この素晴らしいたゆんたゆんにたゆんたゆんを! 作:膝に矢うけたった
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「ヒーヒャァッハハッハハァアアアアアア!! チェェエストォゥ!!」
(……どうしてこうなった)
平野で少年が一人空を見上げて遠い目をしていた。彼の名前は佐藤カズマ、異世界地球から神の力で転生してきた少年だ。
何故彼が空を見上げて黄昏ているのか、その理由は遠くから響く声の主にあった。
(危機センサーに二重トラップとか気付くわけねーじゃん……)
空から視線を下ろし、見つめた先には小柄ながら、とても豊満な胸部を持った女性が刀を振り上げて巨大なカエルを追いかけている姿があった。狂気的な、おおよそ女性がしちゃいけない表情をし、カエルの血液に塗れる姿は石器時代の戦士を思わせるものだった。
「空、青いなぁ……」
彼は再び空を見上げ、自身の愚かさを呪うことしかできなかった。
「パーティー募集ってまだしていますか?」
事の始まりは数時間前、一人の女性がギルドの酒場にいたカズマを訪ねてきたことだった。彼が冒険者になったばかりの頃、『二人』でやっていくことが無理だと悟った彼は、仲間を募集する張り紙をだしていた。つい昨日、『キャベツ狩り』の後、――彼にとっては不本意だったが――クルセイダーの女騎士が仲間に加わり、それ以前に加わったアークウィザードの少女、最初から共にいたアークプリーストで四人になったことで、張り紙を外そうと考えていた矢先だった。
ちなみに、その女性たちは皆買い物やら、装備の修理やらで今日はギルドにこないらしい。ギルド内もキャベツの査定のためか、他に冒険者の姿が見当たらない。
そんな彼の前に現れたのはプラチナブロンドの長い髪が眩しい女性だった。優し気な顔立ちに、楚々とした雰囲気、小柄な体躯ながら豊満な胸部、間違いなく美女、美少女に分類される姿だった。
(これ、あかん奴だ。間違いねぇ)
彼には今までの経験から、その女性をそう感じた。まるで役に立ってる気がしない駄女神、一発しか撃てない魔法『しか』習得してない上に我慢ができない魔導士、攻撃が一切当たらず硬さだけが売りのドMな女騎士、彼女達との出会いが彼の危機管理センサーをより高精度な物へと変えていた。
「やっぱり、もう募集はしてないのでしょうか?」
女性が俯き気味に小さな声でそう告げるのを聞いて、彼はより警戒を強くする。
(俺は知ってんだ。容姿とか態度に騙されたら最後、後に待つのは地獄だってことは!)
彼の仲間たちはみな、美女、美少女と呼べる容姿をしているが、彼にとって彼女たちは例外なく胃痛の種だった。特に先日似たような状況で女騎士と出会ったのだから、警戒度は何段階も上がる。
「あの、私、『コレ』で敵を斬るくらいしか戦闘でできることはないですけど、もし、まだ募集してるんだったら御一考してもらえればと……」
そう言って彼女は腰に差した刀の柄を白く綺麗な指で撫でる。それに合わせて柄頭に付けられた二つの鈴が音を鳴らして、その存在をアピールしていた。
「じゃあ、率直に聞くけど、あんた何か隠してないか? 欠点とか、常識では理解できないこととか」
カズマがようやく口を開いたが、その内容はあまりにあんまりなものだった。センサーが間違っていた場合、失礼極まりない質問なのだが、埒があかないと思ったので真向から聞くことにしたのだ。さすがに鍛え上げられた危機管理センサーでも地雷の内容までは察知できない。
「常識で理解できないこと……」
彼女は意を決したように瞼を閉じると、カズマに顔を近づけて困ったような表情を浮かべた。そんな状況に彼は顔を真っ赤にして目を見開いてしまっている。
たとえ相手が地雷だとわかっていても、美女の顔が近づけば冷静でいられないのは童貞の性である。ましてや、近づく瞬間には彼が見たこともないほど大きなお胸が『たゆん』と効果音が聞こえそうな動きで揺れたのだ。
(近ぇ、あとでけぇ、なんだこれ、超いい匂いするし、ダメだ、騙されるな俺、きっとコイツも地雷に決まって……)
「あの、誰にも言わないでくださいね……」
艶のある声、僅かに揺れる身体に合わせて揺れる胸、全てが童貞少年の理性を殺しにかかってくる。それまで巡っていた思考は完全に停止し、この僅かな時間で彼の精神は死にかかっていた。
「私、異世界から転生してきた勇者候補なんです」
(ここがおっぱいの桃源……、は?)
「女神アクア様に転生させられてこの世界に来たんですが、理解できませんよね」
彼女は困ったように小さな笑みを浮かべるが、それを聞いた彼はそれどころではない。
(マジで? あっちの人なら最低限の分別はあるよな。地雷ってのはアクア関係か? もらった転生特典がとんでもないとか、つまりセンサーの誤作動、いやセンサーは正しく機能してるのか?)
彼女の口にした女神を彼はよく知っていた。というより、半ば嫌がらせで転生特典を『女神本人(本神?)』にしたため、現在の仲間の一人がそれだ。
「ちなみに、一日に一回しか戦えないとか、ステータスに致命的な欠陥を抱えてるとか、明らかに役に立たないスキルを習得してるとかそういうのは?」
「ありませんよ。長期戦もできますし、戦い方としては最前衛で敵に斬りこむ感じで、ちゃんと敵を倒せますし、スキルは火力に寄せてますが……」
カズマは考え込む。戦闘能力に関しては問題ない、性格に難があったとしても、こうして話している内容を聞く限りでは致命的なものは感じない。むしろ、現在自分達に足りない部分を埋めることができる優良物件に思える。アクア関係の問題がある可能性は追々考えていけばいい。
(これ、超当たりじゃね? 戦闘できて、めっちゃ美人で、エロいし、全然ありだよな。というか、ついに正統派ヒロインきたんじゃね?)
異世界の厳しさは身に染みてわかってはいるが、それでも夢を捨てきれないのが童貞というもので、彼もその例に漏れることはなかった。
「そんじゃ、女神云々は置いといて、ジャイアントトード相手にどれくらいできるか見せてくれよ」
(ここで俺は慌てない。ここでOK出して失敗したら目も当てられないからな……)
「うん、がんばりますねっ!」
カズマの言葉を受けて、女性はその場で小さく跳ねて気合が入っていることをアピールする。鈴の音とともに、ビッグなものが縦に大きく揺れる。
(この大きさだとここまでダイナミックに揺れんのかっ!?)
思春期の少年はそれから目を背けることはできなかった。むしろ、思春期じゃなくても無理かもしれない。
「朝ご飯がまだなら、お弁当あるから一緒に食べながら行きませんか?」
更に女性はカバンから弁当の包みを取り出して、満面の笑みを向ける。それを開いてみれば、とても美味しそうなサンドイッチが数個姿を現した。
(料理もできるとか、マジで当たりか? ついに俺も異世界物の主人公デビューなのか?)
彼は受け取ったサンドイッチを齧りながら、残っていた依頼書を手に二人でギルドの外へと歩いていく。その背中に何か視線を感じた気がしたが、今の浮かれている彼はそれがどういうものなのか気付くことができなかった。
「そうだ、まだ自己紹介してませんでしたね」
「ん、そうだったな。俺はカズマ、職業は冒険者で知っての通り最弱職だ」
ギルドを出て街を歩きながら、そんな会話しているが、彼は大事なことに気付いていなかった。自分のところにいる一発屋の魔導士に何故仲間がいなかったのか……。
「私の名前はサユキと言います。見ての通り、得意武器は『刃物』です」
彼がそれに思い至らなかったことこそが、この後の悲劇の引き金になる。今ならまだ引き返せた。
「職業は『狂戦士』、一応上位職なんですよ」
そう、仲間がいない者には相応の理由があるはずだということに、彼は気付かなかった。
いつまで続くかわからない連載投稿開始です