キラキラの一等星   作:ミヤフジ1945

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いろいろ他の小説を読んでたんですけど…………

もしかしてこの小説ってそこそこ評価高めな感じ……ですか?

いやまさかそんな事無いですよね?


第37話

 

 

暖かな4月の春の日差しとは裏腹に、今日この場所だけは一段と熱く燃える様な熱気がトレセン学園のターフを支配していた。

 

何時もならば優しく体を拭き抜ける春の風も、今は踏みしめられ千切れ飛んだ芝の葉が風に乗って漂い、踏みこまれ巻き上げられたダートの砂が淡い黄砂の如く空気を沸かせている。

 

燃え滾るウマ娘達の熱気によって実際よりも遥かに暑苦しく感じるこの場所は、進級した2年生一同最初の苦難の関門として熱く、それでいて凍てつくかの様な圧迫感を醸し出している。

 

今日、このターフで行われるのは第1回目の選抜レース。2年生、そして3年生が担当トレーナーを求め、そしてトレーナーは輝ける原石を見つけてスカウトする場、その最初の選抜レースだ。

 

そんな中で私が何をしているのかと言えば、外ラチ沿いにある観客席(を模したただの休憩ベンチだけど)でのんびりとこの日1日行われる選抜レースを眺めていた。

 

 

「いやぁ…………走れるって羨ましいですなぁ…………」

 

 

太腿に腕を立て、頬杖をついてレースを眺めている私は思わずそう独り言を呟いてしまった。

 

退院後の経過観察や成長痛がヤバイ本格化の最中だから出走出来ないのは仕方がないし、また昨夜(実際には今日の午前2時くらいだけど)の件もあってこうやって他人が走る姿を見て学べることが無いか探すのもトレーニングの1つだと頭では割り切れてはいるのだけど…………

 

やはりと言うべきかなんというべきか理屈と衝動と言うのは別だと言いはるかの如く、本格化の始まりによって多少落ち着いていた私の走りたいという疼きが少しずつ沸き上がって来るのだ。

 

時刻は既に昼を回り、既に短距離の1200メートル、マイルの1600メートルでの選抜レースは終わっている。私の知り合いの中ではエアグルーヴとスズカがマイル1600メートルでそれぞれ出走していたのだけど、やはり流石ネームドウマ娘と言うべきか…………エアグルーヴは安定の先行1バ身勝利。スズカもまぁいつも通りの先頭民族っぷりを発揮して3バ身差の勝利と、同レースに出走していたウマ娘達とは頭1つ抜けた実力を発揮していた。

 

もっとも、私が見ていたのはレース中の彼女達であって、その後にエアグルーヴやスズカにスカウトが来たのかどうかは未だ知らないし、連絡も来ていない。私としては男であれ女であれ彼女達に寄り添って導いてくれる様なトレーナーが付くことを祈るだけだ。

 

そしてこれから始まるのは中距離2000メートルの選抜レースだ。此処にはライアンとフラッシュ、そしてシリウスの3人が出走する事になっているが…………正直言って羨ましい。

 

 

「やぁネイチャ。隣座ってもいいかな? 」

 

 

唐突に、後ろからそう声を掛けられた私が声の方へと顔を向ければ、普段の制服姿とは違うジャージ姿のテンポイントさんがそこに佇んでいた。

 

 

「どーぞどーぞ。テンポイントさんも選抜レースの見学ですか?」

 

 

「それでは隣に失礼するよ。ほら、これは土産だ。」

 

 

退院してからというもの本格化騒ぎも相まってあまりテンポイントさんとゆっくりお喋りする時間が無かったので、私は少しだけ嬉しくなってテンポイントさんへとそう返した。

 

テンポイントさんから差し出されたペットボトル。受け取ると手のひらに伝わる温かさが心地良いホットの飲み物を頂きながら、私は少しだけベンチからズレる様に人1人分のスペースを開けた。

 

私の隣へとテンポイントさんが座り、そのまま何気なくレース場のターフを見ていた。つい先ほど終わった何回目かの選抜レースに出走した娘達が残っているターフを2人でのんびりと眺めると、あるウマ娘はトレーナーからスカウトを受け、またあるウマ娘はスカウトこそ来ないものの自身の走りに確かな手ごたえを持って、そしてまたあるウマ娘は悔し涙を吞んでターフから去って行く様子が遠目でもよく分かった。

 

 

「体の調子はどうだ?たまたま先ほど会ったルドルフから聞いたが随分と重いのだろう?」

 

 

少しだけ心配そうに私へと視線を向けながらそう口を開いたテンポイントさん。どうやら私が居ない間にルドルフ先輩が伝えていたらしいが、まぁ今更隠す事も無いし私は素直に肯定した。

 

未来の皇帝(こうてい)の話に肯定(こうてい)…………ふふっ。

 

 

「えぇまぁ…………夜中は成長痛で滅茶苦茶痛いんですけど昼間は痛みも引いてますし、終わった後に何処まで成長しているのか楽しみでもありますよ。」

 

 

「そうか。私も本格化は少し重い方だったがネイチャほどでは無かった。ショウのヤツなんかは本格化に気づいてなかったくらい軽かったしな…………」

 

 

思い出すかの様に溜息を吐きながら空へと視線を移したテンポイントさんに、私は思わずあぁやっぱり私の本格化は重い方なんだと再確認させられた。

 

まぁ、今夜からは大人しく痛み止めも飲むようにして本格化が終わるまで待つしかない。そう思って小さく溜息を吐くと、何を思い出していたのかは知らないが同じ様に溜息を吐いたテンポイントさんとタイミング良く被ってしまいきょとんと2人で目を合わせた後に思わず笑い合った。

 

 

『まもなく、選抜レース中距離2000メートル部門を開始します。第1レース出走者はゲート前に集合して下さい。』

 

 

アナウンスが流れ、僅かながらターフに選抜レースを見に来ていた周りの人達に活気が戻って来る。なにせトレーナーもウマ娘も誰もかれもが目指す華のクラシック、そのメインである日本ダービーもオークスも共に中距離でのレースだ。

 

より才能のあるウマ娘をスカウトする為に、自身のライバルを見極める為に、どうしても中距離の選抜レースは注目が集まりやすいのだから仕方ないとは思う。

 

 

『第1レース、出走者の紹介をします。1番ミニキャクタス、2番デュオスヴィル、3番…………』

 

 

実況席から1回目の選抜レースの出走者の紹介がアナウンスされていく。はてさて私の知り合い達は一体何レースに出走するのやら…………

 

事前に出走レースくらい聞いておけば良かったとちょっとだけ後悔したものの、まぁこれはこれで良いかとのんびり待つしかない。

 

 

ピロリン! とテンポイントさんとのんびり待っていると唐突に私の制服に仕舞っていたウマホからそんな電子音が聞こえた。もぞもぞと、制服からウマホを取り出して通知を確認すると送り主は今回の選抜レースを走るはずのシリウスだった。

 

 

『おい、今日の第3レース。しっかり見てろよ?』

 

 

短くそう書かれた文章に、私は思わず笑みが零れた。

 

全く、レース前なのにウマホなんて触っていていいのかと注意すればいいのか、はたまた文章は兎も角として自分の走るレースをわざわざ教えてくれたことに感謝すれば良いのか…………

 

自信満々と言った顔を浮かべるシリウスが脳裏を過って、それが更に私の顔を緩ませる。

 

 

『はいはいちゃんと見てますよ~っと。

 

シリウスも、ウマホなんて触ってないでちゃんとアップするんだよ?』

 

 

『問題ねぇよ。これは慢心じゃなくて余裕ってやつさ。』

 

 

『ならいいけど、怪我しない様に楽しんでらっしゃいな。』

 

 

そんな感じで軽くシリウスと会話してから、私はウマホを再び制服へと仕舞った。

 

 

「どうしたネイチャ? 先ほどより嬉しそうだが。」

 

 

「いやぁ…………自信満々な1等星様がですね?しっかり私の走りを見てろよって連絡して来まして。」

 

 

テンポイントさんの言葉に私が笑いながらそう答えると、テンポイントさんも合点がいったのか少しだけ笑顔を見せた。実はシリウスもテンポイントさんと知り合いである。とはいっても直接話した事は少ないんだけど、何せほら…………シリウスはルドルフ先輩に毎日突っかかって行くからさ。

 

テンポイントさんと仲良くさせてもらっている私とルドルフ先輩経由でシリウスもめでたくテンポイントさんとお知り合いになった訳ですよ。

 

 

『さあ! 各バゲートインが完了しまして…………今スタートしました! 』

 

 

テンポイントさんと話している途中で、実況席からそんな声が聞こえた。

 

向こう正面から聞こえてくる地を駆ける多数の足音がまるで地鳴りの様に耳を震わせ、観戦しているトレーナーやウマ娘達は声を大にして声援を送り始める。

 

走る者、見守る者、声援を送る者…………それぞれ違うのに、まるでそれらが混ざりあいこのレース場を1つの生き物にしたかの様な熱い一体感がひしひしと私の五感を刺激し続けるのだ。

 

短距離戦もマイル戦もそうだったけど、走っている側に居ては分からなかったこの一瞬にして肌をゾワっと泡立たせる様な熱い一体感。前世のどんなスポーツでもこの熱量にはきっと届かないだろう。

 

 

『さぁ最終コーナーを抜けて各バ最後の直線へと向かって行く!中距離選抜1回目、1着を獲るのはどのウマ娘なのか!』

 

 

熱い空気を押しのける様に、6人のウマ娘がコーナーを駆けて行く。上手くコーナーを曲がって内ラチのスペースを開けない者が居れば、苦手なのか少しずつ外へと膨らんで行く者が居る。早めにスパートを掛ける者も居ればギリギリまで脚を溜めている者も居る。

 

各々が自身の出来る最大限を使ってコーナーを駆け抜けて、ラストの最終直線へと挑んでいく。

 

 

『先頭は依然としてデュオスヴィル! しかしその後ろから猛追して来るのは6番のナターレノッテ! 彼女の最後尾からの追い込み一気は炸裂するのか!? 』

 

 

最終直線に入ってより熱くなる実況をかき消す様に、6人12脚の脚はターフを蹴り上げて空気の壁を物ともせずに私達の目の前を走り抜けて行く。

 

 

『逃げ切れるのかデュオスヴィル! 差し切るのかナターレノッテ! 最後の直線勝負、勝つのはどっちだ! 差し切った! ナターレノッテ1着でゴールイン! 』

 

 

地鳴りの様な蹄靴の音を響かせて、私達の前を走り去った彼女達。僅か数秒にはその実況と共に割れんばかりの歓声がこのターフに響き渡った。たかだか選抜レースでこの盛り上がり、これが重賞…………それもG1レースになれば一体どれほどまでに盛り上がってしまうのか…………

 

アプリ、アニメでしか知らない(前世)も、テレビでしかレースを見たこと無い(今世)も、この生の声援と熱狂は初めての体験だった。

 

 

「素晴らしいレースだった。未だ未だ粗削りで、苦手を克服出来ていない娘も多い…………が、それでも1着の栄光の為に真剣に走る若人の走りは毎年そう思えてならない。」

 

 

「いやいや…………何言ってるんですか、テンポイントさんも十分若いじゃないですか。」

 

 

「なに、私にも色々と思う所が有るのさ…………ナイスネイチャ、君の走りにも期待しているよ?」

 

 

優しく微笑むテンポイントさんの言葉に私は思わず開きそうになった口をつぐんで曖昧な顔をするしかなかった。

 

言えない…………アンタが若くないならマルゼンスキーとかどうなるんだとか言えない。言ったら最後…………バレてしまえば私はタっちゃんで夜の峠へと連れていかれる未来が見えたから。

 

 

「さて、第1レースは終わったがレースはまだまだ続く。シリウスがどんな走りをするのか楽しみだ。」

 

 

「そ、そうですね。」

 

 

「ん? どうしたネイチャ? 」

 

 

「いえ…………ナンデモナイデス。」

 

 

湿気ったマッチに火を着ける時の様なもやもやを抱えつつも、私はテンポイントさんからレース場へと視線を戻した。

 

未だ次走の準備をしているターフを眺めながら、私は気持ちを切り替える為に小さく息をついてテンポイントさんから頂いたお茶へと口を付けた。

 

 

「…………ニッガ!? 」

 

 

余りの苦さに思わず顔を顰めた私。慌ててラベルを見ればそこに書かれていたのは『蜘蛛茶』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パタンっと、シリウスは自身のウマホを閉じてジャージのポケットへと仕舞った。

 

 

(楽しんで来てね…………か。)

 

 

つい先ほど短くも連絡を取っていた相手…………ナイスネイチャのその言葉を思い出してシリウスは不敵に笑った。

 

シリウスにとって、ナイスネイチャは超えるべきライバルでもあり夢を語り合った友人、そしてシリウスの原点を思い出させてくれた恩人でもある。勿論ナイスネイチャ本人の前ではシリウスは絶対に口を滑らせないだろうが、彼女が倒れた時は心配したし、目を覚ました時だって内心安堵の溜息を吐いていた。私が1年前のシリウスに語ってもきっと信じないだろう。シリウスは思わずそんな事を思ってしまった。

 

ナイスネイチャは不思議なウマ娘だ。

 

普段は余り他者と関わらず親しいウマ娘達としか話さない。コミュ障なのかと言えばそうでも無く、どちらかと言えばトレーナーや学年が上の先輩達との会話が弾んでいる事から会話が苦手という訳でも無い。

 

シリウス自身も、ナイスネイチャと話している時は時たま年上と会話している気分になる位には彼女の精神性というか、大人びた雰囲気を感じていた。

 

話している最中も『星の旅人』とか時たま詩的な表現を使って来たりと、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それはそれは後世に語り継ぐ語り部の様に、ナイスネイチャは語る事がある。

 

しかし一度スイッチが入れば、ナイスネイチャの纏う雰囲気は一気に強者のソレへと変わる。シリウスとしては余り思い出したくは無かったが、昨年初めてナイスネイチャと会った時の彼女の雰囲気は…………

 

そこまで考えていた所で、シリウスは少しだけ顔を横へと振った。兎も角として、シリウスにとってナイスネイチャというウマ娘は不思議なウマ娘であり、普段と走る時のギャップや振る舞いを全部含めてシリウスは彼女を認めている。

 

ナイスネイチャはおもしれー女である(不思議なウマ娘である)

 

だからこそシリウスは彼女を表舞台へと引きずり出したい。シリウスの夢は世界を取る事だ。自身こそ名前の通り1等星(スター)だと世界中に認めさせる事。

 

だからこそ、例えこの世界が物語のお話であったとして、その主役は私だと。シンボリルドルフでは無く私を見ろ! っと…………そしてそのライバルとして彼女を世界という大舞台のステージへと無理やりにでも引きずり出し、そう認めさせてやりたい。

 

シリウスはまた少し笑みを深める。自身のライバルで友人で恩人…………そんな彼女が世界の表舞台へと出た時どんな顔をするのか。どんな反応をするのか。

 

 

(あぁ、楽しみだ。)

 

 

不敵な笑顔を深めたまま、シリウスは内心でそう思う。

 

自身の選抜レースが始まるまで、まだ時間はある。シリウスはまるで獲物を狩る肉食獣の様な雰囲気を纏わせながら粛々とアップを済ませるのだった。

 

 

 

もし未来においてナイスネイチャがそんなシリウスの内心を聞いたならこう思うだろう。

 

 

(今まで友達が居なかったからってシリウスは友達への想いを拗らせ過ぎでは?)

 

 

実はこのシリウスシンボリ、ナイスネイチャが人生で初の友達だったのはここだけの秘密である。

 

 






そろそろレースしろよって怒られそうで怖い。

誤字報告、感想、何時も有り難うございます。

最近はNaval actionっていう帆船ゲームをずっとやってて中々執筆出来ませんでした。

だっていつの間にかクランの造船幹部になってて毎日クランの資材管理と造船のてんてこ舞い…………だったんです。

帆船ゲーって面白いですよ。時間が溶ける溶ける…………

シガーネイチャのジュニア期以降の進路

  • ルドルフ先輩に続け無敗三冠
  • いやいや、トリプルティアラこそ至高
  • もっと上を目指そう海外クラシック挑戦
  • 良いパワーしてるね?国内外ダート挑戦
  • その他
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