ギリギリ今月投稿出来ました…………
1歩脚を進める度に、彼女の鼓動は燃える様な熱さを体の隅々まで巡らせる。犬歯が見えるほどに深く切り上がった笑みは獰猛な肉食獣を彷彿とさせ、全身から溢れ出る闘志はプレッシャーとして無差別に近くに居たウマ娘達に無言の圧力をかけ続けた。
底の見えない、燃え盛る炎の様な闘志とは裏腹に釣り上がったヴァイオレットオレンジの瞳に灯されるのは見る者を硬直させるほどの凍てつく様な理性を宿した光。
彼女…………シリウスシンボリは競争ウマ娘として今出来うる中で最高のコンディションだと言えた。
例えるならば、周りのウマ娘が数打ちの刀であるならば、今のシリウスシンボリは名刀だろう。
和泉守兼定かもしれないし、虎徹かもしれない。孫六、正宗と受け手によって分かれるかもしれないが、今のシリウスシンボリはその名刀が鍔を鳴らしその研ぎ澄まされた刃を鞘から今か今かと抜かんとしている。
「やあ。」
「…………何をしに来たルドルフ。」
周りのウマ娘がシリウスシンボリが無意識に放っている威圧感から距離をおく中で、我関せずと涼し気に佇んでいたシリウスシンボリに声を掛けたのはシンボリルドルフだった。
「いやなに、従妹が初めて選抜レースに出走するんだ。最初くらい応援しにと思ってね。」
「そうかよ。」
「案外緊張しているかも…………と思っていたが、フフッ……どうやら私の杞憂だったようだね?」
微笑ながらそう告げるシンボリルドルフの言葉に、シリウスはハッと鼻で笑う。緊張? 私が? そんな物する訳無いと言わんばかりにシリウスシンボリは不遜で自信に満ちていた。
「見たら分かるだろルドルフ。少なくとも今日、この場において敵は居ねぇ…………主役はただ1人、この私だ。」
「確かにシリウス、君は頭1つ抜けた実力を持っているだろう。だが選抜レースの意味は担当を見つける事にある。
私は幸いにもおハナさんからスカウトを頂いたが、君の態度次第ではどんなにレースが強くてもスカウトが来ない可能性だってある。」
釘を刺す、と言うよりもどちらかと言えば従姉としてのアドバイスで口にしたシンボリルドルフの言葉に、シリウスはただ鼻で笑って返した。
シリウスシンボリの夢はシンボリルドルフに並ぶほど困難な道のりである。トゥインクルシリーズ、ひいてはURA史の始まりから今まで誰も成しえていない世界を取るというあまりにも高い夢の頂は、並大抵のトレーナーではまず萎縮して彼女と共に歩き、走ることすら出来ないだろう。
中には海外に行かせず国内で走らせようと夢を諦めさせようとするトレーナーも居るかもしれない。実力のあるシリウスシンボリを勝たせられなければ自身が世間から批難を浴びるかもしれないと恐怖してしまうトレーナーだって居るかもしれない。
シリウスシンボリが求めるトレーナーとは自身に従順なトレーナーか、もしくはどんなに正面から衝突しても共に夢へと目指してくれる心の強いトレーナーだ。シンボリルドルフがどういった心境で言葉を発したのかシリウスシンボリには分からないし、そもそもとして分かろうともしていないが、ただこれだけは言わなければと口を開いた。
「そもそも前提がちげーんだよ。私がトレーナーのスカウトを受けるんじゃねぇ、私が私に合うトレーナーをスカウトするんだ。
…………そこを履き違えるんじゃねぇよルドルフ。」
強い口調でシンボリルドルフにそう宣言したシリウスシンボリ。いや、シンボリルドルフだけではない。この場に居る他のウマ娘や声の届く範囲に居るトレーナー達にも聞こえる様にハッキリとそう口にした。
シリウスシンボリがただのトレセン学園の
彼女もまた、目の間にて佇むシンボリルドルフと同じくウマ娘の歴史に名を刻む
『中距離選抜レース、第3レースの出走者はゲート前に集合してください。』
シリウスシンボリの宣言によって生じた沈黙を破ったのは、ターフに響く実況席からのアナウンスだった。
「じゃあな…………良く見ておくんだなルドルフ、私の走りを。」
そうシンボリルドルフへと告げて、シリウスシンボリはゲート前へと去って行く。固まっていた他のウマ娘も、シリウスシンボリに遅れて慌てて移動を開始していった。
この場に残されたのはシンボリルドルフと、やや遠巻きに見ていたトレーナー達だけだ。
「フフッ…………君も変わったな、シリウス。」
シリウスシンボリが去った後、シンボリルドルフは呟く様にそう1人で呟いた。1年前のシリウスシンボリだったならば、トレーナーなんて誰でも良い自分1人で勝つ…………そんな事を言ったことだろう。
シンボリルドルフはゆっくりと元来た道へと歩き始めた。ひとまずは観客席へ、きっとそこに目的の人物が居るはずだと。
「シリウス…………君の走りにも期待しているよ。」
昔の思い出を思い出して、シンボリルドルフは届かぬともそう口を開いた。自身の昔の事なぞ
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『まもなく始まります中距離選抜レース第3回、出走ウマ娘の紹介をいたします。』
出走ゲート前に集まった6人のウマ娘達。緊張で震える者、生唾を飲み込む者、笑顔で周りにアピールする者など多種多様だが、全員が大なり小なり不安を持つ中でただ1人…………シリウスシンボリだけはその様な素振りが見えなかった。
『1番オクシデントフォー
2番タイムティッキング
3番フェアリーズエコー
4番デュオタージェ
5番テイクオフプレーン
6番シリウスシンボリ
以上6人のウマ娘です。』
1人、また1人と実況席に紹介されたウマ娘が係員に連れられてゲートの中へと入って行く中で、早くもシリウスシンボリは勝利を確信して笑みを溢す。
(どいつもこいつも体調管理すらなっちゃいねぇ…………)
シリウスシンボリが事前の調べによれば、1番のオクシデントフォーと2番のタイムティッキングと呼ばれたウマ娘が差し、3番のフェアリーズエコーが追い込みで、続いて4番のデュオタージェが先行、5番のテイクオフプレーンが逃げと、多用する作戦などは頭に叩き込んでいた。
しかし今目の前にいる5人のウマ娘のコンディションはどうだろうか?
1番のオクシデントフォーと2番のタイムティッキング、5番のテイクオフプレーンは緊張しすぎているのか体の動きが硬く不調気味、3番のフェアリーズエコーに至っては絶不調と言っても良いくらいにオロオロとしている。
唯一コンディションが良好そうなのが先行バである4番のデュオタージェ。笑顔で周りに手を振ってアピールしているのも彼女だった。
シリウスシンボリはトレーナーではない。友人のナイスネイチャの様にウマ娘のトレーナーになる気も無いからコンディションの悪化が何処までタイムに響くのかなどシリウスシンボリ自身の体感と今までの経験でしか分からない。
(一応念の為に4番を警戒しておこう。他は切り捨てて良いだろうな。)
脳内で警戒すべきウマ娘を浮かべながら、シリウスシンボリも係員に案内されてすんなりとゲートへと入って行った。ウマ娘の中にはゲート入りを嫌がる娘も居るが、今のシリウスシンボリはゲートに対して嫌いでも無いし、別段好きと言う訳でも無い。
小さい頃は狭いし暗いしと、泣きながらゲート入りを嫌がっていたシリウスシンボリだったが、シリウスシンボリの父親が仕事の合間を縫ってはシリウスシンボリの練習に付き合っていたからか、今ではとくにゲートに思う所はなかった。
『各バゲートに収まりました。まもなくレースがスタートします! 』
一瞬の静寂。
高ぶる闘争心を理性で制御しながら今か今かと待ちわびるシリウスシンボリが己の脚へと力を込めた瞬間に、目の前の鉄の扉が重い金属音を響かせながらその口を開いた。
『さぁ今スタートしました! 好スタートを切ったのは5番テイクオフプレーンと6番シリウスシンボリ! 3番のフェアリーズエコーは出遅れてしまったか? 』
目の前のゲートが開いた瞬間にシリウスシンボリは地を駆けた。やや遅れて隣のゲートに入っていた5番のテイクオフプレーンが逃げウマらしくシリウスシンボリを追い抜いて先頭を奪いにかかる。
シリウスシンボリは大人しく先頭をテイクオフプレーンへと譲った。シリウスシンボリとしてはここでテイクオフプレーンとハナの奪い合いをしても良かったのだが、そも今回のレースでは6人中4人がコンディションが不調でまともなレース展開になるとは思えなかった。
現に先頭を譲ったテイクオフプレーンは必死の形相でシリウスシンボリとの距離を離そうと加速を続けている。シリウスシンボリから見てもテイクオフプレーンが掛かっているのがよく分かった。だからこそシリウスシンボリはハナを譲り自身が最も得意であり、王道の先行抜け出しを選んだ。無理に奇を狙わなくても十分に勝てると踏んだからこその選択だった。
『まもなく各バコーナーに入って行くが未だ先頭は5番テイクオフプレーン!
続いて2バ身離れて6番シリウスシンボリとその内に4番のデュオタージェ。
その後ろ1バ身に固まって1番のオクシデントフォーと2番のタイムティッキング!
最後方のに3番のフェアリーズエコーです。』
コーナーに差し掛かり、シリウスシンボリは僅かに脚に力を込めた。遠心力によって外へと膨らみそうになる体を無理くり抑え込んだ。
コースの最短距離である内ラチ際は通れない。ちらりと左を見ればシリウスシンボリの後方内側に4番のデュオタージェが喰い込んで来ていたからだ。無理にでも内ラチへと寄せてしまえばシリウスシンボリが斜行判定を貰いかねなかった。
(チッ……やはり
内心で舌打ちしながらシリウスシンボリは今のポジションを維持するしかない。仕方なくシリウスシンボリは作戦を変えて、前を走るテイクオフプレーンが蹴り上げた芝や土の欠片に怯むことなくその真後ろへと僅かに自身を加速させた。
ピッタリとテイクオフプレーンの真後ろへと着いた途端に今まで感じていた風の壁が弱くなる。車のレースや競輪などで良く使われる、前を走る者を風よけに使い自身の負担を減らし速度も上げることが出来る所謂スリップストリームと呼ばれる技法だが、ウマ娘相手にスリップストリームを行おうとすると前を走るウマ娘が蹴り上げた土や芝、ダートならば砂を被る事になる。
飛んでくる土や芝をものともしない精神力、些細な相手の動きも見逃さない集中力。レースを走る距離が長くなればなるほど、それらが多大なストレスとなってスリップストリームに慣れないウマ娘は集中力を乱されていく。
無論の事、シリウスシンボリにはそんな事など関係なかった。飛んでくる土や芝をものともしない精神力など朝飯前であったし、些細な相手の動きも見逃さない集中力も、そもそもこれがレースである限りスリップストリームに限らず絶対に必要であることを良く理解していた。
コーナーも中ほどまで走り、シリウスシンボリは自身の脚に溜めていた力を徐々に解放していく。
例えるならば蛇口をゆっくりと捻るかの様に、スリップストリームの恩恵もあって普段より加速するシリウスシンボリの体。タイミングも上々、このまま加速すれば最終直線に入るギリギリで先頭を走る5番のテイクオフプレーンに並びかける事が出来るだろう。
一筋の汗がシリウスシンボリの薄く開いた口内へと流れ込み、乾き始めた口の中に薄っすらと淡い塩味が広がってゆく。だが、そんな些細な事などお構いなしに他のウマ娘よりも早くスパートを掛けたシリウスシンボリ。
否。シリウスシンボリにとってはスパートを掛けた認識などは無かった。ただ最終直線で仕掛ける為に位置取りを調整しているだけだ。だがその加速を他のウマ娘達の視点から見れば、それはシリウスシンボリが早めにスパートを掛けているとしか思えないほどの加速だったのだ。
恐らく、誰よりもシリウスシンボリの加速に驚いたのは恐らく4番のデュオタージェだっただろう。
目の前で一気に加速したシリウスシンボリを目にしてしまったデュオタージェはその闘志で吊り上がった目を丸く見開いて驚愕してしまった。
何せその加速は彼女のスパートとほぼ同等、このまま行けば掛かり気味に先頭を走っているテイクオフプレーンをスパートで抜く事が出来ると計算していたデュオタージェとしてはシリウスシンボリの行動は余りにも予想外だった。
テイクオフプレーンは兎も角、此処でついて行かねば最終直線でシリウスシンボリを捉え切れるか分からない。他のウマ娘達とは違ってきちんと自身のペースと周りの状況を把握していたデュオタージェはシリウスシンボリに着いて行くか迷った。
そう、迷ってしまった。
『最終コーナーももうすぐ終わり! 6番のシリウスシンボリがぐんぐんと加速して先頭のテイクオフプレーンへと迫って行く!
テイクオフプレーンも粘るがこれは苦しい! 2バ身後方の4番のデュオタージェも追う様に加速するがこれは苦しいか?
並んだ! シリウスシンボリが今5番のテイクオフプレーンを外から躱した! ここから先は最後の直線勝負! 勝つのは一体誰だ! 』
僅か数秒…………
デュオタージェがシリウスシンボリに続いて加速するか悩んだその僅か数秒で、シリウスシンボリは先頭を走っていたテイクオフプレーンを軽々と追い抜いていた。
予定通り最終直線の入り口で並び追い抜いたシリウスシンボリは僅かに口元で笑みを浮かべる。
(さぁ見ていろ、私の走りを! )
心の中でそう吼えたシリウスシンボリはスパートを掛けるべく先ほどの加速とは比較になど成らないくらいに自身の脚へと溜めた力を巡らせた。
その瞬間、シリウスシンボリの脚元が爆発した。
そう周囲が錯覚してしてしまう程に、深く蹴りこんだ彼女の脚がターフを抉りまるでダートの砂煙の如くその芝を土ごと蹴り上げたのだ。
『ここで一気にシリウスシンボリが仕掛けた! さっきまでの加速はスパートでは無かったのか!?
もはやこれは独走状態! 他のウマ娘は誰もシリウスシンボリに着いて来れない! 』
テイクオフプレーンを追い抜き、スリップストリームの恩恵が無くなった事で再び感じることになった強烈な空気の壁。普通ならば加速が鈍り最高速が伸び悩むはずのソレは、名刀『シリウスシンボリ』にかかればそんな壁などは関係ないと轟々と唸る風切り音を無視して、居合の如く溜めた脚でもって切り裂く様に加速し続けた。
「「む、無理ぃ~! 」」
風圧によって倒れていたシリウスシンボリの耳に、後ろで必死に追っていたテイクオフプレーンとデュオタージェの諦めにも近い悲鳴が聞こえた。
いや、テイクオフプレーンとデュオタージェだけじゃない。その更に後ろで走っていた残りの3人も同様だった。全力で…………己の限界ギリギリのスパートでもシリウスシンボリに追いつけないというその現実が、シリウスシンボリ以外の5人のウマ娘を嫌と言う程に苦しめていた。
「ふん……自己管理も出来ないくせに弱音だけは一人前かよ。」
シリウスシンボリが小さく放ったその言葉は風切り音に紛れて誰にも聞かれること無く消えて行った。シリウスシンボリからしてみれば、レースというモノは当日に始まるのでは無い。その前の段階、準備から体調から全て始まっていると考えている。
だからこそシリウスシンボリ自身も十全にコンディションを万全にしていたし、ギリギリまで見極めて走るウマ娘の中でも比較的コンディションが整っていると感じていた4番のデュオタージェを警戒対象にすることにしていたのだ。
準備も体調も何もかも不十分。レースに己の十全を尽くせないなど言語道断。他のウマ娘に対してそう切って捨てたシリウスシンボリは警戒も何も、最早彼女達なぞ眼中に無いと言わんばかりに更に加速した。
荒くなる吐息。流れ出る汗。轟々と一切その他を遮る風切り音。
その全てを振り切るかの様に、シリウスシンボリはただ間近に迫るゴールだけを睨み続けた。
『今6番のシリウスシンボリがゴールイン! 第3レースを征したのは見事な他を圧倒し末脚を見せつけたシリウスシンボリ!
2着は3バ身差で4番のデュオタージェ! 3着は僅差で2番のタイムティッキング! 』
ゆっくりと、シリウスシンボリはその脚を歩みへと変えて行った。走り終わり、仮設の掲示板を見ればそこには堂々と掲げられた
だが、シリウスシンボリに歓喜と言う感情は沸かなかった。
(勝って当然だった…………つまらねぇ。)
走り終わったことでドッと溢れ出して来た汗を無造作に腕で拭いながら、つまらなさそうにシリウスシンボリは胸中でそう呟く。
つまらなかった。
シリウスシンボリがこの選抜レースを走りきって感じた唯一の感情はただそれだけだった。
もし、第三者がシリウスシンボリの独白を聞いていたならば、競争ウマ娘として配慮に欠けると思うだろうか。
それとも、今回は運が良かったから勝てたのだとシリウスシンボリの勝利を疑うのだろうか。
初めての選抜レース。今後の運命を決める最初の関門。
確かに精神的にかなりの重圧があったのかもしれない。しかしそのことを差し引いたとしても、シリウスシンボリにとって今回のレースを走ったウマ娘達はつまらなかった。体調すら調整出来ない未熟さ、
少なくとも…………今も観客席でレースを観戦して居るであろう
残念ながら本格化の到来によって今回の選抜レースに出走していない自身の友人でありライバルでもあるナイスネイチャを思い浮かべたシリウスシンボリは、小さく頭を振って思わず思ってしまったことを否定した。
(…………考えても仕方ねぇ。今回はこれで納得しといてやるさ。)
ターフに背を向けて、シリウスシンボリは静かに選抜レースという舞台から降りて行く。
何せ選抜レース自体はただの切っ掛けに過ぎないのだ。選抜レースの目的は担当
レース前にシンボリルドルフに宣言した通り、シリウスシンボリは自身に合う
もっとも、シリウスシンボリの宣言を聞いていなかったトレーナー達に囲まれ、耳を絞って物凄く不機嫌になっていたシリウスシンボリをナイスネイチャが見かけたのはまた別の話だろう。
文章中の矛盾点とか改善点とか遠慮なく感想で指摘してください。
『つまんない』とか『おもしろくない』だけだと流石に辛いですけど、そう言った改善出来るご指摘は大切ですからね。
まぁ、その前に私は煙草の量を減らさなきゃですけど…………(執筆中だけで煙草2箱消費)
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