キラキラの一等星   作:ミヤフジ1945

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頑張ってシリアス沖野さんをやってみたけど、これ大丈夫かな?
沖野さんキャラ崩壊してない?






第14話

 

 

『勝者がいれば敗者が居る』

 

競い合い、命の蝋燭を揺らめかせ、それでも夢の為にターフを走るウマ娘が避けては通れない現実がそれだ。

初勝利に心躍りながら、沖野さんやおハナさん、見学している体験入部の1年生達の所まで呼吸を整えながら私は歩いていく。沖野さんは私の走りを見てどう思ってくれただろうか?

今直ぐにでも指導してみたくなっただろうか。それとも私の脚でも心配してくれるかな?

 

エアグルーヴやスズカ、ルドルフ先輩もおハナさんも、ちゃんと見ててくれただろうか?

私が勝利したことを祝ってくれるだろうか?それとも上級生に勝てた事に驚いた顔をしてくれるかな?

 

そんな事を内心言葉にしながら、私は皆が集まっている場所へと歩く。けれども私が戻った時、皆が集まっている場所では重苦しい雰囲気だった。

どうしたのだろうか。展示レースが始まる前までとても和やかで明るい雰囲気だったのに、これじゃまるでお通夜だ。

 

私と一緒に走った上級生達は苦虫を嚙み潰した様な悔しそうな表情をしていた。まぁこれは分かる。私も模擬レースで勝てなかった時とても悔しかったから。

出走しなかったカツラギエース先輩や他のリギルのメンバーもまだ分かる。だってまさか1年生に負けるとは思わなかっただろうし。

 

でもなんで体験入部の1年生は無言なんだろう。なんでエアグルーヴやスズカは応援してくれたのに何も言ってくれない。

なんで沖野さんは笑ってくれないだろう。おハナさんは走った娘のケアで私を見てくれない。ルドルフ先輩も顔を逸らして合わせてくれない。

なんでマルゼンスキーさんはそんな悲しそうな顔をするのだろう。

 

先ほどまでの嬉しさが急激に萎んでいくのを感じる。先ほどまで軽かった脚も急に鉛の様に重く感じる様になった。

 

 

誰も私を見てくれない。

 

 

誰も私に声をかけてはくれない。

 

 

誰もおめでとうと言ってくれない。

 

 

これじゃまるで私が悪役みたいじゃないか。

 

 

私の口は縫い付けられたかの様に何も言えず、そして開くことが出来なかった。感じていた嬉しさも消え、鉛の様に重い脚を一歩前に出すごとに心が冷たくざわついていく。

 

なんでだろうね。今私は、直ぐにでもここから離れたかった。

外ラチへと掛けていたジャージを体操着の上から羽織って、私はおハナさんに近づく。

 

 

「おハナさん。」

 

 

「ネイチャか。貴女もクールダウンして来なさい。これから他の娘達に説明会をしてから体験入部を始めるから。」

 

 

そう言ってきてくれたが、私の心は晴れない。今は少し時間が欲しかった。

 

 

「すみません。少し用事を思い出したので今日は失礼します。有り難う御座いました。」

 

 

私はそう言っておハナさんに頭を下げて、返答も聞かずに練習場を後にする。

誰かに呼び止められた気もしたけど、私は生憎それに反応出来る状態じゃ無かった。

練習場を出た後、私はブラブラと当てもなく歩いて、たまに立ち止まって空を見て。そしてまたブラブラと何処へと無く歩いていく。

 

気づいた時、私はさっきまで居た喫煙所まで来てしまっていた。ついでだし、と私は思い喫煙所へと入った。

慣れた手つきで懐からアロマシガーを出す。一本を取り出して、口に咥えた。ジャージのポケットから沖野さんに貰ったジッポライターを取り出す。

鏡面磨きではない為にぼやけてしまっているジッポライターに反射して写る私の顔。少しだけ眺めてから、私はアロマシガーに火をつけた。

 

ジジジ…………

 

アロマシガーのゆっくりと燃える音が聞こえるほど喫煙所の中は静かで、ざわついた心を少しだけ落ち着かせてくれた。

 

 

(なんであんな反応されたのかなぁ…………私はただ頑張っただけなのに。)

 

【挿絵表示】

 

 

 

喫煙所の窓から空を眺めつつ、そう私は思ってしまった。重い溜息と共に甘い香りの白煙が私の口から吐き出される。

エアグルーヴやスズカに勝ってくると約束したから、沖野さんに私の走りを見せたかったから。私自身が何処までやれるか試したかったから…………

走る前は色々考えてたけど、終わったらただ一言『おめでとう』くらいは期待していた。沖野さんに褒めてもらって、エアグルーヴやスズカに嬉しがって欲しかった。リギルのルドルフ先輩やマルゼンスキーさん、おハナさんにちょっとだけ驚いて貰いたかった。

 

色々と頭の中がこんがらがって、私自身がこの気持ちが何なのか分からない。ただ漠然と辛いなぁって気持ちがあるのが分かるだけ。何に対して辛いのかも分からないけど、模擬レースで三着だった時の悔しさとは違うベクトルという事だけは何となく分かった気がする。

 

アロマシガーの灰が私のジャージの上へとポトリと落ちた。ゆっくりと灰を手で払い落して、また私は空へと視線を戻す。流れゆく雲を目で追って、壁にもたれながら無心で空を見続けた。

根元まで火が迫り、少しフィルターの焦げる独特な匂いを感じて慌てて灰皿へともみ消した。ずっと空を見ていて殆ど吸っていない事に少し勿体無さを感じて、ついもう一本咥えてしまった。

新たに咥えたアロマシガーに火をつけて、また私は空を眺めた。

 

レース直後のあの雰囲気。何と無くだけど、もしかして私は怖がられたのだろうか?

客観的に私は私自身を見て、同年代との人付き合いが上手く行って無いとは思う。休み時間はずっと一人で参考書や論文を読んでいたし、昼休みはテンポイントさんに会いに行っていたりしたから話しかけ辛いのかもしれないが、私からもコミュニケーションを取らなかったのはいけなかったかもしれない。

話した事も無い同期のクラスメイトが中央トレセン学園で最強と名高いチームリギルの、まだデビューしていないとは言え上級生達に勝ってしまったのだ。彼女達からすればクラシックを通して戦わなければならない強敵に見えてしまったのだろうか…………

 

強敵認定だけならまだいいや。正直に言って怖がられたり、嫌われてしまっていたらかなり辛い。エアグルーヴやスズカ、もしかしたら私が気にしていなかっただけでまだアプリに登場したウマ娘達が居るかもしれないが、その娘達に嫌われた上で学年で独りぼっちは私は心が折れそうになる。

 

 

(マルゼンスキーさんが悲しそうな顔してたのって…………もしかしてそうなってしまうって思ってくれたのかなぁ?)

 

 

マルゼンスキーさんと二人きりでお話していた時、私はマルゼンスキーさんが強すぎるあまり並走トレーニングや、他のウマ娘がレースで出走回避してしまい出走数が足りずレースが中止になってしまった話を聞いた。

本人は気にしてない様に語ってくれたけど、もしかしたら今の私と同じ気持ちになった事があるのだろうか…………

 

 

カラカラカラ…………パタン

 

 

白煙を吐きながら空を見ていた私の耳が喫煙所の扉が開く音を拾った。どうやら誰か煙草を吸いに来たらしい。

 

 

「良かった、此処に居たのか…………」

 

 

ちらりと声の主を見ると、沖野さんが私の方へ歩いてきた所だった。

 

 

「あ、沖野さん。」

 

 

私がポツリと呟いた声が聞こえたのか、沖野さんは苦笑しながら私の隣へと来て煙草を咥えた。私は無言で咥えていたアロマシガーを口から離すと沖野さんの方へと持っていく。

沖野さんも何も言わず、アロマシガーの火を火種に煙草に火を移した。最初にここに来た時にもやったシガレットキスっぽい何か。気にする事も無く私も再びアロマシガーを口へと咥えて、沖野さんと2人で白い息を吐く。

 

私も沖野さんも無言。何も言わず、ただ2人で空を眺めているだけ。

ユラユラと揺れ、立ち昇る白煙だけがこの狭い喫煙所の中で動いている。

 

 

「すまなかったな。」

 

 

1分か2分か、無言で吸っていた私にそう沖野さんは言ってきた。

 

 

「ネイチャが勝って帰って来た時、俺はまず誰よりも早く一番によくやったと褒めてやるべきだった。脚は大丈夫かって、そう心配してやらなきゃいけなかった。」

 

 

まるで悔いる様に淡々と話す沖野さん。

 

 

「別に良いんですよ…………私なんかにゃ勿体無い言葉ですよそれは。」

 

 

何時もは先輩や目上の人達としか喋らない為に敬語しか殆ど喋らなくなっていた私の口から、自然とナイスネイチャの口調がこぼれた。

 

 

「ほら、沖野さんもこんな所に居ないでさっさと戻った方がいいんじゃない?まだ体験入部やってるんでしょ?」

 

 

私がそう沖野さんに言っても、苦笑するだけで出ていこうとはしなかった。

 

 

「まったく…………ネイチャが居ないんじゃ、あそこに居ても意味はねーよ。」

 

 

頭を搔いて、深く煙草の煙を吸いながら沖野さんは口を開いた。

 

 

「俺はちゃんとネイチャを見てやれて無かった。お前は頭が良くて自分で自分を効率良くトレーニング出来る。年不相応な落ち着きを持っていて、まるで同年代のトレーナーと喋っているような気分になっちまった。

だから初めてお前の走りを見た時、自分の目が信じられなかった。あの中には既に本格化が始まったウマ娘も居たにも関わらずネイチャは勝っちまった。確かに俺は勝ってこいとは言ったが、どっちかって言うとネイチャを安心させる為のパフォーマンスとしか思って無かった。」

 

 

「まぁ、それが普通だよねぇ」

 

 

「だが、俺は結果にしか目を向けれなかった。ネイチャが一生懸命走る姿を見ていたはずなのに、勝っちまった結果を見て言葉を失っちまった。」

 

 

ゆっくりとアロマシガーを吸いながら、私は沖野さんの独白とも言うべき言葉に耳を傾けた。

 

 

「結果だけが頭を支配して。帰って来たネイチャになんて声かけて良いか分からなかった。自覚してたかネイチャ?お前、練習場から離れる時までずっと悲しそうな、寂しそうな顔をしてたんだぞ?

そんなネイチャを見て頭を殴られた感覚になった。どんなに雰囲気が大人びていてもやっぱりまだ中学生、子供なんだって…………」

 

 

「当たり前じゃないですか、沖野さんとは今日会ったばかりなんですけど?」

 

 

「そうだ、今日会ったばかりなのにスカウト出来た事に浮かれてネイチャとちゃんと正面から向き合って無かった。ネイチャ、頑張ったのに誰にも褒めてもらえないなんて辛かったよな…………

すまなかった。俺はトレーナー失格だ。」

 

 

悔しそうに呟く沖野さんに、私は何も言えない。ただ静かに、沖野さんの言いたい様に言葉を遮らないように言葉を待った。

 

 

「だからネイチャ…………いやナイスネイチャ。改めてお前の事をスカウトさせてくれ。チャンスを俺にくれ。トレーナーになりたいナイスネイチャでも無く、レースで勝つ強いナイスネイチャでも無い。ただのナイスネイチャを俺に支えさせてくれ。

…………頼む。来年チームスピカに入ってくれ。」

 

 

そう言って、いきなり私に頭を下げる沖野さん。人によっては告白にも取れそうな勢いに私はさっきまでの辛さは何処へやら、内心嬉しさでいっぱいだった。

自分で中身中年とか言って来たけども、やっぱり少し肉体に精神が引っ張られてる。だって、誰かに褒められるって…………頼られるって凄く嬉しく感じるのだ。前世じゃありえない感情だったのにだ。

 

 

「沖野さん、私って殆どレース走ったこと無いよ?」

 

 

「これから一杯走る機会がある。」

 

 

「トレーナーの勉強の為にあんまり練習しないかも?」

 

 

「だったら2人で効率の良いトレーニングを模索すればいい。」

 

 

「私ってめんどくさいかもよ?」

 

 

「それだってネイチャ、お前の良さだ。」

 

 

まるでアプリ版のトレーナーみたいな事を言ってくる沖野さん。どんだけ必死なんだって思ってしまうけど、別にスピカに入るのを止めるとは一言も言ってないのにね。

 

 

「沖野さん…………来年ね、良いよ。というか別に入るのを止めるとか私一言も言ってないじゃん。」

 

 

「これはトレーナーとしてのケジメだ。ネイチャには我慢してまでスピカに入ってほしくない。それはお互いの為にも、ネイチャの夢の為にもきっとマイナスになってしまうはずだ。」

 

 

『トレーナーとしてのケジメ』ね…………おハナさんと同じ言葉を言う沖野さんに思わず私は笑ってしまう。どれだけ2人共ウマ娘が大好きで大切なのかその言葉が良く表してくれていたから。

 

 

「それじゃ沖野さん。流石に体験入部にはもう遅いし、もう一本だけお付き合いお願いしても?」

 

 

私は笑って新しいアロマシガーとジッポライターを出しながら沖野さんにそう聞いた。

 

 

「勿論。」

 

 

沖野さんも笑って、新しい煙草を胸ポケットから取り出した。

 

2人でそれぞれアロマシガーと煙草を咥えて、私はジッポの火を起こした。2人で同時に1個のジッポから火をつける。これ、昔映画かなんかで見てやってみたかったんだよね。

カチャンとジッポの蓋を閉じて、深く息を吸う。先ほどまで感じなかったアロマシガーの甘い香りが鼻をくすぐっていく。

 

 

「これからよろしく沖野さん。」

 

 

「あぁ、これからよろしくナイスネイチャ。」

 

 

そう言って、2人で笑いあって2人同時に白い息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シガーネイチャのジュニア期以降の進路

  • ルドルフ先輩に続け無敗三冠
  • いやいや、トリプルティアラこそ至高
  • もっと上を目指そう海外クラシック挑戦
  • 良いパワーしてるね?国内外ダート挑戦
  • その他
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