こちら、ニコニコ海上放送局!   作:就鳥 ことり

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2話くらい、急に知らん話が始まります。身内向けの補足のようなものなので。鼻ほじりながら流し読み程度で大丈夫です。


3話 ジャック・シジマという男

「シジマ、遅いぞお前の持ち場はこっちだ」

「あぁ、すみません、ドミニクさん。まだ迷ってしまって」

 

 ポッケに手を突っ込んで人好きのする笑みを浮かべた男は、白衣の先住民にへつらい着いてく。

 

「鈍くせェ奴だなぁ。これだから教育係はやりたくなかったんだ」 

 

「面倒かけます。新人は滅多に入れないんですか」

 

「この研究は極秘も極秘なんだぞ。最高峰の頭脳だけを集めた研究機関だ。新人なんざ10年取ってないね。世界政府の紹介だから特例でお前が入ったきりだ。あぁ、そうだ。ドクターには気を付けろ、政府の化学班から来たならあの人の世話になっただろうがな」 

 

「あの人……Dr.ベガパンクですか」

 

「シーっ!  バッカ!  いいか、絶対ここではその名を口にするなよ。うちのドクターが癇癪を起こすんでな」

 

「わかりました」

 

「別館のDr.シーザー・クラウンも目の敵にしてるからな、あの人。でもまぁ、研究も最終段階だ。最近はご機嫌でいらっしゃる。良い被検体が残ってるんでな」

 

「へぇ、どんなもんですか」 

 

「8年生きた個体が3体だ。ニコニコしてる気持ち悪いのと、小綺麗で澄ました赤いのと、期待の大本命の大人しいのだな」

 

「……。あれ。10年超えた個体がいませんでしたか?」 

 

「あー……。いたが、スパスパの実のレプリカ諸共ゴミになっちまったな。最終試験でアナフィラキシー起こしちまったよ、勿体ねぇ」

 

「そうですか」

 

 男は唇を噛み切って、パッと笑った。それは惜しいことをしましたね。なんて言って先住民の後を追う。

 

「お前は下っ端だからな。雑用だよ。被検体達の栄誉剤は此処な。あと15時から被検体達は運動場へ出るから掃除しておけ。ま、屈辱だろうが、新入りの通る道だ。頑張れよ」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 ニコニコ先住民を見送って。男はスンと笑顔を剥がした。

 

「なんてこった、もうノブの息子は居ないだと……クソ……遅かった。遅かった......!!」

 

 男は潜入捜査員だった。シジマの任務は、生きていれば16歳になる船長の息子、ガクトくんを救うための情報収集である。

 それが開始早々頓挫したのだ。 

 

「あんなにいい子なのにな……クソ」

 

 シジマは25歳の、もう1人の(・・・・・)彼を思い起こして目頭を抑えた。

 

 シジマは元々この世界(ここ)の住人ではないのだ。

 

 

 **

 

 

 ある朝、シジマは記憶統合を終え目を覚ます。経過はどの世界も概ね良好である。ブラックコーヒーを入れた彼はニュースペーパーを手に息をついた。

 

「カリフォルニアの侵食夢が片付いたか」

 

 -侵食夢。

 シジマの住むこの地球には現在観測されている限り300を超えるの夢世界へと続く裂け目がある。夢世界とは。誰が見始めた夢かも分からない、作者不明の物語。それが作者の手元を離れて独り歩きしている誰の夢でもない状態。それが夢世界である。そして、物語が終幕を迎えると夢世界は安定し裂け目は消滅する。

 

 これだけなら無害なのだが、時折物語の進行にエラーを生じさせると癇癪玉のように爆発を起こし、その余波がこちら側まで侵食してくることがあるのだ。傍迷惑な話である。

 

 簡潔に述べると、この地球は常にいつ爆発するかわからない爆弾を常に身につけているのであった。

 

  「うん、コーヒー豆はやっぱりキリマンジャロに限るな」

 

 コーヒーの豊かな香りを鼻腔で味わい、自身の腕前に満足してカップを置いた。良いコーヒーブレイクには、良い音楽が無くては。お気に入りのレコードを探して棚へと向かうためである。

 

 そしてけたたましく鳴り響くコールに、眉をひそめた。良い男の優雅な朝は終わりを告げたのである。

 

 「グッドモーニング。ジャック! ロスはいい天気だろう?」

 

 鼓膜を揺らすご機嫌な声に、男-ジャックは渋々レコードを棚に戻した。

 

 「アンタか……まぁな。急に電話なんてどうしたんだ?もしやアンタもロサンゼルスに?」

 

 「いや違うんだ。ちょっと君に伝えておこうと思って」

 

 ラブコール(仕事)の予感にジャックは間髪入れずに答えた。

 

 「ああ、そういえば今日だったな、新作のバーガー。それなら知ってるよ。今日のランチにする予定なんだ」

 

 「違う違う」

 

 「じゃあまたフランクが俺の相棒にマーキングしたとか? もっと頑丈なリードが必要かもな」

 

 「それも違う」

 

 「……じゃあ何」

 

 ネタが切れた。

 

 「仕事だよ」

 

 「聞こえないね」

 

 ネタが切れたが、悪あがきを辞めるとは言ってない。シジマにもたらされる仕事は、いつだって二つ返事で請け負えるような軽いものでは無いからだ。

 

 「この前バンクーバー辺りで観測した夢、実際に見に行ったら相当ハードなやつだったみたいでね。多分レベルXだと思うよ」

 

 「聞こえないってば」

 

 そう。ジャック・シジマの仕事とは、この星が抱える爆弾が爆発しないよう、夢世界に介入しエンドロールまでを誘導することだった。下手したら町の1つや2つ、何十万の命が消し飛びかねない。なんとも胃がキリキリしそうな仕事である。

 

 「耳を塞いだって仕方ないぞジャック。じきに本部から連絡が入る」

 

 決定事項であった。でも、でも、さすがに酷いんじゃないだろうか。だって

 

 「人使いが荒い! これで同時に17件だぞ!」

 

 シジマはこの胃もたれする濃さの仕事を既に16件同時にこなしていたのである。他のブラック企業の追従を許さない、圧倒的鬼畜シフトだった。ジャパンの労基法が適応されないことを上役達は伏して喜ぶべきである。

 ……マぁ、こんな特別待遇を受けているのはシジマだけなのだが。彼だけが馬車馬扱いされるのには訳がある。それは一重にその特異体質に起因していた。

 彼は尋常ではない夢世界への親和性を持っているのである。

 

 「そうだねぇ、羨ましい限りだよ。楽しんでるかい?」

 

 「夢を見るのはいいさ。問題は起きたあとの情報整理と16件の報告書の提出……おっと」

 

 「どうしたんだい?」

 

 「最高だね。これで17件だ」

 

 シジマはやけくそのように鼻で笑って言い直した。

 

 通常、夢世界には長居することが出来なければ、その身一つで夢世界に飛び込まねばならない。

 しかし、シジマはその特異体質により、夢世界にもう1つの身体を作ることが出来る。現実世界と夢世界、同時に一人の人間が存在することが出来るのだ。しかも、その親和性の高さから夢世界での活動可能時間は無制限!  まさに彼の天職だった。

 

 そうなると必然的に長期任務が彼に回される訳で。

 夢の終わりが見えない、かつ、大規模で強固な夢世界、レベルX(未知数)は全て彼の担当だった。

 

 そうして、今回めでたく17つの世界を同時に管理する運びとなったのである。まったくもって嬉しくない。

 

 「おめでとうジャック。今度感想を聞かせておくれ」

 

 「ごめんだね。報告書でも眺めてるがいいさ」

 

 シジマは電話をぶちぎって、どっかりソファーに腰を下ろした。天井を見上げて重たい息を吐いた。すっかりコーヒーが冷めている。あとで淹れ直して、優雅な朝を仕切り直そう。

 そうじゃなきゃ、やってられん!




初日から評価頂き恐縮です。たくさんの閲覧も嬉しく思います。お気に入り登録もありがとうございます。
早く脱出させてあげたい所存です。
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