毎回、誤字指摘ありがとうございます。
また、主は競馬に疎いので矛盾点や修正点がありましたら教えてください。
『模擬レース3着』
初めてのレースと言っていい今回のレースでこの着順は十分なはずなのに、私は悔し涙を抑えることが出来なかった。
これがレースに負けるってことなのか。
これが悔しいってことなのか。
これが勝ちたいってことなのか。
色々な感情が渦巻き、止めようにも涙が止まらない。
私は誰にも気づかれないよう、そっと模擬レースが開催されていた練習場を後にした。人気の無い方へ、人気の無い方へと私は歩いていく。後に思えば、涙を見られない様にこそこそと歩く姿はもしかしたら不審者に見えたと思う。
そうして涙が止まった頃、私は先ほどの練習場とは真反対にある練習場へとたどり着いていた。
模擬レースが開催されていたこともあって、此処の練習場にはポツポツと上級生がトレーニングをしてるだけで殆ど人は居なかった。
私はそっと練習場を眺めながら、今回のレースを振り返ってみる。確かに今回は得るものがあった。前半は確かに酷かったし、後半の修正した走りも私的には完全に歯車が嚙み合った感覚ではなかった。しかしあの歯車が噛み合っていく感覚が私の、ナイスネイチャとしてのウマ娘の本能だったのだろうと思う。
今まで走らなかったがゆえに、無意識に理性で蓋をしていたがゆえに感じることの無かったウマ娘としての本能。レース中のあの感覚を忘れずにトレーニングを進めれば私の目に焼き付いているナイスネイチャの走りを再現できる気がする。
(走りたいなぁ)
表へと出てきたウマ娘の本能がそう私に押し寄せる。気分を落ち着かせ様と練習場で走る上級生を眺めているだけだったはずなのに、私はあの
早く完成させたい。ナイスネイチャの走りを。バ群に呑まれても抜け出すパワーを、最終コーナーから炸裂させる素晴らしいコーナリングを。そして一気に先頭に踊り出る圧巻の末脚を。
この世界では私だけしか知らないナイスネイチャの走りを、皆に魅せたい。
私の足は自然と練習場の芝へと向かっていた。今日は一回だけ、この感覚を忘れない様に一回だけ走ろう。走ったらクールダウンして、明日へと残さぬよう念入りにストレッチして、ルドルフ先輩とお喋りして明日に備えよう。
そう自分に言い訳して、冷めた私の体を軽くストレッチして温める。一応、念の為に脚を確認しよう。ゆっくりと、しかし確実に触診して異常が無いか確かめる。ウマ娘自身による簡単な触診もこの1週間の授業で学んだ。オーバーワークしない為にまず最初に教わるのはこれらしい。私はトレーナーになる夢の為にルドルフ先輩にお願いしてトレーニング後のルドルフ先輩の脚を触診させて貰って練習していたから同期の中でも少しはこの触診が得意になっている。
(大丈夫。変に熱も持ってないし腫れもシビレも無い。でも念の為に本当に一回だけにしとこう。)
触診で私が分かる範囲で異常が無い事を確認すると、私は再びアップを再開する。触診で異常はなかったけど念の為に授業で教わった物より入念に。
「こんなところに居たのか。探しても見つからんから心配したぞ。」
アップが終わって、いざ走ろうと思った所に私は声をかけられた。どうやらテンポイントさんが私を探しに来てくれていたらしい。
「あははは…………すみませんテンポイントさん。」
「お前がゼッケンをつけたままどっかに行ったからな。運営していた教師が困っていたぞ?」
そうテンポイントさんに言われて、私は今の今まで模擬レース用に配られていたゼッケンをつけたままここまで来ていたのを思い出した。幾ら気が動転していたとはいえ、これは先生方に申し訳ない。
「あ!?すみません、すぐ返しに行きますね!」
「いや、私が預かっておくよ。私も用事があるから丁度いいさ。」
「えっと、有り難うございます!」
ゼッケンを脱ぎ、こちらに手を出しているテンポイントさんにおずおずと渡した。
「確かに。ちゃんと教師に渡しておくから安心しろ。それと…………」
ゼッケンを受け取ったテンポイントさんは、手に持っていた籠へとゼッケンを入れてから再び私へと向き直った。
「まさか、これから走るわけじゃあるまいな?まだ体も出来上がってない上に君はレースでかなり無理をしたんだ。今日はもう休みなさい。」
バレてたか。優しく微笑むテンポイントさんに申し訳無く思いながらも、それでもこの感覚を忘れない様に私は一度だけでも走りたかった。
「後一回だけですから大丈夫ですよテンポイントさん。一応ちゃんと触診して異常は無かったですし、休憩も取ったのでスタミナも脚も問題無いです。」
「駄目だ。大体の1年生皆そう言ってオーバーワークするんだ。ネイチャもトゥインクルシリーズを走る前に脚を壊す気か?」
実に正論である。テンポイントさんの主張は間違いないのだが、それでも私は行けると感じる。
「じゃ、じゃあテンポイントさんも私の脚を見てくださいよ。テンポイントさんから見て異常があったら走るのは止めて今日は休みますから。」
「…………はぁ~
絶対に疲労が溜まっているはずだから無理だと思うがな。」
そう言って笑いながら、テンポイントさんは持っていた籠を下ろして私の脚を触り始める。他人に触られるというのは思った以上にくすぐったいがここは我慢。
私の脚を診ていたテンポイントさんは最初こそ私の主張に呆れ笑いとも取れる笑いを浮かべていたものの次第に笑顔を消し、険しい雰囲気を纏っていく。
もしかして、私が気づかなかっただけで何か異常があったのだろうか?だとしたら仕方ないが今日は諦めるか。
「確かに問題は無い。ほんの少しだけ疲労はあるがネイチャの言う通り後一回だけなら問題ないだろう。」
そう言って触診を止めたテンポイントさんに私は内心ほっとするが、険しい、というよりも鋭い雰囲気のテンポイントさんは先ほどの籠からストップウォッチを1個取り出し再び私に向き直った。
「…………ネイチャ今からタイムを計るが、私の指定した距離を走れるか?」
「えっと…………何mで?」
「2400の左周りだ。」
「え!?」
確か中等部1年は最長で1600mまでしか走ってはいけなかったはず。2年3年も2000mまでしか駄目なはず…………それよりも2400mの左回りって
「…………日本ダービー?」
「そうだ。今ネイチャ、お前の脚を触って分かった。お前はダービーを勝てる。」
「いやいやいや!?無理無理無理ですって!?私今日初めてレースしたんですよ!それに1600mまでしか走っちゃいけないって先生が言ってましたし!」
「私に騙されたと思って一回走ってみろ。それに、多少長い方がお前も長くフォームの修正がしやすいだろう?
なに、教師に怒られるようなことがあれば私も一緒に頭を下げてやる。」
「き…………気づいてたんですか?」
「気づかぬ訳あるまい。あんな露骨にレース中フォームを変えおってからに。さては、レース中にフォームを変えるのがどれだけ高度な技術か分かって無いなお前?」
半ば呆れられた様に私を見るテンポイントさん。ちょっと恥ずかしい。
「と、取りあえずテンポイントさんを信じて走ってみます!」
「じゃあ、此処がスタートだ。幸いここは一周2400mだから丁度よかろう。」
スタスタと外ラチへと向かうテンポイントさんに合わせて、私は走る態勢を取る。これがターフを走るのが2回目という事実に目を瞑り。今は如何にナイスネイチャの走りを再現するかに集中する。
大丈夫、ナイスネイチャの主戦場は
「用意!」
テンポイントさんの声に合わせて、更に集中する。今回はタイム計測、競う相手は居ないから模擬レースの様に好スタートでも問題無い。
「始め!」
聞こえた瞬間に力を込めた脚を踏み出した。
脳裏に焼き付いたナイスネイチャの走りを思い出せ。
ストライドはスパートやや小さく。腕を大きく振れ。上半身を少しだけ前傾にしろ。
模擬レースの時よりも、歯車が噛み合う感覚。やはりこの走りで間違いは無いはず。後少し、合わない感覚を修正しろ。少しずつ荒くなっていく呼吸を感じながら、私はコーナーを曲がる。
遠心力で外ラチへと飛ばされ様とする体を、押さえつけるように内ラチへと体を少し傾ける。体幹がぶれ、少しコーナーが膨らんでしまった。
(まだだ!まだ違う!)
2コーナーを曲がり直線へと移りながら私は歯噛みする。後少しが噛み合わない。未熟な体では
踏み込みのパワーが足りないからイメージよりも速度が出ない。
歩幅が小さいからストライドが余計大きくなってスタミナのロスが出る。
バランス感覚が足りなくて体幹がブレてしまいコーナーが上手く曲がることが出来ない。
心肺機能が未熟だから呼吸がすぐに荒くなってしまう。
それでも脳裏にチラつく
第3コーナーに差し掛かり再びカーブへと挑む。今度は先ほどよりも深く、腕が内ラチにぶつかるギリギリまで体を傾ける。遠心力により今までよりもキツイ負担が脚に圧し掛かる。とっくに模擬レースで走った1600mは過ぎている。チカチカと明滅する視界。
酸素不足によってぼやける思考。一歩一歩が重く感じる。でもここからだ。第4コーナーを曲がって最後の直線、ナイスネイチャの仕掛け処。
ナイスネイチャならばどのタイミングで仕掛けるか、本番のレースなら前はウマ娘で塞がっているはず。いるはずの無いウマ娘の姿がチラつく視界。
内ラチは最短距離を走る逃げウマや先行バで固まっている。そんな時はナイスネイチャなら。
(ナイスネイチャなら外からぶち抜いていく!)
第4コーナーを今度は意図的に外へとずらしスパートの体勢へと変える。巡航時よりも深く前へと体を倒す。ストライドを広く、それでいてピッチを早く。芝を抉るぐらい深く、力強く脚を踏み込む。
雑音が消え、匂いも感じず、最早感じるのは苦しい呼吸のみ。明滅し、狭まった視界は最早ゴール役のテンポイントさんしか見えていない。
(もっと速く!前へ!)
虚像の中のウマ娘を抜かし、ターフを踏みしめろ。残っていないスタミナ。脚はとっくに使い切ってる。
消えない闘志と根性だけで、私は
ゴールを越えたと認識した瞬間戻ってくる感覚。どっと押し寄せる疲労感と思うように出来ない呼吸。
ゆっくりと速度を落とし、半周ほど呼吸を整える為歩くと私は疲労感からターフに倒れてしまった。脚はガクガクと震え、走っている時は感じなかった汗がドバっと出てくるのを感じる。
視界の端で此方に歩いてくるテンポイントさんに、私は話しかけることすら出来なかった。
「お疲れさん。走れたじゃないか。」
「タ……タイム…………どう……でしたか?」
そう笑いかけるテンポイントさんに、私は息も絶え絶えに答え様とするがカラカラに乾いた喉から出た声はまるで老婆の様で、出した本人である私は笑いそうになってしまった。
「今のタイムじゃまだまだ無理だな。ほら、水分を取ってちゃんとストレッチとクールダウンしろよ。してなかったら明日生徒会でお説教だ。」
私にスポーツドリンクを手渡しながら。テンポイントさんは練習場近くのベンチの方へと行ってしまった。
「あ、ありがとうございました。」
「あぁ、また明日な。」
テンポイントさんにお礼を言って、私はまたターフへと沈む。
まだまだ理想には程遠い。脳裏に浮かぶナイスネイチャにはどうしても今の段階では足りない部分が多すぎる。それでも。
(諦めない。私はナイスネイチャだ。)
緩む頬を抑えるのに時間がかかった。
「それで、盗み見とは随分と穏やかじゃないな。」
テンポイントはナイスネイチャと別れた後、近くの茂みへとそう口にした。
「あらら。バレちゃってたのね。」
「すみません。テンポイントが慌てて何処かに行くのが見えてつい。」
ガサリと茂みが揺れたと思うと二人のウマ娘が両手に持った枝を茂みに捨てつつ姿を現した。一人は鹿毛の髪をショートカットにしたボーイッシュなメジロパーマーっぽい雰囲気のウマ娘。もう一人は黒鹿毛を腰まで伸ばした大人しそうなグラスワンダーっぽい雰囲気のウマ娘。
「気配でバレバレだ。どうせショウが興味本位で付いて来てグラスが巻き添えになったんだろ?」
「正解ですよテンポイント。」
「あ!売るなよグラス!」
『天マ トウショウボーイ』『緑の刺客 グリーングラス』
それが彼女達の名前。テンポイントと共に生徒会に所属し、テンポイントと共に1時代を築いた『TTG』のTとG。テンポイントと共に半ばレースから引退し今ではレースに出場することは殆ど無いが、それでも雰囲気は現役のまま。
「それで、あれがテンのお気に入りの新入生かぁ。」
そう言ってトウショウボーイが見るのはゆっくりと起き上がりストレッチを始めたナイスネイチャ。
「なんか普通だなぁ期待外れって感じ?」
そう言うトウショウボーイに、同意する様にグリーングラスも頷く。
「そうですね。私としてはナイスネイチャさんでしたっけ?あの子より2年のえっと、シンボリルドルフさん?あの子が将来楽しみですね。」
「私としちゃ、3年のミスターシービーが走ると思うがなぁ。下手したら三冠取るぜアイツ。」
グリーングラスはシンボリルドルフを。トウショウボーイはミスターシービーに期待している様だった。
確かに、テンポイントから見てもその2人の模擬レースや選抜レースを見て同世代とは違う物を感じた。それでも何故かテンポイントは、ナイスネイチャよりも2人に魅力を感じなかった。特に先ほどの2400mを見てからはそれが強くなるのを感じた。
「ショウにグラス。今日の模擬レースを見たか?」
「いや、私は興味無かったから見てないな。」
「私も、生憎先生方のお手伝いをしていましたので。」
テンポイントの質問に、トウショウボーイもグリーングラスも見ていないと返す。その返答を聞いたテンポイントはいたずらを思いついた様な笑顔になった。
「これを見ろ。」
そう言って、テンポイントはトウショウボーイにストップウォッチを放り投げた。慌ててキャッチしてストップウォッチを見るトウショウボーイ。グリーングラスもトウショウボーイ越しにストップウォッチを見た。
「これの距離は?」
「2400m。ついでに左回りだ。」
「だとしたらダービーか?遅っせぇな。私だったらもう10秒以上は速いぞ。」
「これってどの子ですか?明らかにクラシックを走るにしては不安があるのですが…………もしかしてタイムの子ってマイラーですか?」
トウショウボーイもグリーングラスも、お世辞にも速いとは言えないタイムに疑問を口に出す。
「いや、そいつの得意距離は
「だとしたら才能無いぜそいつ。このタイムでクラシックはG1どころか重賞にも入着出来ねぇよ。」
そう断言するトウショウボーイ。後ろでグリーングラスもこくりと頷きトウショウボーイを肯定する。それを見てますます笑みを深くするテンポイント。確かに、クラシックでこれは遅い。そう走ったウマ娘がクラシック期であれば。
「それを出したのは今そこでストレッチしているおバ鹿娘だ。全く、タイム計測のはずなのに最後はレースの様に走りやがって…………」
「「はぁ!?」」
テンポイントの言葉に、トウショウボーイもグリーングラスもビックリしたように声を上げる。確かにタイムは遅い。
が、それが入学したばかりの1年生だとすれば話は別。入学したてで『クラシック期にしては遅い』タイムであればそれは異常だ。
「というか、1年生に2400m走らせたんですか!?バ鹿ですかテンポイントさん!!
その娘が脚を壊したらどうするんですか!!」
グリーングラスだけはタイムを出した人物よりも、そのタイムを出したナイスネイチャの心配をしたらしい。血相を変えてナイスネイチャへと走り出して行ってしまった。
いきなりグリーングラスに遭遇して焦っているナイスネイチャと問答無用で脚を確認しているグリーングラスを眺めながら、テンポイントは改めてトウショウボーイへと問うた。
「どうだ、うちのネイチャはその2人に引けを取らんよ?」
「お前の話が本当ならそのナイスネイチャはトゥインクルシリーズだけじゃねぇ、世界だって取れるだろうよ。」
「当たり前だ。なんせ私の大事な大事な後輩だからな。欲しがったら
「おぉ~怖い怖い。そんじゃ、私は帰るぜ。」
ストップウォッチをテンポイントへと投げ返して、トウショウボーイはさっさと練習場から去っていく。
テンポイントは受け取ったストップウォッチの数字を改めて眺める。
『2:37.4』
ストップウォッチの安っぽい液晶を軽く撫でて、テンポイントはその数字をリセットしてナイスネイチャへと歩き出す。
グリーングラスのお説教が待ち受けているとも知らずに…………
ネイチャのタイムはTTG世代の日本ダービーを勝ったクライムカイザーのタイム+約10秒にしています。
ネイチャ本人は気づいてませんが、入学したばかりでこれは化け物ネイチャです。
書いている本人としては、アニメ世界でネイチャだけアプリネイチャみたいな感覚で書いてます。
あほですね…………すみません(汗)
シガーネイチャのジュニア期以降の進路
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ルドルフ先輩に続け無敗三冠
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いやいや、トリプルティアラこそ至高
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もっと上を目指そう海外クラシック挑戦
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良いパワーしてるね?国内外ダート挑戦
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その他