遅くなってしまい申し訳ありません。
全てはリアルの事情とスランプ、そしてウマーマンが悪いです。
だから私は悪くない(違う
『事実は小説よりも奇なり』
そんなことわざが日本にはあるけれど、私が直面しているこの問題はまさにそれ。
南坂さんとの勉強会が終わって帰ってる途中、私は近道の為に校舎の中を通って行こうとした。校舎の玄関?で良いのかな?入ってすぐの所に二階に上がる階段があるんだけど、その階段の前を通って反対側の玄関へと行こうとした時にふと気配を感じたんだ。
なんだろうと思って階段の方を見たら分厚い本が階段の上から私に向かって勢いよく飛んできていた。
(あ、これぶつかるわ…………)
頭では状況を理解しても体が動かないって瞬間あると思うが今の私が正にそれの状態。避けなきゃって頭では考えれても体が動かない。
『空から女の子が降ってくると思うか?』そんなセリフで始まるライトノベルが前世であったけども、まさか上から本が降って来るとは思わなかった。
「プギャ‼!」
広辞苑並みの分厚さの本が私の頭部を直撃し、私は大きく仰け反ってしまった。グワングワンと揺れる視界と意識。バランスを取ることもままならず、私は盛大に尻もちをついてしまった。
尻もちをついた後に一拍置いてやってくる頭部とおしりの痛み。おしりは大丈夫だけど頭がかなり痛い。思わず蹲って女の子が出しては行けない声で唸る位には痛い。
幸い直ぐに意識ははっきりしてきたし、ペタペタと頭部を触診しても出血等は無い。脳震盪が起きている事も無さそうだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
未だに少し視界は揺れている中で、階段の上からそんな慌てた声と共にバタバタと慌てて階段を下りてくる音が聞こえて来た。
「大丈夫ですか!こういう時はまず意識の確認でしょうか!?いやでも意識はあるしえっとえっと!?」
(負傷者がいたらまず二次災害を考えて周囲の安全確認だよ)
だいぶテンパった様子で私の前に来たウマ娘に私はついそう内心突っ込んでしまった。いやこの場合だと二次災害とか関係ないんだけどね?
元通りになった視界で件のウマ娘を見た。流星の無い黒鹿毛の髪をボブカットにして、蒼い瞳を不安げに揺らしている。
「大丈夫だから、心配しないでいいよ。」
「しかし、やはり一度病院に行くべきだと思います!」
ゆっくりと立ち上がりながら私がそう言っても、彼女は慌てた表情を和らげることは無い。まぁ言ってることは正論だけども。
「私の知り合いにそういうのに詳しい人が居るから、その人に一度見てもらってから行くよ。」
「では私も同行します!」
私の責任ですから!と言いながら私に付き添おうとする彼女は、私の頭にぶつかり床に落ちていた本を手に取った。本の題名は『世界お菓子大全決定版(レシピ付き)』うん、そりゃ分厚い訳だ。
「取りあえず、付いてくるのは良いけど自己紹介だけでもしませんか?私はナイスネイチャっていいます。中等部1年です。」
「私はエイシンフラッシュと申します。ドイツからの留学生ですが、ナイスネイチャさんと同じ1年生ですので敬語は不要ですよ。」
…………うん、何となくそんな気はしてた。
アプリよりも少し幼いけれどどことなくアプリ版の雰囲気があるし、何よりも紺と白のリボンが付いた白いシュシュ型の耳飾りを右耳につけてるからね。
それにしても、エイシンフラッシュの生真面目な性格は中等部でも変わらないようだ。まぁ、性格なんて早々違うなんて事は無いか…………
少しだけ落ち着いたのか、先ほどよりも冷静になったエイシンフラッシュに私は付き添われながら、元来た道を戻る羽目になった。
帰省しない生徒が自主トレーニングに励む練習場の横を抜け、ピッタリと私の横について気遣うエイシンフラッシュに少し居心地の悪さを感じる。
遠くに見える入道雲を眺めながら、南坂さんになんて説明すればいいか私は頭を悩ませた。
「…………なるほど、事の経緯は良く分かりました。」
「私の不注意で本当に申し訳ありません。」
「大丈夫ですよエイシンフラッシュさん。今日は私も急ぎの要件はありませんので、トレセン学園付属病院まで付き添います。」
チームカノープスの部室に戻って来た私に驚いた南坂さんだったけど、私に付いて来たエイシンフラッシュが事の経緯を簡潔に説明してくれたおかげですんなりと理解して貰う事が出来た。こういう時エイシンフラッシュの真面目というか冷静?な性格は凄く助かる。
私?私は先ほどまで座っていた椅子に着いてそうそうエイシンフラッシュに座らされて絶賛安静状態です…………はい。
「ごめんね南坂さん。迷惑かけちゃってさ。」
「ネイチャさんは今は私の教え子でもありますからね。これ位どうってことありません。それより大丈夫ですか?」
「うん、触った感じ皮下出血もしてないし、脳関係は流石に分からないけど外傷は無いよ?」
そう答えた私に一応確認しますねと言って南坂さんも私の頭を触診してくれた。南坂さんもなるべく優しく触ってくれているのだが、正直かなりくすぐったい。
1分か2分か。くすぐったくて身じろぎしそうになるのを耐えていると、触診が終わったのか南坂さんは私の頭から手を離した。
「確かに確認した限りでは異常は無さそうですが、念のためMRIで脳の検査もしておきましょう。」
「はーい。」
南坂さんの言葉に気の抜けた返事をした私は、そのまま机へと倒れこんだ。
心配そうに私を見てくるエイシンフラッシュに大丈夫大丈夫と手を振りつつ笑顔で返した。
「それにしても、エイシンフラッシュさんはお菓子作りが好きなんですか?」
「はい、父がパティシエでして…………小さい頃から好きなんです。」
「だったら案外ネイチャさんと話が合うかもしれませんね。ネイチャさんもお菓子作りが趣味ですから。」
出発する準備をしながら、南坂さんはエイシンフラッシュにそう話しかけた。どうやら、エイシンフラッシュがそのまま持ってきていた本のタイトルを見ていたらしい。
「そうなんですか!?意外です。」
エイシンフラッシュはエイシンフラッシュで、目を真ん丸に開いて驚きの表情で私を見て来た。正直心外である…………君の中で私は一体どんなウマ娘なんだ?
「と言っても何時も簡単な物しか作ってないけどね」
「いえいえ、ネイチャさんの作ったクッキーとても美味しかったですよ?」
「はいはい、お世辞でも嬉しいですよ~」
そう言いながら、私は南坂さんにも手をひらひらと振り返した。
私の返答に対して苦笑する南坂さんを眺めながら、私はエイシンフラッシュに向き直った。
「良かったら今度食べてみる?」
「良いんですか!」
やや食い気味に返答するエイシンフラッシュ。私は彼女も甘い物が好きなんだなぁと思ったのだが、どうやら違うらしい。
「私、周りにお菓子作りが好きな娘が居なくて。同じ趣味の人が居てくれて嬉しいです!」
「そ、そうなんだ。」
そのままどんなお菓子が好きなのか。カロリーが少ないお菓子やトレーニングに負担のかからないお菓子は何なのか…………そのまま喋り始めるエイシンフラッシュに私は軽く相槌を打ちながら、アプリでは見られないエイシンフラッシュの知らない素顔に頬を緩ませる。
年相応の明るい表情で喋る彼女は、アプリの中のスケジュール管理を徹底しているイメージが強かった私(生前エイシンフラッシュをお迎えすることは無かったが)にとって良い意味で裏切られた感じだった。
「それにしても、ナイスネイチャさんって周りの方が言っていた印象とは全然違っているんですね。」
「どんな事言われてるのかひじょーに気になるけども、私は何時もこんなもんだよ?」
「何というか、凄く話しかけ辛い印象だったので。」
そう言ったエイシンフラッシュだったが、その雰囲気は明るい。仲良くなれてなによりである。
「さて、準備が終わりましたので行きましょうか。」
準備が終わったらしい南坂さんが私達にそう話しかけた。楽しいお喋りの時間は終わり。流石にこれ以上エイシンフラッシュに迷惑をかける訳にも行かないので彼女とはここまでだ。
「それじゃ、エイシンフラッシュさんもここまで有り難う。後は何とかなるからまた今度お菓子についてお喋りでもしよっか。」
「そうですか…………流石に病院まで付き添うのはあれですし、心配ですが仕方ありませんね。」
(可愛い。)
少し寂しそうにするエイシンフラッシュに私はついそう思ってしまった。
「大丈夫だって。また明日でも明後日でも、何時でも会えるんだからさ。何なら連絡先でも交換しとく?」
「!?良いんですか?」
「いいよ?」
「有り難うございます!」
お互いウマホを取り出して連絡先を交換する。新しい友人が出来て友達が少ない私はとても嬉しい。
お互いホクホク顔で交換して、私達は南坂さんに連れられて部室から外へと出た。
「それじゃフラッシュ、また今度ね。」
「はい。ネイチャさんも、怪我がない事を祈ってます。」
友人になって、どっちからという訳でも無く名前の呼び方をお互い縮めて呼び始めた。
「それじゃ、行きましょうか?」
「そうだね。」
フラッシュと別れ、私は南坂さんの車で病院へと向かっていった。
後日談という訳では無いが、病院の精密検査でも幸いな事に特に怪我などは見つからなかった。
お医者さん曰く、本が当たった角度が良かったのと私が簡単に仰け反ってしまったことで衝撃が緩和されていたと思われる…………との事。
怪我が無かったのは良いが、翌日南坂さんから連絡を受けたらしい沖野さんのテンパり具合はとても大変だった。数十分問題無いと説明して漸く沖野さんに納得して貰えた。
フラッシュにも同様にウマホにて報告して、お互い良かったねと電話で笑い合った。
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