こちら、ニコニコ海上放送局!   作:就鳥 ことり

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10話 海賊とヒナ

 ハルオミ達はそこらの海賊ではない。数多の波を乗り越えてきた、ゴロツキ共だ。海の平和を守る海軍が頭を抱える問題児達の中でも指折りの厄介者。

 合金鋼シャッターの破壊など御茶の子さいさいであった。これにヒナは小猿のように手を叩いて大喜び。研究者共の悲鳴がとても痛快であった。

 

「お前ら副船長がガキを連れてる! 分かるな! なるべく血を見せるなよ!」

「俺たち子連れだからな、気をつけろよ」

「聞いたか、子連れ部隊になったってよ!」

 

 子供への配慮が出来る海賊であった。

 

「622番発見!  海賊とともに2階フロアを南へ移動中! 至急応援を!!」

 

 2階はてんやわんやの大わらわ。科学者など、暴力の前には一般人と変わらなかった。ヒナを肩車したまま、ハルオミは機械兵やら通行人Aなどなどを蹴り飛ばし突き進む。キャッキャと喜ぶ彼女の声に、ハルオミは満足そうに頷いた。

 -この様子なら、きっとハルトだってパパのお仕事ぶりに感動してくれるに違いない!!

 

「だいたい片付いたな。さて、ヒナちゃんはどの部屋に行きたいのかな」

 

 しかし、河童の川流れ。弘法にも筆の誤り。

 

「おわっ」

「しまった」

 

 スクラップにしたと思った機械兵のレーザーがハルオミの頭を狙う。咄嗟にヒナを庇うために姿勢を崩し、急停止による慣性の法則が彼女を宙へと放り投げた。 ゴンッ、キュイっ、ザッ……痛い音と強く擦れる音に包まれて、鞠のように跳ね転がる。

 

「……つぅっ、ぐぅっ、うぅ〜っ!!」

 

 小さな体が丸まったまま唸ってる。

 人間兵器の実験体(モルモット)は、ドーピング(薬漬けの)生活をしていたおかげで多少丈夫である。怪我は大したことないが痛いものは痛い。

 弱ってるところを見せたくなくて。痛いと言いたくなくて。泣きそうなのがバレたくなくて。色んなことを隠すために、全部を唸り声に変換しているのである。それは、野生動物の強がりに似ていた。

 

「ごめんねっ、 大丈夫かい!」

 

 しかして、彼女の必死の努力はその甲斐なく。光の速さで駆けつけたハルオミによって、再び、ぷらーん。と持ち上げられ、隠したかったものは全て強制的に晒された。

 

 びっくりしたヒナは咄嗟に。

 

「な、泣いでないっ」

 

 今にも決壊しそうな涙袋を抱えたまま鋭く声を張り上げたのだった。ギャンっと、めいいっぱいに見開いて踏ん張っている。ハルオミは数秒の沈黙の後、ゆったりと振り返り、コチラを伺う船員に向けてヒナを掲げた。

 

「泣いてないな」

 

 海賊共は一瞬、泣いてるが……? と首を傾げたのち、合点がいった。

 

「はいっ! 泣いてない!」

「泣いてないね!」

「泣いてない!」

「すごいぞヒナちゃん!」

「泣いてないぞ! 強い!」

 

 わぁぁぁっ! と一角が盛り上がるので、よく分かっていない遠くで戦っている海賊達も、士気を上げるため一緒になって雄叫びをあげる。歓声は伝導して、2階はライブ会場の如く盛り上がった。

 

 ヒナは思いもよらない反応にびっくりして、キョト……? とした顔のまま固まった。思考が静止したので涙も引っ込んじまって、痛かったことも忘れてた。

 すごいぞ! 強いぞ! おっきくて強そうなおじちゃん達に囃されるので、ちょっとご機嫌になった。子供なので。

 

 唯一動けなくなった科学者だけが、馬鹿みたいな顔をして眺めていた。

 

 -アイツらはいったい何なんだ……。

 

 全身の痛みに眉を顰めながら、唯一動く眼球で様子を伺う。するとその中心には622番が猫のように持ち上げられているではないか。科学者は更に表情を険しくする。見上げるのに疲れて視線を下ろしていくと少し先にミドリの物体がある。

 小さく、ホワイトボードのマグネットのような円形……。科学者はぼんやりとしたまま、その物体が何か分かる前から視線を外せなかった。それは、彼の本能的な直感か。ぼやけた思考は、更に物体の特定を進める。

 

 -マグネットではないな、タブレット錠剤ではないか?

 

 そこまで来て、とうに使い切ったと思った力が全身に沸き立つのを感じた。火事場の馬鹿(くそ)力である。

 

「レプリカ……!  どけ、どかんか貴様ら!」

 

 ワーッと駆け出した爺に海賊共は「なんだなんだ」とそちらに目がいく。ボロボロの爺さんを痛ぶる必要はなく、何かあっても対応できるため、走る彼は放って置かれていた。

 

 人波が割れるのを見て、ヒナも気がついた。

 -ポッケに入れてたのに!  なんで!!

 

 先程転げ回った拍子に飛び出してしまったのだが、強いて言うならその浅くてゆるゆるなポッケに入れていたからである。

 

「むーっ! 下ろして!  下ろして!!」

 

 ニコニコ大人しかったのに、急に野良猫の癇癪みたいに暴れるので、ハルオミは「どうしたのかな?」と聞きながら下ろしてやる。ヒナはそれどころじゃなかったので、無視してテッテコ駆け出した。ハルオミはちょっとしょんぼりした。

 

 ちっちゃい体がおじちゃん達の太い脚の間をすり抜けて、宝物へと走る。ちっちゃな生き物が突進してくるので、小さな命を守るために巨人達も小人に道を譲るのである。

 

  老人が手を伸ばす寸前、桃色獣が滑り込んで宝物を捕まえた。

 

「622番、それを渡しなさい」

 

 とても怖い声で科学者は言った。海賊共も少し気を張って、なんだなんだと伺う。

 ヒナはちょっとビビったのでこっそり口に含んで隠し、お手手をヒラヒラしながら睨みつける。何も持ってないよとアピールした。

 

 しかし、老人の顔が今にも死にそうなほど青ざめるる。ハルトが成功したことも知らない彼は、まだ、被検体(モルモット)共はまだその段階にはないという見解だからである。下手したら優秀な被検体は死に、貴重なレプリカも1つ失う。とんでもない事だった。

 

「馬鹿者!  吐け!  貴様がそれを口にする事はまだ許さん!!  吐くんだ!!」

 

 ヒナに掴みかかりそうになったので、海賊共はすかさず老人を拘束する。どこにそんな力があるのか、それでも尚、筋肉の中を藻掻きながら男は怒声をあげた。

 

 一方、またしても警戒態勢になったヒナを刺激しないように、海賊達の間で「なになに、なんだなんだ」とコソコソ情報交換が飛び交う。

  

「おい、今ヒナちゃん何食べたんだ?」

「ラムネ菓子じゃないか」

「ラムネ菓子だったぜ」

「あぁ、俺も見た。ウェストブルーの辺りで売ってるラムネがあんな色だったな」

「ラムネ菓子か。じゃあなんだ、今まで禁止していたお菓子を食べたから怒ってるのか」

「なんだと!!」

「子供からおやつを取り上げるなんて重罪だな」

「最低だ最低」

 

 憶測が憶測を呼び、ヤンヤヤンヤと海賊共が騒ぎ立てる。筋肉に包まれたか細い老人は、力いっぱい声を張り上げた。

 

「違うッ! それは菓子などではない!! 今すぐ吐き出させろ!」

 

「それは苦しいぜ爺さん」

「ヒナちゃんはラムネ食べたかったんだもんな」

 

 両隣の兄ちゃんに「ねー?」「なー?」と同意を求められたヒナは小さく頷く。ちなみに、絶対に渡さない強い意志でお口を抑え、キュッと科学者を睨み威嚇することに一生懸命だったので、何も聞いていなかった。

 敵の敵は味方。なんにも聞いちゃいなかったが、今はとりあえず同調したのである。

 

 ヒナの同意を得た海賊共は、我が意を得たり! と更なる糾弾を科学者に浴びせた。こればっかりは科学者が不憫である。

 

 当然科学者は憤慨し、許容量を超えた怒りが地団駄を踏んだ。

 

「お前たちはッ、ソレがどんなものかサッパリわかっとらん!!」

 

 放たれた怒声に負けじと海賊共は怒鳴り返す。

 

「わかるわ!」

「田舎者を舐めるな! ラムネくらい知ってるわ!」

「分からないわけがないだろ!」

「馬鹿にすんなよハゲ!」

 

「嘘をつけ!  貴様らは事の重大さをまるっきり理解しとらんだろうが!! あと俺のこれは自分でセットしたスキンヘッドじゃ(わっぱ)! ハゲじゃない!!」

 

「おやつが大事なことぐらいわかっとるわ! バーカ!」

「常識だろうが!!」

 

「馬鹿は貴様らじゃァァァ!!!」

 

 老体に鞭を打つ大絶叫だった。ここまで話が通じないことってあるのか。呑気に、「ヒナちゃん、ラムネ美味し?」と聞いてる呆け野郎に頭が痛くなる。あの被検体がそもそもラムネ菓子など分かるわけもないのに。

 

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