この素晴らしいたゆんたゆんにたゆんたゆんを! 作:膝に矢うけたった
Q.薩摩がデュラハンに出会うとどうなるでしょうか
寂れた古城に響くのは、長閑な風景に似合わない大爆音、弾けるのは大爆発、近所に人が住んでいたら大混乱間違いなしである。少し離れた場所にいるのは、バカとバカのお守りの二名だ。古城からそこそこ距離はあるはずなのだが、その二人の場所まで爆風と爆音は容赦なくやってくる。ちなみに、バカはうつ伏せに倒れた姿でだらしのない笑みを浮かべていた。
話は少し遡る。共同墓地の件以来、受けられる依頼のない五人は相談の末に、しばらくは各々で行動することになった。アクアは生活費を稼ぐためにアルバイトをし、ダクネスはサユキと行動するか悩んだ末に実家に筋トレをしに戻った。サユキも時間のかかる依頼を受けてそれに向かった。一週間前後で戻るとのことである。
尚、討伐対象はグレートビッグボアとかいう、巨大猪らしい。ダクネスめっちゃ悩んでいた。そりゃもう、顔を紅潮させて、息を荒くして悩んでいた。長期間野営する経験がないので最後には諦めたが、それでもサユキをちら見しまくるくらいに未練を残していた。
とまあ、性癖が歪みまくっている二名と金欠女神はそんな感じだったのだが、新しい杖で爆裂魔法を撃ちたいバカと、そこそこ生活費に余裕のあるカズマはというと……。
「60点、音圧が物足りない」
バカの爆裂欲求に付き合って、毎日こうして古城近くに来ているのだ。雨の日も、日差しが差し心地よい昼下がりにも、爽やか早朝であっても、毎日欠かさず爆裂魔法を撃ちこむためにここに訪れていた。
その過程で、カズマは爆裂魔法に関する感性が磨かれに磨かれ、今では立派な爆裂ソムリエへと進化していた。人生でいらない技能トップ10に入る能力だろうが、進化は進化である。冒険者ってなんだっけ? あ、冒険ができないから爆裂してるんだったね。
その後もカズマは爆裂魔法を見続けたり、ダクネスが帰ってきたり、サユキの帰還日が判明したり、魔王討伐を諦める宣言したり、ごく潰しだの回復魔法を教えろとアクアを口撃して泣かせたり、冒険の『ぼ』の字もない生活を送っていた。
「毎日、毎日毎日毎日っ、お、俺の城に爆裂魔法、う、撃ち込んでくる頭のおかしいバカは誰だぁっ!!」
そんな生活を送っていたら、古城の家主? がお怒りで街を訪問してきた。それは最近近所の古城に引っ越してきた魔王軍幹部のデュラハンさんである。これが、庭を荒らされたとかなら、勝手に住み着いておいて何を言っているんだと言う話だが、爆裂魔法なら仕方ないだろう。最近はソムリエの評論のせいで特に磨きがかかっているし、怒っていいと思う。首が完全にないお馬様もお怒りの嘶きである。
(そういや、今日って何か用事があった気がするんだよなぁ……)
カズマは一人、そんなことを考えていた。
その後は注目を集めためぐみんが視線を逸らした結果、別の魔法使いに嫌疑が向いたり、めぐみんがデュラハンにいつもの自己紹介をして怒られたり――かわいいめぐみんの『ちがわいっ』は必見――、鬱憤の溜まっていたアクアが意気揚々と飛び出したり、めぐみんを庇ってダクネスが死の宣告を受けたりした。
一週間後にダクネスが死ぬ。その原因が自分であると突き付けられためぐみんの受けるショックはでかかった。なのだが、そこはダクネスいつもの『発作』でデュラハンを困惑させる。しかも、デュラハンさんの目が嫌らしいだのなんだと言いたい放題である。果てには、自分から彼の下へと駆け出す始末。その際の一言は『いってくりゅ!』だった。
さすがにそれはカズマに阻止されたが、真っ当な苦情を言いに来てこれでは、いくら魔王軍幹部でも不憫としか言いようがない。
ダクネスの妄想について実際のところどうなのかは、本人の名誉のために伏せておこう。
そして、爆裂魔法をやめるように伝え、デュラハンは変態の呪いを解いてほしければ、城まで来いとめぐみんに伝えて、後ろを向いて去……。
(あっ、思い出した)
ここでカズマが忘れていた用事を思い出す。
「は、はいぃいいっ!?」
後ろを向いて歩きだそうとしたデュラハンが大声を上げた。彼は頭部を抱えていて視線が低い、そして今その視界いっぱいに広がる光景は……。
「い、いのししぃっ!?」
猪の顔面ドアップである。さすがの魔王軍幹部でもいきなり、生気のない目をしたイノシシの顔をドアップで見れば驚く。これで驚かないのは悪魔くらいなものではないだろうか。更に、イノシシから視線をずらすと、そこには……。
「あ、悪魔かっ!?」
傷だらけ、血塗れで、瞳の奥に深淵を宿す女の顔があった。その手には斬り落としたと思われる巨大猪の頭部を掴んでいた。先ほど彼が見たのはこれだったのだろう。更に、背中には女の数倍を超える首のないモフモフを背負っていた。何かの冗談かと思えるほどの異様、むしろ相手が魔王軍なのではと考えてしまう。
「カズマ君。最初から首が斬られてる魔物は、どこを斬ったら首級になるのでしょうか?」
(そういえば今日、サユキ帰ってくるんだった……)
深淵の瞳をデュラハンに向けたまま、サユキはそう大声で尋ねる。元騎士の直感が彼に告げる。コイツは関わったらいけない相手であると。勝てるとか勝てないとかの話じゃない。関わること自体しちゃいけないタイプの相手である。
恐る恐る視線を先ほど呪いをかけた女騎士の仲間に向けると、そこには滝のような汗を流す少年がいた。先ほど女騎士は少年を『カズマ』と呼んでいた。
「おま、お前の仲間なんなん!? 人の城に爆裂魔法ぶっぱなしたり、変なこと言いながら詰め寄ってきたり、次はコレ!? ほんと、お前の仲間なんなん? 頭おかしいってレベルじゃないだろ!」
カズマは何も答えない。否、答えられない。それにプラスして、ごく潰しの宴会芸が得意な駄女神もいますとは口が裂けても言えない。むしろ、どうしてこうなったのかは彼の方が聞きたいくらいだった。
「もうっ、やだっ! 帰るっ!」
そう言って、デュラハンは転移で帰ってしまった。そこには刀に手を伸ばして目を見開いている深淵の女性が残されていた。ダクネスの呪いとか色々、考えることがあるのだが、あまりに敵の去り際のセリフが不憫すぎて、思考はそれどころではなかった。
めぐみんも呪いを受けている本人も、状況に取り残されている。残されたサユキは残念そうな、どこか泣きそうな顔をしていた。たぶん、デュラハンを斬ってみたかったのだろう。
「セイクリッド・ブレイクスペル!」
だが、そんなことは空気を読まない駄女神には関係のない話である。杖から伸びる光が放心しているダクネスに着弾すると同時に、呪いの塊のようなものが身体から抜け落ちていった。
「ふっふーん。デュラハンごときの呪いなんて、この私にかかればちょちょいのちょいよ!」
ダクネスが助かったのは嬉しいことのはずなのだが、どうにも素直に喜べない……、こともなく、暴走馬車娘から目を逸らすように、というかさっきの惨状を忘れるために声をあげるカズマたちと冒険者達。なんでかはしらないが、全員でアクアを胴上げしていた。
尚、薩摩は一人、立ち尽くすことしかできなかった。グレートビッグボアの毛皮を撫でながら、その光景を羨ましそうに眺めているのだった。
A.どう首級を上げればいいか悩む