こちら、ニコニコ海上放送局!   作:就鳥 ことり

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休みが明けて、執筆スピードも遅くなり、ストックが無くなる負の連鎖。
もう少し貯めてからにすれば良かったかなと思います。

評価頂きありがとうございます。


8話 騒乱。

「……なるほどな」

 

 シジマがワゴンを転がして部屋を尋ねると可愛い子供たちの姿は無く、汚ぇ男2人が部屋に閉じ込められて喚いていた。

 まったく逞しいことだ。何かやるだろうなと思って与える情報にはブラフがあったりしたが、まさか鼻から頼るつもりが微塵も無かったとは。

 

 シジマは仕方ないので、でんでん虫を手に取った。

 

 「あー、あー、こちらシジマ。聞こえるかノブ」

 

 「聞こえるぞ。首尾は?」

 

 「ハルトは無事か?!無事なんだろうな?!」

 

 でんでん虫の顔がパッと切り替わって、ハルオミの声が割り込んできた。耳を裂く声量にシジマは堪らず、腕を伸ばしてでんでん虫を遠ざける。シノブを押しのけている様子が目に浮かぶようだ。

 彼は産まれて間もなく息子と引き離され、以来8年息子ロスに苦しんでいる。これは発作のようなものだった。仕方ない。

 

 「……まぁおそらく無事だな」

 

 「恐らく……?そりゃどう言う意味だ?」

 

 「落ち着いて聞いてくれ、……?! 」

 

 -バツン。

 

 「おいどうした?」

 

 所内廊下の電気が消えてゆく。部屋の解除キーもエネルギーを失って、暗くなった。全ての電気エネルギー供給が止まったのである。

 

 「停電だ……外の様子は」

 

 「至極穏やかだな。俺の隣以外は」

 

「ハァルトォォォォォォォオオ……ッ!!! 」

 

 「ならこれは十中八九3人の仕業だな……子どもは無事だ」

 

 「そうか……そいつァよかった。ただ詳しい場所は分からないんだな?」

 

 「ああ……覇気で上手く見つけ出せないか……」

 

 「わかるさ」

 

 息子ロスおじさんはいつの間にやら姿を消し、その眼差しは凪いだ海のよう。静かに研究所を見据えるハルオミは賢者の顔をしていた。

 

 「……ハルオミ?」

 

 彼の見聞色の覇気では、岩陰に隠れた船からの捜索など到底不可能なはず。いったい、どんな策があると言うのだろう。

 

 「覇気など使うまでもない……ソウルだ……魂が私を呼んでいるんだッ……!」

 

 先程の比喩は全て気の所為であった。訂正する。

 間違いなく狂気行動である。聡明さなど欠けらも無い、暴走機関のそれだ。

 

 「お、おい、落ち着けハルオ……」

 

 「ハルトォォォ! パパが今ッ! 助けに行くぞ!! もう少しの辛抱だァ!!!! 」

 

 ハルオミはアイデアロール、SAN値チェック共に致命的失敗(ファンブル)。不定の狂気に突入していた。

 

 ハルオミは甲板を蹴り壊す勢いで飛翔し、そのまま第2研究所正面を見据える。パパは強し。朝日を背に浴びて、やがてその光にその身も溶けこむ。否、強烈な光を放つ。

 

 「眩しいな。日の出か……」

 「それにしては急に明るくなった気がするが……?」

 

 目を刺す光に、警備兵が空を睨む。隠密作戦などなんのその。

 

「邪魔な門だな……」

 

 眩い朝日は立ち塞がる障害物に眉を顰め、その排除を即決するのだった。

 

 「……待て違う……あ、あれ……」

 

 迫り来る閃光に目を開けることも出来なくなり、漸くその現象に当たりが着いた。自然物なわけが無い、この光の眩さに覚えがある。己が上司、海軍大将のピカピカの実。

 

 「大将黄猿……!? 」

 

 いや、それではおかしい。理由がない。光の速さでパワハラすることに定評があるお方ではあるが、この世界政府管轄の極秘研究機関において、まさかそんな訳がない。となれば。もう1人。大将黄猿の食したピカピカの実は、悪魔の実でも変異種であるさくらんぼ型。その片割れを得た者。

 

 「海嵐海賊団副船長……」

 

 -それは、全てを焼き尽くす光線。

 

「天照」

 

 「虐光のハルオミだァァァ!! 」

 

 不定の狂気で放たれた光線が正門に着弾するやいなや、閃光の爆発に周囲は包まれた。静寂の後に訪れる爆音。悲鳴をあげるように島全体がその身を揺すった。そして、光が晴れるとそこは無であった。着弾半径20メートルが焦土と化していたのである。

 

 「何だこの揺れ……?!ノブ、外はどうなってる?!」

 「あんの親バカやりやがった……!! ええいもういい! 総員突撃ィィィィ!!!!! 」

 

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」」

 

 やけくそのように、海賊共は我先にと船を飛び出した。雄叫びには似合わず、その表情(カオ)は皆仏のように穏やかであった。いつもはもっと頼りになる副船長なのだ。息子、ハルくんに飢えてさえ居なければ、完璧なのに。

 

「パパが今行くからな! ハァルトォォォ!!!!」

 

 こうしてシジマの隠密作戦は虚しく幕を閉じ、海賊共はダイナミックにお邪魔しますことになった。

 

 

 **

 

 

 少し時間は巻きもどる。バチンと大きな音がして道標だった灯りがフッと消えた。2人は暗闇で顔を見合わせて

 

「みのりだ!」

「きっとね。僕が先に降りるよ」

 

 ヒナはこくり頷いて、小さな懐中電灯を服の中から取り出した。ハルは給湯室の通気口の蓋を開けて、1度ぶら下がる。ヒナのライトを頼りに机へと飛び降りた。

 

「ん。大丈夫そ。降りておいで」

 

 ヒナもハルを真似て後ろ向きにソロリ足を下ろして行く。ちょっと怖かったが、そうも言ってられない。わたしはできる!! エイっと思い切って手を離した。

 

「ぎゃふっ」

「よっと。もー、お目目瞑ったら危ないよ」

「……はぁい……はる、ありがと」

「怖いなら言えばよかったのに」

「だって。」

 

 だってかっこ悪いもん……ゴニョゴニョ。もごもご口の中でごちる。ハルトはまったく聞き取れなかったけれど、ヒナの尖らせたお口を見て

 

「んー。よしよし」

「んむ」

 

 ほっぺたを片手で挟んでムニムニあやしてやることにした。すると、尖った口が「んもんも」言いながら笑い、すっかりとんがりお口は居なくなった。流石の手腕である。

 

 さて。ヒナがご機嫌になったところで、戸棚を開ける。1番下の段の大きな観音開きの戸を開けると、話に聞いたジャムがあった。

 

「確か、ジャムの瓶を右に2回、左に1回、右に半分……」

 

 カチッ

 

「「開いたっ!」」

 

  その時である。突如として震度5の揺れが研究所を襲った。地面が唸るような轟音。2人は戸棚の中でびっくりして身体を丸めた。お互いを抱きしめてパチパチ目を瞬かせる。なんだなんだ。

 

 その後すぐに電源が復旧し、館内にサイレンが鳴り響いた。

 

『エマージェンシー7、エマージェンシー7、総員対応せよ』

 

 けたたましく響き渡る緊急コードに、2人は脳内でパラパラと館内マニュアルを捲る。なんだったかな。

 

「えまーじぇんしー、なな」

「マニュアルにあった気がするよ。たしか、んー、あ。侵入者および、武力行使必要大……」

 

 大正解、その通りである。よく出来ました。

 そこまで思い出して、2人は目を見合わせる。

 

 と、言うことは……?

 

 -海賊が来たんだ!!

  こうしちゃいられないっ!

 

 途端に2人はアワアワと動き出した。急げ、急げ。ヒナがマスターキーをかざして、ハルトが暗証番号を入力する。ドキドキ逸る気持ちから壁をグッと押しながら待っていた。早く、早く! 一呼吸置く間にカチャッと回転扉のロックが外れ、

 

「わっ」

 

 子供達は転がるように隠し部屋へとなだれ込んだ。

 痛い。と言う時間も勿体なくて、2人はすぐに体を起こしてかけ出す。そしてガラスケースを覗くとムッと眉を寄せた。

 

「これが悪魔の実……?」

 

 2人が首を傾げるのも無理はない。悪魔の“実”とは形容しがたい-少なくとも本で見た形とは程遠い物体が収まってた。

 

「ご飯で食べてるのと少し似てるね」

 

 直径2cmの大型タブレット錠剤である。ラムネ菓子のよう。子供達の初めて見るタイプの薬だった。

 

「オレンジとミドリ、アカかぁ、白くないの初めて見た……食べ物の色じゃないよ」

 

「ね、健康に悪そうな色。あ、でもやっぱり合ってるみたい。ここ、レプリカNo.6と8、9って」 

 

「ホントだ。でも、んー、これ悪魔の実として売れるのかな……」

 

「そうだよね信じて貰えなそ。全然似てない……持ち出し損になっちゃうかな」

 

「かもね。でも時間ない、迷うくらいなら持ってこ。ゴミだったら捨てればいいよ。小さいなら尚更。ヒナちゃんそのミドリの暗証番号58624744」

 

「はぁい。ごぉ、はち、ろく、に、よん、なな、よんよん!」

 

 2人でポチポチして、回収。さ、急げ急げ。給湯室に戻ったらまだやることは残っている。ヒナが持ってきた資料を火種に火事を起こすのだ。ダクトに逃げんこんで、濡れ布巾で蓋をした上にファイルを重石にする。酸素をたくさん使い込んでもらい、低酸素になったところに、研究員がこの部屋を開けたら……ドーン!   そういう算段である。

 海賊が盛大にカチコミしてるので、そう上手くいかないだろうが、子供達ははじめての悪戯にワクワクしていた。

 

 いそいそ回転扉をくぐって、戸棚を這い出る。

 

「海賊風情が、覚悟したまっ、ぇぇぇええ!! 810番!!??」

「622番もいるぅ!?」

 

 出口では既に研究員が待ち構えていた。目玉をズギャーンっと飛び出させて驚いている。子供達もびっくりして大きな目を限界まで開けたまま、動けなかった。

 

 実戦経験に乏しい者同士、馬鹿みたいに緩やかな時間の流れで固まり、頭脳派達はこの事態をキュルキュル脳処理していた。考えずには居られないのである。研究職の性質(サガ)だった。

 

 こういう時、1番再起動が早いのはこの中で1番の馬鹿である。 

 

「ゲホッ、ハルト走って!!」

 

 馬鹿は想定外の事態に陥った時、思考を放棄するのが早いからだ。ヒナは感覚、直感タイプの馬鹿なので、体が先に飛び出す。シジマ印の煙玉を叩きつけて、噎せていた。初めて使ったので、使った自ら煙を吸い込んでしまったのである。

 ケンケン咳をしながら、お腹にしまってたファイルもオマケとばかりに研究員に投げつける。

 

「ヒナちゃん、こっち!!」

 

 ヒナの声に弾かれたようにハルトも飛び上がって逃げ出した。逃げる被検体に反射的に引き金に力が入ってしまうのも無理はない。ハルトの素足を掠めた弾丸に罵声が飛ぶ。

 

「馬鹿者っ、傷を付けるな! お前、メインルームに行け、モルモット共の脱走をドクターに伝えろ。麻酔銃も取ってこい」

 

「はっ」

 

「追え、追え!! 海賊共に殺されたらお終いだ。早く捕獲しろ!」

 

 2人はぺたぺた足を鳴らして必死に走る。ハムスターが滑車を回すように、より良い研究成果のため強制的に鍛えられた子供達はタフだった。決して速い訳では無い、ただ持久力と伸ばされる手を躱し続けるすばしっこさはピカイチである。頭脳ばかり酷使してきた引きこもりの大人共など手も足も出ない。しかし、それでも人数が多いので2人を困らせていた。

 

「ヒナ! 埒が明かない! 1度二手に別れて撒いてから、みのりんとこで落ち合お、管制室」

 

「わかた! 私1回上行く!  捕まっちゃダメだよ!」

 

 「大丈夫、追っ手はすぐに居なくなるよ」

 

「? わかた。気を付けてね。……??」

 

 ヒナは真意が分からず、キョトリとしたまま走り去って行った。何も伝わってないシワシワの眉間を思い出して、ハルトは笑う。

 

「かわい」

 

 オレンジ色の錠剤が噛み砕かれた。

 

 




閲覧ありがとうございました。
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