キラキラの一等星   作:ミヤフジ1945

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早く投稿するとか言いながら難産オブ難産でしたとか言い訳にしかならないので素直に言います。

遅くなってしまい申し訳ありませんでした。


第34話

 

 

温かい…………

 

上下左右の感覚は無く、まるで胎児の様に体を丸め微睡みの中にいる()()()が最初に感じたのはただひたすらに心地よく、何時までもこうしていたくなる様な温かさだった。

 

例えるのならばそう…………まるで小さい頃に母親に優しく抱きかかえられている時の様な、公園を駆けずり回って遊び疲れてしまった時に父親におんぶして貰った時の様な、きっとそんな感覚。

 

優しく包み込むかの様な安心感がアタシの心と体を満たし、ずっとこうして包まれていたいという欲がまるで小悪魔の様に微睡む意識をより深くへと誘ってくる。

 

 

『フフッ…………そろそろ起きなよ。可愛い可愛い俺の子羊ちゃん。』

 

 

深く、もっと深くへと沈みこもうとしていたアタシの耳がピクリと動く。何処かで聞いた事がある様な無い様な…………けど聞いてると安心するそんな声。

 

 

「んぅ…………やぁ…………」

 

 

『あぁもう…………そんな可愛く言っても駄目だよ。ほら、起きて。』

 

 

ずっとこうして居たい。このままこの温かさを享受していたい。不思議な声に少しだけ意識が浮上して来たアタシは思わずまるで幼児の様に駄々を言ってしまうけど、声の主は優しくアタシを揺り起こして来る。

 

 

『寝起きの気性難って所かな?まぁでも、eclipseに比べたらフフッ…………まぁそんな所も可愛いんだけどね。』

 

 

耳元で囁かれるかの様にこそばゆく、しかし優しく紡がれるその声に反応してかアタシの耳は意識とは関係なくピクピクと揺れ動き、水の中からゆっくり水面へと浮かび上がる様に少しずつアタシの意識も微睡みの中から意識もはっきりと浮かんでくる。

 

眠たげにゆっくりと瞼を上げれば、辺りは黒一色。3女神様の像も、トレセン学園も、星の瞬きさえも見えない、文字通りの泳ぐ様な暗闇だけがアタシの視界に広がっているだけ。

 

 

「…………何処……此処?」

 

 

あまりに現実離れしたこの光景に、寝起きで未だ完全に覚醒してはいないアタシの脳が情報を飲み込めずに唯一搾り出せた言葉。

 

 

『ようやく起きてくれたね可愛い子羊ちゃん♪』

 

 

「アタシは確か…………シリウスと別れてから…………」

 

 

ゆっくりと、アタシの意識が鮮明になって来る。来るのだけど、何処かこう…………意識に靄が掛かったみたいなフワフワとしたあの感覚が抜けない。それでも、何となくではあるけれど今のアタシの現状に対して少しずつ理解が追い付いて来た。

 

そう、アタシはシリウスと別れた後に確か3女神様の像に軽い祈りを捧げていたはず。その後にまるで貧血で倒れそうになった時の様に視界が歪んで…………

 

 

(あれ?…………何でアタシは3女神様の像にお祈りをしていたんだっけ?)

 

 

お祈りをした、という行動は思い出せても何故お祈りをしたのかという理由が思い出せない。

 

 

『フフッ…………さぁ立って?子羊ちゃんが居るべき場所は此処じゃないだろう?』

 

 

それに先ほどから幻聴の様に聞こえるこの声は一体誰の声なのだろうか?聞き馴染みのない初めて聞いた声のはずなのに、何故か聞いていると安心するその声に促される様にアタシはゆっくりと重い腰を上げる。

 

今までは何処か水の中に潜った時の様な感じることの無かった上下左右の感覚は、起き上がる為に1歩脚に力を加えた瞬間には違和感も無く消え失せてしまい、見えないながらも確かに何かを踏みしめる感覚が脚の裏から伝わって来た。

 

ふらつきながらもゆっくりとアタシが立ち上がれば、安心したかの様に僅かに零れる吐息の音が暗闇の世界の中で微かに聞こえた。

 

 

(ん…………この感触は…………芝?でもなんか感触が少し違う気がする?)

 

 

何も見えない真っ暗闇の中、思わず1歩づつ踏み出したアタシの脚がガサッガサッとここ1年で感じ慣れたトレセン学園の芝とは全く違う、しかし何故か芝だと分かる感触をアタシに伝えてくれる。

 

歩く。

 

この暗闇が何処まで続いているのか、アタシは一体何処に向かっているのか、何も分からないままにただ1歩また1歩と歩みを進めて行く。

 

 

『此処は世界と世界の狭間の世界。』

 

 

幾ら歩いても声の主の姿を見つける事は叶わない。見えるのは右も左も前も後ろも真っ暗闇の世界だけなのに、まるでアタシの隣を一緒に歩いているかの様に謎の声は私の近くから聞こえて来る。

 

 

『これまで生まれて来た者達へ…………』

 

 

まるで何かを辿るかの様に、母の様な温かさで声の主はそう綴る。

 

 

『これから生まれて来る者達へ…………』

 

 

まるで何かの物語を読み聞かせるかの様に、父の様な凛々しさに声色を変えた声の主は謳う。

 

 

『脈々と紡がれる血統(運命)は時を超え、紡がれた原初の世界をも超えてまた刻む。

 

それは地平線の先で昇る太陽の様に。

 

そして水平線の奥で沈む太陽の様に。

 

巡り、巡ってその名と因果を背負い続ける。』

 

 

詠うかの様に語るその声に聴き入っていると、いつの間にか無意識の内にアタシの脚は前へと歩むのを止めて立ち止まっていた。その事に気づいて前へと進もうとしてもアタシの脚は何故か動かない。

 

まるでアタシの目の前に巨大なナニカがあるかの様に、アタシの本能の部分が前へと進むのを否定する。

 

 

『けれど可能性()は未来を変える力を持っている。可能性という楔を持った可愛い可愛い子羊ちゃん。

 

馬の魂人の可能性()、2つの因子を継承した、変えれぬ因果に楔を打てる俺の可愛い可愛い子羊ちゃん。』

 

 

声の主は喜色を持って言葉を謳う。それと共にアタシの体が少しずつ光っていく。

 

始めは小さく、そして淡く。

 

次第に大きく、そして力強く。

 

何というか、アタシ自身の体が光り輝いているって言うのは何というか変な感じ。眩しい訳でも無いんだけど、この暗闇の世界で光っているアタシを客観的に見ると何だか深海にいるチョウチンアンコウみたいでさ。

 

というかウマって何だろう?ウマ娘とは何か違うのだろうか?それに2人で1つって…………()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『分からないでいいさ。今を紡ぐ君にはその時その時を後悔の無い様に…………それだけの事。』

 

 

訳が分からず混乱するアタシに、声の主はそう語った。その瞬間、光り輝いていたアタシの体から光が離れて行く。

 

暗闇の中で光る蛍の様に、直径数センチの光の玉が1つ、2つとアタシから離れて行き1つの塊になる様に集まって行く。

 

それと同時にアタシの中で急激にナニカが消えてしまったかの様な、まるで大切な誰かを喪ってしまったかの様な、途方も無く辛くて悲しくて…………心にぽっかりと穴が開いてしまったかの様なそんな喪失感が広がって行く。

 

 

『子羊ちゃん、君の紡ぐ世界は本来の物語とは違うextra story(番外の物語)

 

けども、見方を変えればそれは新たな物語を始める序章にもなりえるのさ。』

 

 

(待って…………行かないで…………)

 

 

光の玉が1つアタシから離れるごとにこの喪失感が強くなっていく。思わず取り戻すかのように手を伸ばすけれど、先ほどまで動いていた脚はアタシの意思に反して動いてくれることは無い。

 

それでも取り返したくてアタシは必死に手を伸ばすけど、どんなに手を伸ばしてもあの光に届くことは無い。その間にもどんどんアタシの纏っていた光は光の玉となってアタシから離れて行き、比例する様に喪失感がアタシの心を蝕んでいく。

 

 

「嫌…………帰って来て…………」

 

 

掠れた声がアタシの口から出た。()()()()()()()()()()()()()()。けれどそんなアタシの願いは叶わない。ゆっくりと最後の1欠片がアタシの体から離れて行き、アタシが纏っていた光は萎む様に消えてしまった。

アタシの体に残されたのは大声で泣きたくなる位の喪失感とぽっかりとあいた喪失感だけで…………

 

ガクリ、とアタシの膝から力が抜けて行く…………

 

石の様に固まっていたはずのアタシの脚は、いとも容易くその場に崩れ落ちる瓦礫の様に膝を落してしまう。嫌、それでも取り戻したい。絶対に失いたくないと、ソフトボール位の大きさまで集まったアタシの…………アタシだった光の玉に必死に手を伸ばすけれど、それでもあと1歩分の距離がアタシの手にはあまりに遠すぎた。

 

当ても無く導かれるまま歩いていたさっきまでの、あのふわふわとした夢見心地だった意識はとっくに、いっそ苦々しい程にハッキリと鮮明になってしまっていた。

 

 

『そんなに焦らなくても大丈夫、別に子羊ちゃんから取ったりはしないさ。だからほら……そんなに泣かないで?』

 

 

先ほどよりも優しく…………まるで幼子をあやす様に声の主はアタシに語り掛けた。そっと光へと伸ばした手を自身の頬へと当てれば、直ぐさま感じる触れた指先が液体で濡れる感覚。止めどなく涙が瞳から流れ続けているにも関わらず、アタシは涙を流している事にすら気づく事が出来なかったらしい。

 

 

『大丈夫、少しだけ俺の加護をあげるだけだからさ。』

 

 

そっと、崩れ落ちているアタシの後ろから抱きしめる感覚がした。確かに抱きしめられているはずなのに、暗闇の世界は抱きしめているはずの相手の姿を見せることは無い。

 

 

『あの光は可能性の光。因子を継承し、因果を抜けて、運命を切り開く。そんな未来への可能性を秘めた光。』

 

 

(…………アタシの…………可能性。)

 

 

『君のお陰で既に因果の鎖は断ち切られ、新たな世界(物語)は始まってる。けども未だ馴染み切っていないこのままの君の魂じゃあ、子羊ちゃんの体は成長に耐えられず早々に限界を迎えて壊れてしまうだろうね。』

 

 

そう言って、アタシを優しく抱きしめていた声の主はゆっくりと離れて行く。アタシには見えないけど、小さく聞こえる足音から何となくその人はアタシの前へと移動した様な気配がした。

 

 

『その僅かにズレた綻びを俺が繋ぎ直そう。本来余り干渉するのは主義じゃ無いんだけど、可愛い可愛い俺の子羊ちゃんの為さ。』

 

 

その言葉と共に光の玉が輝き出す。蛍の様な淡い光だったものがまるで小さな小さな太陽の様に明るく力強く鮮明に。

 

暗闇に慣れていたアタシは唐突な輝きに思わず目を瞑ってしまう。それでも瞼越しに見える位に明るく輝いているその光は次第に小さくなって。思わずアタシが目を開けてしまうと光の玉があった所には小さな宝石の様な結晶が1つ。

 

 

『フフッ…………綺麗な結晶になったね。さぁ子羊ちゃん、君の片割れを返そう。』

 

 

ゆっくりとアタシの前へと戻って来た淡い虹色の光を放つ結晶を、アタシはもう2度と離すまいと両手で胸に抱きしめる様に優しく結晶を握りしめる。

 

手のひらから感じる結晶の温もりはぽっかりと空いたアタシの心を安心感で満たしてくれる様で、今までアタシを蝕んでいた不安と焦燥、そして恐怖は胸に抱いた虹色の結晶が綺麗さっぱり拭い去ってくれた。

 

 

『少し妬けるなぁ…………でも、その2度と失いたくないという感情はきっと君の因果故のなのかもしれないね…………』

 

 

何か声の主は呟いた気がしたけれど、アタシは虹の結晶に意識が向いていたので何と言っていたのか分からなかった。

 

 

(お帰り…………なさい…………もう、アタシを置いて行かないでね…………)

 

 

アタシはそう虹色の結晶に呟いた。それはまるで大切な家族に話す様に、愛している人に願う様に…………何でそう話しかけたのかアタシにも分からない。けど、どうしてもアタシはそう伝えたかった。

 

そうしてアタシが結晶に伝えた瞬間に、胸に抱いた暖かな虹の結晶はアタシが両手で抱いているにも関わらず先ほどよりも眩しい光を発してくれた。眩しいけれど嫌じゃない、キラキラとしたお星さまの様な優しい輝きを。

 

虹色の結晶が光輝いたのはほんの僅かな時間だったけど、何となくアタシにはあの結晶がアタシの中に戻って来てくれた気がした。

 

 

『フフッ随分と凛々しくなっちゃって。2人で1人、君達にはその魂がとても良く似合っているよ。』

 

 

光がおさまった後、アタシが抱いていた虹色の結晶は両手の中から無くなっていた。けど確かにアタシの内に帰って来た事が感覚として分かったからアタシはそれほど取り乱したりはしなかった。それよりもアタシが気になったのはアタシ自身の恰好。

 

さっきまでは気を失う前と同じトレセン学園の制服だったはず。なのにアタシはいつの間にか見た事も無い衣装へと変わっていた。

 

 

「え、あれ?…………服が変わった?」

 

 

焦げ茶色のロングブーツに左脚にだけ巻かれた真っ赤なベルト。

 

派手過ぎず、さりとて地味過ぎもしないほど良い色合いに染められた黒いジャンパースカート。

 

スカートの中にはフリルの付いた赤のインナースカートが少しだけ裾から顔を覗かせ、袖に赤と緑の縞模様が入ったクリーム色のパフスリーブのブラウスが。

 

そしてなにより胸元で目立つ赤と緑のストライプ柄のおっきなリボン。そのリボンに白字の筆記体で書かれた『N.N』の文字。その文字はきっとアタシのイニシャルで、赤と緑のストライプ柄と合わさって不思議な既視感と共に愛おしさが胸の内から湧きたってくる。

 

見た事も、着た事も無いはずの衣装なんだけど、何故か無性に懐かしくて気合が入る様に感じるのはなんでだろう?正直お洒落なんて今までアタシはあんまり興味は無かったけど、アタシの好きな赤と緑の2色が差し色に入っているからなのか、はたまたあの『N.N』の文字が入っているからなのか…………この衣装は着ているだけで不思議と昔から着ているかの様な、寧ろここ一番の()()()では着ていて当たり前だったかの様な、そんなよく解らない感情をアタシは感じてしまった。

 

 

『さて、そろそろお別れの時間だ。』

 

 

服を撫でたり摘まんだりして確かめていたアタシに声の主はそう語った…………と同時に、暗闇に染まるこの世界に重々しく何かが擦れる様な音が響き渡り、アタシの目の前に光が溢れ出した。

 

最初は細く縦長だった光の筋は、響き渡る音に合わせる様に少しずつその光の幅を広げて…………何時しか細かった光の筋はまるで巨大な光の壁となってアタシの前で佇んでいた。

 

 

『その光の先へと進んで行けば君は元の世界へと帰れるはずさ。』

 

 

まるで舞台の終幕を告げる様に、声の主は私にそう言葉を告げる。

 

 

『元の世界へと帰れば君は此処での事を殆ど覚えていないだろうけど、これだけは言っておくよ。』

 

 

『俺は、俺達3人は君達ウマ娘全ての走った軌跡を必ず見守っている。例え華々しい物語でも、例え辛く苦しい物語でも…………俺達からは干渉する事は殆ど無いけれど、それでも俺達が今を生きる君達の傍で見守っている事は…………』

 

 

『どうか忘れないでくれ。』

 

 

ガサリッ…………とアタシの足元で何かが擦れるような音が鳴った。視線を足元へと移してみるといつの間にかアタシは無意識の内に立ち上がっていたらしく、肩幅に開いている両方の脚に力を込めて見えない芝の様な地面を踏みしめていた。

 

いや…………力が入っていたのはアタシの脚だけじゃない。

 

アタシの両方の手は痛い程に握りしめられていて、ギリギリと軋む歯も、微かに口内で感じる鉄の味も、そして微かに震えるこの体も…………どれもこれも声の主が言葉を紡ぐ前には確かに感じていなかった感覚なんだ。

 

 

「…………何様のつもりだよ。」

 

 

目が覚めたら謎の世界に連れて来られていて、訳も分からないアタシから大切なものを奪おうとして、挙句の果てに因果がどうの運命がどうのと一方的に声の主は言ってくる。

 

何処までも傲慢で不遜で上から目線で。まるで自分が世界の支配者か神様にでもなったつもりなのかと、アタシからすれば理不尽以外の何物でもない声の主の対応にそうアタシは小さく声を漏らした。

 

足元へと俯いていた視線を睨む様に正面へと向けた。何となくだけどアタシと光の壁、その間に見えないけれど確かに声の主が居るような気がしたから。

 

 

「勝手にアタシを此処に連れてきて、勝手にアタシを弄って、一方的に訳も分からない話を聞かせて来た挙句『忘れないでくれ』だって…………」

 

 

プチプチと頭の血管が切れる様な音が聞こえる。きっとアタシの耳をはた目から見れば見えなくなる位に倒されているに違いない。

 

怒り。そうきっとこれは怒りだ。

 

此処へと連れて来た声の主への怒り。アタシから大切なモノを奪おうとした声の主への怒り。因果だとか運命だとか、まるでアタシ達の()()()()()()()()()かの様な訳も分からない話をする声の主への怒り。

 

そして何より…………声の主が語ったその意味が何となくだけど理解出来てしまい、思わず感情を制御できず爆発させる()自身への怒り。

 

 

「ふざけんな!!」

 

 

見えない声の主に向かって、アタシは心に溜まった重い泥を吐き捨てる様にそう声の主へと叫ぶ。

 

 

「何が因果の鎖だ!何が運命だ!何が可能性の光だ!」

 

 

アタシの叫びはまるで感情を上手くコントロール出来ない幼子の様で、抑えようとする理性とは裏腹にアタシの口が閉じてくれる事は無かった。

 

 

「そんな曖昧なものなんて知った事か!アタシはアタシなんだ!

 

お袋から生まれて、商店街の皆に面倒見て貰って!成り行きとはいえトレセン学園に行く事を決めたのは他でもないアタシだ!

 

因果に縛られてるんじゃない!運命に決められているんでもない!

 

他でもないアタシが!ナイスネイチャが自分で決めて歩いて来た道なんだよ!」

 

 

テンポイントさんと知り合ったのも、ルドルフ会長と語り合ったのも、ライアン達と友達になったのも、沖野さんとの本音も、シリウスとの問答も!

 

全部が全部アタシが選んだ選択だ。それを声の主は運命を切り開くだと?可能性の光だと?ふざけるな。

 

 

「アタシの夢はトレーナーになる事で、その夢は他の誰でも無いアタシだけの物語(キラキラ)だ。因果だとか運命なんて、噛みついてでも絶対辿ってなんかやるもんか。」

 

 

アタシは声の主へとそう言って、大きく右足を1歩前へと踏み出した。この踏みしめた芝へと食い込む蹄鉄の確かな感触は、アタシの進むべき道が此処にあると深くそして揺ぎの無い物だと、そうアタシ自身に教えてくれるから。

 

勿論目指すのはあの光の壁の向こう。声の主の言う事を信じるのならば、あの門の様な光の先はアタシが戻るべき場所へと続いているはずだから。

 

1歩脚を踏み出すごとに近づいて来る光の壁は少しずつアタシの視界を覆って暗闇の世界を眩しく染めて行く。視界の忙しさとは裏腹に、耳に入って来るのはアタシが踏みしめる足音だけ。

 

そうやって門の様な光が目の前まで近づいて来た時、微かに深く息を吐いたかの様な、そんな息遣いが聞こえた。理性の方は兎も角、先ほどまでの興奮からクールダウン出来ていないアタシの体は未だ浅く早く呼吸を続けているからアタシの吐息では無いし、そうなればアタシの耳が聞いたその音はきっとアタシ以外にこの世界に居るもう1人。声の主以外に他ならない。

 

声の主が吐いたと思うその吐息に込められた意味は感情を制御出来ず吼えたアタシへの呆れなのか。はたまた何某かアタシの言葉が琴線に触れたが故の安堵の吐息なのか…………

 

 

(まぁ…………アタシには関係ない…………か。)

 

 

幾分か冷静さが戻って来た頭でアタシはそう結論付け、また1歩光の中へと脚を踏み出す。光の中は例えるのならば先ほどの世界とは真逆と言えば良いのか、真っ暗だった世界が一変、辺り一面が白く光り輝いた不思議な空間。

 

しかしこの空間が眩しいかと言えばそう言った事も無く、どちらかと言えばLEDとかの光よりも白熱電球とかの様な暖かな光に近い気がする。

 

 

 

いや、というかそもそもの話だけども、あの声の主は一体誰なんだ?

 

 

 

 

こんな変な世界といい、あの意味深な言動といい、しまいにはアタシの体から出たあの光の玉といい…………まるで一般的な常識というものが当てはまらない気がする。

 

多分、というかまず間違いなく、アニメや漫画などに出てくる様な稀代のマジシャンや世紀の大怪盗でもこんなバカげた世界や事象を行う事など出来ないと思う。もしこんな事が出来るとするならばファンタジーに出てくる様な魔法使いや、それこそ神様の様な存在だろうか。

 

 

(あれ、そう言えば…………アタシが最後に居たのって確か3女神様の像の目の前だった様な………)

 

 

色々と考えている中でふと、神様という単語からアタシは記憶にある限り最後に居たであろう場所を思い出す。もしこれが恐らく3女神様の像の前で倒れたのだろうアタシが見ている夢ではなく現実の出来事ならば…………もしかして声の主の正体は…………

 

 

(いやいやいや…………ないないない!それに喋り方的に3人じゃなくて1人だからまず絶対にありえないって!)

 

 

思わず想像してしまった声の主の正体について、アタシはフルフルと頭を横へと振り考えてしまった内容を問答無用で頭からアンインストールした。だってもしアタシの考えが当たってしまっていたならば、アタシは神様に啖呵を切ってしまった何とも罰当たりなウマ娘という事になっちゃうのだ。

 

 

(…………いやぁ、やっぱり謝った方が良いのかなぁ…………なんて。)

 

 

ありえない…………とは思うのだけど、やっぱり謝った方が良いのかなぁと考えてしまっていたアタシの脚から唐突に力が抜ける。いや脚だけじゃなく腕や腰、体全体から力が抜ける感覚と共に暗く歪んでいく視界は何とも既視感のある感覚で。

 

 

(またこれ…………)

 

 

此処に連れて来られた時と同じ貧血や立ち眩みの様な感覚に耐えられず、アタシは倒れる様に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………気が付いた時、重い瞼を開いて瞳に映ったのはこの1年で随分と見知った知り合い達の顔と見知らぬ部屋だった。

 

 

「…………知らない天井だ。」

 

 

「ネイチャ!気が付いたか!?」

 

 

思わずお決まりのセリフを吐いた()にルドルフ先輩は焦った様にそう問いかけて来た。ゆっくりと少しグラつく視線を横へと向ければ私の手を両手で握り締めていたルドルフ先輩が見えて、その後ろにテンポイントさんにシリウス。出入口と思われるドアの近くには沖野さんにおハナさんまで居る。

 

 

「…………私は…………というか此処は?」

 

 

寮でも無く、学校の保健室でも無い見知らぬ部屋のベッドに寝かされているという状況に私は困惑しながらそう口を開けば、少しだけ安心した様な顔付きで優しくテンポイントさんが答えてくれた。

 

 

「ここは病院さ。君が広場で倒れているのを見つけてくれた人が居てな。意識も無く、一時は酷い発汗や呼吸も乱れていたから救急搬送されたんだ。」

 

 

「そうだったんですか。」

 

 

「まぁでも、直ぐに落ち着いたしこうやって君は意識を取り戻したんだ。私としては今はそれだけで十分さ。」

 

 

そっとテンポイントさんは私の頭を撫でてから、仕事を抜けて来たので遅れない内に戻るよと私に一言告げて部屋から出て行った。続くように沖野さんやおハナさんも出て行ったので随分と忙しい中でわざわざ時間を作って来てくれていたのだろう。

 

それにしても意識を失って倒れたとは…………私としてはきちんと自己管理していたはずだったのだけど、もしかして無意識に無理をしていたのだろうか?

 

外を見れば既に日は傾き、西日がカーテン越しに室内を朱色へと染めている。シリウスと別れたのが昼過ぎ辺りだったのを考えれば、少なくとも数時間ほど私は意識を失っていたのだと分かった。

 

 

「起きるな、今は落ち着いているとはいえ少し前まで酷い状態だったんだ。」

 

 

未だ部屋に残っているルドルフ先輩とシリウスに失礼かなと体を起こそうとした時、いつの間にか近づいていたシリウスに体を押されて私は再びベッドへと上半身を沈める事になった。

 

 

「けど…………」

 

 

「良いから今は寝ておけ。お前が休んでいないとそこのライオンも安心出来ねぇだろうが。」

 

 

シリウスは薄く微笑みながら、寝かされた私の体に布団をかけ直した。何というかその微笑みといい上半身を起こそうとして乱れた布団をかけ直してくれた行動といい、普段笑みと言えば不敵な笑みしか浮かべない様な何時ものシリウスとは似ても似つかないどころか、真逆の態度に唖然としてしまった。

 

このウマ娘は本当にシリウスシンボリなのか?と、思わず当人に言えば失礼極まりない事を思ってしまう。それほどまでに今のシリウスの行動は普段の態度とはかけ離れたものだった。

 

 

「ふふ…………そう驚いてやるな。流石に私もライオン呼ばわりされて思う所もあるが…………なに、シリウスにも少し思う所があるのだ。」

 

 

未だ私の左手を握っているルドルフ先輩がぎこちなく少しだけ笑って、どうやら顔に出ていたらしい私の疑問に答えてくれた。視線をシリウスへと移せば先ほどの微笑みは何処へやら、少しバツが悪そうに、というか苦虫を噛み潰したかの様な表情だった。

 

 

「えぇ…………」

 

 

思わず困惑した声を出してしまった私に、シンボリ家のお2人は何も言わなかった。ただただ無言で私の手を握り締めるルドルフ先輩とその隣で佇むシリウス。静けさとほんの少しの医療機関独特の鼻につく少しの薬品臭さがこの部屋、というか病室に居る3人を包むだけ。

 

何とも形容し辛いこの空気が居た堪れなくて、私は何とか話題を作ろうと寝起きの頭をフル回転させる。

 

 

「そ、そう言えばですけど…………私が倒れた理由って何か分かったんですかね?」

 

 

「いや、お前が倒れた原因はまだ解っちゃいねぇよ。医者は恐らく過労だろうとは言ってるが一応念の為にこのまま入院して、明日精密検査をする予定だそうだ。」

 

 

「そう…………じゃあ流石に今日は寮には戻れないね。」

 

 

「「当たり前だ。」」

 

 

息ピッタリで私の言葉にそう返して来た2人。その様子に少しだけ私は笑みが零れた。

 

何となくだけど、体の方は倒れる前より軽く感じる。不思議なもので、先ほどまで自己管理の甘さと皆への申し訳無さで気分が沈んでいたはずなのに一度この軽さを自覚すると、まるで体がウズウズと走りたがっているかの様な違和感を感じてしまうのだ。

 

この疼きが良い物なのか…………それとも悪い事の予兆なのかは分からないけど、実馬のナイスネイチャは現役時代だけでも6度の故障を経験しているのだ。その事を思い起こせば、例え今私自身が体が軽く不調を感じていないと思っていても暫くは安静にする他ないだろう。

 

少なくとも、既に私自身が自己管理出来ていない事が倒れてしまった事で露呈してしまっているのだからここは我慢である。

 

 

「………………それにしても。」

 

 

「ん?どうしたネイチャ?」

 

 

「あ、いえルドルフ先輩。何でも無いですよ?」

 

 

少しだけ漏れてしまった私の声にルドルフ先輩が反応してしまい、私は慌てて何でもないとルドルフ先輩に訂正した。

 

 

(それにしても…………なにか不思議な夢を見ていた気がするなぁ…………)

 

 

体から力を抜いて私はより深くベットへとその身を預けながら、ルドルフ先輩とシリウスの2人に聞こえない様に心の中でそう呟いた。夢の内容は覚えていない。それはもう綺麗さっぱり思い出せないのだけど、不思議と夢を見たという実感だけは確かに私の中に残っていた。

 

 

(感じたのは安らぎか、悲しみか、喜びか、怒りか…………それに何故かこれだけは覚えている『見守っている』という言葉。自分が言ったのか、夢に出て来た誰かが言ったのかも分からない何ともチグハグでぐちゃぐちゃで、何の纏まりも無い様な変な夢だった気がする。)

 

 

はてさて、こんな不思議な体験なんてアニメでもアプリでもこんなエピソードやイベント何てなかった気がするけどどうなんだろう?

 

小さく欠伸を漏らしながら私はそんな事を考えるけれど、結局の所何にも思い当たる事は無かった。

 

 

「では名残惜しいが、私達は此処で失礼するとしよう。ネイチャ、また明日見舞いに来るよ。」

 

 

本当に名残惜しそうにルドルフ先輩がそう言ってシリウスを引き連れて立ち上がった。シリウスもここが病院だからなのかもしれないけど、ルドルフ先輩に何か言うでもなく素直に従っているのを見ると本当に不思議である。

 

 

「お前の荷物は私とルドルフで部屋まで運んで置いた。ウマホは横の机の引き出しの中だ。」

 

 

「そっか、有り難うシリウス。」

 

 

「あぁ、それとこの病院は全面禁煙だ。アロマシガーとはいえ例外は無いから我慢する事だな。」

 

 

「流石にこんな状態で吸いに行く訳無いでしょうが。」

 

 

「ならいいさ。精々ゆっくり休むんだなた・び・び・と・さ・ん

 

 

「はいはい、1等星さんも門限まで時間はあるけどもう暗くなるんだから気を付けなさいよね。」

 

 

私はベッドに横になったまま、せめてこの位はと病室から出て行くルドルフ先輩とシリウスに小さく手を振った。

 

さて、2人が帰ってしまえば明日まで1人で過ごさなければならないのは暇でしょうがないだろうが、シリウスに言った手前大人しくしていないといけないなぁ。というか、ルドルフ先輩?帰るんですよね?何でドアの前で立ち止まっているんですか。

 

 

「シリウスとネイチャが渾名で呼び合っている…………だと!?」

 

 

あの…………そんないつの間に!?みたいな顔をされても困るんですけど。あ、シリウスのやつ勝ち誇ったかのようにルドルフ先輩に笑ってやがるし…………

 

さては最後の最後にそれを狙っていたんだなシリウスめ!

 

 

 

 

 

 






まぁ多分今回のは賛否両論あると思いますが…………

私としては最初は普通に因子継承ネタで作ろうと思って書いてたんですけどね、書いて行くうちにあーでもない、こーでもないと書いては消してを繰り返していくうちにこうなっちゃいました。

だって普通、因子継承にヒト息子ソウルが入り込んだらエラー吐かない?とか思いません?

多くの二次創作があるって事はそれだけウマ娘の世界も枝分かれしているはずだし、その中でも覆せない史実ネタを因果や運命って事にしとけば作品に落とし込みやすいかなとか……


…………何かを作品として生み出すってホントに大変だなぁって半ば心折れながら書いてました。

次回もなんとか頑張ります。


シガーネイチャのジュニア期以降の進路

  • ルドルフ先輩に続け無敗三冠
  • いやいや、トリプルティアラこそ至高
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