こちら、ニコニコ海上放送局!   作:就鳥 ことり

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ちょっと長めです。


6話 宣誓。

 シジマが去って子供たちはホッと息をついた。

 とりあえず焦るような事態では無いことがわかり、緊張を解いた子供たちはパタンと冷たい床に寝転んだ。それから、「緊張したねぇ」「ビックリしたねぇ」ゆるゆると声を出して、脱力したまま笑った。過去イチ気を張っていたので、疲れたのである。

 

「まぁ、収穫はあったな」

 

 話を聞くと、ハルトの父親が施設に報復に来たらしい。3人まとめて助けに来てくれたってことだ。有難い話だった。

 

「僕たちを助けに来た云々はどうでもいいけど、要はここを襲ってくれるってことだもんね」

 

 助けに来たからと言って、彼らについて行った先でどんな扱いを受けるかもわからない。ただ此処を混乱に落としてくれるという事実は、自分達にとって確かな利である。利用しない手はない。

 

「なんか頼りないけど、多分強い人だったよシジマさん。ひなの『けんぶんしょくの覇気』で読み取れないことが多かったもん。本来は覇気って元々武道の境地にある、みたいだし。ひなより強い人だから、聞こえないのかも」

 

 ヒナはボゥと天井のシミを数えながら、独り言のように言った。疲れすぎて覇気がない。

 

「ヒナちゃんの言う普通の人じゃないのは僕も分かったよ。足音も変だったしね。たぶん普段あの人足音しないんだ。普通の人のフリして、わざと足音鳴らしてる」

 

「人の気配が分かったり、ヒナみたいに考えが読めたりするのは、俺たちが特別って訳じゃなかった。逆に怪しまれて使われたら、俺らの行動は全部筒抜けってことだろ」

 

 うへぇ。仲良く顔をシワシワにして新手の登場を分析するのだった。

 怖いね、気をつけなくちゃだね。と頷きあった。

 

「シジマさんも使えるんだろうなぁ。懐いたフリして媚び売るのはいいけど、あの人達に着いて行く気がないこと隠さなきゃってことでしょ」

 

「ひな、考えないの苦手」

 

「知ってる。シジマさん見かけたらヒナは覇気を使って探るか、自信ない時は……あー、きらきら星でも歌っとけ」

 

「なるほど」

 

 シジマさんにはきらきら星。とヒナは心のノートにメモをした。どうせすぐ忘れる。

 概ねの対策と方向性が定まったので、疲れた子供たちは かわりばんこ にお昼寝した。

 

 それから1週間後には、研究室のおおよその地図もできた。シジマさんと示し合わせて、爆弾の起動方法、襲撃決行日時も分かった。こっそりお助けアイテムも貰った。

 

 朝7時に朝食係のシジマが迎えに来る。シジマがミノリ達を保護すると同時に海賊共による暴動が起こる。だからミノリ達はそれより早く、6時のバイタルチェックの時に逃げ出すことにした。ドクターは研究終盤のこの頃、必ず自らやってくる。そして、子供たち3人は反抗の素振りを1度も見せたことがない。今までの猫かぶりもあって、多分警戒はされていないし、舐めてる。そこを襲う算段だ。

 

 決行の前日までは、すぐだった。あんなに先の話だと思ってたのに。計画を本格的に練り始めていたらすぐだった。

 

「おやすみね」

「ん、おやすみ」

「おやすみ〜」

 

 今日が、最後の日。きっと、明日になれば空がある。鮮やかな色が、見たことの無い宝物がきっと外にはある。

 でも、今日が3人一緒の最後かもしれない。

 

 誰も何も言わなかったけれど、身を寄せあって手を繋いで眠った。何があっても、自分が死んでも、残り2人は先へ行かせる。そんな馬鹿みたいなことを揃って考えていた。とても仲良しなので。

 マァそれは、仲が良くて大変結構なのだが。みんな同じ馬鹿なことを、同じだけの馬鹿みたいに強い意志で考えているので、明日は絶対喧嘩になることだけは決まった。予言ではなく明白な事実だった。

 

 モゾり。んむ。もぞ。

 

「……緊張してる?」

「ヒナも眠れてないだろ」

「そりゃ緊張するよ。僕らの明日がかかった大作戦」

 

 各々の宝物2つが寝る気配がないので、自分も寝付けなかった。

 もしかしたらハルトは明日海賊に連れていかれるかもしれない。上手く逃げられないかもしれない。3人バラバラになることが、早まるだけかもしれない。

 

「俺は地図を頭に入れた」

「僕は暗証番号全部覚えたよ」

「えと、ひ、ひなだってドクターが二度と男でいられなくします!」

 

「……まぁ。やれるだけ、足掻くだけだ。あまり気負うな、パフォーマンスが落ちるだろ」

「無茶言いおる」

 

「んー。でもさ、全力で暴れてダメだったら。その時は、皆でドクターの前で盛大に死んじゃおか」

「わ、素敵だ」

「最高」

 

 暗い部屋でぴかぴか目を瞬かせて、笑った。

 これ程ワクワクする心中の誘いはない。アイツはどの道明日、天才である証明をすべて失うのだ。

 

「ひな達子供なのにさ。ちょっとイヤイヤ期し忘れてたよね」

「そーそー。僕らうっかりしてた」

「いやぁ、本当よくねぇよな。イヤイヤ期しないとか、親不孝にも程があんだろ。親いねぇけど」

「ね、大事だったよね」

 

 クスクス笑いあって。4年越しのイヤイヤ期の到来を待って夜を越していった。平たく言うと夜更かしをしてしまった。

 

「起きなさい。……お前たちが揃って寝坊するなんて珍しい」

 

 寝過ごした!!!!

 

 ガバッとみんな一斉に飛び起きた。心臓が焦りに高速で脈を打ち、体温が上がるのとは裏腹に指先が冷える。どうする。いや、やるしかない。急激にアドレナリンが出て、ミノリは瞬時に見聞色の覇気を使った。

 目の前にいる2人以外近くには居ない。

 

「ヒナ!!」

「ヤッ!」

 

「アガッ」

 

 すぐさまミノリはアゴ目掛けて拳を突き上げ、ヒナも迷わず一直線に急所を蹴りあげる。脳震盪と突き上げる痛みに、ドクターは気を失った。悶絶必須。鍛えることの出来ない部位である。どんな相手にも男と言うだけで一撃必殺になるのだ。それにしたって、随分とまぁ呆気ない。

 ずっと見上げてきたその姿を、初めて見下ろした。絶対だと思っていた大きな博士の小さな姿。

 

「なんだ、存外簡単な事だったんだな」

 

 これが初めて行う暴力であった。

 

 さて。2人がドクターに狙いを定めたのを見て、1歩遅れたハルトはもう1人に狙いを付ける。どうしてやろうかな。何時ものハルトなら、のんびり考えていた事だろう。しかし2人同様、脳内麻薬が分泌していた彼は、ドクターが落としたタブレットを反射的に拾い上げ、そのまま頭を目掛けて投げつけた。

 投げてから。「んー。コレちゃんと痛いかなぁ」と不安に思ってそのまま走り出した。ハルトはとても眼がいい。そしてアドレナリンで満たされた脳はとてもスッキリとしていて、よく視覚情報が分析出来た。アニメのコマ送りのように、的確に相手の動きを視認していた。

 

「頭庇って目ぇ瞑るとか、馬鹿だねぇ」

 

 可哀想に。日頃暴力とは無縁の研究員はびっくりして、腕で頭を庇いながら思わず目を閉じたのだった。健康的な人間の反射運動である。その隙に懐に飛び込んだハルトは、やっぱりぶら下がった急所を思い切り殴り付けたのだった。

 

「……くぅッァ、ぐぅぅこンの、クソガキぃぃぃぃ」

 

「あーダメか。2人ともそっちのオッサン沈んだ? 手伝って」 

 

 内股で怯んだ所をハルトとミノリが2人がかりで飛びついて抑える。倒れたところに、ヒナが吹き飛ばされたタブレットを持って駆けつけた。1番硬そうな武器だったので。

 

「エイッ」

 

 ヒナは迷わずその“選ばれし頭脳”をタブレットで殴りつけた。ちいさな腕で何度も、何度も、彼が気を失うまで。無心で殴った。

 コチラを命と思わぬ奴らを、自分達も命と尊重してやる筋合いはない。ここで自分が怯んだら全てが失敗するかもしれない。……そんな緊迫感と脳内麻薬で、子供達は躊躇などしなかったのだ。

 

 意識の飛んだ大人の服をひっくり返して、キーを探す。ドクターのマスターキーと付き添い研究員のカードキーはすぐに見つかった。首から提げた研究員証と一緒に入っていた。あとはその他、よく分からない機械からアクセサリーまで、何が危ないか分からないのでドクターは念入りに全て剥がされた。もう1人も軽く漁っておく。

 

「銃だ。……持ってくか」

 

「みのりん、貸して。一発足撃っとこ。ドクターは動けない方がいいよ」

 

「じゃあ手首も。手首には神経が沢山通るから、ここ深く傷つければお手々動かなくなるかもよ」

 

「……それなら一発で心臓撃った方が早いだろ」

 

 ひとまず目の前の窮地を脱し、冷静さを取り戻したのだろう。2人はどこか人を殺すことを躊躇している。その事に気がついて、ミノリは静かにドクターへと銃口を向けた。

 

「みのりん平気? 僕やるよ」

「……大丈夫、3人一緒。怖くない」

 

 銃口は震えていた。2人が寄り添うように手を添えて、照準を合わせる。引き金に小さな指が3つ重なった。小さな彼らには、油断も慢心も敵である。ひとつひとつ確実に処理しなければ明日は無い。

 大丈夫、怖いのも重いのも分け合えば、ちょっとは勇気が出るのである。此処でヒトとして扱われたことなどない。奴らにとって自分達はヒトデナシなのだから。そう振舞っても文句は無いはずだ。

 

「……あー。やめだやめ。こんなんなってまで、やることじゃねぇよ」

 

 結局、三人揃っても震えは止まらなかった。

 じゃあ、仕方ないよね。

 

「ちぇ。コイツ散々嫌なことしてきたのにね。なーんで死ぬ時までこっちがヤな思いするんだってんの」

 

「ちっと難しかったね。これは自由のための戦いです。やりたくない事はしない!」

 

 銃を下ろして、クスクス笑った。背伸びのし過ぎ、良くない。

 それから本棚の傍まで大人2人を引っ張って、そのまま棚の下敷きにした。今まで3人に与えてきたものが枷となったのである。

 

「そんじゃ改めて。宣誓。俺たち」

「僕たち」

「わたし達は、スポーツマンシップに則って」

「手段を選ばず堂々と」

「全力で足掻いて、家出してやる」

 

 本棚から脚だけ出した育て親に向けてのご挨拶。後出しが過ぎるが、大事なことなので。

 今度こそ小さな指は力強く引き金を引いた。

 

「止められるもんなら、止めてみろ」

 

 

 **

 

 

「ね、ヒナちゃん。スポーツマンシップって何」

「あ、えと。カッコイイ響きだなと思って……」

「知らねぇ言葉を使うな」

「む……。たぶん、スポーツする時の心構え……全てを蹴散らして勝利を掴む的な……」 

「嘘言え。スポーツってそんな血の気の多いもんじゃねぇだろ……本で読んだことしかないけど」 

「あれ、殴り合いのスポーツもあるって見た気がするよ」

 

「……適当言った。お外出たら、ちゃんと調べます」

 

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