本編だと思っていた読者様には申し訳ありません。
スランプ気味なので、気分転換も兼ねて番外編を執筆していました。
因みに、作者は本作を執筆する際に本編と今回の番外編の2つの設定を思いついていて、こっちを不採用にしていました。
なので今回は初期設定の供養をかねて短編用に改編しての投稿となります。
深々と小粒の雪が降る年末のとある日、俺は担当の愛バの要望で近くの商店街へと足を進めていた。
ルンルンと
つい先日、年末の中山レース場で行なわれた有マ記念。そこでテイオーはそれまでの多くの困難を乗り越えて、多くの応援と歓声の中で再び1着を取って日本全国へとその雄姿を見せつけた。世間では奇跡の復活『不屈の帝王』だとか色々言われちゃいるが、チーム『スピカ』のトレーナーとしちゃ奇跡でも何でも無い、テイオー自身の諦めない努力の結果だと俺は思っている。
まぁその所為で祝勝会やらなんやらでボーナスを咥えたばっかの俺の財布はペラッペラの革細工となり果てて涙を飲む事になってしまったが、目の前で『ニシシッ!』っと笑顔を浮かべているテイオーを見られたのならそれも仕方ないと思っちまう。
あの笑顔を間近で見られるのは俺達トレーナーの数少ない特権なのだ。
「ねぇねぇトレーナー!今度はあのお店行ってみようよ!」
そんな事を考えていると唐突に、俺の前を歩いていたテイオーがそう話しかけて来た。テイオーが指さしている先に見えるのは商店街の隅に構えている小さな喫茶店…………の様なお店。
様な…………と言ったのはホントに喫茶店なのかパッと見分からなかったからだ。見た目は何というか少し古ぼけていて、人の気配もほとんど感じられない。唯一扉にかかっている『OPEN』の掛札と、掠れて読めそうもない店名の看板だけが辛うじてそこが喫茶店だという事が分かるだけだったからだ。
左腕に身に着けている腕時計を見れば時刻は昼の12時を少し過ぎたくらい。まぁ軽食には丁度いい時間ではあるのだが…………
「おいおいテイオー…………飯を食うにしてももう少しいい所にしようぜ。」
「うぅんトレーナー…………なんかね、あそこに行かなきゃって感じがするの!」
そう言って俺の意見も聞かずに、テイオーは喫茶店に向かって再び歩き出してしまった。ああ言ったらテイオーはテコでも動かないから困ったもんだ。
軽く溜息を吐いてから俺は仕方なくテイオーの後について歩いてく。心なしか、今までよりテイオーのステップも少し楽し気な感じがした。
カランカラン…………とテイオーが扉を開けると同時に、扉に付けられていた小さな鐘が軽やかな音を鳴らす。最近じゃあセンサーで電子音メロディーを奏でたり、そもそも入店時に音が鳴らなかったりするお店が多いからこのアナログな雰囲気に少し懐かしさを感じながら、俺とテイオーは2人で寒さから逃げる様に店内へと入った。
店内は外観と違って綺麗なクラシック調の装いで、立地故か少し狭い店内にはテーブル席は無くカウンター席しか無かった。珍しい内装だったが、存外俺はこういう雰囲気は嫌いでは無かった。
「いらっしゃいませー」
お店の扉が閉まったのと丁度同時に、壁掛けテレビから流れるニュース番組をBGMにしながらそんな声が聞こえた。
視線をカウンターへと向けるとカウンター席の前、丁度店員側の方で座っていたウマ娘…………微妙にサマになっているその姿に既視感があると思ってしまったのは彼女のポーズが某有名アニメ映画スタジオが手掛けた魔女っ子の宅配便アニメのポスターに似ていたからかと1人納得してしまった。
「アッ…………」
小さく聞こえたテイオーの声に、俺はつい隣を見てしまった。
目を開き、口を半開きにした驚き顔で固まっているテイオー。
「おい……大丈夫かテイオー?体調でも悪いのか?」
そうテイオーに喋りかけても聞こえていないのか、テイオーは固まったまま店員らしきウマ娘を見ているだけ。
「…………テイオー?おいテイオー!」
咄嗟にテイオーの肩に手を当てて、軽く揺すった。そこで漸くハッとした表情で戻って来たテイオーは俺の方を見て…………そしてまた店員のウマ娘を見て首を横に振った。
「大丈夫だよトレーナー…………大丈夫。」
「大丈夫って言ったってお前。」
「大丈夫だから。心配しないでトレーナー。」
明らかに大丈夫そうではない様子のテイオーだが、直ぐに何時もの笑顔に戻ってしまった。
その表情には無理をしている様子は見られない。普段隠し事は苦手なテイオーだから、もし嘘をついているのなら直ぐ見抜けるから本当に大丈夫なのだろうとは思うが、不安にはなるがこれ以上テイオーに聞ける雰囲気では無かった。
「えーと………2名様でよろしいですかね?」
そんな考えを胸中で思っている時、不意に店員のウマ娘からそう声がかかった。
俺とテイオーはずっと扉の前で話していたので話しかけるタイミングを失ってしまったらしい。正直申し訳ない事をしてしまったと思い、俺とテイオーの2人だという事を彼女に伝えカウンター席へと案内された。
改めて俺とテイオーにおしぼりとお冷を準備している彼女を見る。年齢はテイオーと同じくらいだろうか?
綺麗に手入れされたやや赤みがかった鹿毛の髪の毛をツインテールに結っていて、前髪には黒鹿毛の流星とは少し違った髪がワンポイントとなっている。
緑と赤のイヤーカバーをアクセントに白いシャツに黒いエプロンという喫茶店の制服も相まって、何処か年齢不相応な……良い意味で大人びた雰囲気を持った少し変わったウマ娘だった。
「ご注文は何になさいますか?」
「俺はコーヒーを頼む。」
「コーヒーですね。砂糖とミルクはどうなさいますか?」
「いやブラックで頼むわ。」
「はい、分かりました。」
そう言って紙の伝票にスラスラと注文を書いて行くウマ娘を横目に、俺はテイオーに注文をどうするか聞こうと横に座ったテイオーの方を見る。
「ボクね、ミルクティーがいい!」
「ミルクティーですね。注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「ああ、テイオーも他に特に無いよな?」
「うん!」
「分かりました。では少しお待ち下さい。」
伝票をエプロンのポケットへと仕舞いつつ、俺達に背を向けて彼女はカチャカチャと注文した飲み物の準備をし始めた。どうやら厨房では無くカウンターの前で作ってくれるらしい。
お湯を沸かし、豆を挽いて、茶葉の準備をする。一つ一つの淀みのない動作から、彼女がこの作業にかなり手慣れていることが分かる。いや、それだけじゃない…………
(このウマ娘…………良い走りをするな。)
俺のトレーナーとしての部分が本能的にそう告げてくる。そこまでトレーニングはしていない様だが、きちんとしたトレーナーの元で適切なトレーニングを積めば、オープン戦なら楽々。
少なくとも重賞に出てもおかしくない位のポテンシャルを持っているのは確実だった。
トモを触って確認してみたい。そう思ってしまったがここは喫茶店。流石に諦めるしかない。
意識を逸らす為にちらりとテイオーを見れば、俺と同じく何かをあのウマ娘から感じ取ったのかじぃっと彼女を見つめ続けている。今までの楽し気な雰囲気は何処へ行ったのか…………何かを思い出すかのように彼女の全身を食い入るように見つめては、何かが引っかかってはいるものの何も思いだせ無いもどかしさを感じているかの様な、そんな複雑な表情をしていた。
「ねぇねぇ!君の名前は何ていうの?」
唐突に、テイオーは彼女にそう話しかけた。さっきまでのテイオーの反応からてっきり俺の知らない知り合いだと思っていたがどうやら違ったらしい。
「エッ……ア、アタシ!?」
唐突なテイオーの問いかけにどうやら作業に集中していたらしい彼女はビクッと肩を跳ねらせながらそう聞き返してきた。
「そうだよ!だってトレセンで君の事を見たこと無いからさ。」
確かに…………トレーナーという職業柄他のトレーナーの担当ウマ娘や有望そうなウマ娘の事は見たり聞いたりするものだが、彼女ほどの素質なら一度は耳に入ったりしてくるはずなのだが俺も聞いたことが無かった。
「いやまぁ…………そりゃ見た事は無いでしょうが。」
テイオーの言葉を聞いてそう漏らした彼女は、疑問顔のテイオーの顔を見て少しだけ笑った。
「因みにボクはトウカイテイオーだよ!」
「それは知ってますよー」
「エェ!?何で!?ボクは君の事知らないのに!」
彼女の返答にビックリした様に声を上げるテイオーに、彼女は『ほら』とテレビに指を指した。
丁度テレビでは先日の有マ記念の特番に切り替わっており、テイオーが他のウマ娘に抱き着かれてターフに倒れこむシーンが映っていた。
「あんだけテレビに出ていれば、走らないアタシだって君の事を知ってるから。」
呆れたようにテイオーにそう返した彼女は再び作業へと戻っていく。ん?いや待て、今なんて言った?
「え!?ちょっと待ってよ走らないってどういう事なの!?」
どうやらテイオーも気づいた様で立ち上がってそう聞き返した。言った張本人は『あ…………』と漏らしてヤッチマッタって顔をしていた。
どうやら話題を逸らそうとしていたらしい。
「取りあえず、もうすぐ出来ますからちょっと待って下さいね。」
そう言って作業に戻った。テイオーは『エェェ』と言いながら席に着くが少し不満そうだ。
⏱
「お待たせしました。ブラックコーヒーとミルクティーです。」
それから数分。時間潰しにとテレビに流れるニュースを見ていた所で、鼻腔を擽る良い匂いと共に彼女は俺たちにそう言ってコーヒーと紅茶を席へと置いてくれた。
ゆらゆらと揺れる焦げ茶色の水面から立ち昇る白い湯気。普段飲む缶コーヒーやインスタントとは違う本格的なその香りに、案外此処のお店は行きつけになるかもなぁと思ってしまう。
「ありがとう。」
「ねぇねぇ君の名前は!何で走らないって言ったの!?何で!?」
彼女の手が空いた瞬間、テイオーはそう彼女に一気に捲し立てた。
「おいテイオー…………」
流石に彼女にも事情があるのだしあまりプライベートな事を聞くもんじゃ無いとテイオーに注意しようとした所で、彼女から『別にいいですよー隠してるわけじゃないし』と言われてしまった。
「それで、有名なトウカイテイオーさんはアタシに何が聞きたいんですかね?」
「えっとね、まずは君の名前!」
少しだけ砕けた口調の彼女に、テイオーはそう答えた。
「アタシの名前かぁ…………どーも、ナイスネイチャでーす。呼びにくかったらネイチャでいいよ。」
彼女、ナイスネイチャはそうテイオーに言った。テイオーは『ネイチャ…………ナイスネイチャ…………』と、そう小声でナイスネイチャの名前を自分に刻み付ける様に繰り返していた。
「じゃあさ、ネイチャはなんで走らないってさっき言ったの?」
「だってアタシ、トレセン生じゃないからさ。」
これには流石に俺も驚いてしまった。これほどの素質がありながらまさかトレセン学園に通っていないとは………
テイオーをチラ見すれば、最早声にならないのか人の耳には聞こえない音域の叫びをあげながら驚いている。
「ナンデ!?」
「何でって…………アタシは
そう答えるナイスネイチャに、納得がいかないのかテイオーは不満顔。そして俺も、勿体無いと思う程度にはナイスネイチャの走りを見てみたいと思ってしまっていた。
「エェ……ネイチャだったら絶対トゥインクルシリーズで一杯活躍出来るから今からでも一緒に走ろうよぉ…………」
未だに不満顔を続けているテイオー。今までに無いテイオーの姿に困惑を隠せないが、それと同時に是非スカウトしたいという気持ちを持ってしまう俺がいる。
確か、生徒会長のシンボリルドルフが地方のトレセン学園から将来有望なウマ娘を中央へと引き抜いた前例がある。しかしその時は水面下でかなりの数の苦情が中央や担当トレーナーのおハナさんに来たらしい。
しかも、今回は地方トレセンでも無い一般生のウマ娘だ。実績なんて欠片も無い。
うちのスペ…………スペシャルウィークの様にトレセン学園の編入試験を受ければいいだろうが中央からの
レースの賞金で学費を…………なんて、そんな見通しが通るほどトレセン学園は甘い世界では無いのだ。
「ねぇ一緒にトレセン学園で走ろうよぉ……」
それでも粘るテイオーを、ナイスネイチャは苦笑しながら見つめていた。
「ねぇ、テイオー…………」
苦笑していたナイスネイチャは、そうテイオーを呼んだ。今まで一度もテイオーに対して『テイオー』何てそう呼んでいなかった彼女が急に愛称で呼んだことに、テイオーは少しだけ肩を跳ねらせた。
初めてナイスネイチャからそう呼ばれたはずなのに、肩を跳ねらせた直後にはテイオーはまるでそれが当たり前だったかのように嬉しそうに尻尾を揺らし始めた。
「アタシは、此処の商店街で育ったんだよね。おふくろが小さいけど商店街の近くでバーをやっててさ。物心ついた時からずっとずーと、ここで過ごしてきたんだよね。」
少し遠くを見る様な目で、ナイスネイチャはそう口に出した。
「魚屋のおっちゃんも、八百屋のじいちゃんも、肉屋のおばちゃんも…………商店街のみ~んなお人好しでさ、小学生の時も中学生の時も運動会の時とか全員お店休んで大声で応援しに来たりさ………
アタシが1着取ったりした訳でもないのにゴールしたら大騒ぎで喜んだりしてさ。当の本人よりバカ騒ぎして、終わったら終わったで今度は商店街で大騒ぎ…………
滅茶苦茶恥ずかしいったらありゃしない訳ですよ。
クリスマスにもアタシの為におふくろのバーでパーティーを開いて男衆はバカ騒ぎしてさ。
毎回毎回野菜やらお肉やら魚やら押し付けてきて、頼んでもいないのにお小遣い渡してきてさ。要らないって言っても『いいからいいから!』って聞かないし。」
愚痴の様に語っているナイスネイチャだが、その顔は何処か嬉しそうに見えた。
「それだけじゃ飽き足らずさ、商店街の皆おふくろを丸め込んで口座作ってアタシがトレセン学園に入学するとき用にって皆でお金出してさ。
アタシには秘密にしてそんな事やってたのよ。『ネイチャンは凄いから!』って言ってさ。まったく…………アタシはトレセン学園に行きたいって一言も言ってないのにね。」
「ってことはお金はあったんでしょ?なんで来なかったの?」
「アタシはさテイオー。さっきも言ったけど
テイオーはどう?毎日が楽しい?」
「それは…………うん、きつい事もあったけど今は毎日が楽しいよ。」
ナイスネイチャの質問に少し考え込んだテイオー。多分ダービー後からの事を思い出したのだろうが、ちらりと俺の方を見てからテイオーはナイスネイチャにそう答えた。
「まぁ、有マ記念のテレビ見てたらなんとなく伝わって来るけどね。」
「エェ…………じゃあ何で聞いたのさぁ…………」
「ごめんごめん…………でもねテイオー。アタシはそれと同じくらい皆と過ごす毎日が楽しくて嬉しくて幸せで、凄く沢山のキラキラを貰ったんだよ。
おっちゃん達と下らない馬鹿話で盛り上がって、おばちゃん達と世間話して…………
確かにアタシもウマ娘だから走るのは楽しいけど、それ以上の毎日が
何年後か何十年後か、普通の高校を出て、普通の大学に入って、卒業しておふくろのバーを手伝ってさ。普通に恋をして普通に誰かと結ばれて、普通に子供を産んで…………そん時にふと振り返っても、トレセン学園に入らなかった事に後悔することはきっと無いんじゃない?
レースの世界の熱い
それを皆に言ったらさ、おっちゃんもおばちゃんもおふくろも……皆一緒になって泣き出しちゃってさ。宥めるの大変だったよ。」
笑いながら、ナイスネイチャはそう語ってくれた。何年も地元に帰ったことの無い俺には実に耳の痛い話だ。今年くらいは一度地元に顔を出して見ようか…………そう思うほどに。
テイオーは分かる様な分からない様な、そんな顔をしている。まぁ無理もないだろうか。ナイスネイチャの語る幸せはどちらかと言えば年を食った俺達『大人』の想う郷愁に近いんだと思う。
「お前ホントに中学生かよ。」
余りにもナイスネイチャ自身の年齢に不釣り合いなその言葉に、ついそう口を開いてしまえば『あはは…………それ良く言われますわぁ』と苦笑いでナイスネイチャはそう答えた。
「ホントに駄目ぇ?」
机に倒れこんだ姿勢で、テイオーは不貞腐れた様にそう呟いた。どうやら本当にナイスネイチャと走りたかったらしい。
これにはナイスネイチャも今まで以上に苦笑いをするしかない様だった。正直ここまで粘るテイオーを見たのは初めてだったから俺としちゃ呆れるしかない。
「じゃあさ、テイオー。一つだけお願いしてもいい?」
唐突に、ナイスネイチャはテイオーにそう切りだした。
「ナニナニ!ネイチャのお願いならボクなんでも聞いちゃうよ!」
さっきまでの雰囲気は何処へやら。テイオーはガバっと起き上がって笑顔でナイスネイチャを見た。
「こんなアタシでもさ、一応はウマ娘な訳でして。少しくらいレース場で走ってみたいって想いは有る訳ですよー
だからさ、アタシの想いもテイオーに任せたいんだけど…………良いかな?」
「え…………それって?」
「究極無敵のテイオー様にとってはちっぽけなモノだけどね。アタシも見てみたいんだよね…………
そう言ったナイスネイチャはちらっと俺を見ると、テイオーにバレない程度にウインクして見せた。
(ははぁ…………なるほどね)
何となくナイスネイチャの考えに納得した俺だが、件のテイオーといえばナイスネイチャのお願いに目をキラキラさせていた。
「イイノ?!」
「テイオーが良いならね?」
「いいよいいよ!ぜんっぜん良いよ!」
「じゃあお願いね?」
「うん!」
嬉しそうに笑うテイオーを後目に、ナイスネイチャは安堵したかのように微かに笑った。
「じゃあさじゃあさ!次のレース見に来てくれる!?」
「えぇ…………まぁうん。お願いしたのは私だしね…………見に行くよ。」
「ヤッタァ!見ててよ!絶対見ててよ!?」
「はいはい、わかったから少し落ち着きなさいな。」
何というか、端から見れば年下のテイオーの面倒を見るナイスネイチャとしか感想が出てこない2人の会話だ。テイオーもナイスネイチャと同い年の筈なのに…………もう少し落ち着きを持って貰いたいものだ。
しかも、何というか今のテイオーはシンボリルドルフと一緒に居る時のテンションに近い物を感じる。たった数十分~1時間ちょいの間柄なのにどこでそこまでにナイスネイチャに気を許したのだろうか?
「さてと、テイオーのトレーナーさん?お昼はどうします?」
時計を見れば、既に時刻は午後1時を少しまわっていた所だった。
「もうこんな時間か…………ホントはここで昼食を食べようと思ってたんだが忘れちまってたな。」
「あはは…………賄いで良ければ作りますよ?」
ナイスネイチャは頬を搔きながらそう言った。
「流石にそこまでして貰うのは申し訳ないからきちんと注文させて貰うさ。」
「いいっていいって。その代わりといっちゃなんだけどさ、お願い聞いて貰ってもいい?」
「お願い?」
「そそ。お店の宣伝の為にテイオーにサインでも貰おっかなってね?お礼はネイチャさん特製ナポリタン。どう?」
「ナポリタン!?ヤルゥ!」
「あ!おいテイオー!」
俺の返答を待たずして、テイオーはナイスネイチャの提案に飛びついてしまった。
…………いや、この場合はナポリタンにつられてしまったというべきか。
テイオーの反応には俺もナイスネイチャも苦笑いも出ない。2人で顔を見合わせて思わずため息を吐いてしまった。
「済まないが…………テイオーに頼めるか?」
「あはは…………トレーナーさんのも良いよ。2人も3人も変わらないから。」
「…………済まない」
俺達2人の気持ちも知らずに、テイオーは『ナッポリッタン~ナッポリッタン~♪』と訳も分からない歌を歌っていた。
⏱
「それじゃ、長々と済まなかったな。」
ナイスネイチャのナポリタンは正直かなり美味かった。こう、何というかファミレスやお高いレストランとは違う懐かしく温かい……そう、家庭的な美味さと言った方が良いのかもしれん。
テイオーに至っては『コレオイシイ!』と言いながらペロリと平らげ、遠慮も何も無くナイスネイチャにお代わりを頼んでいたくらいだった。これには流石にナイスネイチャに失礼だとテイオーに注意はしたんだが、そこは同じウマ同士。『大丈夫ですよー』と軽いノリでナイスネイチャはテイオーにお代わりを持って来た。
もしやナイスネイチャはテイオーがこうなる事を見越してウマ娘基準で3人分作っていたのだろうか…………?
「またねネイチャ!また遊びに来るからね!」
「はいはい、遊びに来るだけじゃなくて今度はちゃんと注文してよねー。」
既に入店してから2時間は経っている。今の時刻は午後の2時半だ。
流石に長居し過ぎたし、これ以上はナイスネイチャの迷惑になってしまうからコーヒーとミルクティー代だけを支払い(やはり昼食代は固辞されてしまった)お店を出ることにした。
笑いながらテイオーを軽くあしらっているナイスネイチャを見ながら、やはり惜しいと思ってしまうのは仕方ないだろうな。
トレセン学園でも脚の速いウマ娘はかなり居るが、正直いっちゃあナイスネイチャの様な『出来た』ウマ娘は殆ど居ないだろう。
「なぁナイスネイチャ。良かったら今度は
「トレセン学園にですか?」
「あぁ。テイオーも喜ぶだろうし、案外気の合う友達も出来るかもしれないぞ?」
「ネイチャがスピカに遊びに来るの!?やったぁ!」
何というか、今日のテイオーを見ていると知らない表情を良くする。まだナイスネイチャの返事も聞いていないのにそこまで喜ぶのか…………
「そうですね。行けたら行きますよー。」
行けたら行きますよー…………ね今や全国でも通じる
仕方ない。仕方ないが…………多分それでいいのだろう。きっとトレセン学園に来ても、
「ほら、行くぞテイオー。」
「ネイチャ!次のレース絶対見に来てね!絶対だからね!?」
最後に念押しするように、テイオーはナイスネイチャにそう言った。どんだけテイオーは見に来て欲しいんだよまったく。
「はいはい分かったから。テイオー、ちゃんとトレーナーさんの言う事聞きなさいよー?」
「モー、分かってるってばぁ!」
『ニシシッ!』とテイオーは笑いながらそう言った。そんなテイオーに釣られる様に俺とナイスネイチャもクスクスと笑う。
まぁ……これでいいのだ。また時間がある時にテイオーを連れて来ればいい。お店の扉を開け、来た時と同じアナログな鐘の音が室内に響かせながらそう思った。
「あぁそうだ。」
扉を閉める直前。唐突にナイスネイチャは声を出した。
「…………お帰り、テイオー。」
微笑みと共に紡がれたその言葉に、初めてナイスネイチャを見た時と同じ様に、テイオーは驚いた表情を見せた。
見開かれ、微かに揺れる瞳。一瞬止まったのだろう深く吸い込む呼吸の音。けれどそれはホンの一瞬だけ。
次の瞬間に、テイオーは今までに見た事も無い様な満面の笑顔でこう言った。
「…………うん! ただいま!」
この2人の会話の意味を俺が知ることはきっと無いだろう。
再びお店の扉が閉まるまで、ナイスネイチャのテイオーに向けた微笑みは消えなかった。
ヒラヒラと舞い散る桜吹雪、歓声が沸き上がる春の京都レース場。
たった1人。1着のみに許された栄誉……春の盾を掲げ、笑顔で客席へと手を振る笑顔の
「やっぱキラキラしてんねー…………テイオーはさ。」
適正の壁を越え、数多の強豪を押しのけて…………
「おめでとう。テイオー…………」
ネイチャとテイオーについては一体何があったのかは皆様の想像次第です。
もしかしたらネイチャとテイオーは〇〇かも…………という想像を思いついた数だけネイチャ達の新しい物語が分岐して行って欲しいですね。
…………私は取りあえず頑張って本編書きます。
シガーネイチャのジュニア期以降の進路
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ルドルフ先輩に続け無敗三冠
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いやいや、トリプルティアラこそ至高
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もっと上を目指そう海外クラシック挑戦
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良いパワーしてるね?国内外ダート挑戦
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