難産オブ難産。
レース描写が難しい、もっと上手くなりたい私です。
「…………どうしてこうなった。」
誰に聞こえるともなくそう呟いた私の言葉に、入道雲を携えた青空は私に何も返す事も無い。
ご丁寧にゲートまで準備してのルドルフ先輩とのガチレースに私は何度目とも分からない溜息が出た。別に走ることが嫌なわけじゃない。普段からトレーニングで走っているし、なんなら走らないトレーニングがちょっと消化不良気味になる位には好きだと言えるが。
ルドルフ先輩と走るのも問題ない。何時か一緒に並走トレーニングとかしたいなぁって考えてたし、何ならこちらからどうやって誘うか悩んでいただけに今回は渡りに船って感じ。
(けど、なんかレースって気分乗らないなぁ)
そう、レースだ。なんでレース、しかもルドルフ先輩はやる気満々のガチレースを私なんかがやらなきゃならないんだ。もっと本気でやる相手が居ると思うんだけど。
重い足取りでターフを軽く蹴る。蹄鉄シューズが芝の上を滑り、綺麗に切り揃えられた芝の数本が千切れ倒れる。
アップはもう済ませてある。何時でも私は走り出せるが、やはり気分は乗らない。なんでだろう?このモヤモヤとした感情の根幹が私自身にも分からなかった。
ゲートの準備が済んだ様で、マルゼンスキーさんがルドルフ先輩をカツラギエースさんが私を呼んでいる。ゆっくりと、私はカツラギエースさんの方へと歩いて行った。
「ネイチャさん、アップはもう大丈夫ですか?まだでしたら私達は大丈夫ですから怪我をしない様に入念にして下さいね?」
「アップは大丈夫です。私は何時でも行けます。」
後輩相手でも敬語を使い雰囲気も常にポヤポヤとした感じのカツラギエースさんに私はそう答えた。あれだ、メジロブライトに似てるんだこの人。まぁ生前の私は持って無かったけどね。
ちらりと横目でルドルフ先輩を見れば、やる気は絶好調といった様子でキラキラしている。対して私は不調では無いけど…………さりとて好調でも無い。いたって普通?なのかな。
(まぁ、やるからには全力で行きますよっと。)
悶々とした感情を封じ込め、私は目の前のレースに集中する。枠順は私のお願いもありルドルフ先輩が内側で私が外。距離は1600mの右周り。
2人だけじゃ、バ群なんて関係無いから結局外の方がロスが大きいんだけど、慣れた枠の方が私はやりやすい。既にルドルフ先輩はゲートインしているので、私も特に嫌がる事も無くスーっとゲートイン。
外ラチへと離れていくマルゼンスキーさんとカツラギエースさんを見ながら、私は意識を集中させる。いつも通りやればいい。そう自分自身に叱咤激励して。
ピリつく感覚が横から感じる。枠順は幾つか開いているはずなのにここまでルドルフ先輩の存在感が伝わって来るのだ。
レース前だというのに嫌な汗が私の頬を流れる。
大きく深呼吸をして、私は気分を落ち着かせる。大丈夫、ルドルフ先輩は基本的に素の状態だと先行策だったはず。ピッタリついて最後に抜かせばいい。
走る体勢に移り、何時でもスタート出来る状態に入る。
ガコンッ!
勢いよく開いたゲートを私はいつも通り集中していた為に出遅れなく走り出す。
(よし!)
ひとまず出遅れは避けれた。私が狙うポジションはルドルフ先輩の直ぐ後ろ、出来れば外側がいい。そう思っていた。
私の前に
それと同時に感じる背中からの威圧感。背中から汗が一気に噴き出し、体操着が張り付いていく。
風に抗う様に後ろを微かに振り向けば、半バ身ほど後ろにピッタリとルドルフ先輩が私をマークしている。
(なんでルドルフ先輩が私をマークしてるんだよ!)
乱れる思考。初めてのマークされるという感覚に私は言いようの無いキツさを感じる。
ストライドをスタートから巡航ストライドへと変えながら、私はこの威圧感に耐える様に前だけを見つめる。変に後ろに気を向け過ぎればそれこそルドルフ先輩の思う壺。例え初めてのマークされる立場だとしても、私のやることは変わらない。
何とか乱れる呼吸を正そうとする。体が私の物じゃないみたいに言う事を聞かない。頭では理解していても、体が逃げろ捕まるな喰われるぞと警鐘を鳴らし、ストライドを乱しにかかる。まだ1コーナーにも差し掛かっていないのに私の呼吸はレース後半の様に乱雑だ。
コースの内側、内ラチギリギリを走りながら私は何とかこの状況を打破したいと必死に考える。ルドルフ先輩の威圧感は消えない。それどころか距離を走るにつれ次第に強まっていく気すらしてくる。
こうなってしまえば外から内ラチへと走った私の方がスタミナが不利、普段バ群回避の為に外側を走っていたから気づかなかったけど、想定していたより外から内はスタミナを消費してしまう。ただトレーニングで走っているだけじゃ分からない、レースとしての消耗の速さ。
漸く第1コーナーに差し掛かり、私はストライドをまた変える。歩幅を減らしピッチを上げて接地回数を増やしてコーナリングをスムーズに、遠心力に耐える脚の負担を減らす走り方。
(これなら少しは膨らんでくれるでしょ!)
体を内ラチギリギリまで傾けながら、私はカーブで少し見易くなった後方へと視界を移す。少しコーナーで膨らんでくれれば走る距離が多くなって私との差が多少なりとも広がってくれていればいいが。
そう思ってはいたが、ルドルフ先輩はピッタリと私の後ろを走っている。距離も離れるどころか始まりと変わらずピッタリと半バ身を維持しながら…………
(すまないが…………私もコーナーには自信があるのだ。)
(そういえば貴女
私の視線に気づいたルドルフ先輩は、そう言いたげにニヤリと笑った。私は内心思わず悪態をつく。コーナーで離せないのであれば、私が取れるのは最後の直線勝負。つまり末脚勝負しかない。
なんとか落ち着いた呼吸を荒げない様に意識しながら、私とルドルフ先輩は第2コーナーを曲がって向こう正面の直線へと入る。ここの練習場は丁度一周1600mなので、今までトレーニングで走った練習場のコースより直線が短い。
直ぐにやって来る第3コーナーを意識しながらも、私は再び巡航ストライドへと脚を変える。
雨が続いていた為中々ストライド変更の練習が出来ず、少し心配していたが今の所は問題無し。さりとて完全にスムーズに変更出来ているかと言われればそうでも無い。今の私のストライドは体感的に言ってしまえば車のクラッチの切り替えと同じ。
変更するタイミングでホンの少しだけでも速度が落ちてしまうし、脚のタイミングを意識して行わないと体のバランスが崩れてエンストよろしく失速してしまう。
私が目指すのは車のクラッチでは無く新幹線の電動モーター。意思という電力によって自由に速度やストライド、ピッチを変更出来る無段変速機が目指すべき理想。
芝を踏みしめ、歩幅を広げストライドの間隔を伸ばす。ピッチは下げてスタミナの消費を抑え、呼吸を変える。
(最後の仕掛け処まで無駄なスタミナ消費は抑える!)
ルドルフ先輩から感じる威圧感はスタートよりも2倍近く強く感じる。これがルドルフ先輩が高ぶって強くなっているのであればまだ良いが(それでも良くは無いが)距離が近づいて強く感じるのであればかなり悪い。
スパート前に抜かれては末脚で抜かす前にゴールされる気がしてならないのだ。なおかつ抜かれない様にコース取りされればなお悪い。
何とか私が先行状態のまま短い直線が終わり第3コーナーへ。スタミナの消費で荒くなっていく呼吸と酸素不足で纏まり辛い思考。それでもなお上手くストライドの変更が出来たのは私の日頃のトレーニングのお陰なのかはたまたウマ娘の本能故か…………
再び内ラチギリギリまで体を傾け、遠心力を強引に振り切る。最初より強く感じる脚への負担を強引に無視して、私はルドルフ先輩の位置を確認した。
(よし、
最初と変わらない距離で私と同じく内ラチギリギリを走っているルドルフ先輩に少しだけ安堵して、私は再び意識をレースへと戻す。決めるのは第4コーナーから直線へと入る前。短い直線では十分な速度が出ないから少し前目でストライドを変えて加速させる。
そう決めた私は何時もよりピッチを抑えめにする。最後の末脚に存分にスタミナを使う為に、何時もよりスタミナ消費を抑えたかった。
ターフを抉る回数が少しだけ減る。その分僅かにコース取りがブレてしまうのを避ける為一歩一歩の踏み込みに力を入れて無理やりコースを維持する。
第3コーナーを抜けて第4コーナーへ。まだだ、まだ仕掛けるには早すぎる。焦れる心を何とか押さえつけ、私は最後の仕掛け処に意識を向ける。一歩一歩の歩幅を更に調整し、最適なタイミングで最高の踏み込みが出来るようにする。
(あと20m…………10m…………5m…………今!)
今までよりも強く、芝が千切れ、ターフに深く食い込むほど脚に力を乗せる。温存したスタミナの消費を考えず、ひたすら最高速を目指す走り。それの為に意識を脚に向けた瞬間、フッと後ろから感じて来た圧倒的威圧感が消えた。
(なっ!?)
一瞬で消えたルドルフ先輩の気配。今まで感じていた威圧感が消えた事で、私は戸惑って一瞬の仕掛け処で踏み込むことが出来なかった。少しだけバランスを崩す体を無理やり元に戻し、逃した仕掛け処を悔やみながら再度スパートをかけようと踏み込んだところで、再び威圧感が私を襲う。
それも真横から
「な!?」
その気配は間違いなくルドルフ先輩のそれ。思わずそちらを見た私の前を、風が通り過ぎた。
風にたなびく鹿毛と白い流星が私の横を通り過ぎ、一気に先頭へと躍り出たのだ。たった半バ身とはいえ、私が取り乱した僅か一瞬で此処まで加速したのか。既にルドルフ先輩との差は1バ身を超えて3バ身近く開いていた。
余りに一瞬の出来事で呆然としそうになる頭を風の抵抗を考えず無理やり横へと振って、私は末脚を爆発させる。
「負けるかぁぁぁぁ!!!」
無意識に飛び出た私の声。それすら意識する事は無く私はルドルフ先輩に追いすがる。なんで相手がルドルフ先輩だとか、なんで私が走ってるんだとか…………
最初に感じた感情とか最早頭に無く、私はひたすら足を前に出す。地面が陥没すると感じるほど深くターフを抉り、広いストライドで一気に加速する。少しでも風の抵抗を弱める為にバランスを崩すギリギリまで上半身を前傾させ、それでも目だけはルドルフ先輩を捉え続ける。
ゴールまであと僅か。それでも諦めず追いかける。少しづつ少しずつ縮まる距離。3バ身から2と1/2バ身へと。そして2と1/2バ身から2バ身へと縮む
「「勝つのは私だぁぁぁぁ!!!!」」
シンクロする私とルドルフ先輩の叫び声。脚が重い。だから何だ、前へと走れ!
ルドルフ先輩と私の蹴り飛ばした芝が宙を舞う。しかしそれすらも今の私には邪魔でしかない。
(追いつきたい!追い抜きたい!)
けれども、どんなに私が死力を尽くそうともやはり短い直線ではこれ以上ルドルフ先輩を捉える事は出来ず、ルドルフ先輩は先にゴール板を走り抜けた。
結果は1と3/4バ身。最後の直線でルドルフ先輩相手に半分近く追いつけた事に喜べばいいのか、はたまた些細な事に気を散らせて仕掛け処を失った私自身を情けなく思えば良いのか…………
ただ…………走り抜けたルドルフ先輩がこちらを振り向いて展示レースより前と同じ、汗だくだくになりながらも優しい笑みを受かベているのが見えた。
(あぁ…………悔しいなぁ…………勝ちたかったなぁ…………)
走り終わって、私はターフに倒れながらそう呟いた。
何時も感想有り難うございます。返信を返せていませんが必ず見ており、何なら寝る前とかベットで眺めて1人にやにやシテマス。
…………気持ち悪いですねすみません
今後もシガーネイチャをよろしくお願いします。
シガーネイチャのジュニア期以降の進路
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ルドルフ先輩に続け無敗三冠
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いやいや、トリプルティアラこそ至高
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もっと上を目指そう海外クラシック挑戦
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良いパワーしてるね?国内外ダート挑戦
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その他