この素晴らしいたゆんたゆんにたゆんたゆんを! 作:膝に矢うけたった
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この日、アクセルの共同墓地では異様な光景が繰り広げられていた。邪教の集会とか、アンデッドの大群とか、それよりもはるかに冒涜的と言うか、非常識なことが行われていた。
「あ、カズマ、その肉、私が目を付けてたやつじゃない。サユキもこっそり持ってこうとしないでよ! 野菜食べなさい、野菜!」
キャンプである。墓地でバーベキューをするバカなど普通はいない。眠っている死者たちもカム着火インフェルノしていい。土葬が当たり前の世界で、墓地でバーベキューの肉を取り合う姿を、冒涜や背徳と言わず何と言えばいいのか。お前らいい加減にしろ。
ちなみに、そこそこいい値段がしそうな肉類があるが、これらの代金は唯一金銭に余裕があるサユキの懐から出ている。武器を買い換える必要がないのでお金には余裕があるのだ。
この罰当たりどもがこうなったのには、ちゃんとした理由があった。支援が主であるプリースト系の職は経験値が稼ぎ辛い。そこでアンデッドの討伐をしようという話になり、丁度よく張り出された『ゾンビメーカーの討伐』という依頼を受けることにしたのだ。
(レベルが上がればステータスって上がるよな。つまり、駄女神もレベルが上がれば……知力が上がる!?)
というカズマのひらめきもあって、ノリノリで共同墓地にやってきたのだ。実際、勢いで借金こさえるわ、自信満々に宴会芸を披露するわ、カエルに二度も打撃攻撃をぶち込むわ、酒瓶抱いて寝るわ、アクアの醜態は神と言う存在の知性を疑うレベルなので仕方ない。
現在はゾンビメーカーが出てくるまでの時間潰しとして、バーベキューをして楽しんでいるというわけである。バーベキューである必要全く、これっぽっちもないね。誰かが突っ込んでもいい気がするのだが……、特に女神。今一心不乱に肉を確保している女神。
「ふぅ、クリエイト・ウォーター、よし次は、ティンダー」
カズマが膨れたお腹を擦りながら、コーヒーの粉が入ったコップに魔法を使う。魔法で注がれた水はいい具合に粉を掻き混ぜ、即座にコップの底を火の魔法で熱することで程よく混ざったコーヒーが出来上がる。ティンダーはライター代わりくらいにしか使えない魔法だが、それはそれで便利なようだ。
「あ、カズマ、私にも水ください」
「あいよっ、クリエイト・ウォーター」
「ありがとうございます。カズマは、何か私よりも魔法を使いこなしてませんか? 初級魔法って意外と便利なんですね」
カズマは初級魔法をただの便利魔法ととらえているらしく、首を傾げてしまう。そして、『クリエイト・アース』と唱えて、掌に少量の土を作り出した。どうもカズマにはこの魔法の使い道がわからないらしく、めぐみんに質問をしている。
めぐみんによると、その土は作物を育てるのにいいらしいのだが、それ以外の特徴は何もないらしい。
「何々? カズマさんってば、冒険者やめて、農家にでも転職する気ですか! プークスクス!」
その話を横で聞いていたアクアが煽るが、カズマはすぐに手の平の土を『ウインドブレス』という初級魔法で飛ばして、アクアの顔面にぶつける。それが目に入ったらしく、彼女は目を押さえて叫びをあげていた。
彼の魔法悪用法にさすがのめぐみんも驚愕やら、呆れやらといった反応をする。初級魔法の扱いがあまりに達者すぎて、ある意味魔法使いよりも魔法の扱いがうまい最弱職がここに誕生した。
ゾンビメーカーを待ってどれくらい経ったか、月が天頂を少し過ぎて今は深夜を回った頃である。アクアが大物のアンデットを相手にしたいとか、言っているがそんなことは望んでいない。というか、深夜過ぎているし、みんなもう眠いのだ。サユキなどは大きな欠伸をしては、ダクネスに小突かれている。
敵感知スキルを持つカズマが先頭に立って、墓地の中を見回るが、中々反応は返ってこない。そうこうしていると、僅かに感じるものがあり、意識を向けると幾つか反応が返って来た。一つ、二つ、三つ、四つと増えていく。ゾンビメーカーは多い時は三体ほどのゾンビを呼び出すので想定範囲内だろう。
彼が口元に人差し指をあてて、静かにするように仲間に伝えると、状況を理解したのか全員がお口チャックのジェスチャーで返事をした。ゆっくりと彼について歩いていく四人、彼らが少し開けた場所が見える位置についたとき、その場所にローブを被った何者かが青白い、幻想的な魔法陣を展開している姿が見えた。
「ゾンビ……メーカー? あれってゾンビメーカーなんですかね?」
めぐみんには何か違和感があるらしく、困ったように首を傾げている。ダクネスはゾンビ相手に嬲られたいのか、大分落ち着かない様子で飛び出したそうにしている。
「ゾンビって、腐ってる分柔くて斬り応えがないんですよねぇ……」
薩摩はやる気がないらしい。今回はアクアのレベル上げも兼ねているので一応問題はないが、何かあった時にはやる気を少しは出してもらいたい。
それで、当のアクアはと言うと……。
「あ、あっーーーーー!!」
声にならない叫びを上げなら、ローブの人物に向かって全力疾走かましていた。他のメンバーに気を取られていたカズマは駄女神の奇行に反応することができず、血走った眼で疾走する彼女を見送ることしかできなかった。
「リッチーがこんなところで何してんのよっ! 覚悟しなさい、成敗っ!」
高く飛び上がってからの、飛び蹴り。見事にその蹴りは土煙を上げてリッチーの魔法陣に直撃した。
ノーライフキング、リッチー。大魔法使いが自らの意志で、魔法で人間の身体を捨てて至る存在である。自然の摂理を捻じ曲げて至る存在故に、それは神々の敵対者とされる。決して初心者の街の墓地にいていい存在ではない。
「誰!? なんで私の魔法陣を壊そうと……、あっ、やめて、やめて、魔法陣壊れちゃう。それ以上は、あぁっ、やめてくださぁい!」
神の敵対者は神の腰にしがみ付いて、必死に懇願していた。敵対者とはなんだったのか。
どうやらこのリッチーはまともに供養されることのなかった、この共同墓地の迷える魂を天に還していたらしい。実際に人魂のようなものが魔法陣に吸い込まれては、天に昇っていっているのが見て取れた。
が、アクアはそれすらも気に入らないらしく、自分がやってやると、墓地全体を『ターンアンデッド』で浄化するが、当然この善良? なリッチーもアンデッドなわけで、身体が透けて成仏しかけていた。
駄女神はすごく楽しそうに高笑いをしていたが、さすがにかわいそうになったカズマが剣で小突いて止める。彼が消えかかっているリッチーに声をかけると、彼女は涙目になりながらもゆっくりと立ち上がった。その際に頭部のローブを外すと、二十代にしか見えない美しい女性の顔と、綺麗な栗色の髪が飛び出してくる。
このタイミングで後ろにいた三人も到着するのだが、このリッチー、ローブの上からでもわかるくらいたゆんたゆんだった。そして、駆け足で合流した中にも普段からたゆんたゆんしている人物がいる。
リッチーの立ち上がり時の局部地震、駆け足でサユキに起こる局部地震、先日のギルドに続き、たゆんたゆんが共鳴し合う時間が、今、ここに訪れた。リッチーのたゆんを目に焼き付け、瞬時に駆け寄るたゆんを目に焼き付ける。脳内ストレージに日付とロックを付けて保存。一瞬の間にカズマの脳内でそれは行われた。そして、小さくガッツポーズ。
「迷える魂を天に還すとか、それってリッチーのやることなのか? プリーストとかの仕事のような気がするんだが」
ウィズと名乗ったリッチーにカズマが疑問を投げかける。彼女はノーライフキング故に、迷える魂の声が聞こえるらしく、天に還りたい魂を放っておくこともできず定期的にこうしてここを訪れているらしい。
一般人以外でカズマがこの世界で出会った初めてのまともな人である。というか、普通にいい人である。リッチーだけど。
ちなみに、この街のプリーストはほとんどが守銭奴で、葬式もあげてもらえない仏さんの眠る共同墓地には近寄りもしないらしい。アクアは目を逸らして、鳴らない口笛を吹いていた。神もこんなんだし、プリーストが守銭奴でも不思議はない気がする。
結局、その後、カズマ達はウィズを討伐することなく、墓地をあとにした。アクアは納得いかないようだが、さすがにあれほどの善人を討伐するわけにもいかない。ウィズが墓地にくると、魔力に影響されて自然とゾンビが出てしまうらしく、今後は代わりにアクアが魂を天に還すことになった。多少駄々はこねたが、それ自体は自称女神も女神なので受け入れた。
モンスターを見逃すことになりはしたが、ウィズが人を襲わないなどの理由により他の三人も納得したようだ。当然、薩摩も『敵』でないためちゃんと納得した。
そして、カズマは一枚の、ウィズの住所というか、彼女の経営するマジックアイテムの専門店の場所がかかれた紙をもらっていた。ダンジョンに住んでないことにはがっかりさせられたが、今度リッチーのスキルを教えてくれるらしい。
(これが、異世界……。異世界なのか? 俺が期待してたのと、何か違う……)
歩きながら、めぐみんがリッチーの恐ろしさについて力説していた。聞けば魔法のかかっていない武器は効かないらしいので、サユキの剣も通じない。やはり、アクアは腐っても女神、そんな恐ろしいリッチーすら成仏させかけたその力だけは本物のようだ。
「そういえば、今回のクエストって結局どうなるんだ?」
ダクネスの呟いた疑問に、四人の足が止まる。クエスト失敗である。
きりのいいところで話をきるので次回は今まで以上に短いです