難産of難産
シガーネイチャがシンボリ家に行く話を書こうとしたらなんかドンドン初期の妄想とはかけ離れた物になってしまって後半スランプになりました。おかしいなぁ……
本当に申し訳ない(博士感
「私の家に遊びに来ないか?」
そう、ルドルフ先輩から誘われたのは例の本脳天直撃事件から1週間たった木曜日の夜のこと。
型落ち3年物の、それでも初めて母から貰ったお気に入りのやや古い私のウマホを通して、近況報告を兼ねた雑談電話でそう言って来たルドルフ先輩のその誘いに、私は2つ返事で了承をした。
日帰りかどうか尋ねた所どうやら週末泊まり込みで遊びに誘ったらしく、私は明日の夕方までに外泊許可証と簡単な荷造りをしないとなぁ~と少しだけ嬉しい悲鳴を漏らしたのを憶えてる。
行きと送りはルドルフ先輩側でやって下さるらしいので、私は待ち合わせの校門前に手荷物片手に待っているだけで良いとの事だった。
(旅費が浮いてラッキー)
そう思った庶民思考丸出しのあの時の私を思いっきり殴ってやりたい。それも渾身のボディーブローからのアッパーカットコンボで…………
待ち合わせ時間の5分前に校門に到着した私の前に止まったのは車体は胴長のスラリとした黒塗りで、窓は全て薄灰色のスモークガラスで覆われた1台の高級車。うん、どう見てもザ・リムジンだ。
こんな高級車で学校まで送り迎えして貰うお嬢様なんているんだ~と、その時は私無関係ですよと少し校門の塀に身を引いてリムジンが離れるのを待っていた訳だけど、待てども待てども人1人降りる様子も無ければ乗る雰囲気すら無い。
そして約束の時間を過ぎてもリムジンは動く気配は無いし、ルドルフ先輩のお迎えが来る気配も無い。
どうしたものかと困り果てていた時、唐突にリムジンの後部座席のドアが開いた。出てきたのは真っ白なシンプルなワンピースを着たウマ娘。その娘がリムジンから降りてきて、まっすぐ私の方へと歩いて来たのだ。
「何故呆けているんだネイチャ?」
私の目の前に来て立ち止まったウマ娘は少し怪訝な顔付きで、物凄く聞き覚えのある声でそう話しかけた。
まって…………もしかしてルドルフ先輩?
思わずは?って思ってしまった私は悪くないと思う。真っ白なワンピースを着ていたのはまさかまさかのルドルフ先輩。普段と違って髪をポニーテール(馬が居ないのにポニーテール表現は正しいのか分からないが)に結っているし、雰囲気も少しだけ違っている。
それに、まさかリムジンから降りて来た人が待ち人だと思っていなかった私にはちらっと見ただけでルドルフ先輩だとは気づけなかった。
「えっと…………雰囲気が何時もと違いますね?」
「あぁこれか?私はもう少し落ち着いた雰囲気の服が好きなのだが母がこういうのが好きな人なんだ。何時も何時ももう少しおしゃれしなさいとうるさくてな…………」
「さ、さいですか…………」
うんざりそうに私の問に答えるルドルフ先輩。なんというか…………あぁ、そういえばお嬢様だったなぁって感想しか出ない。
「良く似合ってます。普段とはまた違ったルドルフ先輩が見れて良かったです。」
「そ、そうか?」
思わず言ってしまった私の感想に、ルドルフ先輩はまんざらでもなさそうにそう言った。顔は平然としていて隠してるつもりだろうけど、残念ながら私の位置からルドルフ先輩の尻尾が嬉しそうに少し揺れているのが丸見えである。可愛い。
「えっと、まさか
私はルドルフ先輩にリムジンを指さしながら質問した。いつの間にか執事服を着た老齢の男性が助手席付近で立っており、私とルドルフ先輩の方を見て微笑ましそうにしている。
「なんだ、乗るのは初めてなのか?なに普通の車と大して変わらないさ。」
「噓でしょ…………」
思わず私はそう呟いてしまった。リムジンと普通の乗用車が変わらないってどんな価値観なのさ…………シンボリ家って凄い。
「そうだ、ネイチャに紹介しておこう。じぃ!ちょっと来てくれ。」
ルドルフ先輩はリムジンの近くで立っていた執事服の男性を呼んだ。ルドルフ先輩の呼びかけに答える様にゆっくりとこちらにやって来る執事さんに、私は軽いお辞儀をした。
「紹介しよう、家で執事長をしているじぃだ。ネイチャも何か用があったら彼に頼んでくれ。」
「お初にお目にかかりますナイスネイチャ様。シンボリ家で執事をしていますセバスチャンと申します。今後とも、ルドルフお嬢様の事をよろしくお願いします。」
そう言って綺麗なお辞儀をする執事さんに、私は思わず二度目の「噓でしょ」が口から飛び出してきた。
まぁ、服装から執事さんなのは何となく判ってたし、シンボリ家なら居てもおかしくないよなぁとは思ってたけど流石に執事長はビックリした。だって実質的な執事や家政婦(メイド?)のトップだよ?
あと名前。なんでセバスチャンなんですか?絶対偽名ですよね!
そう突っ込みたい。突っ込みたいけど我慢。ほら、セバスさんうっすら笑ってるもん!絶対確信犯だってこれ!
「ルドルフお嬢様。忘れ物があるのではなかったのですか?早く取りに行きませんと。」
「そうだった!ネイチャは先に車に乗っておいてくれ!私は急いで忘れ物を取って来る。」
そう言って慌てて走り出すルドルフ先輩。小さくなる背中を私はただ見つめるしか無かった。…………え、どうしろと?
「では、ナイスネイチャ様。お嬢様が戻るまでお車でお待ちください。」
そう言いながら、リムジンに戻りながら後部座席のドアを開けるセバスさん。私は物凄く気まずかったけど、ドアを開けっぱなしにさせたままなのもセバスさんにも悪いので慌てて開けて貰ったドアをくぐって車の中へと乗車した。
乗車して、私はすぐさまシートベルトをしめた。幸い荷物はボストンバッグ一個だったので脚の上で抱える事が出来たので特に車内を占有する事も無い。まぁ車内の広いリムジンだから別に問題無いんだけど、やっぱりちょっと遠慮しちゃうよね?
セバスさんは私が乗り込んだのを確認すると後部座席のドアを閉めて運転席へと乗り込んだ。どうやらセバスさんがリムジンを運転していたらしい。
「車内の室温は大丈夫でしょうか?」
セバスさんはシートベルトをしめた後、私へと振り返ってそう聞いて来た。
「はい、大丈夫です。」
外は真夏とあって蒸し暑かったけど、リムジンの車内はクーラーが効いてとても過ごしやすい。私の額に浮かんでいた汗が引いていく感覚を感じながら、私はセバスさんの質問に答えた。
「それは良かった。何かありましたらお気軽にご相談下さい。」
にこやかに答えるセバスさん。見た目60~70歳位なのにその雰囲気は凄く若々しかった。
取りあえず軽くセバスさんにお辞儀をして答えて、私はスモークガラス越しに外の景色を見る。セバスさんの雰囲気のお陰で少しは気が楽になったけど、それでもやはり居心地の悪さを感じるのを止められなかった。
夕焼け色に染まった街並みと楽し気に笑うトレセン生のウマ娘の声が、リムジン越しに私の目と耳を刺激する。
現実逃避と言ったらそれまでだけど、この気まずい雰囲気から意識を逸らしたかったっていう無意識での行動だったのかもしれない。
「ナイスネイチャ様には感謝しております。」
唐突に、セバスさんが私に対して話しかけて来た。ずっと外を見ていた私は窓の外から意識を車内に戻したけれども、私の頭にはどういう事なのだろうかと『?』が浮かんでいた。
「ルドルフお嬢様の事でございます。」
疑問符が浮かんでいた私を見てそう補足したセバスさんだけど、どういう事なのか生憎と私には良く分からなかった。
「ルドルフお嬢様は昔から旦那様や奥様から期待されていた為か、小学校高学年辺りからあまり我が儘を言われなくなりました。まるで自分の感情を抑えているようにも私には見えたのです。」
前を向いたまま、ポツポツと語りだすセバスさん。
「笑う事も滅多に無くなりました。学校にも行かなくなり、ルドルフお嬢様が毎日庭の練習用ターフで走っては夜遅くまで勉強に打ち込む姿はとても子供とは思えないほどストイックな物でした。」
私はセバスさんの言葉に口をはさむことは出来ないでいた。言葉の節々に何処か後悔の様な、懴悔の様なそんな感情が感じられたから。
「実はセバスチャンと言う名前も昔ルドルフお嬢様が好きだった絵本に出て来た執事のキャラクターから取ったのですよ?旦那様にお願いしてコネを使わせて改名しました。
まだ小さかったルドルフお嬢様が『セバス!セバス!私今日も頑張ったよ!』…………そう言って笑っていたルドルフお嬢様が私の何より癒しでした。」
偽名じゃないんかい…………そう思った私だけど、セバスさんの改名した理由がクッソほど重い。ルドルフ先輩が喜んでくれるからコネを使って改名したとかセバスさんのシンボリ家に、というかルドルフ先輩に対する愛が重くて凄く突っ込み辛い。
「しかし今回、ルドルフお嬢様が帰省された際には旦那様や奥様を初め使用人一同の前でも心から笑われるようになり、年齢さながらの言動もされる様になっていました。」
先ほどまでの雰囲気とは一転、嬉しそうな雰囲気を口調から感じられる喋り方で言うセバスさん。
「奥様がお話を伺った所、凄く楽し気にナイスネイチャ様のお名前を出されておりました。あの様な姿は本当に久しぶりで………不覚にも私は涙が出るほどでした。」
目頭を押さえながら、そう言葉をつづるセバスさんに私は物凄く居心地が悪い。いやだって私全然大したことしていないし、それに対してここまで言われると正直そうなるのも仕方ないと思う。
「シンボリ家一同にとって、ルドルフお嬢様が再び明るくなられたのはナイスネイチャ様のお陰なのです。ですからこうして感謝の言葉をお伝えしているのです。」
「えっと…………私は別に大したことはしていませんし。」
「それでは、これは老いぼれじぃの独り言で構いません。有り難うございます。」
ぬぅ…………むず痒いったらありゃしない。正直早くルドルフ先輩に戻って来て欲しい。
「これはルドルフお嬢様も知りませんが、旦那様も奥様もナイスネイチャ様には感謝しております。ですので、本日の送迎も専属の運転手では無く私が行って粗相の無いようにと旦那様から仰せつかっております。それほどまでにナイスネイチャ様には感謝されておられるのです。」
バックミラー越しに映るセバスさんのにこやかな顔。その顔からその言葉が皮肉でも何でもない純然な感謝の感情が感じられて、私はむず痒さに拍車がかかった。
どうしようか、と頭を抱えずにはいられない。感謝されるのは嬉しいけど自分では何かたいそうな事をした覚えなんて無いので困ってしまうのだ。
そうしているうちに、セバスさんは唐突にリムジンから降りて行った。
なんだろうと私が外を見れば、丁度ルドルフ先輩が校門を出てきている所だった。どうやらルドルフ先輩に気づいてセバスさんは車外へと出たらしい。
慣れた手つきでセバスさんはルドルフ先輩が乗りやすい様に後部ドアを開け、ルドルフ先輩も慣れた様子でササっと私の隣へと座って来た。何故席はいっぱいあるのに私の隣へと座るのだ…………
「すまない。ネイチャ待たせたかな?」
「いえ、大丈夫ですよ。」
「そうか、それじゃあ我が家へと行こうか。」
「では、出発しますルドルフお嬢様。」
「じぃ、頼む。」
私はルドルフ先輩が来たことでセバスさんの話が終わった事にホッと胸を撫でおろした。
と同時に、これから大丈夫なのかと不安が脳裏をよぎり…………つい溜息を吐いてしまった。だってそうだろう?セバスさんの話ではルドルフ先輩のご両親以外にも使用人すらセバスさんと同じ感じらしいから私の心臓が持つのだろうか心配だ。
運転席に戻ったセバスさんがリムジンを出発させる。
(どうかシンボリ家についても普通でありますように…………)
そう願いながら、走り始めたリムジンの中で私は遠くを流れる街並みを見つめ続けた。
シガーネイチャのジュニア期以降の進路
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いやいや、トリプルティアラこそ至高
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もっと上を目指そう海外クラシック挑戦
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