この素晴らしいたゆんたゆんにたゆんたゆんを! 作:膝に矢うけたった
翌日、そこには先日までのジャージではない、冒険者らしい格好をしたカズマの姿があった。個人で取り分にするという約束だった、キャベツの報酬である百万エリス――アクアの収穫したのはほとんど安いレタスだったらしく、ギルドに入る時と逆の立場でカズマに金を借りることになった――を使い揃えた装備だ。
彼は馬小屋生活からの脱却も考えたらしいが、貯蓄も考えてそれは見送りになった。決してアクアに夜の一人作業を知られていたのが原因ではないと、彼の名誉のために言っておこう。
「カズマがちゃんとした冒険者に見えるのです……」
めぐみんの感想は尤もである。ジャージを着て冒険者と言われても、学生のアルバイトにしか見えないし、戦う人間にはまず見えない。アクアが小さな声でファンタジー感がどうのと言っているが、その言葉の意味を理解できるのはカズマと、サユキだけだ。現にダクネスは首を傾げてしまっている。
「初級とはいえ、魔法が使えるようになったし、これからは魔法剣士みたいなスタイルで行こうと思う。絶対に剣を振り上げたままモンスターを追い回すような戦い方はしない!」
昨日の出来事は彼にとってトラウマになっているらしい。薩摩が肩を落としているあたり、本人も自覚しているのだろう。直ることはないだろうが。
「言うことだけはいっちょ前よね」
今までの行動のせいか、そもそもアクアの性格故か、彼の決意も軽くあしらわれてしまう。それから、新たな一歩を踏み出した五人は討伐に行く相談を始めるのだが……。
ザコがたくさん出るクエストに行きたい。要約・爆裂魔法で気持ちよく爆殺したい
強いモンスターの出るクエストに行きたい。要約・嬲られて気持ちよくなりたい
稼げるクエストに行きたい。要約・今日の晩御飯のお金がない
斬り甲斐のある敵と戦いたい。要約・モンスターの肉とか首を斬り落としたい
欲望に忠実すぎて、話が纏る気配が一切しない。全員狂化スキルでも使っているのではないかとすら思えてしまう。意外も意外、金欠の駄女神が一番まともに見えるのだから世も末である。
「はぁ……、じゃあ、ジャイアントトードが……、うっぷ」
カズマが何とか纏めようと口を開く。ジャイアントトードの名前が出た瞬間、アクアとめぐみんの顔が青くなって何かを口にしようとした。だが、それも突然口抑えて吐きそうな姿を見せたカズマを前にして止まる。
「ちょっ、カズマ、大丈夫なのですか!?」
めぐみんが心配して声をかけるが、カズマは片腕を突き出す形をそれを静止した。
「カエルは……、やめよう」
その一言だけを口にして、全力でトイレに向かって走っていく。呆気にとられるアクアとめぐみんの後ろには、苦笑いをしているサユキと、それをジト目で睨むダクネスの姿があった。カエルの解体ショーは本日休業である。
カズマの姿が見えなくなり、めぐみんの視線がサユキへと向けられる。
「そういえば、サユキには昨日はちゃんと自己紹介をしていませんでしたね」
昨日は杖相手に頬ずりしたり、アクアがカズマにたかったりで、軽い挨拶しかしていない。ダクネスとは旧知で、アクアとは一回死んだ時に会っているのでめぐみんとだけ、サユキはちゃんとした挨拶をしていないことになる。
めぐみんが自身のマント勢いよくはためかせ……。
「我が名はめぐみん! アークウィザートを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操るもの!」
格好いい――と思っている――ポーズをとっての、いつもの自己紹介である。サユキもこれにはびっくりしたのか、目を丸くして固まってしまっている。
少しして、自分も自己紹介をせねばと気合を入れて、全身に小さく力を籠める。ちなみにその動作だけで揺れた。
「鬼に逢うては鬼を斬り、仏に逢うては仏を斬る。首級求めて幾星霜。二の太刀要らず。サユキでございます」
そう言って、気品溢れる一礼をする。めぐみんは輝いた瞳でその様を見つめながら、小刻みに震えていた。相手に合わせた行動は日本人の美徳でもある。が、今回の場合は合わせる必要は全くないはずなのだが、この薩摩隼人、その辺りのことは全くわかっていない。
「ホトケというのが何かはわかりませんが、あなたも中々の名乗りではないですか!」
めぐみんはその口上が気に入ったらしく、とても上機嫌だった。尚、アクアとダクネスは揃って手で顔を覆ってしまっている。ダクネスは純粋に紅魔族のノリに合わせる友人の姿に、女神であるアクアは言っていることのやばさにである。
カズマがこの場に戻ってきた時、そこには混沌が広がっていたそうな。
結局五人は程よい依頼がないかと掲示板まで来たのだが、そこで足を止めて悩みこむ結果となってしまう。
「なんだこれ、依頼がほとんどないじゃないか」
そう、普段は依頼の紙一面至る所に張り出されている掲示板が、何故か閑散とした状態になっているのだ。残っている依頼と言えば、どれも高難易度のものばかり。ドMが嬉しそうにその一つを指し示すが、当然即却下である。
「あ、これと、あとこれ、昨日出かけた時に斬ったかもしれません」
そう言って、薩摩が二枚の紙を手に取り確認している。
(え? 昨日解散したあとそんなことしてたの?)
相談もなしにソロで狩り出ていたのは問題ではあるのだが、そもそも今までパーティーを碌に組んだことがない彼女にはその機微は全く理解できていない。高難易度の依頼をこなせる実力はあるのだろうが、コミュ力が最低値なのだろう。
「今度からはちゃんと相談してくれ……」
「はい……」
そんなこんながありながらも、なんとか自分達でもできる依頼がないかと探してみるが、そう都合よくはいかないらしい。サユキがいれば余裕かとも考えたが、このバーサーカーは一人で突っ込んでいく、つまり奇襲されたら打つ手なしのデッドエンドなのだ。よって、見合った依頼を探すしかない。
ここまでくるとパーティーに入ったのは彼女にとってマイナスに思えるが、そもそも彼女はやりたくてソロをしているわけではなく、普通に誰かと一緒に冒険したいと思っている。意外と寂しがり屋な一面があるのだ。中身薩摩だけど。
「申し訳ありません……」
悩んでいる五人の後ろから声が聞こえてきた。そちらに顔を向けると、そこにはたゆんたゆん……、もとい、受付嬢のルナが立っていた。彼女が姿勢を正した瞬間、そのお胸がたゆん、後ろを振り向いた時にサユキのお胸がたゆん、二つ合わせてたゆんたゆんである。もしくはたゆんたゆんたゆんたゆんである。たゆんたゆんは引きあうのである。これ、テストに出ます。
当然その瞬間を、一昨日たゆんたゆんの魅力を知り、それを脳内ストレージに保管すべく覚醒したカズマは見逃さなかった。
「実は最近、魔王の幹部らしきモノが街の近くに住み着きまして……」
どうやらそれが原因で弱い魔物が姿を隠してしまったらしい。今の初心者の街詐欺な依頼状況はその幹部のせいということになる。王都から腕利きの冒険者か、騎士が派遣されるまで、この街の冒険者に見合った仕事は入ってこない。
(最初の街にラスダンの敵が出てくるとか、クソゲーじゃん……)
カズマが心の中で愚痴をこぼすが、この世界がゲームでない以上あり得ない話でもない。納得はできないが、反攻の目を少しでも潰すにはいい手ではあるだろう。相手がそんなこと考えているかは知らないけど。
結局のところ、使えない転生特典しかもらっていないカズマにできることはないわけで、嵐がすぎるまで食つなぐことを考えなければならない。
「見てなさいよ、もしアンデッドならこの私が……」
などと転生特典は息巻いているが、アンデッドであることを祈るしかない。腐っても女神、アンデッドならどうにかできるかもしれない。
「はぁ、内職するしかないわよねぇ」
やっぱりダメかもしれない。
と、ここでカズマあることを思い出す。昨日はアクアの借金の件で結局聞くことができなかったことだ。他三人が意気消沈している隙に、サユキの耳元に顔を寄せて疑問を口にした。
「お前がもらった転生特典って何? すごい力だったりする?」
その言葉を聞いて、最初の彼女の反応は驚愕だった。カズマはその反応が理解できずに首を傾げるが、彼女は周りを見渡しながら驚いているばかりである。
(あれ? もしかしてこいつ……)
「俺が同じ転生者って気付いてない?」
落雷。今の彼女は、そう表現するほかないほどの驚愕の表情である。
(気付いてなかったんかーい! アクア連れてるし、ジャージ着てたし、気付けよ。そこは気付けよ!)
彼の考えていることはまともなように思えるが、少し待ってほしい。女神を転生特典に選ぶ人間がいると思うだろうか? 割となんでもありな異世界にジャージがないと言い切れるだろうか? そういうことである。
なんでアクアがいるのだろう、とか、この世界にもジャージってあるのか、程度にしか彼女は考えていなかった。そこに違和感を抱けるほど、彼女は他人とも世界とも付き合ってきていないのだ。
結局、重い足取りで動き出した三人の後ろを歩きながら、彼女が落ち着いたところで改めて答えを聞く形になった。
「コレです」
彼女はそう口にしながら、腰に下げた刀の柄に指を這わせた。鈴の音が鳴り、存在を主張する一振りの刀、それが彼女の選んだ転生特典だと言う。
「妖刀とか、なんかそういうのなのか?」
妖刀とか男の子ならちょっとした憧れはあるだろう。紅魔族ではないが、その響きにそこはかとない格好良さを感じる。
「いえ、ただの折れない、欠けない、壊れない、メンテ不要のいつまでも使えるだけのただの切れ味がそこそこある刀です」
所謂、伝説に出てくる『デュランダル』という剣の、切れ味を落とした劣化版のようなものである。転生特典のリストの中には切れ味もそのままで、なんか斬撃が飛ばせるっぽい完全なそれがあったはずだが、何故かそれではないらしい。
「え、なんでわざわざデュランダル劣化させてんの?」
「でゅらんだるってなんですか?」
これは後からアクアに聞いた話だが、彼女は転生特典のリストを一切見ずに、この刀の条件を口にして転生したらしい。つまり……
(あ、サブカル知らないタイプの人だこれ……)
そういうことである。ある意味自分とどっこいどっこいな転生特典の選び方をした女性、ちょっとは楽できるかなと期待もしたが、そんなことは夢のまた夢であったようだ。カズマの異世界生活は仲間ができても前途多難、むしろ仲間が悩みの種になっていた。
(あー、空、青いなぁ)
ギルドの外に出た彼が見上げた空はとても青かった。
一章、この素晴らしいお姉さんに狂化を! はこれで終わりです。次から二章に入ります
たゆんたゆんさせたいだけで始めた連載ですが、思った以上にたくさんの方に見ていただけて感謝です。