始めて食べた○○系ラーメンのまずさ(そのお店が不味かっただけなのか)とたづなさんの好物がラーメンという最近しった事実を悪魔合体させ
アルバイト中に思い浮かんだ指定味覚暴力団「豚骨拉麺会」という単語から生まれた番外編。
ただし、新シナリオはやってないので完全に広告での先入観しか知識がない……
とある日のトレセン学園にて。
私は自室にてうず高く積まれた段ボールの片づけ作業に追われていた。
1つ1つはそこまで大変ではない。
が、それが山と積まれれば話が別である。
「幾らウマ娘への仕送りだからって……これは流石にやり過ぎじゃありませんかねぇ」
何個目かの段ボールを片付けた時に、額に汗を流しながらそう思わず溢してしまった私は悪くないだろう。
この段ボールの山の送り主は私の実家……というよりも、私が育った商店街の皆からの仕送りである。
実際ほら……送り主の住所にも福岡県○○市○○町○○としっかり書いてある。
仕送りの中身は生活用品だったり、簡単な雑貨だったり。
少し凝ったものだと保存の利く地元の食べ物だったり、前に私が手紙にトレーナーになりたいと書いてしまった影響なのか、新品の専門書が入っていたり……
これは絶対肉屋のおっちゃんだし、あれは間違いなく八百屋のおばちゃんでしょ。
専門書も間違いなく本屋のじいちゃんだし……絶対高いでしょこの専門書?
「皆私のこと好きすぎかぁ?……なんちって」
苦笑いと共にそんな言葉が私の口から出る。それでもどうしても嫌だとか迷惑だとか思えないのは、同じくらい私も皆のことが好きなのだろう。
ゴソゴソとまた新たな段ボールを開きながら、そんなことを思う。
「およ?これはこれは……」
新しく開けた段ボールの中には幾つかのインスタントラーメンが入っていた。
アスリートであるトレセン学園のウマ娘にインスタントラーメンとは……と思うのだけど、見た瞬間に私の口内にじんわりと唾液があふれ出して来る気がした。
我らが九州民の友、マル〇イの棒ラーメンに袋麺のうま〇ちゃん、王道カップ麺タイプのサ〇ポー焼豚ラーメン……
くっ!……どれも私の好みを熟知している!
この麺たちを入れたのは絶っ対に我がお袋様である!
ありがとう愛してる!
「あぁやばい……胃が……胃がラーメンの気分になっちゃう」
思わずそんな言葉が出る。
何を隠そう私、ナイスネイチャは大のラーメン好きである。
しかも、大の豚骨細麺の過激派である。
ラーメンは豚骨こそ正義!
麺は細麺一択!
バリカタ、ニンニク、紅ショウガ。替え玉は当然。
塩ラーメン? 味噌ラーメン? 醤油ラーメン?
フッ……知らんな。
実に見事な過激派ぶりである。九州以外の全国のご当地ラーメンへ、盛大に喧嘩を売っている。
勿論、異論反論は認める。だが私の判決は変わらない。
深夜に食べる、翌日のことなど考えないニンニクと豚骨の暴力的な旨味!
休日の昼間に、必ず常備されている学生のお供!
その豚骨ラーメンが!我ら九州民愛用の!インスタントラーメンが!
今!目の前にあるのだ!
「段ボール片付けてる場合じゃない!今のあたしゃ体がラーメンを食べたいんじゃあ!」
そう叫んで、私はマル〇イの棒ラーメンをガシッと段ボールから掴み取った。
こうしてはいられない。早速スーパーに買い出しに行かなければ。
ただ食べるだけじゃ勿体ない。少し贅沢に、しかしなるべくお財布に優しくアレンジしなければ!
⏱
という訳で、もはやダービーの最終直線もかくやというスピードで近くのスーパーまで買い出しに出かけた私は、その成果にほくほくである。
まずは焼豚、またの名をチャーシュー。
小さな瓶詰にされたメンマ。
使い切りサイズのお徳用の海苔。
そして大切なニンニクチップと紅ショウガ。
残念ながら、私の好きな辛子高菜は売ってなかった。おのれ府中め……
「とりあえず、必要なものはこれでいいかな」
場所は安定のスピカの部室。
部室の端っこには邪魔だと押し込んだ沖野さん。
「さぁさぁやりますよ!」
ご機嫌にスピカの部室に備え付けられた水道からお鍋に水を注ぐ私に、沖野さんは何が何だか分からない様子である。
そりゃ本来なら今日はオフだったもんね私。
急に押しかけて悪かったとは思ってるよ……ごめんね沖野さん。
でもしょうがないじゃん?
流石に寮内で此奴を作ったらただのテロになっちゃうから……主にウマ娘のお腹に対しての。
仕送りがいっぱいとはいえ全員分有る訳じゃないのよ。
「と、いう訳でまずはお水を入れた鍋を火にかけます」
この時のお水は適当です。正確に計りたい人は計量カップで計って入れてくださいな。
コンロに火をつけて、沸かしている間に材料の下処理。
ごそごそと、レジ袋の中から焼豚を取り出して、
「まず焼豚を切ります」
厚さ?枚数?
「食べたいだけ切ります」
これが一番大事です。
ラーメンとは欲望の権化であり、煩悩の塊なのだ。
食べたいだけ食べる。それこそが正義であり、真理なのだから。
買って来た焼豚の約半分を、厚すぎず薄すぎずの大きさでスライスする。
次にメンマを――
「好きなだけ」
海苔を――
「好きなだけ」
ニンニクチップを――
「好きなだけ」
紅ショウガを――
「好きなだけ用意します!」
「……おいネイチャ」
「ほいほい、何でしょうか沖野さん?」
「おまえ、料理の分量を説明する気ある?」
「ありません」
「即答!?」
漸く状況を理解して来た沖野さんへと私はそう断言する。
「そりゃそうでしょう?」
「えぇ……」
そう断言した私の言葉に、沖野さんはがっくりと肩を落とす。
「だってラーメンのトッピングなんて好みじゃない?」
「そりゃ……そうだけど」
「なら食べたい分だけ、好きなだけ入れるのが正解でしょう」
「……まあ、間違っては……ないのか?」
「つまり私の説明は完璧なのです!」
「どこが!?」
そりゃ、普通に料理をするならある程度きっちりしますとも。
でも今回は既に完成されているスープに何か調味料を足す訳でもない。
何の問題もない……ヨシッ!
そう心の中で決めつけ、私はマル〇イの棒ラーメンを取り出す。
既に鍋に注いだ水はぐつぐつと煮立っている。
事前に用意したマイどんぶり(沖野さんのは私の予備だけど)に付属のスープの粉末を入れる。
調味油は最後に入れるからまだ入れない。
本当はお湯に入れて作るんだけど、我が家は昔からこの横着技が普通なのだ。
「さて、次は麺です」
二玉分の棒ラーメンを持ちながら、私は真剣な目で沖野さんへと視線を向ける。
「ここがラーメン作りにおいて最も重要な工程です」
「へぇ」
やはり棒ラーメンというのが珍しいのか、だんだん沖野さんも興味深そうに見ている。
「麺は――」
一拍置く。
「バリカタです」
「……」
「これは絶対です」
「好みじゃないの?」
「バリカタです」
「さっきまでと言ってること違わない?」
「麺に関しては別です」
「なんで?」
「麺だからです」
「理由になってないよ!?」
「というのは冗談で。細麺というのはほんの僅かな時間ですぐに硬さが変わってしまいます」
「あぁ……確かに昔食べた豚骨ラーメンも言われてみれば食べ始めとそれ以外じゃ結構違ったな」
私の言葉に、沖野さんは昔の記憶を思い出したかのように少しだけ納得した顔をした。
「ハッキリ言って伸びた細麺なんて美味しくないし、だからこそ替え玉なんて文化が生まれた訳で」
伸びて美味しくないから他地方の大盛りみたいな文化がない。そして態々もう一杯のラーメンを注文するのはお金も時間も非効率。だから替え玉という文化が生まれた。
素晴らしいよね。替え玉を生み出してくれてありがとう元祖長〇家さん。
そう心の中で感謝しながら、私は鍋へと二玉の棒ラーメンを突っ込んだ。
「よし」
コンロ横に置いていたストップウォッチを動かした。
「そういう訳で、普通3分茹でるところを私は約1分半にします」
「ここからは時間との勝負」
「え?」
デジタルの画面が忙しなく時間を刻んでいく。
時折菜箸で引っ付かないように棒ラーメンをほぐしながら、真剣にその時を待つ。
「今!麺を上げます!」
「早っ!そんなに急ぐのか!?」
「細麺は逃げウマ娘と同じく待ってくれません!」
麺を引き上げる。
すぐさま二つのどんぶりへ。
均等に分けたらそのまま熱湯をどんぶりへと移す。
ここで重要なのはスープの粉が玉にならないように最初は少量いれてかき混ぜること。
熱湯をどんぶりへと移すと、途端にスピカの部室の中に豚骨ラーメン独特のあの食欲を誘う香りが充満しだした。
あぁ、早く食べたい。
「スープよし」
小袋に入っていた調味油をそれぞれへと垂らす。
「麺よし」
チャーシュー。
それぞれ三枚づつ、どんぶりのふちへと立てかけるように少しずつずらしながら乗せる。
「よし」
メンマ二切れ。
「よし」
海苔も焼豚と同じようにどんぶりのふちに立てかけるように二枚。
「よし」
ニンニクチップ。小皿に準備済み。
「よし」
紅ショウガ。同じく。
「よし!」
最後に買い置きの白ごまを少々と、作り置きで冷凍していた切ったネギを乗せて……
「……」
沖野さんが呆然とこちらを見ている。
「何です?」
「いや……」
「うん」
「君、ラーメン作る時だけ別人みたいになるね」
「何を言ってるんですか。いつだって私は私でしょうが」
トレセン学園にラーメン屋が出来るわけでもあるまいし……
そんなことよりも、さあお待ちかねの時間だ!
二つのどんぶりと、ニンニクチップと紅ショウガの二つの小皿を机へと運んで、私は自信満々に沖野さんへと向き直った。
「さぁ!おあがりよ!」
⏱
「旨い」
頂きますと二人で手を合わせてから、ずるずるとラーメンをすする。
「でしょう?」
豚骨の奥深く、乱暴な味の暴力。
この豚骨の奥深く、乱暴なまでのこの旨味は……例えるならゴールドシップのような破天荒さと乱暴さを持っている。
それでいて、計算され尽くした企業努力によって1つの料理として成立しているこの味は、シンボリルドルフの走りにも似た理性の芸術である。
追加でスプーンで一杯ニンニクチップを入れてみれば、香ばしく食欲を促す香りと風味がもっともっとと……サイレンススズカの大逃げのように舌と脳を刺激する。
焼豚でしっかりとコシを残した細麺を包んで口へと運べば、肉の甘味と旨味が濃いスープを絡めた細麺との相乗効果で満足感がハンパない。
「紅ショウガが良い仕事するな……濃い味をすっきりさせてくれる」
「お?沖野さんも分かるようになりましたかぁ」
私は満面の笑みで頷いた。
「豚骨ってね、確かに味に癖があるしスープも濃いんですよ。だから苦手な人が居るのは分かっているつもりですよ?そこは人それぞれですから」
「でもだからこそ、こういう紅ショウガみたいな薬味がしっかり合うんです」
「なるほどなぁ」
「それにニンニクも重要です」
「もしかしてまだ入れるのか?」
「当然でしょう?」
私は小皿に盛っていたニンニクチップを指差す。
「最初から全部入れるんじゃなくて、少しずつ追加するんです」
「いわゆる味変ってやつか」
「そうそう」
言いながら、私は自分のどんぶりへスプーンでニンニクチップを追加する。
「最初は何も入れない状態で豚骨そのものの味を味わう」
ずるずる。
「次にニンニクを入れて上のステップへ」
ぱくり。
「そして口が濃くなったら紅ショウガ」
また一口。
「最後に両方」
「……」
「これが私の黄金パターンです」
「そこまで決まってるのか……」
「んふふ……ラーメンは奥が深いんですよ、沖野さん」
「ただのインスタントラーメンだよな?」
「何を言ってるんですか」
思わず箸を止める。
「インスタントだろうが店のラーメンだろうが、ラーメンはラーメンです」
「いや、そういう問題なのか?」
「そういう問題です」
断言する。
「そもそもインスタントラーメンというものはですね――」
「待て」
「はい?」
「その話、長くなる?」
「もちのロンです」
「……」
グッっとマルゼンスキーさんみたく両手でグッドのリアクションをした私に、沖野さんは思わず天井を見上げた。
「……食べながら聞くよ」
「物分かりがよくて助かります」
「どうせ止めても聞くだろ、おまえ」
「それもそうですね」
再び箸を動かす。
ずるずる。
「そもそもですね――」
「うん」
「九州のインスタント豚骨ラーメンというのは――」
「うん」
「家庭の味なんですよ」
「……家庭の味?」
「そう」
少しだけ声の調子が変わる。
さっきまでの勢いとは違う、どこか懐かしむような声音だった。
「私が小さい頃なんか、休日のお昼はこれでしたからね」
「へぇ」
何せ常備品といってもいいくらい買い置きがあるのだ。
「お袋が鍋を火にかけて、冷蔵庫にあるものを適当に乗せて」
熱湯に溶き卵を入れたり
刻みネギを少々。
そして最後に紅ショウガ。
「それで家族みんなで食べるんです」
「……いいな、それ」
沖野さんがぽつりと言った。
「でしょう?」
私も笑う。
「だから、こういうのを見ると食べたくなるんですよ」
段ボールの中に入っていた棒ラーメンを思い出す。
商店街のおばちゃんたち。
肉屋のおっちゃん。
八百屋のおばちゃん。
本屋のじいちゃん。
そして――お袋。
みんながそれぞれ「これも持っていきな」「あれも入れといたから」と詰め込んでくれた仕送り。
「……まあ」
私は少しだけ照れくさくなって、頭を掻いた。
「いわゆる故郷の味ってやつですかね」
「なるほどなぁ」
沖野さんはそう言って、もう一度ラーメンをすすった。
「うん」
「どうです?」
「旨い」
「でしょう?」
「でも」
「はい?」
「流石に替え玉までは食べきれないな……一杯で腹いっぱいだわ」
「おい食べ盛りの男が何を言うか」
私がそう言えば、もうそんな年じゃねぇよと沖野さんが答える。
そんなやり取りがなんだか楽しくて、2人して笑った。
「ちなみに、私のオススメはラーメン餃子白米の三点セットです。」
「聞いただけで胃もたれしそうなカロリーセットだなそりゃ」
「九州の男子学生はこれに替え玉が複数付きます」
「oh……すげぇな」
カラカラと。
ケラケラと。
何でもない話で笑いながら綺麗に私たちはラーメンを完食した。
流石に替え玉はしなかったし、少し凝ってしまった分、片付けが面倒だったくらいかな。
何時か、沖野さんを九州ラーメンツアーにでも連れて行こうか。
やはり私のマイフェイバリットラーメンである高菜黒豚骨(マー油の掛かったラーメン)を是非とも味わってほしいものだ。
そう思いながら、私の楽しく少し懐かしい休日は終わりを告げた。
また明日からトレーニングを頑張ろう。
後日談というか、今回のオチ。
どうやら沖野さんがハナさんや南坂さん、黒沼さんたち知り合いに今回のラーメン話しを自慢したらしい。
何だかんだ皆さんにはお世話になってるし、まだ在庫もあるからと日頃の感謝も込めて作ったのだけど……
その日からしばらくはなぜか視界の端に緑の悪魔が居るようになった。
そう言えばたづなさんの好きなものって確か……
…………
………
……
怖いから考えないようにしよう。
それと、バレないように口臭ケアも忘れずに。
ちなみに。
「ネイチャさんが作ったラーメン、とても美味しかったそうですね?」
「…………」
「私も、食べてみたいなぁ」
にっこり。
「………………」
残念ながら……逃げ場は、なかった。
グッバイ……私のマル〇イの棒ラーメン
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