さっそくの誤字報告ありがとうございます。助かりました。
「……」
数日後、奴の予言通り、四角張った書面が届いた。
同位体を増やせる彼は、担当する夢がひとつ増えようが肉体的にはさして問題がない。
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ジャックは優秀な奴なので、多少の無茶な司令もなんだかんだで上手くこなせてしまう。結果また仕事が増えるのであった。不遇なり。
上の正式な指示書まで貰ってしまったら仕方ない。
「……さて、やるか」
シジマが夢世界に入るとそこは少し荒れた、現代と比べると幾らか文化レベルの低い町であった。酒場で情報収集してみればポカポカ村というなんだか可愛い名前の村だった。
さて、夢をエンドロールへ導くのはとても難しい。先述した通りレベルXとは、物語の進行が遅く終わりの見えない程のものである。しかし、実は終点も道筋も既に決まっており、そこから外れると崩壊、というか癇癪を起こしたように爆発オチになる。進行が世界の意にそぐわなければ、本当にすぐ爆発する。介入するにしても、マジで繊細に扱わなければならないのだ。
そのくせ夢世界はよく指針を見失うのか、思い付いたように
定期的に時限爆弾と化すのである。幸い、特異点は夢の周波数が乱れるので、すぐに分かる。シジマの主な仕事はその対処であった。
物語の進行に関しては、夢とは願望の表れなので、元の夢を見ていた人物に遭遇できるのが理想なのだが、まぁほぼ不可能である。
「……治安はあまりよく無さそうだな。それにこっちで生成された肉体が10代なのも気になる」
「おっ、悪いな。そっちに行くのはやめた方がいいぞ。お前も走れ」
パッと手を取られ、よく分からないまま引きづられるように走り出した。どうやら追っ手が居るようだが、そんなことよりこの男である。顔を見なくてもわかる。そのクセの強い低音に覚えがあった。
またこのジャパニーズどもか!!!!!
「俺はイガラシってんだ、お前さんは?」
「シジマ、
重ねて述べるがシジマはこのイガラシという男に大変覚えがあった。
何を隠そう、自身が認めたマブダチである。四十万克明の名で活動している夢世界、そこの陽だまり丘で出会ったのがこの男五十嵐忍である。初めて出会ったのは確か3番目の世界。平和で穏やかな世界、その住民もそこで暮らす自分のことも、シジマは気に入っていた。
シジマは毎晩夢を見ないかわりに、他の同位体との記憶の統合を行っている。昨日もう一人のマブダチも一緒に、陽だまり丘の五十嵐宅にて晩酌したばかりだ。シジマには17の昨日があり、体感した全てを共有している……のだが、そのうち5つの世界にはコイツとその家族や友人が居た。
いくつもの世界で同じ人物が固まってキャスティングされている。つまり十中八九、これらの夢世界は元々、五十嵐の周辺の人間が見ていた夢である。
親友とこの世界でも共にあれて嬉しい反面、またこのジャパニーズどもか!!! と叫ばずには居られない。
しかしマァ、この男について回れば、自ずと夢の元持ち主に近づくことができるのは有難い事だった。
「シノブ、こっちへ……おや君は?」
「でた……」
しばらく走れば、これまた見覚えある顔。6回目の初めまして。どう見ても侵食夢
「ああ、こいつはシジマ。さっき拾った。ひとまず船に乗せる」
「君はまたそうやって……まぁいい、今は急を要するからね……ハルオミだ。よろしく頼むよ」
相変わらず仲がよろしいこって……
こっちでもやはり晴臣と忍はセットだった。
そしてその輪にシジマも加わり馴染みのサンコイチになった。この男達と居るのは楽しい。いつも何かしらが起こるからだ。
「……なぁトシ、ワンピースって聞いたことあるか」
有名な商業マンガであり、シジマも大好きなコンテンツである。もちろん、大いに知ってる。
「ひとつなぎの大秘宝ってやつか」
「そうだ」
ふぅん、なるほどな。なるほど……つまり、誰かがONEPIECEの夢を見たらしい。
そうして気がつけば、シジマは海賊になっていた。
紛うことなき海の上。そして見渡せばいつの間にか顔見知りの部下もチラホラ。売られた喧嘩を買っていたらいつの間にか早々に懸賞金は1000万を超えていた。
新世界生まれの海賊達は、ひとまずグランドラインを下って世界を巡ることにした。海賊と殴りあったり、海軍と喧嘩したり悪党を滅ぼしたり、目まぐるしく15年が過ぎ、気がつけば総額80億の船になった。
そのうちノブはどこから見つけたのか、五十嵐忍がそうだったように、トモエを嫁さんに貰った。それからはしばらく故郷ポカポカ村を拠点におくことになり、やっぱりガッくんが生まれた。
四十万は五十嵐家の子供たちと仲が良かったので、なんだか感慨深かった。ノブの息子の"ガっくん”こと岳人とは、彼が大学生の時ビリヤードにハマったので連れ回して遊んだりもした。姪っ子のひなちゃんは、何しても喜んでくれるので沢山玩具を貢いだ。
その幼馴染のハルくん、みのりん。2人ともガキの頃から遊んでやった。レースゲームとチャンバラが好きだった。チョロQをお土産でやったら跳ね回って喜んでいた。
どれも今ではデカくなっちまったが、マブの子供たちは皆可愛かった。
そして2人を残してまた危険な海に出て、しばらくして同じようにオミもレイという嫁さんを貰った。
やっぱり思った通りになったなぁと呑気に考えながら、買い出しから戻ると瞳孔かっぴらいたオミが羽交い締めにされていた。
なんでもオミの一人息子、生まれたばかりのハルトくんが攫われ、産後まもないレイも意識不明の重体になったそう。馬鹿どもを血祭りにするそうだ。異論は無い。どこの誰か知らんが、手を出す相手を間違えたな。
……そう思っていたのだが、思った以上に面倒なことになった。
すぐさま首謀となった一味を特定、報復に赴いたのだが既にハルくんの姿はなかった。なんでもすぐさま別の組織に売り渡していたらしい。その後も追えどもいつも一足遅く、ハルくんの足取りはいつしか消えてしまった。
精神的ショックで体調が優れないレイの療養のため、一先ずポカポカ村に帰ってみれば、すっかり窶れたノブの奥方に泣きながら胸ぐらを掴まれた。
「あの人はどこ!!」
見た事の無い剣幕にすっかりタジタジになって大人しくマブを般若に差し出した。何年もの間帰ってこなかったことを怒ったかと思えば、
「……ごめんなさいシノブさん。私、私あの子を守れませんでした……ごめんなさい、ごめんなさい」
と泣き崩れたのだった。
「悪いな、お前ら。暴れ先が増えた」
異論は無い。
それから玉石混交の情報をかき集め、洗い直した結果、候補として絞られてきたのはパンクハザードにある、世界政府の所有する研究施設。数年に1度乳児期の子供たちをかき集めている形跡が残っていた。
8年前、14年前、18年前……以下割愛。どれも500〜1000人規模での人身売買であり、世界政府の力とて到底痕跡を消し切れるものでは無い。そして、それは奇しくもハルくん、ガっくんの2人が攫われた時期と合致していた。
仕事柄、偽装工作は得意だったので、四十万は手際よく書類を作り上げた。赤子の時攫われた子供たちの顔を確実に知っているのは自分なので、父親ども押しのけて志願した。ハルもガっくんも父親似ではないので、万が一の保険である。
まず俺が偵察してくるから、お前らは火炙りにする準備でもしていろと船に押し込めてきたのだ。それがどうだ、四十万も絶対助けてやると息巻いて潜り込んでみたら手遅れと来た。最悪の展開である。
「……いや、まだ気落ちするのは早い、ハルくんがいるかもしれない」
四十万は3人分のトレイを並べ、指定された錠剤を並べる。あとはエネルギーゼリー、40111の皿にはメモに従い追加で蒸した鳥のササミも加える。
8歳の子供がしていい食事ではなかった。奥歯を噛み締めて、指示された時間に遅れぬようカートを押して白い廊下を進む。足が錆びたように重かった。
情の厚い優しい男なので。心に堪えるのである。
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