小説を書く練習として、与えられたお題からショートショートを書いてます。
気分によって一次創作だったり二次創作だったりするので注意が必要です。
頻度は未定です。

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1000字1時間で書こうと思ったら、2000字2時間に膨れ上がって、文章校正に1時間かかりました。


お題:朝食

 

 

 カチャリという控えめに何かが閉じられる音で、深いところまで沈んでいた私の意識は、少しずつ浮かび上がってくる。

 

 頭は早く起き上がれと命令を出しているものの、欲望に素直な体はそれを拒否し、自分のものとは思えない程低い唸り声と、身動ぎが代わりに出力される。どうやら寝坊助な私には、起き上がって人間としての営みを再開する為にもう少し時間が必要らしい。

 

 夢と現の狭間で揺蕩うこと五分少々、けたたましいアラームの音と共に、私はようやく完全に覚醒した。

 

 あまり言う事を聞かない体を無理矢理操り、現在進行形で不快な音をばら蒔いているスマートフォンを少し強めにタップしてアラームを止める。

 耳障りな騒音がようやく止まったことに一安心し、軽く伸びをするとパキパキという小気味よい音が鳴る。

 

 ゆるりと視線を右に移すと、昨晩あんなに情熱的に体を求め合い、眠りにつく直前まで隣にいた彼の姿は、そこにはもう無かった。

 

 そっと、彼が居たであろう場所を右手で触ってみるとまだ生暖かく、彼がそこに居たのだということを強く主張していた。

 

 そのままベット横に置いてあるサイドテーブルに目線を持っていくと、まだ封が切られてないペットボトルの水と小さなメモ用紙が一枚置いてあるのを見つけた。

 

 ペットボトルを横にどけ、メモ用紙を手に取り内容を確認すると、そこには短く『昨晩はありがとう。とても気持ち良かった。』とだけ記されていた。

 

 私はメモ用紙をくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に投げ入れると、彼が置いていったであろうペットボトルを乱雑に手に取り、蓋を千切るように開け、一息で半分程を飲み干し、大きくため息をついた。

 

 彼とは身体のみの関係で、恋仲では無い。

 

 暇つぶしでやっていたマッチングアプリでたまたま知り合い、趣味が同じということで意気投合をし、なんやかんやあって抱かれた。

 

 出会った当初は、所詮一晩だけの関係になるだろうと思っていたが、存外に彼との逢瀬は楽しく、そして気持ちの良いもので、そこからズルズルと関係が続き今に至る。

 

 最初の内は、彼も私の事を振り向かせようとして、夜景の綺麗なディナーなど、色々な所に連れて行ったりしてくれていたのだが、私に恋愛感情が一切無いということに気付くと、次第にそういったデートの回数も徐々に減っていき、今では、どちらかの家かホテルで身体を重ねるだけの関係に落ち着いている。

 

 行為自体はとても気持ち良く、私も満足いっているのだが、最近になって困った事が一つできてしまった。

 

 今更になって、私は彼の事が好きになってしまったのだ。

 

 最初から好きで、その気持ちを今になってようやく自覚したのか、幾度にわたって身体を重ねた結果、彼に絆されてしまったのか、どちらなのかは分からない。

 

 虫が良すぎる話だということは重々承知している。

あれだけ彼に対して素っ気ない態度を取り続けて、この期に及んで、彼の事が好きというのは、あまりにも自分勝手だ。

 

 ただ、今、私は彼の事が好きで、付き合いたいと思っているのは、嘘偽りの無い私の本心だ。

 

 だから、私は行動から変えることにした。

 

 全ては彼に振り向いて貰うために。

 

 色んな事を試して、少しでも彼の気を惹こうとしてみているものの、結果はご覧の通り。

 

 今現在、私の隣に彼は居ない。

 

 でも、決して諦めてはいけない。いつかきっと、必ず私の気持ちに彼は気付いてくれる。そう信じて行動するしかないと自分自身に強く言い聞かせる。

 

 そんなことばっかり考えていると、ぐぅとお腹が鳴る音が聞こえてきた。

 

 昨日の夜は激しい運動をしていたし、仕事が忙しすぎて日中ろくな食事を取れていない。確かにお腹が鳴ってもしょうがないと一人で納得をすると、おもむろに立ち上がり、台所まで歩いていき、彼にバレないように隠していたカップ麺を引っ張り出した。

 

 彼や同僚の前では、気取ってサラダなどしか食べないようにしていたからか、無性に食べたくなってしまったカップ麺の包装を破くのには迷いは無かった。

 

 自分自身を納得させる言い訳を考えつつ、電気ケトルに水を入れ、お湯を沸かし、食べるための準備を進めていく。

 

 お湯が沸くのを待っている間に、汚れてしまったシーツを取り外し、洗濯の準備をしていると、ケトルからお湯が沸いたサインが出る。

 

 作業を中断して、カップ麺の蓋を半分程開けると、そこに沸いたお湯を注いで三分間待つ。

 

 私はこの、カップ麺の完成を待つ三分間がとても好きだった。

 

 三分後、蓋を開けると、醤油の匂いが鼻腔一杯に広がり、食欲を刺激してきた。

我慢出来なくなった私は、箸で麺をスープから引っ張り上げてズルズルと啜っていった。

 

 普段は周りの目を気にして、レンゲなどを使って啜らないように食べているのだが、今は誰も私を見ていないので、そういった煩わしい事は一切考えなくて良い。

 この開放感がより一層カップ麺を美味しくしてくれている、そんな気がした。

 

 気付けば麺は全て無くなっていて、スープも三分の一程飲んでしまっていた。

 

 お腹も膨れ、満足感を得た私はカップ麺のゴミを手早く処理をすると、空気の入れ替えの為に窓を開けた。

 

 入ってくる空気はとても新鮮で、外はなんだかいつもより輝いているように見えた。




蛇足
登場人物
女(26)
職業OL、今更セフレを好きになっちゃった人。割と外面は良い。彼を振り向かせる為に猛アタック中。

男(?)
最初の内は女のことを口説こうとしていたが、彼女に気がないことを悟って諦めた。
最近女のアプローチが激しく情緒が破壊されてるらしい。

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