地下デュエル場にいるメスガキデュエリストの話   作:カイナ

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特殊勝利系メスガキデュエリストの話

 逃げ場のない牢屋の中、まるでコロシアムのように金網で囲まれているその中で一人の20代半ばから後半くらいだろう、水色髪のおかっぱ頭に虫を思わせるデザインをした眼鏡をかけた青年が目を血走らせて、目の前に立つ中学生くらいの、黒いパーカーを着ていてフードを被り、そのフードにネコミミがついていることからまるで黒猫を思わせるような猫目の少女を睨みつけていた。対する猫目の少女はニヤニヤと笑いながらその睨みや殺気を受け流している。

 

「ヒョッヒョヒョヒョ、悪く思うなよぉ? 俺の借金をチャラにするために、お前をぶっ潰してやる……」

 

「んっふふふ♪ 楽しもーねー♪」

 

 青年の言葉に少女はゆらゆらと揺れながら余裕綽々な様子で笑いながら答える。その様子に青年がチッと舌打ちを叩いた。

 

「さあ、本日のメインイベントォ! デスマッチデュエルを開催するぜぇ!」

 

 スピーカーからそんな実況が聞こえ、牢獄コロシアムの外でまるで見世物のように二人を見物してワインや軽食を嗜んでいる仮面をつけた男女が牢屋を見る。

 

「赤コーナー。若いなれどデュエルセンスは超逸品のオカルティックガール。ヘルキャット彩葉!」

 

「応援よろしくお願いしまーす♡」

 

 紹介を受けた少女──彩葉が観客に媚びを売るように手を振って挨拶、彼女のファンなのか知らないが観客の一部が「おおおぉぉぉっ!」と盛り上がる。

 

「いいぞー彩葉ちゃーん!」

「君にまた大金を賭けたんだー!」

「また面白いデュエルを見せてくれー!」

 

 黄色い声を上げる観客に青年が忌々しそうな舌打ちを叩き、実況が続いて青コーナー、と口にした瞬間彼の声が響く。

 

「紹介なんて無駄な時間はいらないよ! とっととこいつを倒して、俺の借金チャラにしてもらおうか!」

 

「……えー、ではまあ。省略いたしましょう」

 

 青年の怒号に実況は彼の紹介を省略。

 

「あっはははは!」

「いいぞーチャレンジャー!」

「大穴でお前に賭けたんだー! 勝ってくれよー!」

 

 彩葉に対する声援に比べると嘲るような笑い声が混じった応援に青年がイライラしたように歯ぎしり。そう思っていると突然牢屋に入ってきたグラサン黒服のいかにもな男達が、青年の両腕や首に何かの装置を嵌め始めた。

 

「お、おい、なんだよこれ!?」

 

「衝撃増幅装置。僅かなダメージでも全身に苦痛が走ります」

 

「なんだって!? そんなもの聞いてないぞ!?」

 

 牢屋の外、丁度青年の背後を陣取るような形で立っているシルクハットにコート姿な痩躯の男性の言葉に青年が声を上げるがお構いなし。「これが地下デュエル」と締めくくるのみだった。

 

「ちぃっ! まあいい。約束通り、このクソガキを倒せば俺の借金をチャラにしてくれるんだろうな!?」

 

「お約束いたします」

 

 青年の言葉に痩躯の言葉はそう返すのみ。青年はだったらいいと言いたげな様子で、慣れたように件の衝撃増幅装置を装着した彩葉を再び血走った目で睨みつけた。彩葉もニヤニヤ笑いをしながら青年を見て、二人はデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!!!」」

 

「イッツァ、ショーターイム!!!」

 

 そして二人の掛け声とデスマッチデュエルなる地下デュエルの開始を宣言する実況の声が重なり合った。

 

「先攻は私だね。ドロー……私は魔法カード[成金ゴブリン]を発動。デッキから一枚ドローし、その後相手はライフを1000ポイント回復する」

 

「キヒヒ、いきなり手札事故か? ま、ありがとさん」LP4000→5000

 

「……モンスターをセット、カードを一枚セットしてターンエンドだよ」

 

「俺のターン、ドロー! ヒヒヒ。俺は魔法カード[予想GUY]を発動! このカードは自分フィールドにモンスターが存在しない場合にのみ発動でき、デッキからレベル4以下の通常モンスター一体を特殊召喚する! 俺はレベル2の通常モンスター[昆虫人間(ベーシック・インセクト)]を特殊召喚!」

 昆虫人間 攻撃力:500

 

 彼の場に姿を現すのはまさしく人間のような姿をした昆虫。しかしその姿を見た彩葉がクスリと冷たい笑みを見せた。

 

「きゃっは♡ わざわざそんな雑魚い虫さんなんて特殊召喚しちゃうなんて♡」

 

「キッヒヒヒ。俺の昆虫族デッキの恐ろしさ、じっくりと教えてやる! 昆虫人間を墓地に送り、魔法カード[馬の骨の対価]発動! 効果モンスター以外の自分フィールドの表側表示モンスター一体を墓地へ送って発動でき、俺はデッキから二枚ドローする!

 続けて魔法カード[苦渋の決断]を発動! デッキからレベル4以下の通常モンスター一体を墓地へ送り、その同名モンスター一体をデッキから手札に加える。俺はレベル2の通常モンスター、二枚目の[昆虫人間]をデッキから墓地へ送り、同名モンスター、三枚目の[昆虫人間]を手札に加える!

 さらに速攻魔法[手札断殺]を発動! 互いのプレイヤーは手札を二枚墓地へ送り、新たにカードを二枚ドローする!」

 

「私も二枚捨てて二枚ドローするね」

 

 青年は先程出したモンスターをコストに手札を増やし、さらにデッキから墓地を肥やしつつカードのサーチ。さらには手札交換へと繋げる。

 

「キヒヒヒ……」LP5000→6000

 

 するとその時青年の気味の悪い笑い声と共に彼のライフが回復。彩葉が「え?」と呆けた声を出すと彼は笑みを深くしながら、先ほど捨てたカードの一枚をデュエルディスクの墓地ゾーンから取り出し、彩葉に見せつけた。

 

「[髑髏顔(ドクロがん) 天道虫(レディバグ)]のモンスター効果さ。このカードが墓地に送られた時、自分は1000ライフポイント回復する。俺は手札断殺で昆虫人間と天道虫を墓地に送った。よってライフが回復したってわけさ」

 

「ふ~ん。でも、そこまで色々やってフィールドにモンスターはいないよ?」

 

「心配無用さ。むしろ、俺はこの瞬間を待っていた! 俺は自分の墓地のレベル2以下の通常モンスター三体、三体の[昆虫人間]を対象に、魔法カード[トライワイトゾーン]! この三体の昆虫達を特殊召喚する!!」

 昆虫人間 ×3 攻撃力:500

 

 青年の発動した魔法カードによって一気に出現する三体の昆虫族モンスター。効果を持たない弱小モンスターと言えど一気に三体のモンスター展開には観客達も驚きの声を上げている。

 

「さらに昆虫人間の一体を生贄に捧げ、[アルティメット・インセクト LV5]を召喚!」

 アルティメット・インセクト LV5 攻撃力:2300

 

 そしてまだ使っていなかった召喚権を行使。昆虫人間の内一体を生贄にさらなる上級モンスターへと繋げてみせた。だが、まだ終わらないとばかりに青年は手札を取る。

 

「永続魔法[大樹海]を発動! フィールド上に表側表示で存在する昆虫族モンスターが戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、そのモンスターのコントローラーは破壊されたモンスターと同じレベルの昆虫族モンスター一体をデッキから手札に加える事ができる! これでその伏せカードが除去カードだったとしてもリカバリー可能だ。

 バトル! アルティメット・インセクトで守備モンスターを攻撃!」

 

 青年の命令を受けると同時にアルティメット・インセクトが彩葉の場の守備モンスター目掛けて突進、姿を現した天使のようなモンスターをそのまま跳ね飛ばした。

 

「く……[スケルエンジェル]のリバース効果発動。私はデッキから一枚ドローする」

 

「ヒョヒョヒョ、守備力400か。昆虫人間で充分だったな。まあいい、残る昆虫人間二体でダイレクトアタックだ!」

 

「っ!」LP4000→3500→3000

 

 彩葉の守備モンスターのステータスを見た青年は馬鹿にしたように笑いながら追撃を指示、それに従った二体の昆虫人間が彩葉に襲い掛かり、彼女のライフが減少。

 

「きゃああぁぁぁっ!!」

 

 同時に彼女につけられた装置から黒い電流が流れ、彼女の甲高い悲鳴がデュエル場に響き渡る。

 

「な……」

 

 そのあまりの悲鳴に攻撃をした青年側でさえ引いている程だった。

 

「ふっふっふ。驚きましたか? これが地下デュエル場名物デスマッチデュエル。デュエリストは文字通り、己の命を賭け、命を削って戦いあう……」

 

「っ……」

 

 痩躯の男性の言葉に青年は己につけられた装置を見下ろし、ぞくりと身体を震わせる。もしも自分のライフが削られたらあんな目にあう。それを間近で見せられた青年は唸り声を上げた。

 

「だったら、ライフを削らせずに勝てばいいんだ! 俺は永続魔法[虫除けバリアー]を発動! 相手フィールド上に表側表示で存在する昆虫族モンスターは攻撃宣言をする事ができない! カードを一枚セットしてターンエンドだ!」

 

 青年の場に張り巡らされる虫除けのバリアー。しかし彩葉の場に昆虫族が出るとは限らない状態でのこのカードの使用に観客達が戸惑いの声を上げていた。

 

(俺の伏せカードは[DNA改造手術]……あいつが何を出してこようが、これで昆虫族を指定してやれば虫除けバリアーの効力は最大限に発揮される……)

 

「私のターン、ドロー」

 

 そんな中、青年だけは己の戦略で防御を固めようと考え、彩葉はさっきまで悲鳴を上げていたのが嘘のようにニヤニヤ笑いながらカードをドロー。六枚になった手札をさっと眺め、ニヤリと笑みを見せた。

 

「[惑星探査車(プラネット・パスファインダー)]を召喚して、生贄に捧げて効果を発動するよ。デッキからフィールド魔法カード一枚を手札に加える」

 

 デッキから取り出した一枚のカードを口元に持っていき、ぺろりと舌を出して目を細めた。

 

「フィールド魔法[ダーク・サンクチュアリ]を手札に加えて、そのまま発動するね」

 

 そう言い、フィールド魔法ゾーンにフィールド魔法を置いたその時。牢屋の中が薄暗い瘴気に満たされて言う。さらにその天井からは不気味な目玉がデュエリスト達を見下ろし始め、青年はヒッと小さな悲鳴を上げるがプルプルと首を横に振って恐怖を振り払う。

 

「そ、そんなこけおどし!」

 

「んふふ、それはどーかなぁ? 私はカードを四枚セットしてターンエンド」

 

 そして彩葉は残った手札から四枚取って無造作にデュエルディスクに差し込み、一気に魔法・罠ゾーンを全て使ってカードをセットしターンエンドを宣言した。

 

「ヒョッヒョヒョヒョ! いきなり四枚もセット? 手札事故かこけおどしか。そんなものに引っかかる俺じゃないんだよねぇ!

 俺のターン、ドロー! このスタンバイフェイズにアルティメット・インセクトLV5は成長(レベル・アップ)する! 自分ターンのスタンバイフェイズ時、表側表示のこのカードを墓地に送る事で、[アルティメット・インセクト LV7]一体を手札またはデッキから特殊召喚する! 来い、[アルティメット・インセクト LV7]!!」

 アルティメット・インセクト LV7 攻撃力:2600

 

 アルティメット・インセクトの背中が割れ、まるで蛹のような姿から羽化したかのような姿へと成長(レベル・アップ)。背中の羽根を広げて空を飛ぶアルティメット・インセクトからは鱗粉が舞い散っていた。

 

「アルティメット・インセクトLV7はLV5からレベルアップした時、敵を蝕む毒の鱗粉を振りまく能力を得る。その毒鱗粉の前では全ての相手モンスターの攻撃力・守備力は700ポイントダウンするのさ!

 もっとも、モンスターがいなけりゃ毒鱗粉も意味がないけどね。バトル! 不気味なフィールド魔法だが、そんなものに引っかかる俺だと思わない事だなぁ! アルティメット・インセクトLV7でダイレクトアタックだぁっ!!」

 

 恐怖を振り払うように声を上げて攻撃宣言を行う青年に従い、アルティメット・インセクトが彩葉に襲い掛かろうとする。その時突如アルティメット・インセクトが沈黙したかと思うと、その身体から何かが噴き出して青年へと襲い掛かった。

 

「な、ぎえええぇぇぇっ!?」LP6000→4700

 

「きゃっはラッキー♡」

 

 突然襲い掛かってきた何か、まるで青白い霊魂に怯んでその突進をもろに受けた青年が悲鳴を上げ、彩葉はきゃはっと笑ってラッキーと漏らした後、ニヤニヤと微笑んだ。

 

「ごめんねおにーさん、言い忘れてた♡ ダーク・サンクチュアリには気まぐれな亡霊さんがたっくさん潜んでてね。攻撃を仕掛けようとしてきた敵対者に気まぐれに取り憑いて攻撃を封じると共に、その攻撃を指示した相手に報復してくるんだ♪ 気をつけないと自分の身体が傷ついちゃうよ~?」

 

「う……うぎゃあああぁぁぁぁっ!!」

 

 結果はどうあれダメージを受けたことに変わりはなく、青年は己の身体を流れる電流の痛みに悲鳴を上げる。

 

「く……」

 

 そして電流が流れ終わった後、青年は考え始める。彼の場にはまだ攻撃表示の昆虫人間が二体存在している。攻撃力が低いとはいえ今相手の場にモンスターはおらず、ダイレクトアタックのチャンスである。しかしダーク・サンクチュアリが存在する限り、運が悪ければまたさっきの効果ダメージを受ける羽目になる。

 そう、再び、さっきの電撃を受ける可能性がある。そんな思考が混ざった瞬間、青年はクッと唸り声を上げた。

 

「俺は昆虫人間二体を守備表示に変更! ターンエンドだ!」

 昆虫人間 ×2 攻撃力:500→700

 

 

「あれぇ? 昆虫人間二体で攻撃しないのぉ? 臆病者さーん♡」

 

「ふ、ふん! ガキには分からないだろうがこれは大人の戦略なんだよ! そのフィールド魔法を除去してから確実に仕留めてやる!」

 

「あはっ、こわーい♡」

 

 攻撃を躊躇った青年に対して彩葉が小馬鹿にしたような嘲笑を向けるも、青年はそれを戦略だと反論。その言葉に彩葉は手を口にやってあはっと笑った。

 

「――そう上手くいくといいねぇ?」

 

 直後、その笑みに嘲りが走り、同時に彼女の場の伏せカードがまた一枚翻る。

 

「おにーさんのエンドフェイズに永続罠発動、[ウィジャ盤]」

 

 そのカードが光を放つと共に、彼女の場にアルファベットや記号の描かれた板と謎の手や器具が出現。その不気味な形に青年がまたも怯んだ。

 

「ウィジャ盤は霊魂との交信に使われる道具でね。幽霊さんがおにーさんに伝えたい事があるんだってさ」

 

 彩葉の言葉と共に謎の手が動き出し、その器具が一つの文字――「D」を指し示す。同時に板――ウィジャ盤の上に「D」の文字を持つ霊魂が出現した。

 

「これだけじゃないよ? おにーさんのこのエンドフェイズにウィジャ盤の効果発動。相手エンドフェイズに手札・デッキから、[死のメッセージ]カード一枚を「E」「A」「T」「H」の順番で自分の魔法&罠ゾーンに出す」

 

「D、E、A、T、H……DEATH()!?」

 

 彩葉の話に青年がぎょっとした目で反応。彩葉がまたも冷たい笑みを浮かべる。

 

「そう。ウィジャ盤の効果により、このカードと[死のメッセージ]カード四種類が自分フィールドに揃った時、私はデュエルに勝利する。まずは「E」のカードだね」

 

 彩葉はそう言い、彼女の言う通り「E」のカードを示す死のメッセージカードを青年に見せる。だがそれを見た青年が途端に得意気な笑みを見せた。

 

「ヒョヒョヒョ! 死のメッセージカードは永続魔法! だけどお前の魔法・罠ゾーンに空きはない! どうにかしないと死のメッセージカードが置けないねぇ!」

 

「んふふ。心配ありがとう、おにーさん……けど大丈夫だよ。ダーク・サンクチュアリの影響下にある限り、私は自分の[ウィジャ盤]の効果で[死のメッセージ]カードを出す場合、そのカードを攻撃力・守備力0で悪魔族・闇属性・レベル1の通常モンスターとして特殊召喚できる。

 さらにこの効果で特殊召喚した「死のメッセージ」カードはウィジャ盤以外のカードの効果を受けず、攻撃対象にされない。

 そして、この効果が適用されたモンスターしか自分フィールドに存在しない状態での相手の攻撃は自分への直接攻撃になる」

 

「っ、攻撃対象にならず、俺のカード効果を受けないモンスターになるだって!?」

 

「[死のメッセージ「E」]を通常モンスターとして特殊召喚!」

 死のメッセージ「E」 守備力:0

 

 本来は永続魔法カードを置くことが許されないモンスターカードゾーンに死のメッセージカードが置かれ、「E」の文字を持つ霊魂が出現する。

 

「そして、私のターン。ドロー」

 

 そして、既に青年のターンエンド宣言は終わっているため彩葉のターンへと移るのだった。

 

「――ターンエンド」

 

 しかしそのまますぐにエンドを宣言。あっという間に青年のターンへと移る。

 

「(くそ、あのガキのデッキは恐らくウィジャ盤の効果での特殊勝利を目指すデッキ……モンスターを出す必要もないって事か…)…俺のターン、ドロー!」

 

 青年はデュエリストとしての癖か彩葉のデッキ内容を推測しながらカードをドロー。そのドローカードを見るとニヤリ、と笑みを見せた。

 

「ヒョーッヒョヒョヒョ! いいカードを引いたぜ! 手札を一枚捨て、フィールドの魔法・罠カードを二枚まで、ダーク・サンクチュアリとウィジャ盤を対象として速攻魔法[ツインツイスター]を発動! そのカードを破壊する!」

 

 突如二つの竜巻が発生、それによって不気味な瘴気や目玉達がかき消されていき、ウィジャ盤も同じく竜巻に吹き壊されようとしたその時、まるで何かに阻まれたかのように竜巻が防がれていた。

 

「な、なんだ!?」

 

「永続罠[宮廷のしきたり]を発動したんだよ♪ このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、[宮廷のしきたり]以外のお互いのフィールドの表側表示の永続罠カードは戦闘・効果では破壊されない。これでウィジャ盤は破壊されないね。残念で~した♡」

 

「ぐ、ぐぬぬ……だが、これでダーク・サンクチュアリの亡霊とやらは役に立たない。バトル! アルティメット・インセクトでダイレクトアタック!」

 

 しかし彩葉への攻撃をランダムで無効化し、逆に青年にバーンダメージを与えるダーク・サンクチュアリの除去は完了、総攻撃のチャンスだと青年が指示すると共にアルティメット・インセクトが背中から羽を伸ばして飛び出した。

「E」の文字を持つ霊魂は防御に参加することは出来ず、ただ自分を飛び越えていく昆虫を見届けるのみ。

 

「そ、そんな……」

 

「これで終わりだぁっ!!!」

 

 自分の防御が突破されたのがショックなのか、急降下攻撃をしてくるアルティメット・インセクトを呆然と見上げる彩葉と、勝利を確信して歓声に近い声を上げる青年。

 

「――なぁんちゃって♡」

 

 その時、彩葉がそう呟いた瞬間。アルティメット・インセクトがまるで見えない何かにぶつかったように動きを止め、そのまま弾かれるように吹き飛ぶのだった。

 

「な、なにぃっ!?」

 

「永続罠[スピリットバリア]。自分フィールド上にモンスターが存在する限り、私への戦闘ダメージは0になる。[死のメッセージ「E」]はモンスター扱いになってるからね。この効果を受ける範囲内だよ♪」

 

「そ、そんな……」

 

 驚く青年に彩葉が、いつの間にか発動していたカードを指しながら得意満面に説明。その言葉に青年は歯噛みする。

 スピリットバリアがある限り、彩葉の場にモンスターがいる限り戦闘ダメージを与えられない。しかし彼女の場に存在するモンスターは攻撃対象にならないため事実上の戦闘破壊耐性を持ち、さらには彼女のウィジャ盤以外の効果を一切受けない耐性を持つ。つまりそれを除去するだけでも一苦労という硬い防御力を誇っていた。

 さらには彼女のデッキのキーカードであるウィジャ盤ともども宮廷のしきたりによって守られており、これらを破壊するにはまず宮廷のしきたりから除去しなければならないというこれまた強固な体制を取られていた。

 

(だ、だけどダーク・サンクチュアリが消えた以上、ウィジャ盤の効果で死のメッセージカードが置かれるのは魔法・罠ゾーン……)

 

 青年がこれ以上死のメッセージがモンスター扱いで出てくる事はないはず、と考えていたその時。またも彩葉の場のカードが翻る。

 

「トラップ発動[メタバース]。デッキからフィールド魔法カード一枚を選び、手札に加えるか自分フィールドに発動する。二枚目のフィールド魔法[ダーク・サンクチュアリ]を発動するね」

 

「く……」

 

 その言葉と共に再び場が瘴気に満たされ始めるが、この状況はそれだけではない。青年が悔しそうに「ターンエンド」と宣言すると同時、ウィジャ盤が動き出す。

 

「ウィジャ盤とダーク・サンクチュアリの効果により、[死のメッセージ「A」]を通常モンスターとして特殊召喚!」

 死のメッセージ「A」 守備力:0

 

 続けてモンスターゾーンに出現する「A」の文字を持つ霊魂。

 このまま死のメッセージがモンスター扱いで並んでいけば強固な壁になると共に敗北のカウントダウンが刻まれていく。青年はギリリと歯ぎしりをしていた。

 

「私のターン、ドロー。[成金ゴブリン]を発動。カードを一枚ドローして、おにーさんのライフが回復する。カードを一枚セットしてターンエンドだよ」

 

「ちっ――ドロー!」LP4700→5700

 

 そんな青年をよそに彩葉は淡々とカードをドローし、またも成金ゴブリンを使ってドローを加速した後に手札から一枚伏せてターンエンドを宣言。青年がイラついた様子で「ドロー!」と勢いよくドローをするが、そのドローカードを見ると喜色を見せた。

 

 [馬の骨の対価]を発動! 昆虫人間を墓地に送って二枚ドロー! 続けて[闇の量産工場]を発動だ! 墓地の通常モンスター二枚、[昆虫人間]二枚を手札に加える。そして[手札断殺]! さっき手札に加えた昆虫人間二枚を墓地に送って二枚ドロー!」

 

「私も二枚捨てて二枚ドローするね」

 

 怒涛のドロー・サルベージを駆使したコンボで、さっきまで無手札だった彼の手札が一気に二枚に増える。それを見てさらに青年の表情は喜色を深めた。

 

「ヒョーヒョヒョヒョ! 速攻魔法[サイクロン]を発動! 宮廷のしきたりを破壊するピョー!」

 

「くっ……」

 

 得意満面の青年が魔法を発動すると共に放たれた竜巻が、彩葉の場の宮廷のしきたりを粉砕。通ったと見た青年はそこを逃さずさらに動き出す。

 

「俺は自分フィールド上の魔法・罠カード二枚、虫除けバリアーと伏せカード(DNA改造手術)を墓地へ送り、[オオアリクイクイアリ]を特殊召喚!

 オオアリクイクイアリの効果発動! このカードは攻撃をするかわりに相手フィールド上の魔法・罠カード一枚を破壊する事ができる! ウィジャ盤を破壊しろ!」

 オオアリクイクイアリ 攻撃力:2000

 

 青年の場の二枚の魔法・罠カードが消え、オオアリクイさえ喰らいそうな程に巨大なアリが出現。そいつは己の攻撃権を放棄する代わりとでもいうようにウィジャ盤目掛けて突進。その大顎でウィジャ盤を噛み砕いた。

 

「……ウィジャ盤がフィールドから離れた時、自分フィールドの[ウィジャ盤]及び[死のメッセージ]カードは全て墓地へ送られる……」

 

 そして砕かれたウィジャ盤が消滅すると共に、彼女の場の霊魂も全て消滅。彼女の場ががら空きとなった。

 

「ヒョーッヒョッヒョッヒョ! どうだ、これが大人の戦略なのさ! モンスターが消えた今、スピリットバリアも無意味! バトル! アルティメット・インセクトでダイレクトアタックだ!」

 

 青年の指示を受けたアルティメット・インセクトが飛び立ち、僅かに沈黙。しかしそのまま彩葉へと突進していくのを見て青年は笑みを浮かべた。

 

「勝った!」

 

「墓地の[超電磁タートル]を除外して効果発動! このバトルフェイズを強制終了させる!」

 

 しかしその直前、彼女の場に強力な磁力フィールドが発生。その磁力に弾かれたかのようにアルティメット・インセクトは青年の場に弾き飛ばされていった。

 

「ちぃっ! 俺はこれでターンエンド! だがお前の要であるウィジャ盤は破壊した! 次のターン、オオアリクイクイアリの効果でダーク・サンクチュアリを破壊すれば俺の勝利は決まったような――」

 

 青年の啖呵が途中で止まる。それもそうだろう。

 なにせ――彩葉の場にウィジャ盤が再び出現、さらにそのウィジャ盤の示す文字を示す霊魂が二つ、彼女の場に出現していたのだから。それはまさしく既視感(デジャヴー)の如く。

 そして彩葉が「きゃは☆」と笑う。

 

「おにーさんのエンドフェイズにトラップカード[ブービートラップE]を発動したんだよ☆

 手札を一枚捨てて、自分の手札・墓地の永続罠カード一枚を選んで自分フィールドにセットする。しかも、この効果でセットしたカードはセットしたターンでも発動できる。

 私はこの効果で墓地の永続罠[ウィジャ盤]をセットし、そのまま発動。その効果により[死のメッセージ「E」]も、ダーク・サンクチュアリの効果で通常モンスター扱いで特殊召喚されたの」

 死のメッセージ「E」 守備力:0

 

「だ、だけどなんで「A」の文字まで……いや……」

 

 彩葉の言葉に青年が反論しようとするも、そこで違うと気づく。

 そう、彼女の場に存在するのはウィジャ盤そのものが示す「D」と死のメッセージ「E」、だがその次に彼女の場にいた死のメッセージは「H」を示していた。

 その差異に青年が気づいたのを見計らったかのように、彩葉がまたにま、と微笑む。

 

「永続罠[死の宣告]。魔法&罠ゾーンのこのカードを墓地へ送る事で、自分の手札・デッキ・墓地から[死のメッセージ]カード一枚を選び、ウィジャ盤の効果扱いとして自分の魔法&罠ゾーンに出す事が出来る。これで私はデッキから[死のメッセージ「H」]を、ダーク・サンクチュアリの効果で通常モンスター扱いで特殊召喚したんだよ♡」

 死のメッセージ「H」 守備力:0

 

 そこまで説明を終えた彩葉がにやぁ、と意地悪く笑う。

 

「これでおにーさんのコンボは実質無駄に終わったね。まあ、破壊しなかったらこのターンでウィジャ盤の効果と死の宣告の効果で終わってたから。ギリギリ耐えたとも言えるかなぁ?」

 

「ぐ、ぐぬぬ……だが、俺の場にはオオアリクイクイアリがいる! 次のターン、こいつを破壊できなきゃ結局次のターンもう一度ウィジャ盤を狙って今度こそ終わりだ!」

 

「んふふ、そうなるといーねぇ♡」

 

 結果的に勝利を逃したとはいえ、青年のコンボに対して一瞬で立て直したともいえる立ち回りに対して青年が喚き、彩葉はニヤニヤと笑いながらカードをドロー。そうしたかと思うとデュエルディスクの墓地ゾーンに手をやった。

 

「墓地の[ダーク・オカルティズム]を除外して効果発動。自分の手札・墓地の[ウィジャ盤]及び[死のメッセージ]カードの中から、任意の数だけ選び、好きな順番でデッキの一番下に戻して、その後戻した数だけ自分はデッキからドローする。

 私はさっき破壊された「E」と「A」、そして「T」の死のメッセージと[ウィジャ盤]をデッキボトムに戻して、四枚ドロー!」

 

「な、そんなカード……」

 

 一気に四枚のドローを行い、手札は合計六枚。青年も何故そんなカードが墓地にと唖然とするが、自分がさっきまで手札断殺を使っていた事を思い出し、歯噛みする。その時に墓地に送られていたのだ。

 

「おまけに、[成金ゴブリン]を発動。またドロー&回復ね♡」

 

「……」LP5700→6700

 

 手札に来たらしい最後の成金ゴブリンをついでにと発動してドローを加速し、青年のライフがまた回復する。これで三枚目というのもあるか青年はもはや眉一つ動かさなかった。

 

「次に魔法カード[死者への手向け]を発動。手札を一枚捨てて、オオアリクイクイアリを破壊するね」

 

「うげっ!?」

 

 だがその次に発動したカードには流石に声を上げてしまう。しかしもう遅く、発動した魔法カードから伸びた包帯がオオアリクイクイアリをぐるぐる巻きにしてしまうとカードの中に引きずり込み、オオアリクイクイアリは魔法カード諸共消滅していった。

 

「く、くそ! だが、大樹海の効果発動! フィールド上に表側表示で存在する昆虫族モンスターが戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、そのモンスターのコントローラーは破壊されたモンスターと同じレベルの昆虫族モンスター1体をデッキから手札に加える事ができる! オオアリクイクイアリのレベルは5! 俺は[昆虫機甲鎧(バイオインセクトアーマー)]を手札に加える!」

 

「むふふ……」

 

 オオアリクイクイアリこそ破壊されるが辛うじて後続のサーチに成功。しかし彩葉はニヤニヤと笑みを見せ続けていた。

 

「魔法カード[ブーギートラップ」を発動するね。手札を二枚捨て、自分の墓地の罠カード一枚を対象としてそのカードを自分フィールドにセット。さらにこの効果でセットしたカードはセットしたターンでも発動できる……一応言っておくけど、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

「――私は墓地から永続罠[死の宣告]をセットするね♪ そして、最後に一枚伏せて。ターンエンド♡」

 

 彩葉は手札を全て使い切ってターンエンドを宣言するも、対峙する青年の顔は青い。

 この青年のエンドフェイズにウィジャ盤の効果で次の死のメッセージである「A」が刻まれると同時に市の宣告によって死のメッセージ「T」が刻まれた瞬間、ウィジャ盤の特殊勝利条件が満たされる。

 即ち、このターンで彼女のライフをゼロにするなりして勝利するかウィジャ盤を攻略しなければ彼の負けが確定する。さっきのターン、オオアリクイクイアリによってなんとかしのいだ敗北へのカウントダウンを再び突きつけられてしまっていた。

 

「お、俺のターン、ドロー!!」

 

 対する青年の手札はさっきのターンにサーチした昆虫機甲鎧とこのドローフェイズにドローした二枚のみ。しかし青年は必死に知恵を巡らせ、その中でこの状況を打破できる可能性に思い至る。

 

「俺は魔法カード[孵化]を、昆虫人間を生贄に捧げて発動! 生贄に捧げたモンスターよりレベルが一つ高い昆虫族モンスター一体をデッキから特殊召喚する! 昆虫人間のレベルは2! よってレベル3の昆虫族モンスターがデッキから孵化する!」

 

 まずはドローカードを使い、頭に描いた逆転の一手の一歩を踏み出す。

 

(俺のデッキにはレベル3の[ジャイアント・メサイア]がいる! こいつを出してアルティメット・インセクトかジャイアント・メサイアのどちらかの攻撃がダーク・サンクチュアリで無効にされなければ、ジャイアント・メサイアの効果でウィジャ盤が破壊できる! そうすればまだ俺に勝機は――)

 

 50%の確率で攻撃が無効にされるダーク・サンクチュアリを潜り抜ける必要があるとはいえ、これに成功すれば再びウィジャ盤を破壊し、圧倒的有利になる。勝つにはこれしかないと青年は狙う。

 

「孵化の発動にチェーンして、ライフを半分支払ってリバース・トラップ発動」LP3000→1500

 

「――え?」

 

 だが、それを遮るように彩葉の声が響き渡る。

 

「[神の宣告]。魔法・罠カードが発動した時、その発動を無効にし破壊する。孵化の発動を無効にして破壊するね♪ おにーさん、残念でしたー♡」

 

「な……」

 

 彩葉の場に現れた神のような威厳溢れる老人が一喝すると共に、青年の場の魔法カードが力を失って粉砕される。

 

「あああぁぁぁぁっ!!!」

 

 同時、ライフを支払った事すらも電撃の対象になるのか。衝撃増幅装置から電撃が流れて彼女の身体を傷つけていく。しかしその悲鳴を上げる彩葉の表情はどこか楽しげだった。

 

「……っ」

 

 そして対する青年は顔が青くなる。これで彼の場に残っているカードはアルティメット・インセクトLV7と大樹海のみ。伏せカードはなく、手札も場の昆虫族に手札から装備して装備モンスターのステータスを上げる効果を持つ昆虫機甲鎧のみ。

 彩葉の場にモンスターと化した死のメッセージとスピリットバリアがある以上、単純に攻撃を仕掛けてダーク・サンクチュアリを潜り抜けたとしてもダメージを与える事は出来ない。

 つまり――彼は万策尽きていた。

 

 

 

 

 

 ズズズ……

 

 万策尽き、凍りついたように動かないまま無為の時間を過ごす青年をよそに、ウィジャ盤が動き出す。時間切れによって強制的にターンプレイヤーのエンドフェイズへと移行したのだ。

 そしてウィジャ盤が「A」の文字を指し示すと同時、彩葉の場に「A」の文字を持つ霊魂が出現。同時に彼女の場の永続罠カードが翻った。

 

「ウィジャ盤とダーク・サンクチュアリの効果により、[死のメッセージ「A」]を通常モンスター扱いで特殊召喚。そして永続罠[死の宣告]を発動し、これを墓地に送って効果発動。魔法&罠ゾーンのこのカードを墓地へ送って、自分の手札・デッキ・墓地から[死のメッセージ]カード一枚を選び、ウィジャ盤の効果扱いとして自分の魔法&罠ゾーンに出す」

 死のメッセージ「A」 守備力:0

 

「あ、あ……」

 

 再び、ウィジャ盤が動き出す。青年が震える声を漏らすが、それでウィジャ盤が止まる事はなく、

 

「[死のメッセージ「T」]をダーク・サンクチュアリの効果により、通常モンスター扱いで特殊召喚♪」

 死のメッセージ「T」 守備力:0

 

「T」の文字を持つ霊魂が彩葉の場に出現。

 同時、「D」、「E」、「A」、「T」、「H」。それぞれの文字を持つ霊魂が浮遊し、整列。

 

 

DEATH

 

 

 青年に「DEATH()」の宣告を突きつけた。

 

 

 

 

 

「そ、そんな……あり得ない、俺はプロデュエリストなんだ……昔は全国大会で優勝もしたことがある……その俺が、こんなガキに負けるなんて、そんな、そんなわけ……」

 

 魂が抜けたように呆然とへたり込み、現実を認めたくないように俯いてぶつぶつと呟く青年に対し、彩葉はニヤニヤと笑っていた。

 

「あ、そーそーおにーさん。一つ大事な事を言い忘れてたんだー♪ 聞こえるー?」

 

「え……?」

 

 大事な事、そう言われた青年が顔を上げる。彩葉が「にゃは♡」と笑みを浮かべる。黒猫を模したパーカーのフードを被って猫耳を模したパーツがピンと立ち、こてんと首を傾げている格好がとても愛らしいそれはしかし青年にとって、これから死の宣告を与える死神のように見えた。

 

「ここの特別ルールでね。デッキ破壊とか特殊勝利とか、ライフが0にならない手段で敗北した相手のライフポイントはね……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……っ!!!」

 

 彩葉の言葉を聞いた青年が、全てを察して絶句。慌てて自分の左腕のデュエルディスクを確認する。

 そこに示されている彼のこのデュエル中の最終ライフは6700。これが一気に0になったとみなされるダメージ、つまり、6700のダメージを受けたとみなされ、衝撃増幅装置が作動する事になる。

 

「ま、待て! 待ってくれ!! や、やめてくれぇ!!!」

 

 もはや恥も外聞もなく泣き叫ぶ。このデュエルで彼が受けたダメージはアルティメット・インセクトLV7の攻撃がダーク・サンクチュアリで跳ね返された1300のみ。単純に言ってそのダメージの五倍の衝撃・苦痛がこれから味わわされるというわけだ。

 

「おにーさん♪」

 

 それに対し、彩葉はにこっと可愛らしく微笑む。

 

「本日のホントのメインイベント、開始だよ♡」

 

 そして、その可愛らしい微笑みが見下すような視線と嘲るような笑みへと変化するのと、青年のデュエルディスクのライフポイントゲージが急速に減少していくのは同時だった。

 

 LP6700→0

 

 そしてそのライフポイントゲージが0を示すと同時、

 

「ぎゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 衝撃増幅装置から強烈な電撃が流れ、それを抵抗も出来ずに浴びる青年の痛々しい悲鳴が響き渡るのだった。

 床に倒れてのたうち回り、なんとか装置の一つである首輪を外そうと躍起になって首輪を両手で掴み外そうとするも失敗、まるで地面に打ち上げられた魚のようにのたうち回りながら痛々しい悲鳴を上げる青年の姿を彩葉はクスクスと冷たく笑いながら見守り、それを見物する観客も面白い見世物を見ているかのように笑い続けていた。

 

「あ……が……」

 

 そして電流が止んだ時、青年は身体をビクビクと痙攣させながら、痛みに耐えきれなかったのか白目を剥いて気絶。

 牢屋に入ってきた黒服の屈強な男達が気絶した彼を乱暴に抱えあげると、彩葉は青年の元に歩み寄り、そっと耳打ちした。

 

「おにーさん。楽しかったよ♡ また遊ぼうね♡……借金を返済した後で、まだ命があったらだけど♪ きゃは♡」

 

 気絶している青年に聞こえているか分からないが、まるで深層意識に刷り込もうとでもしているかのように彩葉は囁く。

 このデュエル、実は青年は「自分の借金を返せるだけの大金を自分の勝利に賭けて」デュエルしており、デュエル前に痩躯の男性が言っていた言葉は「勝てば借金をチャラに出来るだけのお金が賭けの結果として手に入る」というだけの意味。しかし結果は敗北、その負け分だけ逆に青年の借金は増えたのだった。

 

 彩葉が囁き終わると共に青年は屈強な男性に運ばれていく。彼が今からどこに行くのか、どんな地獄を味わうのか。彼女は知らないし興味もない。

 彩葉はくるりっと観客達の方を振り返るとにぱっと明るい微笑みを見せる。その笑顔はさっきまで一人の人間を陥れ、苦痛を味わわせ、その人生を実質的に終わらせていた事に愉悦を感じていたとは思えないほどの純粋なものだった。

 

「みんなー☆ 楽しんでくれたー?」

 

 まるでアイドルのように振る舞う彩葉の姿に観客達は熱狂。その姿に彩葉はむふふと微笑んで手を振り、

 

「次も皆を楽しませてあげるから、応援よろしくねー♪ じゃ、まったねー♡」

 

 媚を売るようにそう言い残して無邪気に去っていく。

 デュエル界の闇である地下デュエル場に咲く一輪の花のように可憐であり、それでいて綺麗なバラには刺があるという格言通りの残虐性を併せ持つ少女の姿に、観客達は再び熱狂するのだった。




《後書き》
 特殊勝利デッキで戦う彩葉ちゃんを見たいというリクエストをいただいたので作ってみました。
 で、またデュエルに持ち込むネタが思いつかなかったので放り込みました地下デュエル場。そして今回の相手ですが、まあわざわざギャンブラー彩葉ちゃんのお話をサルベージした以上、相手が誰かは分かると思いますが。
 まあ、はい……すみませんでした!!!前回のダイナ……げふんげふん謎のデュエリストは匂わせ出来たけどインセ……げふんげふんこっちは無理!!
 彼が原作で使用してたカードのカードパワーが低すぎるか召喚条件厳しすぎてまともなデュエルになんない!ポイズン・バタフライとかいくつかOCGまだの切り札もあるし!

 そういうわけである意味では彼の象徴であるモンスター[昆虫人間]を始めとした低レベル通常モンスターをメインに馬の骨の対価でドローに繋げたり闇の量産工場でサルベージからの手札断殺のコストにしてドロー加速とかしてアドバンテージを稼いだり、生贄にして上級モンスターに繋げたり、あとは種族操作と虫除けバリアーとのコンボで攻撃を封じたり、昆虫族がやられても大樹海で後続に繋げる物量重視のイメージに仕上げました。
 今回の彼のエースカードポジションで登場したアルティメット・インセクトシリーズも、一説ではグレート・モスシリーズのリメイクと言われてますし……。(目逸らし)
 ただ今回の彩葉ちゃんのデッキは自分から攻撃を仕掛けないデッキだったのでアルティメット・インセクトLV7の弱体化効果は無駄になるし、虫除けバリアーも攻撃を仕掛けない以上意味がない。大樹海も結局ほとんど意味をなさなかったと、改めて相性がクソ悪かったです。(汗)

 そしていっそ彩葉ちゃんを邪悪系メスガキに変貌させて、地下デュエル場に堕ちてきたデュエリストを様々なデッキで地獄に叩き落とす。ある意味純粋無垢な地下デュエル場のアイドル方向にリメイクしようかとちょっと考え始めてます。
 まあ書かないと思いますけどね。前回のギャンブルは「どう転ぶか分からないから観客も楽しめる」、今回のウィジャ盤は「何をしようとも無駄だと相手に絶望を味わわせ、そして回復すればするほど相手は逆に最後の苦しみが大きくなり、その苦しみを見る観客が楽しめる」って感じで作りましたけど。たとえ後付けだろうとそういう感じの設定や理由付けを作れるデッキのネタがそうないし、そもそもあくまで匂わせでやるとはいえ原作の名のあるデュエリスト達が(主に借金苦で)地下デュエル場に堕ちるなんて書きづらい事この上ないですよ!

 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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