この素晴らしいたゆんたゆんにたゆんたゆんを! 作:膝に矢うけたった
本日の成果 ジャイアントトード五匹の討伐 討伐に成功
そこには真っ二つにされ原形を保っているカエルの死体が五体、原形を保っていない肉の塊や破片の山も大量に転がっていた。血液なのか体液なのか、よくわからない液体を滴らせた刀を持つ女性、彼女もまたその液体に塗れて佇んでいる。
「もぅ、終わりですか? もっと、もっと出てきてくださいな。全っ然足りないですよ……」
妖しく艶やかな笑みを浮かべながら周囲に視線を向けた。普段なら色気を感じるのだろうが、今の状況ではただただ猟奇的なだけである。液体塗れの刀を抜き身のまま抱き寄せ、頬に当てる。顔に付着した体液と刀の体液が混ざり合い、冒涜的な光景を生み出す。
蹂躙、虐殺、殺戮、そうとしか表現できない、戦いとは呼べない何かを目の前で見せられた少年はただ後悔することしかできなかった。彼は今すぐこの場から逃げ出したかった。地雷探知とかそういう次元の話ではなく、関わった時点ですでにアウトだったのだとようやく理解できたのだ。
(これが日本人ってマジ? 生まれる時代間違えちゃった系だよな。こんなん予想できるわけねーだろ……。うぇっ、吐きそう……)
「カズマ君、終わりましたよー。どうでしたかー?」
ようやく諦めたのか、血振りして刀を慣れた動作で納刀した彼女が手を大きく振りながら声をあげた。尚、カズマの内心を察せられるような人物ではないらしい。
(やっべぇ、どうすっかな。うまく言いくるめないと、俺の首が物理的にサヨナラするとかないよな?)
もはや、彼の中で彼女は戦国時代でも特にやばい部類の人たちと同じ扱いである。どうにかしてこの難局を乗り越えつつ、二度と彼女と関わらなくていい方法を求めて頭を悩ませるが、そんな都合のいいものが簡単に浮かんでくるはずもなく、時間がただ過ぎていくだけだった。
長考に浸る彼の様子を見て、声が届いていないのかと思いサユキは意識が思考の奥に行ってしまっている彼の下へと走り出す。当然意識が向いていないので、その様子に気付くことはできない。
尚、その光景は謎の液体に塗れたおっぱいがたゆんたゆんと迫る、冒涜、もとい誰得な光景であったとだけ記しておこう。
「カズマ君、私の戦いはどうでしたか? 合格でしょうか?」
「うぉっ!?」
唐突に近距離から聞こえた声に、驚いてのけ反ってしまう。だが、驚愕、その次に感じたのは何とも言えない悪臭だった。カエルの体液に塗れた人間が臭くないなんてことはなく、当然のごとく悪臭の元凶は目の前の女性である。
(くっさ、この前の二人より更にくせぇよ!)
出発に童貞心を掴んだ女性特有のいい匂いはどこへ行ってしまったのか。更に改めて目を向けてみれば全身のいたるところが体液で酷い有様である。こんな状況では彼もまともな考えなど浮かぶはずもない。
余談だが、彼は二回ほどカエルに飲み込まれかけて体液塗れになった女性を知っているので、ある程度カエルの臭いには耐性がある。
今の状況では猟奇的な見た目で、瞳を輝かせて答えを待っている相手に彼ができることは一つしかなかった。
「とりあえず、身体拭いて、街で風呂入って来いよ。話はそれからってことで……」
好意的に表現するなら、考えるための時間を作ることだ。つまり問題の先送りである。
ギルドに二人が戻ってきた時には、サユキもすっかり元の綺麗な姿を取り戻していた。先ほどまでの姿は何かの間違いだったのではないかと思えてしまうほどだ。もちろん、ここに至るまで、一定の距離を空けていたカズマと彼女の間に会話など一切なかった。
彼がギルドの扉を開けて中に足を踏み入れた時、出発時に意味に気付けなかった視線を再び受けることになった。中には夕飯時だからか、酒場にそれなりの人数の冒険者がいたが、全員が一斉に同じ視線を向ける。
「勇者の帰還か……」
冒険者の誰かが呟いた。その声は確かにカズマの耳にも届いた。その結果、この視線が何を意味しているのか、否でも応でも理解させられる。
(こいつらぁ、この女のやばさ知ってやがったなっ!)
上級職の冒険者に仲間がいないのに、何の理由もないわけがない。ましてや、こうしてパーティーを希望している人物で美女なら尚のことだ。つまり、彼女はどこのパーティーからもお断りされている状況なのである。
彼は周りの冒険者を睨みつけながら、空いているテーブルへと歩いていく。彼女も当然その後ろを付いて歩いている。空いている場所を見つけ、全身にのしかかるような疲労を感じながら椅子に腰を下ろす。彼女は落ち着かない様子で、そんな彼の姿を立ったまま見守っていた。
座ってもらわないと斬りかかられるのではないかと不安になるが、それを指摘する勇気は彼にはなかった。ただ、こうして綺麗になった彼女を見ていると、如何にハイスペックかがわかる。彼の仲間のロリっ娘(カズマ談)を除く残念美人と並べても遜色ないという日本人離れした美貌と言えるだろう。あと、おっぱいすごい大きいし、歩くだけ揺れるし、今も小刻みに揺れている。
それでも、これ以上残念人類を引き連れたくない彼は心を鬼にすることを決める。一つ、ため息を吐いて口を開いた。
「結果を伝える前に聞いておきたいんだが、戦闘中のアレは何だ? 明らかに雰囲気おかしかったよな?」
ただし、まだ解決策は思いついていないので、先送り作戦の途中である。気になったのは事実だが、これ以上関わりたくないので先延ばし以上の意味はない。
「戦闘中に喋ってたことについては、
(スキルの影響? それならそこまで問題じゃねーのか? 普段がコレならスキルも発動型か条件発動だろうし……)
僅かな望みが見えた気がした。
「
(アウトー! 完全にアウトじゃねーか。つまりアレか、こいつの本心はあの戦国武将状態ってことじゃねーか、なしだ、なし!)
学習しない男である。そんな希望があるなら、今までにも彼女を仲間に迎えるパーティーがあっても不思議ではないのだ。
「失礼ですが、人間相手にその手のあの、えーっと」
ここまで来たら、もうこれを聞くしかない。というか、聞いておかないと作戦の立てようもないわけで、聞かざるを得ないのだ。かなりおっかなびっくりである点は非情に情けないのだが。
「人間はダメだと思います。だって人間は『敵』じゃないですから!」
(え? 『敵』なら人間の首も獲るの? マジで、どこの戦国だよ……)
本当に頭が戦国時代だったようだ。
「私みたいな薩摩隼人だって、敵味方の区別くらいつけます」
(今、薩摩って言った! 戦国一やばい連中の巣窟じゃねーか。どういうことだよ!?)
とりあえず、敵でもない人間の首を斬ることはないとわかって一安心ではあるのだが、関わりたくない度は急上昇を続けている。
「よぉし、じゃあ、結果発表するからよく聞けよ。決定は絶対に覆らないからな!」
(こんなやべー奴とはさっさとサヨナラだ、サヨナラ。ただですら酷い連中と一緒だって言うのに、この上、薩摩なんか抱えてたまるか!)
「はいっ、お願いします! やれることはがんばりました、私は合格ですか?」
さて、ここで少し、話をしよう。人間の目というのは、横に二つ、横長の形の物が付いている。そのため、視野を動かす時、左右に動かすのはそれなりに楽なのだが、逆に上下に動かすとなると、目を動かすだけではやり辛いのだ。
今、カズマの前に『がんばりました』の言葉と同時に大きく跳ねた女性がいる、胸には特大メロンがくっついている。当然、そのメロンちゃんは盛大に上下移動を行うことになる。
カズマは童貞である。そこまで拗らせてはいないが、それでも童貞が目の前でたゆんたゆんと歪み、揺れるビッグメロンを前にして目を逸らせるだろうか? 答えは否、不可能である。
大きく上に持ち上がったそれを追うには、人間の縦に向けた視野は狭すぎた。故に必然的に首を上に動かす必要がある。次に、着地後の衝撃で弾む至高の果実を目に収めるために、彼は普段の倍以上の動体視力を発揮し、首ごと下方向へと視線を移動させる。
瞬間、酒場中から歓声があがった。その声は勇者を称える声だ。今、ここに、このアクセルの街に新たな勇者が誕生したのだ。その女性はやれ『暴走馬車娘』だの、やれ『殺戮女』などと呼ばれ、恐れられていた。その女性に手を伸ばし、仲間へと迎え入れた勇者が現れた。
いつ受け入れたというのか? 『合格ですか?』という言葉の直後に、首を上から下に、首肯した勇者がいたではないか。
(やっちまったぁあああ!!)
気付いた時には既に時遅し、今の空気の中否定することもできなければ、頷いたのではなくおっぱいガン見してたなどという勇気も童貞の彼にはない。しかも、サユキ本人は涙を流して喜んでいる状況である。すなわち、詰みである。
「ま、まあ、あくまで俺だけの判断だし、一応仲間にも聞いてみないといけないけどな。いや、本当俺はいいと思うぜ」
滝のような汗を流す彼のとった行動はまたもや、問題の先送りであった。
おっぱいが! 激しく! 上下したら! 全身使って追わないわけねーだろぅがぁ!