この素晴らしいたゆんたゆんにたゆんたゆんを! 作:膝に矢うけたった
あの後、ダクネスがベルディアに斬られた冒険者に祈りを捧げて、彼らを惜しんでいたら、実はアクアに蘇生されてりだとか、翌日にめぐみんがお酒を飲ませてもらえないと愚痴っていたり、ベルディアの討伐報酬で悠々自適な異世界ライフをカズマが送ろうとしたら、門の修繕費で借金を背負ったり、色々あった。
現在は、ギルドの酒場でサユキの焼き菓子をつついている最中である。ベルディアがいなくなったからといって、即日元通りにクエストが出るわけでもなく、また貯蓄に余裕のない冒険者も多いため、依頼はすぐにはけるためカズマ達は依頼を受けていない状況だ。
「つか、お前ら二人、あんなコンビネーションいいなら、普段からあんな感じで戦えよな」
カズマの視線がダクネスとサユキの二人に向けられる。
「無理です」
「無理だな」
二人揃って即答である。この二人息は合うが、性癖が合わないので仕方ないのだ。カズマとしては少しでも楽して借金を返したいのだが、このメンバーにそれを求めるのは無理というものだろう。
「よっ、はっ、花鳥風月っ!」
駄女神は今日も元気に宴会芸で冒険者からおひねりをもらっているし。
「カズマ、カズマ、爆裂魔法が撃ちたいです。もう、デュラハンがいないんですし、あの城に好きなだけ撃ち込んでいいんですよね?」
めぐみんはベルディアの有無に関わらず撃ち込むだろ、と突っ込みたくなるようなことを言っているし。つまりは平常運転なのである。
(借金を返せる日は来るのだろうか……)
しみじみとそんなことを考えてしまう。魔王軍幹部を倒そうと、カズマのやる気に火が付くわけもなく、如何に安定した生活を送るかが彼の課題なのである。
異世界転生を果たした少年、佐藤カズマ。転生特典を勢いと嫌がらせで選び、異世界への期待など早々に打ち砕かれ、どうしようもない仲間に囲まれて、魔王軍幹部を倒しちゃったごく普通のちょっと性格の悪い少年である。
夕暮れ時、夕食前に少し散歩をしようとギルドを出たカズマは、のんびりと街の中を歩いていた。夕陽はいつもと変わらず、つい先日魔王軍幹部との死闘があったことが夢なのではないかとさえ思える。魔王がいようがいまいが、世界は変わらず時を刻み続ける。
そんな中、赤い夕陽に照らされたプラチナブロンドの髪が目に入ってくる。彼はその主へと足を進めた。
「サユキはこんなところで何してんだ?」
声をかけて見れば、彼女は振り返ってカズマの顔を見るなり首を傾げてしまう。
「何、んー、何をしているのでしょうね。何となく、夕陽を見たくなったのでしょうか」
その返答は要領を得ないものだった。彼女自身これと言って理由があってこうしているわけではないのだろう。
「ふぅん、まぁ、そのなんだ、ベルディア戦はお疲れ様」
カズマとしても用事や話題があって話しかけたわけではないので、何を言えばいいのかわからない。ただ、夕陽を浴びる彼女になんとなく話しかけてみただけなのだ。
「あそこまで攻撃が通じない相手は初めてでした。ですが、それが楽しかったです。これはますます自分を鍛えなければいけませんね!」
小さく跳ねて、たゆんたゆんをばるんばるんさせながら、すごく物騒なことを言っている。
(楽しいとか、勘弁してくれよ……。俺はできれば二度とあのレベルの相手とは会いたくないっての)
お胸に視線を向けるのを忘れず、彼はそんなことを考えていた。
「それもこれも、カズマ君のおかげですね」
「は? なんでそこで俺が出てくるんだよ。特に何かした覚えはないぞ。そりゃ発端は俺とめぐみんかもしれないけど……」
彼女は照れ臭そうにしながら、夕陽を見つめる。顔が少し赤いのは夕陽のせいか、それとも彼女自身が赤くなっているのか、それはわからない。
「私一人だと、たぶん、すぐに負けちゃってました」
そう言いながら顔をカズマの方に向ける。真っ直ぐ、カズマの瞳を見つめながら、言葉を続けた。
「カズマ君が私を仲間に入れてくれたから、だからなんです。きっと、だから、ダクネスさんと一緒に最後まで戦えたんだと思います」
彼女の瞳はどこまでも真剣で、真っ直ぐで、そこに嘘など一つもないのだとわかった。
「だからです。ありがとうございます、カズマ君」
彼女はそう言って、優しい笑みを浮かべる。夕陽下で浮かべるその笑顔がとても綺麗で、カズマはそんな姿に思わず頬を染めて顔を背けてしまう。
「あ、あぁ、うん、そうか……」
何か気の利いた返事ができるわけもなく。ただ、恥ずかしそうにそう返すことしかできなかった。
「これからもいっぱい敵の首を落としましょうね!」
この一言がなければ、サユキルートに入ってもおかしくなかった。これでは折角の雰囲気も台無しである。
(これさえなければ完璧なんだよなぁ。神様はどうしてこいつを……。あ、日本担当の神様の一人はアクアだったわ)
そうして話していると、夕陽も地平線に隠れ始めているのが見えた。
「そろそろいい時間だな。ほら、戻って飯でも食うぞ。早くいかないとアイツらが何をしでかすかわかんないしな」
彼が背を向けて、歩き始める。そんな後ろ姿を彼女は見つめていた。
「ありがとうございます。こんな私を……。いつか、きっと、私も普通の……」
小さく呟いたその声は空に溶けて消えていく。彼にも、誰にも届くことはなく、ただ消えていく。
「おーい、何してんだ。早くこいよ!」
彼の呼ぶ声が聞こえる。その姿に向けて、彼女は駆け出していく。たゆんたゆんちゃんが駆け出せばどうなるか。もうわかりきっていることである。
(うおっ、走るとこれまたすっげーなぁ)
カズマの脳内ストレージに永久保存された。
ギルドに戻った時には陽は完全に落ち、夜の闇が一面を包み込んでいた。そして、ギルドの中では仲間たちが食事を注文し終えたところだった。ただし、駄女神だけは一人、すでにシュワシュワを飲んで上機嫌に騒いでいる。
少年の二度目の人生、新たな日常はこうして続いていく。騒がしく、頭を悩ませ、時にトキメキを感じては裏切られて、苦労ばかりでも、痛みがあっても、前世と違う新鮮さと刺激の多い日々だ。
「おい、アクア! 何一人でできあがってやがる。少しは待てないのか!」
この幸運で不運な転生者に祝福を……。
ちょっといい話風にまとめてみた
次からは新章に入ります。奴の時間が近づいてきた