殺す)

 

 

 

---

 

 魔界にある死霊卿の居城のひとつ。そこで、転移したアヌビスが死霊卿――テウタテスに報告をしていた。

 ビョルン=シュトゥルムは敗れたものの、ラグナロクの娘の存在を確認できたこと。その場にふうま小太郎がいたこと。そして、異世界の少女の力も自分の目で確認したこと。

 

「アヌビス、お前から見て異世界の娘はどう見えた?」

 

 ラグナロクの娘の件にはほぼ興味を示さず、ふうま小太郎に対して少し反応があっただけだった一方、テウタテスはイレギュラーの存在には大いに興味を惹かれていたようだった。それに対して、アヌビスは感じたことをそのまま口にする。

 

「確かに実力はありましょう。異世界由来と思われる稀有な力も確認できました。しかし、その程度です。私の結界を安々と打ち破り、ビョルン=シュトゥルムをいとも簡単に抑え込んだラグナロクの娘とは比べるまでもありません」

「そうか。ご苦労だった。下がっていいぞ」

 

 結局のところ、ただ強いだけでは王が興味を惹かれるべき存在に値しない。それがアヌビスの考えだった。そしてやはり、報告で興味は示さなかった。

 ならばやはりその程度なのだと、アヌビスは姿を消しながらそう思っていた。




私事ですが新生活だなんだがあるのでちょっと間が空くかもしれません。
代わりに活動報告にタバサの元にしているビルドのプレイ動画のリンクを貼っておきます。
WPSやスキルを見せてからのカカシ殴りと、SR75-76の様子になります。
最近はSR85とか90とか回るのが主流な感じもしないでもないですが、無難にクリアできる階層ってことで……。



アマトク

ケアンの冬の精霊とされる存在。Tier2星座にはその名の通り「冬の精霊アマトク」が位置している。
冬に数ヶ月、北の地平線に現れる星座で、絶望にくれた旅人がその星を追って歩くと彼の小屋を見つけ、燃え盛る炉辺に座って饗宴に参加することができるらしい。
しかし、次の夜にはアマトクによって皮を剥がれ、饗宴の供物になるとのこと。怖すぎでしょ……。

そんな物騒なエピソードはさておき、冬の精霊というだけあって星座自体は冷気ビルド向けに非常に優秀。星座スキルにタバサも使っているブリザードを要する。
必要親和性は緑4青6とかなり緩め。その代わり完成までに7ポイント必要で、完成ボーナスも緑1青1と渋い。
とはいえ冷気ビルド御用達の星座スキルであるブリザードは4ポイントで取得可なので、ここだけを取るパターンも多い。
ただ、取らなくてもいい3ポイント分は冷気ダメージ関連とヘルスとDA強化になっている。
元にしたビルドはヘルスに難があったために、当初はブリザードだけを目標にしていたが、最終的には見直して全取得に切り替えてヘルス補強に一役買う形になっている。

メダル用増強剤スキルのアマトクの息に代表されるように、他にもアマトクの名を冠した装備品はいくつか存在する。
大抵は冷気向けのプロパティやスキルブーストがついているが、元にしたビルドでも装備している靴の「アマトクの足跡」にはファイアストライク(FS)のブーストがついている。
「燃え盛る炉辺」の部分を意識してつけたものかもしれないが、冷気化してFSで殴る本ビルドにはピッタリマッチする。
物理耐性、減速耐性、ヘルスまでついているのでとても優秀。
星座のフレーバーこそ物騒なものの、冷気ビルドならどこかで名前を見るであろう存在である。
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