トレセン学園の敷地には、東西の両端に生徒達の生活するための寮が存在している。トレセン学園の東端、つまり東側に位置しているのが美浦寮。そして西端、西側にあるのが栗東寮だ。
これは恐らくそれぞれの元ネタである美浦トレーニングセンターと栗東トレーニングセンターが東西に分かれていたのが由来だと思う。確か、美浦トレーニングセンターは茨城県、栗東トレーニングセンターは滋賀県だったと思う。それが上手く反映されて東西に分かれているのだろうが、正直利便性を考えると凄く生活し辛いと思うのは私だけだろうか。
いやまぁ、アニメでもアプリでも各寮の立地について詳細には判明していなかったはずなので果たしてこれがサイゲが考えていた設定通りなのか、最早確認することは私には出来ないのだけどさ。
そして、現在進行形で私が急いで向かっているのは東側の美浦寮である。
記憶が戻らなかった頃はこの入学案内に書かれた入寮案内に特に違和感も無く受け入れていたけど、前世の記憶を思い出してからそのことを考えると疑問符が浮かぶ。
何故なら原作のナイスネイチャは栗東寮で生活しているのだから。そして原作の原作、競走馬時代のナイスネイチャも栗東トレーニングセンターに入厩しているのだ。美浦寮にも美浦トレーニングセンターのどちらにも縁もゆかりもない。
原作知識から外れた事にかなりの不安感が漂うが、テンポイントさんにあそこまで啖呵を切ってしまった手前弱音を吐くことは許されない。というか私自身が許したくない。この世界がアプリ版ではないことはテンポイントさんと会って確信できたし、少なくともアニメ版もしくはそれに近いオリジナルの世界だったとしても今の私にはもう関係ない。夢に向かって突っ走るだけだ。
漸く美浦寮の玄関が見えてきた時、空は既に真っ暗だった。
「これは怒られるかなぁ」
たははぁ…………と内心苦笑を漏らしながら玄関をくぐれば、一人のウマ娘がたたずんでいた。
「遅かったね、待ってたよナイスネイチャさん。」
「あ、すみません!事情があって遅れてしまいました!」
「まだ門限まで時間はあるけど、ホントは初日から遅れるのは感心しないんだよ?
まぁ、今回はテンポイント会長から事情は聞いてるから大丈夫。心配しないで?」
制服の上から浅葱色のエプロンを着た鹿毛のフジキセキ、と言えば分かりやすいかもしれない見た目の彼女はそう言って微笑みながら私の頭を優しく撫でた。うんちょっとキザっぽい所とか可愛い系よりも宝塚系のかっこいい見た目と合わさって撫でる仕草がよく似合っている。あとエプロンのギャップが実にアクセントで、それがあるだけで彼女の雰囲気に何処か家庭的な温かさが含まれている。
「そうだ、自己紹介がまだだったね。私の名前はモンテプリンス。美浦寮の寮長をやっているから何か困ったことがあったら何時でも私に相談においで。」
「コヒュッ!?」
テンポイントさんが居たから多分美浦寮の寮長も原作通りのヒシアマゾンではないだろうなと内心思ってはいたが、まさかモンテプリンスが寮長をやっているとは…………
『太陽の王子 モンテプリンス』
TTGが引退した後、ミスターシービーやシンボリルドルフが現れるまでの空白期間にて活躍し中央を支えた名馬の1頭で、24戦7勝重賞5勝うちG1を2勝している。
ミスターシービーやシンボリルドルフ等のスターホースと比べ知名度はどうしても下がってしまうが、春の天皇賞や宝塚記念を勝ち取った名馬に変わりはない。因みに、異名の由来は蹄の形などの問題で道悪馬場を大の苦手としたことから「太陽の王子」と呼ばれる様になったそうだ。G1を取るまでは『無冠の帝王』とも呼ばれていたらしい。そこだけ聞くと少年漫画あたりのライバル枠で出てきそうな異名である。
…………流石中央トレセン学園、何処に行っても名バしか居ないのはヤバイ。競馬を知らなくてもちょっと調べたら名前が直ぐ出てくる様な名バ達が沢山出てくるのは心臓に悪い。一瞬呼吸が止まってしまった。
「よ、よろしくお願いします、モンテプリンスさん。」
「ん~ちょっと硬いけどまぁ、今日は良しとしようかな。
それじゃ、ナイスネイチャさんの部屋まで案内しようか。一応同室の娘には遅れる事は話してあるけど心配しているはずだからね。」
こっちだよと私を呼びながら階段へと向かうモンテプリンスさん。慌てて彼女の後ろを追いかけながら考えるのは同室になった娘の事。一体どんなウマ娘が同室になるのか楽しみだ。
もし、名馬のウマ娘が同室だとしたら出来ればもう少しネームバリューを抑えてくれると嬉しいのが本音ではあるけれども。
「そういえば、テンポイントさんがナイスネイチャさんの事とても褒めてたよ?また一緒に紅茶が飲みたいとも言ってたし、良かったね気に入られて。あの人が他人を褒めるなんて滅多に無いんだよ?知ってた?」
「い……いえ、それは知らなかったです。」
「あ、そうなんだ。テンポイントさん話の内容を聞いても『ただ夢を語っただけさ』っていうだけで教えてくれないんだよあの人。まぁ、私も無理に人の夢を聞こうとは思わないし良いんだけどね。」
笑いながら語るモンテプリンスさんに相槌を打ちながらも、私はテンポイントさんにそう思って貰えたことが嬉しかった。
また明日にでも生徒会に顔を出しに行こう。ついでに売店で茶菓子でも買って来たら喜んで貰えるだろうか。
「そういえばモンテプリンスさん、同室の娘ってどんな人なんですか?同級生なんでしょうか?」
「いや、ナイスネイチャさんの1個上の中等部2年だよ。事情があって彼女の同室の娘が新学期前に自主退学しちゃってね。基本的に同室にする場合は同学年で合わせてるんだけど今回は人数の兼ね合いでナイスネイチャさんには申し訳ないけど先輩と同室にさせて貰ったんだ。」
ついでにと思い私はモンテプリンスさんに同室のウマ娘について聞いてみた。
どうやら同室の娘は中等部2年の先輩ウマ娘らしい。それにしても同居人が自主退学しちゃったのか…………もしや今から同室になる娘って気性の荒い先輩なのだろうか?
ステイゴールド一族の様な気性の荒い先輩だったら一緒にやっていけるか不安である。いやマジで…………ドリジャとかオルフェとか怖くない?あと話に付いていけないという意味ではゴルシ。
まぁ、初日なのにテンポイントさんにモンテプリンスさん、栗東寮ではなく美浦寮というもう原作に無い驚き要素ばかりで耐性が付いてきた私はちょっとやそっとじゃ驚かない自信がある。精神年齢も遥かに私の方が年上だしね。ネームバリューを抑えてくれると嬉しいとも思っていたけど落ち着いて心に余裕が出来たので撤回しよう、ドンと来い。
「さて、此処がナイスネイチャさんの部屋だ。通路は覚えたかい?作りは単純だけど寮自体が大きいから迷子にならない様にね?」
モンテプリンスさんに案内されてついたのは美浦寮の4階、その角部屋だった。造りはごく普通の寮なんだけどモンテプリンスさんの言うデカいから迷うのも納得した。寮だけで公立高校の校舎並みにデカいのだからそりゃ慣れてないと迷うわ。
やっぱ中央トレセン学園は設備凄いお金かけてる。
「モンテプリンスだ、同居人を連れて来たよ。」
「今開けますね。」
軽くノックしてからモンテプリンスさんは部屋の中にいる同居人に対して一声かけた。それに対して部屋の中から返事が聞こえたのだが、物凄く聞き馴染みのある声だ。それも、物凄くナイスネイチャの育成でお世話になった。
がちゃりと鍵を開ける音と共にドアが開く。見えたのは綺麗な鹿毛に前髪が黒鹿毛、特徴的な白い流星。知っている外見より幼さは残るものの物凄く見覚えのある外見。
「紹介するね、彼女が新入生で君の新しい同居人となるナイスネイチャさん。
ナイスネイチャさん。彼女が君の先輩で同居人のシンボリルドルフだ。どうか仲良くして欲しい。」
スゥ…………ハァ…………おk
同居人は『
シガーネイチャのジュニア期以降の進路
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ルドルフ先輩に続け無敗三冠
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いやいや、トリプルティアラこそ至高
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もっと上を目指そう海外クラシック挑戦
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良いパワーしてるね?国内外ダート挑戦
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その他