【俺にとっては朗報】家に戻ったと思ったら超絶美女と同衾してた件について【おまいらにとっては悲報】   作:クラウディ

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太陽のないテイワット





陽の沈んだ後のテイワット

「……甘雨(カンウ)、根を詰めすぎよ。少しは休んだら……?」

「……ありがとうございます刻晴(コクセイ)。……でも、私は休んでいられません。帝君がいない今、あの子が――『陽天(ヨウテン)』が守ってくれたこの国を守るために、片時も休んでられないのです……」

「…………」

 

ここはテイワットに存在する七国の一つ――『璃月(リーユェ)』。

岩と契約の国であるその国の運営を任されている『群玉閣(グンギョクカク)』の執務室にて、2人の女性――『刻晴』と『甘雨』は非常に暗い顔で書類に筆を走らせていた。

 

 

 

――おおよそ数十年前。

 

 

 

まだ彼らの弟的存在である青年――『陽天』が生きていたころの話だ。

その時は今以上に魔物が各地に出現し、多くの命が失われていった。

もちろん、凄まじい力を持った者達――『仙人』達や、そんな彼らの中でも特に戦いに優れた者――『仙衆夜叉』達がいたことで何とか食い止められていた。

 

しかし、魔物の数は計り知れず、ともすれば津波のようであったと表現できたであろう。

 

確かに仙人達は強い。

それこそ凡人には不可能な奇跡を平然と起こし、千を超える軍勢であろうとたやすく蹴散らすだろう。

 

だが、それでもあまりに数が多かった。

 

見渡す限り魔物で埋め尽くされた大地。

そんな中で魔物を滅ぼし自身の存在を示し続けた夜叉達の牙城が崩れ去ろうとしていた時だった。

 

『――ごめん皆……俺、帰れないかもしれない』

 

魔物のうごめく音でもかき消されないほどの否定したい事実が、いやに彼らの耳に入った。

 

瞬間、清らかな炎で包まれる戦場。

突然のことに敵も味方も動きを止めた。

 

その光景を……二人は知っている。

 

『が――あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!』

 

命を振り絞るような絶叫。

苦しみもがく悲鳴。

大切なものを奪われまいと怒りをあらわにするその叫びは、誰もが次に起こるであろうことを予感させた。

 

魔物達は、逃れられぬ『死』を。

 

 

 

仙人達は――――大切なものの『死』を感じ取ったのである。

 

 

 

『あ――』

『陽て――』

 

『グッ……!!! ガッ……!!? っ……ごめん、皆……皆を守るには、もう、これしかないんだ……!!!』

 

『ッ! 陽天やめろ! それではお前の命が――いや、()()()()()()()()()()()!!』

 

体中にヒビが入り、そこから荒れ狂う炎を噴き出している陽天の姿に呆然とする刻晴達よりも、真っ先に異変に気付いたのは彼女らの主君である『岩王帝君』。

夜叉達が前線で戦うなら、帝君はその圧倒的な力で発生源をたたいていた。

しかし、魔神の怨嗟はすさまじく、彼女の攻撃であっても早々には崩れなかった。

刻晴達はそんな彼女の護衛役として立っていたのだが、陽天が起こした捨て身の技に呆然としてしまったのである。

 

呆然とする2人を置き去りに、帝君は駆けていった。

 

間に合ってくれと、消えないでくれと、陽天の身を案じる気持ちでいっぱいであったのだ。

 

 

 

――だが、行動を起こすには何もかもが遅すぎた。

 

 

 

『『我、梵天を背負う者也』』

 

 

 

『っ! やめ――』

 

 

 

『『灼天罰――落陽』』

 

 

 

瞬間、戦場は白く染まった。

 

 

 

「……気づいた時にはもう終わっていたわ」

「えぇそうですね。気づいた時には何も残っていませんでした。魔物の姿も。皆を蝕んでいた業障も。そして――」

 

そこでふと手を止めた甘雨は、何かをこらえるように震えだし、その眼もとからは大粒の涙を流し始めた。

 

「ヒック……私達の……ぐすっ……大好きな……あぁ……陽天も……ふぁっ……」

「っ……あのバカ……なんで、勝手に、消えてる、のよ……!」

 

話していくにつれて、その涙の勢いは止まらなくなってくる。

普段は凛としている刻晴ですら、つられて泣いてしまうほどだった。

 

あの時、陽天が行ったことは酷く単純。

自分の許容量である元素や仙力を軽く突破した出力で浄化の炎を戦場全てに届くように放出したのである。

この浄化の炎はあまり前線に出ない甘雨はともかく、夜叉の皆からは非常に頼りにされていた技なのだ。

 

魔物を倒せば倒すほど、その魔物が持つ怨嗟や業障は呪いのようにまとわりつく。

陽天を除く夜叉や仙人にはこれらを浄化する手段はなく、それこそ帝君ですら解呪は不能であった。

 

 

――それを陽天は可能にしたのである。

 

 

彼自身のやさしさと相まって、彼は自身が能力で火傷を負おうとも、誰かを助けるには本当に躊躇がない存在だった。

 

だけど、あの戦場ではその可能性が抜けていた。

 

陽天が自分の命を投げ捨てる可能性を……。

 

「ひっく……でも、あの子は言ってくれました……」

「私達に璃月を任せるってね。……忘れてないわよ。可愛い可愛い弟分の願いだもの……」

 

『皆……俺が言うのもなんだけど……璃月を、頼んだよ……』

 

だが、あれは覚悟の上であったと死ぬ間際の彼は言っていた。

「皆が助かるのに自分一人の命で済むなら本望だ」と。

だからこそ、彼の願いはかなえてやらなければならない。

 

「……戻ってきてみれば、また泣きっぱなしじゃない二人とも」

「あ、す、すみません凝光(ギョウコウ)様!」

「……別に、少しだけ昔を思い出しただけよ」

 

そんな二人の執務室に入ってきたのは、煌びやかな装飾が施された衣服をまとう女性。

彼女たちの上司である『凝光』であった。

 

「ふふっ、またあの『不落大聖』のことを考えてたのかしら? 私も会ってみたいわねあなた達がそこまで入れ込む相手と」

「「…………」」

「冗談よ。そんなに殺気立たないで頂戴。でも羨ましいわね。あなた達をそこまで落とせる相手なんて。特に、修行一筋の刻晴を落とすなんてなかなかの男じゃない?」

「……陽天はかわいい弟です。凝光様は素敵な方ですけど、陽天には会わせられません」

「私もよ凝光。可愛い弟分はあなたの駒にはさせたくないの」

「あら、断られてしまったわね。いいわ、今は仕事に取り掛かりましょ」

 

そうして、凝光は二人とともに仕事を終わらせていくのであった。

 

 

 

 

 

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「……何者だ。我の領域に立ち入るものは……」

若陀(ジャクダ)よ、久方振りだな」

「……浮舎(フシャ)か……フン、今度は貴様か……」

「そう言うな若陀よ。少しばかりの余興になるような話を持ってきたぞ」

「……聞こう」

 

ここは璃月に存在する『層岩巨淵』。

その特殊な炭鉱のさらに底にある場所にて、一匹の龍と一人の仙人が会話をしていた。

 

若蛇と呼ばれた龍の名は『若陀龍王』。

浮舎と呼ばれた仙人は『騰蛇大元帥・浮舎』。

彼らは璃月を統治する神『岩王帝君』に付き従う存在であった。

そして、彼らは層岩巨淵の魔物を滅することを帝君に命じられ、そして現在もその責務を全うしている眷属だ。

 

若陀の対応は素っ気ないが、その声色には少しばかりの喜色があった。

おそらく、久方振りの話題に内心喜んでいるのだろう。

 

「我がしばらくここを離れていた時があったな? あの時、帝君の召集で我らは渦の魔神と戦っていたのだ」

「フン……また我をここに置いたままか……もしや、我のことを忘れてはいないな……?」

「ハッハッハ! 若陀よ、お前の体は山のように大きく、そしていささか鈍重すぎる。あれは本当に突然のことだったのだ。もしお前が出ていたとしても、お前が璃月に着く頃には、すでに戦いが終わってたやも知れん」

「ヌゥ……しかし、我が眷属を送ることが出来たやも――」

「相手は渦の魔神の名の如く、海の上にいるのだぞ? お前の眷属では溺れてしまいかねない」

「グヌゥ……」

 

言い返されて困ったように唸る若陀。

そんな彼の姿は自分だけ仲間はずれにされてしまったと感じている人間のようであった。

龍なのに感受性が豊かな友の姿を見て、相も変わらずだとため息を着いた浮舎は続きを話す。

 

「その時にな、なんと岩と風を操れる少女に出会ったのだ」

「ほぉ……我が友のように複数の元素を……」

「少女――『蛍』に聞いてみたのだがな、我が弟である『陽天』のことは知らないそうだ」

「フンッ、我の友は数十年も前に死んだのだ。我らのような存在ではない、ただ複数の元素を操れる凡人が知るわけもない」

 

若陀の言う通り、複数の元素が使える少女――『蛍』がこの世界で目覚めたのは今から数年前。

それに対し、陽天が亡くなったのは、今から数十年前だ。

だが、浮舎にはもう一つの知らせがあったのだ。

 

「そうだな……だが、魈から聞いた話では、最近の璃月には我が弟らしき亡霊が道行く人を助け、すぐさま霞のように消えているそうだ」

「何!? それは真か浮舎よ!?」

「落ち着け若陀よ。だが、亡霊であるのが気がかりなのだ。あの人懐っこい陽天が、わざわざ亡霊の姿を取っているのだ。我々に合わせる顔もないとは思っていないだろう……いや、奴なら死ぬ間際のことで顔を合わせられないと思っていても不思議ではないな」

「……クハッ、クハハッ、ハーッハッハッハ! 奴ならあり得るのがさらに笑いを誘うな! なにも恥じることはないというのに!」

「フハハハハッ! 確かにそうだ!」

 

層岩巨淵の奥深くから一人と一匹の笑い声が木霊する。

 

彼らは、まだ帰らぬあの人懐っこい男の姿を思い浮かべていたのであった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「…………」

「応達、入るわよ」

「…………」

「……ハァ……」

 

ここはとある一室。

その部屋の主である『応達』と呼ばれた女性は、ただ呆然と寝台の上で怠惰な日々を過ごしていた。

そんな彼女に近づく一人の女性。

 

「ねぇ、もうそろそろ整理はついたかしら? 陽天のことについて」

「…………」

「帝君も彼の亡霊を追って、何処かへ行ってしまった。今の璃月の噂では『神すら惑わす悪霊』として広まって――」

「違う! 陽天は死んでなんかいない! あの子は生きてる! 彼から分け与えられた私の胸の中の『炎』がまだ燃えているの! だから! だから!」

「…………」

 

悲痛に叫ぶ応達。

 

彼女は戦うための仙人――『仙衆夜叉』として、戦いに赴いていた。

だが、ある時に業障に蝕まれ、発狂したのである。

それを止めたのが、話にも出ていた『陽天』である。

 

『応達姉、これで止まってくれよ! 絶対に死なないでくれ! あんたが死んだら、悲しむのは俺だけじゃないんだ!!』

 

その捨て身の技と、彼から渡された『炎』で一命をとりとめた応達であったが、彼女はその時に恋に落ちたのである。

しかし、そんな自身を救ってくれた想い人は数十年前に亡くなっている。

 

だが、応達はその事実を認められなかったのだ。

 

それを黙って見ていた女性――『伐難』は、ため息を吐いた後、ある行動に移した。

 

「応達、私を見なさい」

「嫌よ! 私は信じない! あの子が死んだなんて――」

「いい加減にしなさい!」

「っ!?」

 

突然の怒声に、応達は体を強張らせる。

恐る恐る伐難の顔を見た彼女は、驚愕に目を見開いたのである。

普段は泣かない伐難が、大粒の涙をこぼしていたのであった。

 

「ひっく、私だって、すがりたい、わよ……! 私だってあの子が大好きだった……! 自分だけに笑ってほしかった……! でもそれはあの子が望んでない……! だから我慢したのよ! でも、せめてもの想いを告げる前にあの子は死んだ! その日の夜は心が滅茶苦茶になった! だけど、彼としか思えない誰かが今もこの世界で誰かを助けてる! 私だって、今すぐその亡霊に会いに行きたい! あの子が死んでないと信じてるから!」

 

矢継ぎ早に自分の口からこぼれる言葉と共に涙が止まらなくなる伐難。

彼女だって、陽天のことは好きだった。他の男が好きになるとは思えないほど。

 

『伐難姉! ほら見てくれよ! 俺の神の目に色が付いたんだ! しかも応達姉と同じ炎元素!』

 

『応達姉! 一緒にご飯行こう! え? 食べ過ぎだって? そ、それは……戦ってるから実質ないも同然だって! ……な、なんで笑うんだよ!』

 

『伐難姉!』

 

『応達姉!』

 

『ごめ、ん、もっと、みん、なと、いたか、った……』

 

それほどの想いを胸に秘めてたのに、伝えるべき相手はもういない。

そうして時間が経つにつれて心がある程度の整理がつき、諦めようとしてたときに最愛の彼としか思えない亡霊が現れたのだ。

その時の伐難はもう心が滅茶苦茶だった。

 

――「諦めたかったのに希望が出来てしまった」と。

 

それを呆然と聞いていた応達は、一度は止まった涙をまた溢れさせながら泣き叫んでしまったのだ。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「なぁ婆ちゃん、その陽天とかいう野郎はイテッ!」

「年上への口の利き方は気を付けなさい一斗。それでも鬼かしら?」

「ケッ! そんなヘタレ野郎なんざ「さん」なんてつけなくていいんだよ! 婆ちゃんがこんなに生き遅れるまで待たせてるとかイテッ!」

「誰が生き遅れてるですって?」

 

ところ変わって、ここは海上隣国「稲妻」のとある屋敷前。

そこでは二人の鬼が向かい合って己の得物をぶつけあっていた。

 

一人は高い身長を持ち、鍛え上げられた肉体を持つ鬼の青年――『荒瀧(あらたき)一斗(いっと)』。

もう一人は、まさしく絶世の美女と表現される美貌を持つ鬼の女性――『御輿(みこし)千代(ちよ)』。

二人の関係性としては遠縁の親戚であり、一斗がまだ現在のような巨漢になっている今から十数年前の幼少の頃から遊び相手となっていたのが千代である。

 

そんな彼らは、稲妻を守る者としての修練を行っていた。

一斗は自身の背丈に届きそうなほど大きい金棒を重さを感じさせないほど豪快に振り、周りを抉り取るかのような勢いで暴力の嵐を振りまいていた。

片や千代のほうは、白刃の薙刀を巧みに使い、金棒をそらすという技術の高さを見せたかと思えば、金棒を正面から受け止めるという鬼としての怪力も見せていた。

そんな見れるものならモラを払ってでも見たいような修練の最中、一斗は言葉を漏らした。

 

「……でもよぉ婆ちゃん。寂しくねぇのか? そいつのことが好きすぎるから、今も独身なんだろ?」

「……そうね……」

 

一斗の言葉に、千代は青年――『陽天』が生きていた時のことを思い出す。

 

『よろしくお願いします皆さん! 俺は璃月から派遣された夜叉、陽天って言います!』

 

『……えっと、私が怖くないのかって? いや、そんなことは思ってないですけど……。……力が強いとか、見た目が人とは違うとかですか? いや、それなら腕四本もある浮舎兄とかいるし、強さなら仙人の皆とかいるし、角があるくらいなら甘雨姉とかいるし……。……なんで笑ってるんですかね? 俺そんな変なこと言いましたか?』

 

『アッハッハッハ! 月が綺麗なだけでも愉快だなぁ! はれぇ? これお酒なんれふか? うぇへへへへ……いいじゃないですか~そのくらい~』

 

『あの、この間のことは忘れてもらえませんか? 割と真面目にお願いします。帝君に知られるとちょっとどころかかなりまずいので』

 

『千代さん! 目を覚ましてください! 千代さん!』

 

思い起こせるのは彼との暖かい日々。

初めて恋に落ちたあのときの出会いだった。

 

「ま、もう生き遅れてるのは変わらねぇけどなへぶらぁっ!?」

「あなたはいつも一言余計よ一斗」

 

口が悪く、生意気な態度をとってはいるが、一斗自身は千代のことを心配している。

しかし、一言余計になってしまっているので、一斗は千代が振るった薙刀の石突で顎をカチあげられていた。

 

「いっつぅ……いてぇぞ婆ちゃん! 生き遅れなのは事実だろ!」

「黙りなさい一斗。……私自身も、彼のことをひどいとは思ってるわ。でもね一斗。あの人は守りたいと思ってるものが多すぎたの」

「はぁ……多すぎるねぇ……ま、七神様、それこそ将軍様すらも惚れ込んでるのに他の神様に手を出してる男だからな……誰かを守るために死ねるってのは漢の中の漢だ。……ってことはよ、そいつは実質、俺達『荒瀧派』みてぇなもんだろ?」

「あら? それはどういうことかしら?」

 

甥のような一斗の意味深な言葉に、思わず小首をかしげて聞き返す千代。

そんな千代に向かって、妙に真剣な表情で一斗は告げた。

 

「俺は鬼として、気に入った奴は俺たちの派閥、要するに仲間になってもらいたいんでな! 俺は正直言って婆ちゃんを置いてどっか行った奴としては気に入らねぇけど、漢としてなら興味がある! そして俺は稲妻一の漢! そいつと俺は絶対に気が合うはずだ! それこそ亡霊になっても誰かを助けようとする漢! さらにそいつは婆ちゃんを惚れさせてる……婆ちゃんは俺たちの仲間……つぅまぁり、そいつは俺たち『荒瀧派』の一員に変わりないってことだ! なーっはっはっは!!」

「シィッ!」

「いったぁ!!!???」

 

はた目から見れば訳の分からない理論を語る一斗の隙を突き、千代は半円を描くように振るった薙刀の峰で一斗の頭を強打した。

完全に油断していた一斗はその一撃をもろに食らってしまう。

 

「は、はれぇ? 婆ちゃんが二人に見えるぞぉ?」

「はぁ……変なことを言うのはやめなさい。岩神様の怒りを買うかもしれないのよ?」

「はのいとてほには~……ふんぬぅ! そ、その程度でビビると思ってるのかよ婆ちゃん? 俺は天下の荒瀧様だ! 絶対にそいつを仲間にしてやるぜ! そしたらよ、婆ちゃんも喜ぶだろ? 大好きだった相手がいるってことで!」

「……! ふふっ、よく言うわね。それなら、彼を超えられるようになってみなさい!」

「おうともさ!」

 

そして再び打ち合う二人の鬼。

 

その顔は非常に晴れやかであった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「……陽天はどこにいるんだろうね」

「どうかされましたか『王子』? ……いえ、今は『()()』でしたね」

「……よかったね。気づいてなかったら折檻だったよ」

「そ、それだけはご勘弁を!」

 

テイワットに存在するどことも知れない場所に、一人の異邦人とその従者がいた。

 

「ふぅ、危なかった……しかし、陽天様のことをお考えでしたか」

「そうよ……私の大好きな太陽――『陽天』の魂の欠片が、最近テイワット各地に出現してるってあなたが言ったでしょ?」

「そうですね……。姫様の血え、ぬおわっ!?」

 

従者が告げようとした言葉に即座に反応し、右手に呼び出した剣を振るう異邦人。

それを間抜けな声で回避した従者は、ドラゴンスパインのような冷たい目の主君を見て震え上がった。

 

「……次言ったら逆さ吊りの刑」

「も、申し訳ございません姫様!」

 

……威厳のある見た目に反して、自身より小さい主君におびえる従者の姿はある種の滑稽さを感じさせられる。

 

事情の知らない者が二人の姿を見ても、これが今のテイワットを騒がせている組織――『アビス教団』の上層部だとは思うまい。

 

「……それにしても、最近はピリピリしていますね? やはり陽天様のことでしょうか?」

「……そうね。陽天の亡霊がいることもそうだけど、風神、岩神、そして雷神が姿を消していることが気がかり……風神はともかく、岩神と雷神が自国を手放すとは思えない。そして、まず最初に岩神が姿を消したのかが気になる……」

「順番としては岩神、風神、雷神の順に姿を消しています。そして部下からの報告では……陽天様の亡霊に接触した瞬間、消滅する彼と同じように消えたということです」

「……私も、彼に出会えたら……一緒に逝きたいな……」

「姫様……」

「……冗談よ。まだ私たちには成すべきことがある。止まってられないわ」

「……最後まで、お供いたします」

 

そして彼らはその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

世界は一つの異物により世界の流れを大きく変える。

 

それがもたらすのは、生けるものすべての幸福か、それともすべての破滅か。

 

それはまだ誰もわからない……。







※あとがき※

今回はキャラ紹介ないよ
時間があったら追加します


※登場人物紹介※


・甘雨

どこぞの大手企業VTuberさんが愛してやまない人(半仙)
イッチには角をなでることを許すくらいには落ちてる
イッチから国を頼まれたので、少し(?)ワーカーホリックに拍車がかかってる
おいイッチ、早く来て休ませろ


・刻晴

草元素実装で強くなったらしい、自分の神の目ぶった切ろうとした人
こっちもワーカーホリックだけど、特訓の時間に向いてる分少しだけ症状は軽い
しかし、特訓してる最中にイッチとの時間を思い出して泣き出しちゃう人
おいイッチ、早く(ry


・凝光

部下二人がいつものように泣いてる光景を見てため息をついてる人
仕事と陽天のことしか考えてないと言われてる甘雨と、修行と陽天のことしか考えてないと言われている刻晴の二人を落としている陽天のことが気になっている
多分、イッチと出会うと時間さえあれば落とされると思う


・若陀龍王

本家では週ボスとして誰であろうと「凡人、身の程をわきまえよ!」というモラクス絶対殺すドラゴン
本作では、スパダリイッチによって摩耗する前に、自身の在り方を変えられた
そも原神での摩耗とは、時間によって記憶が削られることで次第に記憶が薄れていき、自身が何だったのかを律する知恵ある者としての機能がなくなることだと解釈している
それをイッチは「一人ぼっちで寂しくないのか?」と聞き、若陀を様々な人と接させることで、「彼らは守るべき友」という認識を更新し続けていたのである
今は浮舎と共に層岩巨淵に出現する魔物を退治したりしている

イッチが死んだときには、守れる場所にいたのに守り切れなかった鍾離先生にキレていたが、「気づいたときには私でも止められなかった! だが、陽天がアレを使わなければ誰もが死んでいた! 私だって彼には死んでほしくなかったさ! 神としての責務を捨てても彼を止めたかった! だが……だが! 私は神としてあることを優先した! 大勢を守るために愛している人を失った! 彼を守っていれば浮舎も! 魈も! 応達も! 伐難も! 弥怒も! 守るべき民も! すべて失っていた! あぁ……あぁ……! ……なぁ、若陀よ……私は愚か者だよ……」という鍾離先生の嘆きに口を閉じた


・浮舎

原作では記憶が摩耗し、自身が何だったのかを最期の瞬間にようやく思い出せたが、本作ではイッチが定期的に業障を焼き払ったり土産話を持って行ったので、そんなに摩耗はしていない
イッチのことは弟のように思っていて、張り切ってよく失敗するイッチをほほえましく思っていた
若陀龍王と共に層岩巨淵の魔物を倒している

イッチのことは死んではいるがどうせ帰ってくるだろうと思ってる
なんだかんだ諦めの悪い弟だから、と……


・応達

原作では業障に蝕まれ、発狂して亡くなった人
本作では、発狂したときにイッチの命を懸けた技で虫の息ながら生存し、イッチの力で分け与えられた『命の炎』のおかげで今も生きていられている
イッチのことは弟としても男としても見ていたけど、その事件で一気に落とされた
今回の話で一番精神を病んでる人でもある


まだ追加予定



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