この素晴らしいたゆんたゆんにたゆんたゆんを! 作:膝に矢うけたった
今回は新章のプロローグ的な話になります
気付いたら、ランキングに乗っていました。皆さま本当にありがとうございます。
これからも、たゆんたゆんをたゆんたゆんさせるべく頑張らせていただきます。
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「うぅ、さみぃ……」
冬の足音が近づいてきた今日この頃、馬小屋暮らしには厳しい朝がやってきた。この寒さの中、カズマが目を覚ませばアクアがいびきをかいて寝ている。なんとかは風邪をひかないとは言うが、駄女神が風邪でもこじらせようものならどんな大惨事になるかわからない。なので、極力暖かくして眠れるようにだけは考慮している。
「絶対うざさが天元突破するな」
馬小屋をでて軽く体操をしていると、見覚えのある影が訪ねてくるのが見えた。
「おはようございます、カズマ君。スープ作ってきましたよ」
サユキはこうして朝に暖かいスープを持ってきてくれる。本人曰く、女神様が風邪でもひいたらよくないから、とのことだが、単純にアクアがねだっただけである。それから毎日、彼女はこうして暖かいスープを届けに来てくれている。
「あの駄女神のわがままに付き合わせちゃって悪いな。嫌ならこんなことしなくてもいいんだぜ?」
カズマは水筒のようなものを受け取りながら、そう伝える。彼女の持ってきたスープは一杯、カップに注ぐと冷ましながらそれを飲む。野菜の味がするオニオンスープのようなもので、身体の芯が温まるのを感じることができた。
「そんなことないですよ。料理自体は好きですし、誰かが食べてくれるなら嬉しいですから」
「うん、そっか。サンキューな。今日もうまかったよ」
その感想を聞いた彼女は嬉しそうに身体を大きく揺らす。このたゆんたゆんを拝むのも彼の日課になり始めている。
「それにしても、これ魔法瓶だよなぁ……」
スープの入った保温性ばっちりの水筒に視線を向けながらそんなことを呟いた。
「なんでも古い研究者が大量に作った魔道具らしいんですけど、数だけはあるから少し高めですけど気軽に買えるんですよ」
誰が作ったかわからないが、この保温性の高い水筒はかなりの量が見つかっている。そのため、市場には大量に出回っていて、一部、特に転生者に絶大な人気を誇る。ただし、某元大魔法使いは何故かこれを入荷した経験はない。
「カズマー、サユキきたー?」
駄女神が起きたようだ。これくらいの時間に起きれば、スープが飲めると本能的に理解しているのだろう。カズマの手の中にある水筒に気付くと、それを奪うように取り上げて、自分のカップにスープを注いだ。
「あぁー、やっぱり寒い朝にはあったかいスープよねぇ。サユキ、あなたきっとその内いいことがあるわよ。女神であるこの私にここまで尽くしているんだもの、絶対よ」
焼き菓子やらスープやら、すっかりサユキは女神御用達の料理人扱いである。彼女はその言葉を聞いた直後、僅かにカズマに視線を向けた気がしたが気のせいだろう。少なくともカズマは気付いていなかった。
(俺は気付いてない。俺は気付いてない。こいつのいいことなんて、首級以外にない。絶対ない……)
気付いてないふりだったようだ。
「……きっと、大将首に出会えるんですね」
(やっぱりじゃねぇか!)
そんな騒がしい朝、二人が準備を終えて三人でギルドに向かうまでがいつもの光景である。
ギルドに到着すれば、そこにはいつも通りめぐみんとダクネスが待っていた。
「また、二人はサユキにスープを恵んでもらってたのですか。あ、残ってたら私にもください」
めぐみんがそう言いながら、カズマから魔法瓶を受け取って中身をカップに注いで飲んでいる。このスープ、意外とメンバー内で好評だったりする。
「サユキのスープはやっぱりおいしいですね。今度、私にも作り方を教えてくれませんか?」
「もちろんいいですよ。それなら、今度うちで一緒に作りましょうか」
この手のことで話が弾むのはサユキとめぐみんの二人だったりする。めぐみんは意外と料理ができるのだ。ちゃんとした食材の処理もできるし、味付けもしっかりしている。普段の爆裂脳からは想像できないが、家庭的な面がある女の子なのだ。
「少し変わった風味はあるが、サユキの料理は相変わらず美味しいな」
ダクネスにも好評だったりする。変わった風味というのは、和風っぽく作ることが多いからだろう。普段は洋風な作りがほとんどだが、カズマも飲むということで少しだけ和風にしてあるのだ。
サユキとしても前世からずっと趣味にしていた料理で喜んでもらえるのがうれしいのか、先ほどから何度も小さく跳ねて、二つのお胸をたゆんたゆんさせている。
「おっ、勇者じぇねーか。こんなとこで何してんだ? 相変わらず、傍から見る分には随分と羨ましい光景じゃねーかよ、ケッ」
そんな話をしていると、カズマに話しかけてくる冒険者がいた。跳ねた金髪の男、名前はダストという。ベルディアと戦う前に、カズマと知り合った冒険者である。
「羨ましいなら代わってみるか?」
「いやぁ、やめとくわ……」
カズマがそう言ってジト目で睨むが、ダストは一瞬だけサユキに視線を向けると断りを入れる。
彼がカズマを勇者と呼ぶのには理由がある。彼はサユキのことを以前から知っていた。というか、この街の冒険者では知らない方が珍しい。そんな彼女をパーティーに迎え入れた勇者がいると聞いて興味本位で尋ねたのが知り合った経緯である。
彼がカズマを勇者と呼ぶのはそのためである。いくらいい女でも薩摩隼人は彼の管轄外であるので、嫉妬もあまりない。むしろ、その時にした会話のせいで、他のカズマの仲間に対しても僅かながら警戒心がある。
「そんじゃ、俺はもう行くけど、今日はもういい依頼は残ってねーと思うぜ」
そう言って彼はギルドを出ていく。彼の言う通り、掲示板にはあまりいい依頼は残っていなかった。
(冬も近いせいか、俺達でもできそうなのは特にないか。借金もあるし、収入ないのはきついんだよなぁ)
掲示板の前を去って、酒場の方に足を向ける。今日もサユキのおごりでご飯を食べなければならない。借金を等分した結果、サユキだけは即日返済が完了している。高難易度クエストを一人でこなしていた彼女の財力には驚かされたものだ。全部は無理でも、少しでも多めに出そうかという彼女を全員で必死に止めたのは記憶に新しい。
「悪い、やっぱこれといっていい依頼なかったよ」
そう言って、席に行ってみれば、アクアがすでにからあげを頬張ってシュワシュワを飲んでいた。サユキは気にしていないようだが、カズマは自分がどんどんダメ人間になっていくようで耐えられそうになかった。
(くそ、なんとしても明日には何かクエスト受けないとまずいっ)
女に集るダメ男の烙印だけは何が何でも避けたいカズマは決意を新たにする。明日からってのが何とも、元ニートらしい考えなのは気にしない方がいいだろう。
「カズマ君、無理しちゃダメですよ。なんなら、私がまた一人で高難易度クエスト受けてきましょうか?」
(やめろぉお。俺をダメ人間にしようとするな! 楽はしたいが、ヒモになるつもりはねーんだよ)
サユキの誘惑に必死に抗う。ここで負けたら、二度と這い上がってこれない気がした。
「サユキ、ずるいぞ。それなら私も一緒に、そしてできれば最初は私一人に任せてほしい!」
ダクネスが反応するが、何が目的か丸わかりである。カズマはもう何も聞きたくないと言わんばかりに耳をふさいでいる。めぐみんとアクアはのんびりとからあげを食し、サユキがダメ人間への道を舗装し、ダクネスがそこに別の理由で便乗する。何故、こうも美女美少女が集まって残念な光景を生み出すのか。
(もう、俺はダメかもしれない……)
ギルドから逃げ出したカズマは街を一人で歩いていた。ポケットを探れば、逃げ出す直前にサユキからもらったお小遣いが入っている。一応言っておくが、いくら借金を背負っていても無一文というわけではない。事情が事情であったこともあって、その辺りの融通はかなりきくのだ。
このお小遣いやら、食事のおごりというのは彼女が言い出したことである。理由を聞けば、ただですらそれまでベルディアの存在があって貯蓄が厳しいのに、冬が本格的になる今に使い切るのはよくないとのことだった。
納得できる理由ではあったし、アクアが泣きながら喜んでいたので結局受け入れることにしたのだ。ただ、その時のカズマに向ける視線に少しばかり違和感があった気はする。
「何か、俺、やっぱりダメ人間になりかけてない?」
そんな疑問を抱きながら、彼は当てもなく街を歩いていく。ギルドに戻った時には、宴会芸を披露する女神といういつもの光景に頭が痛くなるのだった。冬が始まるそんな日の出来事である。
サユキがダメ人間製造機になりはじめた
実は強キャラなダストさんはサユキのおかげであの三人とクエストに行く惨事を回避しました