遅くなってしまい申し訳ありません。
最初は5千文字程度で描き終わる予定がどんどんずれて初めて1万文字を超えてしまいました。
緑が芽吹き花は歌う新たな生命の始まりの季節。それが春。
力強く繁る芝の青臭い臭いと、その中で微かに香る花々の甘い香り。ひらひらと舞い落ちる桜の花びらが美しく舞い落ちる光景は何故か無性に心に響いて行く。
暖かな風が肌を優しく撫で、太陽から降り注ぐ光はこの地に新たに踏み入れた新入生という登山者達に祝福を送る様に明るくキラキラと降り注いでいる。
場所はトレセン学園の女神像前の広場。前世の記憶を思い出した丁度1年前のあの時と同じこの場所で、私は…………
「いやぁ…………キラキラしてんねぇ。」
「はぁ?急に何言ってんだお前は?」
絶賛シリウスとベンチでお茶を嗜んでいる最中でございます。
私とシリウス2人仲良く並んでベンチへと座り、自販機で買ったペットボトルのお茶をニギニギと弄りながら、楽しそうにトレセン学園の敷地内を歩く今日入学して来たばかりのピチピチ新入生を眺めていた私が呟いた一言に、呆れた様子でシリウスが返してきた。
「てめぇも私も
「ではでは逆に聞きますけどもシリウスさんや。私やシリウスが
「……………………無理だ。」
呆れた様子で言って来たシリウスに私がそう返すと、多分少しだけ想像したのだろうシリウスは少し顔を顰めて私の質問に短く返した。
「私もシリウスもあんなキャラじゃないしね。シリウスはどっちかって言えば王子様系だし…………だとしたら私は多分おばあちゃん系かなぁ」
「王子様かどうかは兎も角、お前のは絶対違うだろ?」
「そう?縁側でお茶飲んでるのが似合ってたりしない?」
「あの日のお前を知る身としちゃ、どっちかと言えばお前はアフガン帰りのロシアンマフィアだな。」
クックックと小さく笑いながらそう返すシリウスに『ひどっ!』と返しつつも、シリウスと同じ様に笑いながら私は再び楽しそうに歩いて行く新入生へと視線を向けた。
漸くスタートラインに立って、明日への希望、夢への情熱を宿す彼女達は何といいますかこう…………キラキラと輝いて見える訳でして。
例えるならばじれったいラブコメ物の青春ライトノベルを読んでいる時の様な、たまたま通りかかった公園で小さな子供達が笑顔で遊び回っているのを見てしまった時の様な、微笑ましさと懐かしさと…………ちょっぴりの羨ましさが混ざった様な何とも言えない感情が湧き出るのだ。
「…………眩しいのか?」
ぼ~と、お茶を飲みながら新入生を見ていた私にシリウスはそう語り掛けて来た。
「そうだね。少しだけ羨ましいのかもしれない。」
未だトレーナー関係以外の交友関係、特に友人関係が狭い私には彼女達の様に大勢ではしゃぐ姿が少しだけ羨ましかったのかもしれない。
尤も、今の私に後悔なんて欠片も無い。私は私の夢と選択のお陰で今、掛け替えのない
「バカバカしい。」
「そう?」
私の言葉にシリウスは鼻で笑うようにそう吐き捨てた。
「羨ましい?憧れる?そんなのはレースという現実を理解する上で最も遠い感情さ。」
「ありゃ、シリウスさんは随分と手厳しい事で。」
「当たり前だ。別に原点はそれでも良いさ…………だがここは天下の中央トレセン学園だ。毎年数千、多いときじゃ万を超える競争ウマ娘が門を叩きに来るが門をくぐれるのはその数十分の一も行かない。」
ゴクゴクとペットボトルに残ったお茶を飲み干しながらシリウスは言葉を続ける。
「あそこに居る新入生共はそんな狭き門をくぐって此処に来た。名門の出か……はたまた地元で負け無しだった天才ウマ娘か……
ハッ!……お生憎様、このトレセン学園じゃ天才なんて箒で掃いてドブに捨てても釣り銭が来るぐらい在籍してるんだ。天才がモブに、主人公が脇役になってしまうこの厳しい世界で現実を見れず浮かれたままじゃこの先レースで生き残る事なんて出来やしない。」
「そう…………まるで去年のシリウスだね。」
「グッ…………それは言うな。」
ニヒルに笑いながら語るシリウスに思わずそう突っ込んだ私の言葉に、クルクルと空になったペットボトルを手で回していたシリウスは気まずそうにしていたが私は悪くないだろう。
「それでも、私はあの娘達にはあのままでいて欲しいかな。」
「なんだ?ナイスネイチャ様は将来の競争相手は少ない方が嬉しいのか?」
「バカなこと言わないでよシリウス。」
茶化すように相槌を打つシリウスにそう返しながら、私は静かに瞳を閉じた。
瞼の裏に思い写すのはあの日の問答。生徒会室にて私がテンポイントさんに夢を語ったあの日の記憶を確かめる様にゆっくりと。
「私の夢はトレーナーになって一番近くでウマ娘のキラキラとした瞬間を見る事。たとえ負けても、心が挫けても、絶望に膝を突いたとしても最後には立ち上がって夢を叶える。その支えになって夢を一緒に見ることが私の夢。」
「随分と甘っちょろいな。自分のレースはどうでもいいってか?」
「まさか!ライアンともエアグルーヴとも、スズカとだってフラッシュとだって全力で競いたい。競って競って競い合って、そして勝ちたい。勿論シリウス、あんたにだって勝つ。」
私の夢を聞いて少し不機嫌になりつつそう返して来たシリウスに、私はそうじゃないとハッキリと口に出した。
私だってウマ娘だ。テンポイントさんには最初夢の為なら三冠だって取ってみせるとか言ってしまったけど、今では夢の為とか関係無しにシリウス達と競いたい。重賞という大舞台で皆と勝負して、私自身もキラキラしたいという気持ちを自覚してしまったんだから。
ルドルフ先輩に発破をかけられたからとか、沖野さんのアドバイスとか、シリウスとの初対面時のレースとか…………いや、シリウスの時はぜってぇ負けてやんない。目を覚まさせてやるって変なスイッチが入っちゃった結果だけど。
まぁ切っ掛けなんて色々あるけれど、私がやる事なんて1年前のあの日から変わらないんだ。夢の為に、皆に勝ちたいから、後悔しない様に今を精一杯頑張るだけ。
「お前が私との勝負を忘れてないならそれでいいさ。全く…………ルドルフと似た甘っちょろい夢を持っているとは思わなかったがな。」
「『全てのウマ娘に幸福を』だっけ?」
「なんだ、ルドルフから聞いていたのか。」
ホントは前世から知ってます…………なんて言えるはずも無く。ルドルフ先輩から聞いたのも実際本当の事なので私は初日にルドルフ先輩から聞いたとシリウスに返答した。
私の返答を聞いたシリウスは深々と溜息を吐いて、溜まっていたモノを吐き出す様に口を開いた。
「アイツが言う全てのウマ娘に幸福をなんて甘ったれた幻想なんて聞き飽きてるんだ。そもそもだ、ルドルフのヤツが語る『全て』ってどこまでを指すんだ?
チームの仲間『全員』か?
トレセン学園に通う生徒『全員』か?
レースを走る競争ウマ娘『全員』か?
それとも文字通り世界中で生活しているウマ娘『全員』か?
だとしたら大言壮語はなはだしい。さっきも言ったが此処に入学出来た時点で他の誰かを蹴落として来ているんだ。
レースで走るという事は1着の栄冠を掴むウマ娘が居る一方で強者の後ろで挫折し膝を折るウマ娘が居る。
トレーナーが付いてデビューするウマ娘が居れば、他者との実力差に絶望してデビュー前に去るウマ娘が居る。
ほら見ろ?トレセン学園内だけでもレースという弱肉強食の世界において全員が平等に不平等なのさ。誰かが幸福を掴み取れば、その他の誰かが不幸を掴まされるそんな世界で『全てのウマ娘に幸福を』なんて根本から成り立つはずがねぇんだよ。」
呆れたようにそう捲し立てたシリウスは持っていた空のペットボトルを空へと放り投げた。綺麗な放物線を描いて落ちる先にあるのは金属製のゴミ箱。
ご丁寧にペットボトル専用のごみ箱に良い音を響かせながら入ったペットボトルを一瞥してシリウスは少しだけ満足そうに息を吐いた。
「
そっと、肩に舞い落ちた桜の花びらを摘まんだシリウスはその花びらを太陽に透かすように空へと掲げた。
太陽から降り注ぐ温かな光が花びらを透かし、淡く儚い桜色の光へとその色を変えてシリウスへとその桜光を優しく降り注がせていた。
何処か遠くのナニカを見ている様なシリウスの瞳。彼女が花びらの向こう側に一体何を見ているのか。
それは私には分からなかったけど、何となく普段自身満々な性格のシリウスとは別の…………もう一つのシリウスの顔を見た気がした。
「シリウスってさ?」
「あん?」
「もしかしてルドルフ先輩の事が心配?」
「はあ?」
私が放った疑問の言葉に、シリウスは何言ってるんだコイツといわんばかりの顔をして私の方へと顔を向けた。
「私がアイツの事を心配してるだと?そんな事ある訳無いだろ。シンボリルドルフという存在は私が超える壁の一つであって、お手々握って仲良しこよしで過ごす仲じゃねえのはお前も知っているだろうが。」
摘まんでいた桜の花びらをひらひらと振りながらそう語るシリウス。だけど短いながらも彼女と親しい仲となれた私には、何となくだけどシリウスが私の疑問の言葉に対して照れているのが分かった。
上ずったかの様に少しだけ高くなった声のトーン。気づき難い程度に早くなった口調。そして何より木陰の所為で見え辛いけども僅かに淡く染まった頬。
(素直じゃないなぁ……)
シリウス本人は隠しきれてると思っているだろうけど、気づいている私からすれば思わずそう内心で吐露してしまう位には分かりやすかったと思う。
実際問題、私はシリウスはルドルフ先輩が好きだと思っている。勿論恋愛感情とかではなく親愛の情という意味でだけど。
それまで学園内でルドルフ先輩に顔を出したことすらなかったシリウスは夏休み以降、なんだかんだほぼ毎日ルドルフ先輩の所に顔を出す様になったらしい。私も毎日ルドルフ先輩と居る訳じゃないからホントかどうかは分からないけど、私とルドルフ先輩が一緒に居る時はなんだかんだシリウスは会いに来ているし、挑発気味にシリウスがルドルフ先輩に話している姿もどことなく楽しそうに見えるのだ。
ルドルフ先輩も昔の様にシリウスと話せるのは嬉しいと寮の部屋で私に話していたし、案外お互いに歳の近い兄弟姉妹の様な感覚なのかもしれない。
「まあでも、私…………シリウスの言いたい事も分かるよ。」
ゆっくりと私は視線をシリウスから空へと移した。私の視線の先にある透き通った空を流れる一筋の雲は、まるで私達の会話なんて関係ないとばかりにゆっくりと姿を変えながら風に乗って世界を巡っていく。
「言ってしまえばさシリウス。夢や目標なんて今
そっと、右手を空へと向かわせながら私はそう口を開いた。
「どんなに手を伸ばしたって届かない。当たり前じゃない?だって遠いんだもの。どんなに届いてと叫んだって、腕が千切れるほど伸ばしたって届かない。今の私達じゃ何をしたって届く訳がない。」
空へと伸ばした手を引っ込めながら、私は視線だけシリウスへとやった。
「無茶無理無謀…………シリウスがそう言うのも分かるよ。ルドルフ先輩が目指す『全てのウマ娘に幸福を』って夢は本当に雲みたいに遠くて高い、道筋すらあるかも分からない朧気で曖昧な夢だもの。」
「そうさ。『全てのウマ娘』なんて不可能に決まってる。」
「でもねシリウス、それを決めるのは貴女じゃないんだ。それを言っていいのはその朧気で曖昧な、見えない先にどんな試練や苦難があるかも分からない道なき道を一歩でも脚を踏み出した人だけなんだよ。」
タンッ…………と、踏み出す部分を強調するように軽くローファーで石畳を叩いた私はそうシリウスへと言葉を紡いだ。
「諦めろ、無理に決まってる。夢に届く訳無い。そんな言葉を踏み出した事も無い他人が言ったってそれは頑張っている人に頑張ってって外野が応援するのと同じくらい無責任で無意味な言葉でしかない。
シリウス…………貴女の夢だってそうだよ?世界を獲るだなんて無茶だって、無謀だって何も知らない他人はきっと言うだろうね。」
「私の夢は無茶ではあっても無謀じゃねぇ。おばあ様…………スピードシンボリが世界の門を叩くことが出来た。私はその門を、おばあ様が開いたその道を最速で駆け抜けて行けば良いだけだ。」
私の言葉に少しだけ不満そうにそう返してきたシリウスに思わず苦笑を浮かべてしまった。やっぱり口では色々と言いつつもシリウスは身内には優しい。
それがシリウスの隠れた美点だろうと私は思う。普段の言葉遣いで勘違いされるけど、シリウスは一度自身の懐に入れた人間にはなんだかんだ言いつつ優しいのだ。甘い、のでは無く優しい。所謂厳しくする優しさの意味を理解しているタイプの人間。
シリウスシンボリというウマ娘の原点は、世界という夢への挑戦の始まりはきっとスピードシンボリの走りだったのだろう。スピードシンボリの様に世界で走りたい、スピードシンボリというウマ娘が開いてみせた世界への挑戦という道を無駄にしたくない。
何となく、私にはシリウスの言葉にはそんな思いがある様な気がした。…………勿論シリウス自身が言った訳じゃないから合っているかどうかも分からないんだけどね?
「そう言う事。外野がどんな事を言ったって本人からすればどうでもいいんだよ。ルドルフ先輩…………いや、シンボリルドルフの中では既にきちんと線引きされていて、覚悟ガンギマリで一歩脚を踏み出しているんだから。」
「じゃなんだ?お前はアイツが折れて膝を突くのを黙って見てろってのかよ。」
「まさか。」
苛立たし気に私の言葉にそう返したシリウスに私は肩を竦めながら短く返した。
「私もシリウスも、皆が皆違う夢を持ってる。誰かの為に、自分の為に、誇りの為に、栄誉の為に、もしかしたらお金の為にって娘も居るかもしれない。
皆が皆泥だらけで血反吐吐いて、傷だらけになりながらでもがむしゃらに十人十色で大小色んな夢を追いかけてる。でもさ、別に誰かの夢を一緒にしょい込んじゃっても良いんじゃない?夢は一つだけ、なんて決まりを誰かが決めた訳でも無いんだしさ。
お互い違う夢だけど競い合いながら時には手を取り合って、膝を突きそうになったら尻を蹴っ飛ばしてでも奮い立たせて、何時か見える夢の果てを目指して走っていくその姿をライバルって言うんじゃないのかな。」
「ハッ!自分の夢を叶える為に努力しているのにその上他人の面倒を見ろだと?そもそもそんな奴らなんて居る訳ないだろうが。少なくとも私はごめんだね。」
吐き捨てる様に言葉を紡ぐシリウスに私は再び苦笑いを浮かべた。
既に先ほどまで居た新入生達は広場から離れ、今この場所に居るのは私とシリウスの2人だけ。新緑の若葉と散りゆく花びらが風に揺られながら楽し気に唄う中で、しばし無言を貫いた私とシリウスは唯々舞い落ちる花びらを眺めていた。
「そうだね。誰もが誰かの為に立ち上れる訳じゃない。どんなにカッコよかろうと、どんなに美しかろうと結局は自分の為。自分の心を満たすためのただの欲でしかない。」
「…………あぁ。」
「それでもここに1人は居る。」
「…………あぁ?」
怪訝な顔で私を見るシリウスに私は笑顔で答えた。
「私だって見てみたいんだよシリウス。『全てのウマ娘に幸福を』…………それを目指した先に一体何があるのか?どんな世界が広がっているのか?そんな夢の果てを考えてみるだけでワクワクしてこない?」
考えるだけで私の心がワクワクしているのが分かってしまう。一体どんな世界が広がっているのかな?
名門だろうが寒門だろうが、裕福だろうが貧乏だろうが関係なく実力を見てスカウトして貰える様な世界になっているかもしれない。
今の様に年齢でデビューするのではなく能力次第で先輩も後輩も、年上も年下も関係なくデビュー出来る様な世界になっているかもしれない。
地方と中央の壁が下がって中央から地方へ、地方から中央へと分け隔てなくレースに出走するウマ娘が出て来る様な世界になっているかもしれない。
「もしかしたら世界に挑戦しようとするウマ娘が毎年出てくるかもしれないね。フランスの凱旋門にアメリカのブリーダーズカップ。イギリスのKGVI&QESにオーストラリアのメルボルンカップ。それだけじゃない、ドイツにイタリアに香港にドバイ…………世界中の色んなレースに挑戦するウマ娘が増えるかもしれない。
挑戦する事すら出来なかった、無謀だと言われてきた事が未来では海外挑戦が当たり前の選択肢に、寧ろ相手国から是非来てくれって招待状が来るかもしれない。そんな世界を、あるかもしれない未来を私は想像するだけでワクワクしてくる訳ですよ。」
思わず自分の夢の様に語ってしまう私に、シリウスは何やら考える様な表情を浮かべている。シリウスもどんな可能性の世界が広がっているのか想像しているのかもしれない。
「シリウスの言ったスピードシンボリさんが開いた世界への挑戦という道。そしてこれから始まる世界の頂きを目指すシリウスの挑戦。その挑戦が終わった後にシリウスが走ったその道に『シリウス先輩に続け!』ってその道を続いて走ってくれる後輩がいるかもしれない。それって案外幸せな事じゃない?
1人で全員を幸せにするなんて確かに無謀だけど、そうやって自分の夢を追いかける中で誰か1人か2人でも幸せに出来たら、『何時かあの人に追いつくんだ』って目標にして貰えたら…………
誰かが誰かを、受け取った誰かがまた他の誰かに夢を、幸せを与えれたら何時か鼠算式に増えて行って『全てのウマ娘に幸福を』までは行かないけどそれに近い世界に出来るんじゃないかな?」
まぁ、結局の所私が語ったのは例の一つに過ぎないんだけどね。足を止め停滞して腐り落ちて行くのではなく、前へ前へと挑戦し続けられる、挑み続けれる幸せという一つの例を元にした話なだけ。
私がシリウスに話したそれが絶対に正しいという事では無い。幸せの基準なんて受け手によって変わってしまうのだから仕方ないのだ。色んな事にチャレンジする事に幸せを感じる人もいれば、何も変わらない平穏な毎日が幸せって人もいる。
「まぁ色々ごちゃごちゃと言っちゃったけど、結局の所私が言いたいのは1人では難しい夢だろうって事と誰かと共に歩めれば、たとえその可能性が那由他の彼方だろうと夢に近づけるって事。
その後の事はルドルフ先輩次第かな。人の幸せって言うのは求めれば求めるほど際限無く欲しちゃうから何処かで妥協しなきゃいけない。その妥協点をルドルフ先輩が見誤ればそれこそシリウスが言ったみたいに何処かで折れちゃうからその時こそ私やシリウスが止めるしかないかな。」
私はそう言ってシリウスに自分の考えの全てを話した。相も変わらず目を瞑り沈黙を貫くシリウスに少しだけ私は胸中に不安がよぎってしまった。
理解を得られただろうか…………はたまた話にならないとシリウスに切って捨てられるだろうか…………
まあ、どちらにしても私はシリウスの想いを否定しないし、その選択を尊重したいと思う。別に私は誰かに考えを強制したい訳でも押し付けたい訳でも無いから。
「お前の言いたい事は何となくだが分かった気がするが…………それでも私は私の考えを変えるつもりは無い。」
数分か、はたまた僅か数十秒だったかかもしれない。無言のでただ誰もいない広場を眺めていた私に、一言も発しなかったシリウスがそう口を開いた。
「幸せってのは自分でつかみ取るもんだ。少なくともレースの世界じゃ一緒に走る誰かを蹴落として一着を取らなきゃ掴めねぇ。『全てのウマ娘に幸福を』なんてレースを走るウマ娘相手じゃ絶対に叶わないのさ。」
「誰だってレースには一生懸命だもんね。ターフに立った時点で皆覚悟を決めて走ってる。」
「あぁ…………だがお前の話を聞いて少しだけ認識を変える必要がある事も分かった。」
「え?」
「レースの世界でも…………いや、レースの世界だからこそ夢と幸せはイコールにはならねえって事だ。」
ニヤリと少しだけニヒルに笑いながら、シリウスは思わず変な声を出した私にそう口を開いた。
「お前が口にしたのはレースの世界はレースの世界でも、ターフの外の話だ。結果と過程と言い換えてもいいかもな。」
「結果と過程…………」
思わずシリウスの言葉を私はかみ砕くように口にしてしまった。
分かる様なイマイチ良く分からない様な…………シリウスの言いたい事が完全に理解しきれず悶々とする私を後目に、シリウスはゴソゴソと自身のポケットから1つの箱を取り出した。
それは私と同じ銘柄のアロマシガーの箱。最近になって私と同じ様にこれを嗜む様になったシリウスが持っていること自体には既に違和感はないけれど、シリウスは遠慮なくその箱から1本取り出して遠慮なくマッチで火を着けてしまった。
おいここは禁煙だ。吸うならちゃんと喫煙所で吸えや…………なんて私が口を開こうとすればシリウスは何の遠慮も無く空いた私の口に吸いかけのアロマシガーを押し付けやがった。
「…………ちょっとシリウスさん。」
「誰も見てねぇよ。それに、これでもしバレちまっても共犯…………だろ?」
悪びれも無くそう返すシリウスに私は呆れてしまい…………というか、シリウスの問に対して難しい事を延々と考えていた私の茹った脳はついに思考を放棄してしまった。
諦めて一吸いすればアロマシガーの甘い香りが体を満たし、茹った脳を蕩けさせていく。
あぁぁぁぁぁぁシガーが脳に染みるわぁぁぁぁああああ…………
情けない声を胸中でさらけ出しながら私も一吸いしたシガーをシリウスへと返したのだけど、ためらいも無くシリウスは私が口を付けたシガーを咥えるのだから何というか…………凄く様になっていて将来デビューしたら夢女子増えそうだなコイツと思わずにはいられない。
…………というかウマだから夢女子じゃなくて夢牝馬になるのかな?いやどうでもいいんだけどさ。
「フゥー…………つまりは夢はレースの結果、幸せはその間のトレーニングや日常生活と言った過程と考えた方が良いって事だ。
夢の結果は結末に関わらず記録には残る。だがその過程だけはその時を過ごした奴にしか残らない記憶だ。」
「シリウスは中々詩人な事を言うねぇ~」
「茶化すなネイチャ!少なくともそうして別々に別けて考えた方がルドルフの夢もお前の考えについても私の中で一応の納得が出来るって事だ。」
ふぅ~っと紫煙を吐き、シリウスは自身が吐いて空へと昇って行く煙を眺めながらそう語った。
「
「そもそも基準なんて無いんだから仕方ないんじゃない?」
「あぁ…………だからこそ私は私の道を行く。もうルドルフの道を否定するつもりはねぇが、だからと言って私からルドルフに協力するつもりもねぇ。」
「良いんじゃないそれで?」
一吸いごとにシリウスは私とシガーを交換しながら吹かしていく。さっきまでのシリアスな雰囲気が少しずつ弛緩していくのを感じながら、私はシリウスの言葉に肯定の言葉を返した。
「それに私の道にはお前に勝つ事も入っているんだ。何時かルドルフと歩いているお前の道を
「私はシリウスの事も応援してるんだけど…………まぁ、もしそうなったらさしずめ私は星の旅人って所かな?」
「ハハハハッ!星の旅人か!そいつは良いぜ。だったらの
短くなったアロマシガーを携帯灰皿へと押し込んで、笑いながらそう言ったシリウスはキリリとした瞳を私へと向け、楽しそうに口元に弧を描いてからベンチから勢いよく立ち上がった。
「じゃあな星の旅人さんよ。良い時間だから私はもう帰るぜ。」
「はいはい、学園内とはいえ気を付けてかえりなさいよ~」
私の言葉に後ろ手で返すシリウスに私は苦笑いを溢す。まったく、キザな仕草の癖にシリウスがやると絵になるのは何なんなんだろうねホントに。
去っていくシリウスを見届けてから、私もゆっくりとベンチから立ち上がった。今日はトレーニングの予定も入れていないし、1日のんびりする予定だったのでまだまだ時間は余っている。
「それにしても今日で1年かぁ…………時がたつのは早いよねホントにさ。」
私が前世を思い出したあの日から今日で1年。思わず口に出た中年臭い自分の言葉に呆れてしまうが、そんな言葉とは裏腹に前世の学校時代と比べれば遥かに濃密で楽しい1年だったと思えた。
広場から立ち去る前に、何となく私は視界の隅に映った三女神様の像を見た。何の為に、どんな理由があって私の願いを聞き届けてくれたのか。喋りもしないただの像に問いかけても意味は無いのだけど、ただ今の私から言えるのは1つだけ。
(この世界へ連れてきてくれてありがとうございます三女神様。)
教会の神父やシスターの様に格式ばったものでは無い。膝を突いたり、手を組んだりする訳でも無くただただ心の中でそう感謝の言葉を伝えると共に私は三女神様の像に対して軽く頭を下げた。
これからの事がどうなるか分からないけど、少なくとも三女神様に誇れる様に走って行こう。改めてそう心に刻んで私が頭を上げた時…………
(あれ…………?)
唐突に歪んでいく視界。
「や……ば……」
まるで貧血の時の様にどんどん四肢から力が抜けて行く。何とか踏ん張ろうとしても私の体からは力が湧き出る事は無く、次第に上下左右の感覚すら分からなくなり膝が崩れた瞬間。
私の意識は糸の切れた人形の様にプッツリと暗闇へ消えて去った。
『…………あらあら。』
息詰まると他の小説を読んで息抜きがてら良い言葉選びとか色々参考にしようとしてるんですけど、ついつい読むのに集中しちゃって寧ろ自分の文才の無さに愕然とするしかなくなったり、難しい事考えすぎて毎日頭痛がしていたりしましたが何とか投稿出来ました。
あとはアプリでずっとネイチャとシリウスばかり育成していたのでなんかシリウスが一番のライバルキャラっぽくなって来ているのは予想外でした。なんでだろうね?
サブタイちゃんと考えた方が良いのかなぁとか、この話なんか批判されそうだなぁとか行き詰ってスランプに入っちゃうとマイナス思考気味になるのでいいガス抜き方法探してきます。
次回はある程度決まっているので文章に詰まらなければそんなに遅くならない…………はずです。
がんばります。
シガーネイチャのジュニア期以降の進路
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