街の人々が次第に起きだす頃。
砂狼シロコもまた、カーテンから差し込む朝日の光に当てられたのか、目を覚ました。
むくり、と上半身を起こしたシロコは、朝の肌寒さに身震いをする。
それもそのはずで、シロコはパジャマや下着といったものを身に着けておらず、素肌の状態で寝ていたからであった。
シロコは寒さにちょっぴり不快感を覚えつつも、大きな大きな欠伸を一つ。
そして、眠気眼をこすりながらシロコは思い出した。
(じゅんびしなくちゃ)
シロコはアビドス高等学校の生徒であり、アビドス対策委員会という組織に所属している。今日は、そのアビドス対策委員会で朝から会議があるため、早めに学校へ向かわなければならないのだ。
となれば、同衾している人も起こさなければならない。
(せんせぇ…)
シロコは頭を後ろの方へ向け、視線を落とした。
そこでは、男性が安らかに瞼を閉じ、呼吸と同じように胸を上下させていた。
その男性もまた、シロコと同じように何も着ておらず、右腕をだらん、と伸ばしている。
また、鎖骨の周りを見るといくつもの軽度の内出血痕が浮き出ており、左肩にいたっては歯形が刻まれている。
この男性は、シロコが通うアビドスで先生をしており、委員会では顧問のような立場として関わっている。
そんな彼は、素っ裸で眠りについている。
完全に安心しきっているようだ、とシロコは徐に跨り、両手を先生の首に添えた。
(せんせぇ、かわいい)
シロコはあまりにも無警戒な様子に、愛らしさすえ感じ取った。
少し、両手に力が入る。
締め付けた手のひらに、頸動脈からは、先生の脈拍が伝わる。
シロコの呼吸が速くなる。
親指をスライドさせ、喉仏へ。
先生の喉仏をちょん、ちょん、と突いてみる。さすってみる。撫でまわしてみる。
(意外とかたい)
シロコが感触を堪能する一方、先生はわずかに眉を顰めるのみで、いまだに夢の中の世界にいるようだ。
それもそのはずで、昨日は情交が盛り上がりに盛り上がり、先生の体力をシロコが根こそぎ持って行ってしまったのだ。
だから、無反応に近いほどぐっすりと眠っているのだ。
そんな今、無防備な先生は、シロコが手に力を加えてしまえば、気道と首周りの動脈、静脈が圧迫され、ものの一分で死に至るだろう。
成人男性といえど、キヴォトスの人間と比べては、些か脆い。
そもそも寝込みを襲おうとせずとも、仮に街で偶然遭遇したとしても銃なり格闘技なりで瞬殺である。
そんな先生が、シロコと裸一貫で寝ているのだ。
(私を、信頼しているって、ことだよね)
シロコは認識している。これは歪であると。
シロコは思う。信頼しあっていることを表すには、他にもどうとでもやり口があるだろうと。
しかし、シロコは考える。先生の命を左右できる状況にいるのは私だけであると。
私のみにしか、その権利はないのだと。
(先生の隣は、死んでも他の女に譲る気はないよ、先生)
先生はシロコを愛している。愛しているから、シロコはいつでも殺しに来ていい。
そんなことを言われている気がして、たまらないのだ。
「ふふっ、大好き」
シロコは、思わず笑みがこぼれ、呟く。
体が熱くなるのを感じる。
シロコの心臓は、血液が溶岩流のように、ハイスピードで流れ込んでいた。
いつまでそのままで居たのだろうか。
ふと視線を上げると、時計が目に入った。
時間は、シロコが起きてからすでに三十分ほど経過していた。
(遅刻しちゃう…)
ふう、と心をどうにか落ち着かせる。
これからお風呂に入り、着替え、朝食を済ませなければならない。
このままゆっくりと朝を過ごしていると、先生の仕事にも影響が出てしまうのではないか。
シロコは先生を起こそうと思い立った。
(先生を起こさなきゃ)
再び先生に視線を向ける。
相変わらずの寝顔。
すると、シロコは、首元にキスマークをつけてないことに気づいた。
「…しっさく」
シロコは、舌舐めずりをする。
「私以外で死んじゃ駄目だよ、先生」
そう小声で言うと、シロコは先生の首筋に顔を近づける。
そして、唇を少し尖らせて、吸い付いた。
十秒程度経ったかであろう時に、ちゅぽ、という音を立ててようやく唇を離した。
シロコは満足そうに口元の涎を手で拭う。
先ほどまでシロコが嘗めていたところは、赤みが差していた。
「し、ろこ?」
それから間もなくして、首筋への違和感と一緒に、ついに先生は眠りから解放された。
まだ半覚醒の先生であったが、こちらを覗き込んでいるシロコの顔を確認する。
その妖艶な笑顔に、急激に胸の高鳴りが起こる。
「どうしたの、先生」
「いや、何でもないよ」
思わず飛び起きた先生は、朝から心臓に負担がかかるな、と心の中で独り言を言った。
その顔が、昨晩の情事の時よりも幾分いやらしさを増してこちらに向けられていたからだ。
シロコは少し不思議そうな顔をして、首をかしげて先生の方を見ている。
先生は劣情を抑えるために一呼吸置き、シロコの方へ体を向けて挨拶を交わす。
「シロコ、おはよう」
「ん、おはよ」
シロコは、微笑を浮かべ、その挨拶に唇を重ねた。