キラキラの一等星   作:ミヤフジ1945

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レース描写久々すぎてさっぱり書けなくなってしまいました。



第27話

 

 

 

少しだけ昔話をしようか。

 

まだ私がナイスネイチャ()では無く、ただの自衛官()だった時の話だ。

 

今目の前にいるシリウスシンボリと同じ目をした人を私は見た事があった。私の同期だった彼もシリウスシンボリと同じく口は粗暴だったが自信家で、面倒見が良く仕事も出来るから職場では人気があった。

しかし彼は最後には職を辞する事になってしまった。理由はパワハラ。彼の後輩に対する指導がパワハラと周りに受け取られてしまったのだ。

 

無論、彼自身はその後輩に対して虐めていた訳では無い。寧ろ後輩が可愛かったから指導に熱が入ってしまった訳であるが、彼の粗暴な口調は後輩や周りからパワハラだと受け取られても仕方なかった。

私も当時は彼の指導は少し厳しめだと思っていた。彼とは当直も一緒で共に煙草を吹かす程度の仲でもあったので何度かもう少し指導を優し目に、せめて粗暴な口調をやめないと勘違いされるぞと注意したことがある。

 

けれども彼は私の注意を受け入れてはくれなかった。『船を降りてからは兎も角、職場では絶対手は抜かない。抜いては将来後輩の為にならんやろ!』とそう私に反論した。

彼に私の声は届かなかった。そして気づく。その時の彼の瞳もシリウスシンボリと同じく私を見ていても私を映してはいなかった。自分が正しいと思った事は曲げない自信家の彼にとって、私はただの職場が同じ同期というだけで友人でも何でも無い。そんな私の言葉など路肩の石ころほどの価値も無かったのだ…………

 

なあなあで入隊して、目標も無く生きていた私にはそれ以上強くは言えなかった。

 

…………結局彼が辞める事になってしまったのは彼自身の責任だし既に終わった事だから『たられば』は無意味なんだけど、もし私が彼にもう少し強く反論していれば。少しは話が変わっていたかもしれない。

無論、私は別にシリウスシンボリと彼を一緒にしている訳では無い。ただ…………性別も容姿も声も何もかも彼とは違うけれど、私を映さないその瞳だけはどうしても既視感を感じてしまった。

 

今のシリウスシンボリの瞳にはルドルフ先輩に勝つ事しか映っていない。

 

レースで勝つのでは無くシンボリルドルフに勝つではシリウスシンボリにとって意味合いが変わって来てしまう。もしレースで勝つのが目標だったら既にシリウスシンボリの瞳には私が映っているはずだ。一応同級生でライバルとして同じレースに出るかもしれないから。

 

けど今のシリウスシンボリがデビューしてレースに出たとして、シンボリルドルフに勝つ事しか考えていないシリウスシンボリはきっと一緒にレースに出走したウマ娘など欠片も気にしないだろう。

同じレースに出るウマ娘用の作戦など立てないだろうし、最悪トレーナーとの関係もシリウスシンボリにとってはどうでもいいのかもしれない。たった1人で走って走って走り続けて…………何時か大舞台でシンボリルドルフと勝負するのか。はたまた最終的な戦績で勝負するのか知らないが、もしその時シリウスシンボリがシンボリルドルフに負けてしまえば友やトレーナーという支えるモノを振り払って走って来た彼女の()止まってしまうだろう(折れてしまうだろう)

実力と自信だけで走った彼女がソレを折られてしまえば…………そんな考えが私の心の奥で小さな火種となった。

 

有るのか無いのかも分からない未来だけど、ウマ娘に救われた私としてはシリウスシンボリというウマ娘がそうなってしまう未来だけは潰したい。

 

 

 

 

嘘や方便が嫌いなはずのシリウスシンボリの、私に対して言った言葉と瞳の矛盾がふいごとして火種に空気を送る。

 

浮かんで来る前世のほんの僅かな後悔と小さな偽善が大きくなった火種を更に大きくする為に薪をくべる。

 

トレーナー志望として理想が彼女を救えと燃え上がる焔に鉄を投げ入れる。

 

ウマ娘としてのウマソウル(プライド)が彼女に勝てと朱く燃えた鉄を叩き上げる。

 

 

 

 

そうして私の心に出来上がったのは未だ刃も研がれていない無骨で鈍な黒鉄の塊(闘争心)

 

まずはシリウスシンボリの膝をターフへと沈めよう。その瞳に君と競い合えるのはシンボリルドルフだけじゃあない、ナイスネイチャ()というライバル(ウマ娘)が居るって事を焼きつけてやろう。

 

そんな決意は金剛石よりも硬い砥石となり、無骨で鈍な私の黒鉄の塊(闘争心)を鋭利で鋭い闘争心(武器)へと変えてくれる。

 

 

「…………良いよシリウスシンボリ。かかってきなさい。」

 

 

「フッ…………そう来なくっちゃなぁ!」

 

 

心で聞こえたあの吼える様な嘶きは…………きっと私の幻聴だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「位置について。」

 

 

シリウスシンボリの挑戦状を受けた私に、ルドルフ先輩は反対した。

まあ、当たり前だよね。一応私はルドルフ先輩の後輩としてシンボリ家に招待されたお客さんって立場だし。シリウスシンボリの言葉は客観的に聞けば私を侮辱している様に取られても仕方ない。

つまりシンボリ家の名前に泥を塗るような事をシリウスシンボリは私に言って来たのだ。さっきも言ったけどルドルフ先輩が反対するのは当たり前。

 

それでもやらせて欲しいと私はルドルフ先輩に頼んだ。シリウスシンボリの目を覚ます為に。

不承不承で「分かった」とルドルフ先輩には納得して貰った。後でルドルフ先輩の機嫌直し用にお菓子でも作らなきゃなあ…………

 

 

「用意!」

 

 

スタート位置にて右手を上げて合図をするのはルドルフ先輩。そしてこれから走るのは1600mの右回り。シンボリ家のコースは2000mなので形的には1コーナーと2コーナーを挟んだ『U』字型のレースになる。

2人だけのレースなのでゲートは不要。一応内側がシリウスシンボリで外側が私だけどその差は殆ど無いに等しい。

 

 

スゥー…………ハァー…………

 

 

大きく息を吸い、湿度の高い夏の空気を肺へと送る。半身を下げ何時でも走り出せる体勢のまま目線だけはターフの先だけを見据え続けた。

 

勢いよくルドルフ先輩が掲げていた右手を振り下ろした。それと共に私とシリウスシンボリは勢い良くスタートを切った。

 

最初に先頭を取ったのはシリウスシンボリだった。1バ身ほど離れて私がシリウスシンボリを追いかける形で走る。いつも通り、スタートはややストライドを広めに取って初速を稼ぐ。

巡航速度まで乗ればピッチを上げストライドを狭める。スタミナの消費を最小限にしつつスパートまで脚を残す。無論、そう考えている間もシリウスシンボリの動向には注意しているが、私とシリウスシンボリの距離は既に1バ身から3バ身まで開いていた。

 

 

(…………やっぱり私は眼中にないですかそーですか。)

 

 

確かシリウスシンボリの得意脚質は私と同じ先行・差しだったはず。しかし今のシリウスは私の事など眼中に無いかの様にドンドン速度を上げて行っている。

先行・差しの定石など知った事かと、最早彼女のスピードは逃げウマ並みのそれだ。フィジカルだけで私に勝つつもりなのか。

 

第1コーナーに差し掛かって、私とシリウスシンボリはほぼ同じタイミングで内ラチギリギリへと攻め寄り最短コースを抜けて行く。シリウスシンボリは腕がぶつかりそうなほど内ラチに寄り、私は体をバランスが保てるギリギリまで内ラチへと傾けている。

私のポジションからすれば丁度シリウスシンボリが壁となって内ラチ最短ルート側から攻める事が出来ない。仕方なしに私はピッチを上げる事にした。

 

4角形から6角形に、6角形から8角形に…………頂点が増えればより綺麗な円に近づく図形の様に、ピッチを上げてよりスムーズなコーナリングを意識する。

距離はこのまま3バ身を保とうかな。下手にシリウスシンボリに近すぎてもスパートでコース取りが難しいから。

 

この間もシリウスシンボリがこちらを気にする素振りを見せる事は無い。内ラチギリギリを走っているのも、それが最短コースだからってだけで私の進路を塞ぐ事なんて微塵も考えてないだろうね。

まるでシリウスシンボリの走りは自己ベスト更新の為のタイムアタックみたいな走りだ。

 

 

(あのスピードで最後に脚は残ってるのかな…………いや、彼女なら残してるだろうね。)

 

 

1歩脚を前へと進める。仕掛け処は私が最終直線に入る前。それまでは今のペースで大丈夫だ。私も十分に脚を残せている。

少しずつ荒くなって行く息が煩わしい。が、ルドルフ先輩と戦った時(あの時)ほどの乱れは無い。シリウスシンボリの蹴り上げた芝が溢れる汗に張り付き風と共に顔の後方へと流れて散って行く。

 

さあ、第1コーナーから第2コーナーへ。此処を抜ければ最終直線だ。シリウスシンボリ、君はどう動く?どこで仕掛けてくる?

コーナーによって見えるようになったシリウスシンボリの僅かに見える横顔を見る。僅か過ぎて表情までは分からないけど、きっと今もその瞳に私は映って無いんだろうね。

 

先ほどまで顔を横に向けなければ視界に入らなかった最終直線も既に正面を向いたままでも視界に入るほど近づいて来ている。第2コーナーも半ばまで過ぎた時、シリウスシンボリがちらりと振り返って私を見た。

 

一瞬だけ私の方を見たシリウスシンボリ。案の定私を見ているけど映してはいない彼女は煽る様に笑みを浮かべて一気に加速し始めた。

 

 

(やっぱり残してたか。)

 

 

先にスパートをかけたシリウスシンボリがどんどん離れて行く。保っていた3バ身の差が4バ身差へ、そして4バ身差が5バ身差へと私達の間は開いていく。

速い。逃げウマ並みの速度で走っていてまだそれほど脚が残っていたのか。

 

 

(けどさシリウスシンボリ。()はソレより速いスパートを知っているんだ。)

 

 

日々の柔軟のお陰で大分柔らかくなってきた筋肉や関節、それによって芝を撫でる様に走っていた脚に力を込める。

グシャッと1歩踏み出すごとに芝が抉れ、下の土まで蹄鉄が達する感覚を脚全体で感じ取って、私もスパートを掛け始める。仕掛け所も上々だし、一気に最高速まで持って行こう。

 

 

(シリウスシンボリ。()はソレより凄いスパートを知っているんだ。)

 

 

差す様に、跳ねる様に、這う様に、飛ぶ様に…………

 

 

(ただ速いだけじゃ私を離せないよ!)

 

 

シリウスシンボリのスパートは確かに速い。けど…………ただ速いだけのスパートだけじゃレースの世界では生き残れない。

アプリで見た、アニメで見た、漫画で見ていた全てのウマ娘達のスパートに比べて、今の君のスパートは全く怖くない。

 

 

「はああああああああ!!!」

 

 

咆哮の様に私は声を上げる。抉り取られた芝と土が爆ぜる様に宙を舞う。上半身を前へと傾けて、撫でるようなピッチ走法から回転率はそのまま少し跳ねる感覚でストライドを広げていく。

 

シリウスシンボリに私は闘争心(武器)を振り上げた。加速する景色と近づいて来るシリウスシンボリの背中。

 

 

「なっ!?」

 

 

私のスパートにシリウスシンボリは驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「悪いけど、私も末脚には自信があってね!」

 

 

やり返す様に私はわざと不敵な笑みをシリウスシンボリに向ける。さあ、こっちを見ろシリウスシンボリ。君のライバル()は今この瞬間ここで君と走っているんだ。

 

 

「クソがっ!」

 

 

そう悔しそうに漏らしたシリウスシンボリ。既に先ほどまで浮かべていた笑みは消え去っている。

シリウスシンボリと並ぶまで後1バ身…………されどまだ1バ身もある。私はシリウスシンボリという名バに対して決して油断しないよ?だって君が本当に凄いウマ娘だって事は前世から知っているんだから。

 

 

「ッ…………負けられるかぁ!!」

 

 

叫ぶ様にシリウスシンボリが必死の形相で吼えた。何処に残っていたのか再び加速して私を抜かせまいと脚を動かしている。

 

 

「終わりだよシリウスシンボリ!!!」

 

 

そこから加速出来るのは凄いけど、スタートから逃げウマの様なペースで走っていた君にはもう脚もスタミナも残っていないだろう?

私も残っている脚を全て使う勢いで外からシリウスシンボリと並ぶ。もうゴールは直ぐそこまで近づいて来ている。

 

 

「「はああああああああ!!!!」」

 

 

お互いに吼える。一蹴り一蹴りに力を込めて前へと進む。

 

だけども拮抗したのは少しだけ。まだ少しだけ脚に余力のある私と違って、既に限界まで脚とスタミナを振り絞ったシリウスシンボリはゆっくりと私の後ろへと流れて行く。

 

そして、そのまま私は1バ身差でゴール板を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






書いては消してを繰り返していると頭が混乱してきて本当にこれで良いのか不安になって来る。
そう言う事ってありませんかね?

取りあえずネイチャ育成で心を落ち着かせてきます。

シガーネイチャのジュニア期以降の進路

  • ルドルフ先輩に続け無敗三冠
  • いやいや、トリプルティアラこそ至高
  • もっと上を目指そう海外クラシック挑戦
  • 良いパワーしてるね?国内外ダート挑戦
  • その他
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