「……よし。行くぞ」
ミノリが見聞色の覇気で神経質に安全を確認する。その間にヒナが向かいの部屋を開けて、ハルトは被験者部屋の施錠を試みる。毎日研究員をジッと観察していたハルトは彼等の指の動きを覚えていた。目と直観的な脳みそが優秀なもんで、指を動かす距離を見ていたのである。
「あ、閉まった」
できる気はしていたが、
ひとまず第1段階。被検体の収容部屋にドクターを閉じ込めることにひとまず成功した。
「さすがぁ! こっちも開いたよ〜!」
それから。子供たちは向かい側の部屋に逃げ込んだ。
「俺の想像が正しければ、全ての部屋には通気口があり、ここで換気を行っているはず。俺たちの収容されていた部屋のダクトは外せる仕様じゃなかったが、掃除のためか年に何度か、俺たちの天井裏に気配がしたことがある。つまり、あ。ほら、あったな」
おぉ……。ヒナとハルトは小さく拍手をした。ミノリはそれを小さく笑って、すぐさま真剣な目つきでダクトを見上げる。目を細めてジーッと形状を観察し、開け方に何となく察しが着いた。
「いちおうマイナスドライバー代わりになりそうな、スプーンを持っていたが。……あれは横のロックが付いたスライド式だな。要らなそうだ。ハル、一緒にあの机を動かしてくれ。本棚に登って開けてみようぜ」
「あいあいボス」
「はいっ、ボス! ひなは何する?」
「ヒナは……そうだ、適当に部屋を荒らしてくれ。シジマさんから貰った小道具あっただろ」
「わかったー! シジマさんにはスケープゴートになってもらおうね。どれにしようかなぁ」
シジマは3人にお助けグッツを幾つか渡してくれた。全部服の中に隠せる小さなものである。煙玉、閃光弾、シジマに繋がる通信機その他諸々。
迷うことなく選ばれたのは通信機である。1番彼らにとって不要なもの。かつ、海賊のロゴが入っていたので。
書類や機材を一生懸命なぎ倒して、これみよがしにソッと通信機を置き去りにした。大事そうな書類は幾つか抜き取って、それから適当なファイルをひとつ選んで収納。ファイルをズボンのゴムで抑えて服の中に入れた。書類が紛失している方がシジマの犯行に見えそうなのと、燃やせるからだ。
「んー、どうかなぁ……おっ。やったね」
ヒナが部屋を荒している間に本棚に登ったハルトがダクトを開ける。
「みのりん、空いたよ。んしょ。んー……定期的に光も漏れてるから部屋も分かりそう」
ハルトの偵察報告にミノリは「よし」と頷いて足場に使った机を倒した。
それから楽しそうに部屋を散らかして回わるヒナに声をかける。
「ヒナ。ほら、こっち来い」
「わ……! はぁい!」
何をするか分かったヒナは楽しい予感にダッと駆け出した。色んなものを踏みつけながらぴょんと、机の上で待つミノリに向かって飛び込んだ。一方ミノリはまさかそんなすぐに突っ込んでくるとは思わなかった。何とか受け止め、そのまま本棚の上までミノリが押し上げる。そこからハルトが引っ張り込んで、ヒナの回収に成功。
「はい、ヒナちゃん到着」
「お前な……上手くいったからいいけど」
「た、たのし……! 」
「……良かったな」
「ほい、みのりん。捕まって」
「頼む」
最後にミノリが本棚に足を引っ掛けて、2人がかりで引き上げた。
「ふぅ……ちょっとぉみのりん重くない? アイツが糖質もタンパク質も増やしたりするから、みのりんおデブちゃんじゃん」
「成長期なんだ、仕方ねぇだろ。骨皮ヒナ夫と比べんな」
「くっ。 僕だってこれから伸びるから」
「……ほねかわ ひなお ?」
「そうかよ。2ミリか」
「2億メートル」
「2億メートルね。伸びるといいな」
「よし、蓋も閉まったよー」
カチ。と換気口を閉めた音がして、ヒナが振り返ると切り替えるように鋭い視線を交わす。
「進もう」
ノシノシしゃかしゃか、狭く暗い道を進む。時折各部屋の通気口から光が漏れ出るのを頼りに、室内を伺いならがらミノリは頭の中で地図を広げていた。
部屋からの移動ができるのは運動場へ移動する時だけだ。とは言っても。その運動場も収容部屋の真後ろに位置するので、後ろ壁の扉を開けられるだけ。廊下に出たことはない。しかし運動場も部屋も、こちらを観察するためガラス窓で廊下と仕切られている。広範囲を見回せるためある程度付近の道がわかるのだ。
まず西側はすぐに突き当たりで、東側へと廊下が伸びているのはわかる。いつも東側から人が歩いてくるからだ。さっき部屋を出る時にも確認したから、これらは間違いない。恐らくこの建物はコの字型の廊下になっている。
視覚情報と研究員の往来の足音や気配、読み取れた思考の情報を照らし合わせてミノリは地図を作っていた。シジマを探った情報も合わせれば、ほぼ間違いは無いだろう。
「おっ」
「あだっ」
「むきゃっ」
「……悪い」
3人は連なって這っていたので、先頭が急に止まると玉突き事故を起こした。
「突き当たりが見えたぞ」
レプリカは地下にはふたつの隠し部屋に分けて2つずつつ保管されている。隠し部屋の位置は研究員の思考の断片を繋ぎ合わせるに、角になっている部屋が怪しい。角に隣接している部屋のうち、それぞれ給湯室とデータ管理室に部屋の入口がある。戸棚の中に隠し扉があるのだそう。隠語の可能性もあるが、とりあえず探ってみるしかない。
ダクトから部屋を伺うとこじんまりとしたキッチンがあった。こちらは給湯室だろう。当然キッチンなど見た事ない子供たちは、別のところを注目していた。
「ん。やっぱり壁までの距離と、突き当たりまでの
「あぁ、部屋じゃなくても絶対何かの空間があんだろ」
頼もしい男子2人の断言にヒナはピカピカ目を光らせる。不謹慎なようだが、この冒険が楽しくて堪らないのである。
「この部屋あの人たちが言ってた戸棚もある。当たりかも!」
自分も役に立ちたくて気合い十分だった。
「では。先鋒ひな、はると、いってきます」
「先に行くのはみのりんだよ、ヒナちゃん。僕らはちょっとお留守番。でしょ?」
「そうだった。じゃあそれまで、もう一方のお部屋には隠し部屋に続きそうな戸棚が無いか見ておくね!」
まずはミノリが施設全体のブレーカーを落とす。 監視カメラに映らないためだ。元々この施設は窓が少ない上、子供達の居る階は地下なので光は照明頼りだ。給湯室への侵入はきっと誤魔化せるはず。
ハルト達と別れてミノリは北側の……運動場側の通路を這い進んでいた。通気口から部屋をひとつひとつ確認しながら探しているが、どれも似たような部屋ばかりである。倉庫の隣ということは分かっているので、それらしき部屋を探す。
「倉庫……ん、此処……それっぽくないか?」
他の部屋は常に照明が煌々と照っている中、この部屋だけ薄暗い。少し異質な部屋を見つけた。懐中電灯の光を頼りに中を覗けば、ホコリの被った大型の何かや、材質の異なる棚に乱雑に仕舞われた物品。ミノリの知識の限りでは、倉庫とは、普段使わないアレやコレやを閉まっておく場所となっている。なんか、それっぽい。
とりあえず1個先の部屋を見てから戻ることにして、進む。通気口から見えるのはやっぱり似たような部屋だが、レバーやらスイッチやらが並んでいる機械が多い。電気を落とすブレイカーはレバーである。
「此処か……? 結構時間が経っちまった。そろそろシジマさんが来ちまう頃かな」
とりあえず降りて見ると、ELECTの文字。そして無数の部屋の名前が付けられたレバー。
「ぽいぞ! ……けど、多いな。あー。まぁこれだろ」
ブレイカーはレバーの形をしていることは知っていたが、こんなに多いとは思わなかった。まぁ、赤くて一等大きなのがそうだろうと、当たりをつけて勢いよく降ろす。
-バツン。
「っしゃ。ビンゴ」
明かりの消えた部屋で小さくガッツポーズを取った。これでカードキーで開く扉は開かなくなったので、非常電源が動かされるまでの数分は猶予がある。次はダクトの中からレバーを上げる仕掛けをするため、ミノリは小さな懐中電灯を咥えるのだった。
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