それはそれで、居心地良いから。
泣いて笑って喧嘩して、そんな日々が続いていく。
それがきっと、幸福なんだろう。
死ぬまで貴女を褒めないよ、私たちはライバルだから。歳も専門分野も、何もかも違ったけれど。
だからこそ他の誰にも通じない、テレパシーみたいなのがある。
認めたくはないんだけど、ね。
絶対に負けたくはない、でも完全に嫌いなわけではない。むしろ尊敬できると言う意味では、そこそこ好きな方だろう。
まったくもう、面倒くさい事になったものだ。
私は大喜が好き、大喜は千夏先輩が好き。そして千夏先輩は――……どうなんだろう。そう思いながらも私は、大喜へ人生初の告白をしてしまった。多分絶対成功しない、と分かっていたけれど。でもこのまま二人がなし崩しに結ばれるなんて、我慢ならないから抵抗くらいはしておかないと。
……まあそのあと突然、先輩は一ヶ月猪股家を離れることになったけどさ。本人にそう聞かされたときは、空気も読まずにガッツポーズしそうになってしまったっけ。家族の問題があっての話だから、はしゃいじゃいけない場面だし我慢したとは言えちょっと宜しくなかったかな。
そしてあの、文化祭。大喜とのキス未遂と、周りからの冷やかし。あそこで「軽々しくそういう話をしてほしくない」と言える大喜は格好よかったけど、でも正直凹んだ。あのまま盛り上がって既成事実化してくれたら、流れは私の方に来たのに。結局何処まで行っても、大喜と付き合うとかそれ以上の事をするなんて遠い話なんだと思い知らされた。一歩一歩進むしかない、地道に行くより他に無いのだ。
それから時間は流れ先輩も大喜を好きだと確信して、私たちは正式に対立することとなった。それで漸く私は知ったのだ、千夏先輩の本質を。
面倒臭いな、この女。何度そう思ったことか、数えきれない。
大喜に好かれている自覚もあって、あと一歩でゴール出来る位置にいる癖にウジウジウジウジ。でも私が動こうとすると不愉快な顔するし、どうにか抑え込もうとする。なのにやっぱり、告白とかはしない。大喜くんの考えを尊重したいから、と言うだけで自分からは絶対いかない。
告白どころかキス寸前まで行ってもまだまだスタートラインにも立てていない私としては、肖りたいやら金借りたいやら。
そんなこんなでお互い外面を剥ぎあい、ところ構わず声を張り上げたり掴みあったり。遠慮も何もなく、私たちは喧嘩三昧。それでも年がら年中、飽きることもなくずっと一緒。
そしてそれは――今もまだ続いている。
どういう因果かはたまた祟りか、腐れ縁か前世の仇か。よくわからないまま、ずっと。
「まったく、大喜くんも見る目が無いねぇ」
「あれは迸る程のバカですから」
大荷物を抱えて歩く私たちは、まるで仲の良い姉妹か何かのように揃って溜め息を吐いた。溜め息を吐くと幸せが逃げるとは言うけど、その程度で去っていくような幸せなんか欲しくはない。
それに溜め息くらい吐かせてくれないと、やってられない。
「――まさかねぇ、大喜くんがこんなに早く結婚するなんて」
「デキ婚っすからねぇ、あのバカ」
邪魔にも程がある引出物を振り回しつつ、私はまたしても溜め息一つ。
今時カタログでもなく、新郎新婦の写真入りギフトなんかを出してくる辺り嫁も嫁で相当なポンコツだな。大喜が大学で出逢ったゼミの先輩さんだそうだけど、上手く騙されたんじゃないだろうかなあのアホ。そうでもなければ、二十歳そこそこでこんなことになるもんか。
大喜が選ぶのは、私か千夏先輩かどちらかだと思ってたのに。まさかまさか、こうなるとは。そして私らを友人枠で式に呼ぶとか、何処までバカなんだろうかな。一発殴ってやれば良かった。
私は今でも、大喜が好き。きっと千夏先輩も、同じように思ってるんだろう。そしてもっと強く出ていけば、もっと迫っていれば、そんな風に悔やんでいる筈。
にしても、だ。私たちは大喜を間に挟んで今まで火花を散らしてきたのに、その中心が抜けてしまうとは。どうしたものだろうな、まったくさ。
私としては、まだまだこの関係でいたい。
これから先大人になって、嫌でも周りは面倒になっていくんだろう。でも千夏先輩と一緒にいるときは、あの頃と同じように子供でいられる。素直にワガママに、開き直ってしまえる。
100年先もずっとこうやって、バカやっていたい。
やっぱり私はこの人を、――親友だとか思っているんだろうかな。まあ、良いんだけど。
「千夏先輩はまだ、お嫁になんか行かないでくださいよ。いや、そもそも行けないでしょうけど」
「にゃにおう。私が本気出してごらんなさい、すぐに法律家が泡吹いて倒れるくらい可愛い彼氏が出来るわよ?」
いやあんまり法律家を虐めないであげてくださいね、と言いつつ私は夜空を仰ぐ。
まったく、複雑だよ。好きな人の結婚式の帰り道に、恋敵とバカな話をして。それが、楽しくて仕方ないんだから。
だから、――ありがとう。口には出さないけれど、そう思いながら千夏先輩を見やる。
ああ、やっぱり伝わるんだな。こういうのは。
だってその顔は、微笑みを湛えているから。