この素晴らしいたゆんたゆんにたゆんたゆんを!   作:膝に矢うけたった

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ダメ。ゼッタイ。




「サユキ、そこのレモンとってください」

 

「はい、どうぞ、めぐみさん」

 

「ん? いえ、ありがとうございます」

 

 デュラハンさん襲来の翌日、カズマ達はサユキの報酬でちょっとだけ豪華なご飯を食べていた。めぐみんがサユキにからあげにかけるレモンを取ってもらったのだが、その時に何かがおかしい気がして一瞬動きが止まる。すぐに気のせいだと断じて、レモンをかけ始めたのだが、今回のようにめぐみんがサユキに違和感を抱くのは初めてではない。

 だが、めぐみん以外の人間はその違和感を持っていないらしく、いつも通り食事を続けている。尚、レモンをかけた時にカズマがキレるのところまでいつも通りだ。

 再び気になりだしたのか、からあげを飲み込んでから、口を開く。

 

「あの、サユキ?」

 

「はい、どうしましためぐみさん」

 

 やっぱり何かが変だ。めぐみんはどうしてもそれが気になってしまう。違和感は特にないような、それでもやっぱりあるような不思議な感覚だ。

 

「ふぉふぉろれさー……」

 

「口の中のものを飲み込んでから喋れ、何言ってるかわかんないぞ」

 

 口いっぱいに肉を頬張った駄女神が何かを喋ろうとするが、口の中の物が邪魔で何を言っているのかがまったくわからない。カズマがそのことを注意すると、口の中の肉をシュワシュワで流し込んで再び口を開く。

 

「ところで、なんでサユキはめぐみんのこと『めぐみ』って呼んでるわけ? どっちも大した違いはないからどーでもいいんだけど」

 

「あ、それです、アクア!」

 

 どうやら、めぐみんの感じていた違和感の正体はそれだったようだ。

 

「私の名前はめぐみんです、め・ぐ・み・ん! めぐみじゃないのですよ!」

 

 めぐみんがフォークを突き付けて力説するが、サユキは首を傾げるばかりで話をよく理解していないらしい。そうして、少し悩んだあと、手を叩いて理解できましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。

 

「あだ名で呼んでほしいってことですね、めぐみさんっ!」

 

 何もわかっていなかった。というか、彼女は『めぐみん』があだ名だと思っているようだ。デュラハンの人もふざけた名前だと言っていたし、この世界でも一般的な名前ではない。紅魔族パネェ

 日本人ならみな普通はあだ名だと思うだろう。アクアの解説付きとはいえすぐに飲み込めたカズマの順応力が高すぎるだけである。

 そこからアクアとダクネスによる紅魔族講座が始まったが、サブカルに疎い彼女はそれを理解するまでかなりの時間を要した。その際、めぐみんが族長の名前を口にした際にはカズマとサユキが全力で叫んで周囲に聞かれるのを避けた。なんでだろうね!

 

「ごめんなさい、めぐみんさん。地元じゃめぐみさんって人のあだ名が、めぐみんだったりするんで誤解してました」

 

「めぐみさんですか。変な名前ですね」

 

 頬を膨らませて少し不貞腐れた感じのめぐみんがそう返すが、『ん』が付いているかの違いしかないのでそんなに変わらない。

 そこからはまた賑やかな食事が始まった。そこで、ふと、カズマが思い出したように口を開く。

 

「つーかさ、サユキ帰ってきた時全身怪我だらけで、焦ったんだが。アクアが治したからよかったものの、痛くなかったのか?」

 

「え? 全然痛くないですよ。狂戦士ですし」

 

 返答の内容は納得していい物か否かすごく微妙なものだった。実際、顔だけではなく、全身至る所に傷があり、腹には浅くはあったが穴も開いていた。アクアが慌てるくらいには危ない状況だったらしい。

 

「んんっ、カズマ、狂戦士には『痛覚減少』という一定レベルまで上げると、痛覚が完全になくなるスキルがあるんだ」

 

 見かねたダクネスが注釈を入れるが、その内容にカズマの顔が思いっきり引きつっていた。痛覚と言うのは人間が備える防衛機能の一つなわけで、それがなくすスキルというはさすが狂戦士と言うべきなのだろうか。そして、目の前の美女(薩摩)はそれを取得している。

 余談だが、このスキルはダクネス的には邪道らしい。そりゃ、ドMからしたら邪道というか解釈違いというものだろう。攻撃は痛いからいいのであって、痛くなくしてしまえば気持ちよくないのだ。

 

(あ、薩摩なら当然か。うん、なにもおかしくないな。おかしくない)

 

 相手が薩摩だと思うと何故かすんなり納得できた。むしろ取得しなかったら異常を疑っていたかもしれない。だって、薩摩だし。ちなみに、『止血』という一定量以下の出血が自動で止まるスキルなんていうのも取っていたりする。

 

「更に、受けている傷の量や深さに応じて身体能力が上がるスキル、『決死』も取得してるんだったか?」

 

「あれは使い勝手がいいですから。実に戦場向きのよいスキルです」

 

 狂戦士はカズマが思っている以上に狂戦士だったらしい。最初に聞いた、『スキルを火力に寄せている』という言葉の意味は、火力のために命も捨てているという意味だったようだ。

 

(あれ、でもこれって、コイツをつっこませて、ほんとにやばい時にはダクネスを盾にして、トドメにめぐみんの爆裂魔法撃てば、かなりシナジーあるんじゃないか? 怪我はアクアに治させればいいし)

 

 カズマの頭の中には、見事な指示を出して、ポンコツ三人を操る自分の姿があった。そもそもの前提として、三人が欲望を抑える必要があるのだが、そこには気付かない。あと後方で指示を出すだけという地味に安全なポジションに自分を置いているのが、カズマらしいと言えるだろう。

 そうして和気藹々と会話を楽しんでいると、全員のお腹が膨れたため解散しようと言う話になる。

 

「あの、皆さんに相談があるのですが、聞いてもらえないでしょうか?」

 

 サユキが勢いよく立ち上がって、胸が大きく、そしてたわわに揺れた。その光景にめぐみんは心が荒んでいくのを感じていた。ちょっと、目が据わっている。アクアは帰る直前だったと言うのに、新しいシュワシュワを注文している。真面目に耳を傾けているのはカズマとダクネスだけだった。

 

「皆さん、野営経験もそうなのですが、野営道具って持ってます?」

 

 馬小屋暮らしのカズマとアクアは言わずもがな、基本的に嵩張る野営道具をレンタルではなく個人で所有している冒険者はこの街では少ない。初心者の街と言うだけあって、街近辺だけで冒険者の受ける大半の依頼が完結しているためだ。個人で野営道具を揃えている冒険者など、この街では一握り、しっかりしたものともなれば、この街一番と言われる冒険者のパーティーだけだ。

 

「サユキは持ってるんですか? 宿暮らしではあんな邪魔なもの置く場所がないと思うのですが……」

 

 めぐみんも宿暮らしであるため、当然持っていない。さて、ここで一つサユキと言う人物について考えてみよう。サユキが金を使うのはプリーストに怪我を治してもらう時くらいで、武器は壊れず、装備は軽装どころかただの服である。そのくせ、大物の首を獲ることを好んでいる。依頼の帰りに、受けていない依頼の魔物の首を落とすこともある。

 

「サユキはこの街に家を持ってるぞ。私も招かれたことがあるしな」

 

 ダクネスから衝撃の一言が出てくる。そう、サユキは家持ちなのだ。だから、多少嵩張るものでも個人で所有できる。尚、ダクネスは招かれた際に、敵の首でも飾っているのではないかと戦々恐々としていたのだが、家の中はむしろベッドとテーブルと冒険道具以外何もないという、別の意味で心配になる様相だったことに驚いた。

 

「ベッドが使えれば、他はどうでもいいので、うちを倉庫代わりに大きい物でも買えますよ」

 

「あ、じゃあ、そこに私のベッドも置きましょ。カズマは今まで通り馬小屋で。よかったわね、これでプライベートができるわよ!」

 

 などとアクアが調子に乗って言い始めるが、カズマは馬小屋というのは彼女なりに気を使った結果だったりする。夜に一人でごにょごにょする時間を作ってあげようという、的外れな物ではあるが。

 

「お前みたいなのを、他所様に預けるとか、逆に心配で眠れないっての。でも、そういうことなら遠出に備えて多少の道具は準備しておいてもいいかも……」

 

 冒険者が初めて野営を含む依頼をする際に生じる赤字には、実はこれらのレンタル品の破損などが含まれているのだが、そこまではわかっていない。意外と野営はお金がかかるのである。

 お開きになるはずだった集まりは、今後冒険に必要そうなものを話し合う場へと変わる。だが、その話はそんなに長く続かなかった。何故か……。

 

「でも、金がないな……。さすがにそこまでサユキに持たせると、パーティーって言えないし……」

 

 さすがに先立つものがなければ絵にかいた餅である。多少であればたかるのを恥じるつもりはないが、そこまでいくといくらカズマやアクアでもためらいが生まれる。結局、本日の集まりは何も得るものがないまま終わることになった。

 後日、皆でサユキの家に訪れた時、家の大きさに対して物があまりにもなさすぎて、心配になったのは言うまでもないだろう。

 




とくに何もなく、サユキに周りが振り回されるだけの回です
あと、族長ネタがやりたかっただけ
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