この素晴らしいたゆんたゆんにたゆんたゆんを!   作:膝に矢うけたった

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たゆんたゆんメイン回




 この日、カズマは一人で街を歩いていた。アクアはバイト、めぐみんは宿で寝ているらしい、ダクネスとサユキは模擬戦をすると張り切っていた。つまり、一人、手が空いている状況だったのだ。

 見慣れた街並み、特に目新しい物もなく、近所に魔王軍幹部いる緊張感などはかけらもない。だから、適当な場所に腰かけて、彼は道行く人々をただ見つめることにした。まるで、枯れた老人のようにただそこに座っている。

 と、そこで彼の前方を見たこともない巨乳の女性が横切った。別に、見たこともない女性がいたからどうという話ではない。街の住人全てを知っているわけではないのだから、当然である。

 

(よし、脳内保存完了……)

 

 彼は無意識に、見ず知らずの巨乳が揺れる姿を脳内に焼き付けていた。もはや、習性と言ってもいいレベルの行動だった。自然に、あるがままに、ただ、その見逃してはいけない一瞬をその目に焼き付けたのだ。

 

(な、なんで俺、今……)

 

 そして、彼はその自分の行動に気付いてしまった。サユキと出会ってから、もとい、あのたゆんたゆんを目にした時から、揺れる胸から目を逸らせなくなってしまったのだ。幸いアクアの胸には視線を向けていないが、このままではいつかはあの駄女神にすら……。と、考えた瞬間、彼の中に凄まじい危機感が生まれる。

 

(薩摩とドMはまだいい、だが、だが、あの駄女神だけは、奴だけはダメ、絶対にダメ!)

 

 女神だからとかそんな理由ではなく、女として色々終わっていると思っている相手にだけは絶対に欲情したくないのだと、そう心が叫んでいるのだ。そんなことになれば、男として、一知性ある人間として確実に自分は終わってしまう。だから、彼はなんとしても、現在の自分を変えねばと決心した。

 

(おっ、脳内保存完了。よしよし、順調だ)

 

 元ヒキニートにそんな我慢強さがあればヒキニートになんかならない。カズマさんはちゃんとした思春期でピンクな思考を持つ男の子なのだった。

 

 

 

 

 

 自身に変革をもたらすべく、彼が最初に訪れたのはギルドだった。ウィズの店にも行ったのだが、今日はちょうど店にいないらしく閉まっていた。

 ギルドの中を見渡しながら歩き回り、ついに目的の人物を見つけることに成功した。そしてその人物の横を通り過ぎながら、横目でチラリと相手を見る。相手も動いていたので、結果的にすれ違う形になったが、その瞬間に起こった出来事を彼は見逃さなかった。

 彼女、受付嬢のルナは何かに引っ掛かったわけではないのが、偶然その場でたたらを踏むことになった。その時、彼女のふくよかなお胸が縦横問わずに揺れる。その服装では零れ出してしまうのではないかと思うほどの動きでたゆんたゆんした。

 その一瞬の出来事、カズマだけではない、ギルド内にいる多くの男冒険者が目撃し、脳内に確かに刻み込んだのだ。中には『今日は……あの店……ルナさん……』などと言う会話をして周りから殴られている男もいたが、カズマはそれどころではなかった。

 

(ダメだ……。この魅力には逆らえねぇ……)

 

 彼の目的はあくまで、たゆんたゆんに逆らう強い意志を育むことであり、妄想の種を探しているわけではないのだ。すなわち、これは絶対的な敗北である。今までカエルから逃げることはあった、デュラハンに見逃されたこともあった。しかし、ここまでの敗北は味わったことがない。彼は己の弱さを今、痛感している。なんのこっちゃ

 

(俺の未来のためにも、最高の異世界ライフのためにも、敗けたままじゃダメだよな!)

 

 俯いていた顔を上げた彼の目に飛び込んできたのは、一人の男の顔だった。その男はカズマの肩に手を置いて告げた。

 

「男には、時には負けなきゃいけない時もあるさ。勝つだけが人生じゃないぞ」

 

 それは、いつも意味深なことを言うモヒカンがトレードマークの荒くれ者だった。

 

(えぇ……)

 

 男は言うだけ言って、去っていった。カズマは遠くを見つめて、ただただ突っ立っていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 次に彼が向かった場所、それはいきなりの本丸、まさに自分にこの性癖を植え付けた張本人のいる場所だった。……のだが

 

(こんなん、無理に決まってんだろ……)

 

 すでに敗北していた。

 彼の視界に今、映っているのは模擬戦を終え爽やかな汗――模擬戦の内容は考えないものとする――で身体を濡らし、肌に衣服が張り付いたダクネスとサユキの姿だった。木刀と防具なしで行われた模擬戦、運動により息が上がり、顔は赤く火照っている。――決して性癖が満たされたからではない――

 元々ダクネスのインナーは身体のラインがくっきりと出るものだが、汗に濡れた状態では更にすごいことになっている。普段、胸の上半分ほどを露出しているサユキだが、下半分は形がわからないくらいには隠れている。だが、今は汗のせいで完全に胸の形に吸い付いている状態だ。

 

「どうしたカズマ。そんな野獣のような眼で、嘗め回すような、んっ、じっくりと見るな……ハァハァ」

 

「カズマ君も模擬戦に興味があるんですか?」

 

 ドMと無防備であるが故に、それを気にもせず動き回るせいで、この場に到着してすぐに彼は降参宣言するしかなくなってしまったのだ。だが、ここまでハイレベルな容姿をしている二人が汗だくで胸を揺らす姿を見て嬉しくない男など、貧乳至上主義者か少女性愛者くらいしかいないのではないだろうか。

 中身の残念さを思い出して、なんとか耐えようとするカズマだったが、視界に映るのは楽しそうに模擬戦の感想を言い合い、その豊満な胸をたゆんたゆんと揺らす二人の姿である。傍目には『美人冒険者の休日』といった様相である。

 たまに横目でダクネスが期待するような視線を向けるが、それのおかげで辛うじて耐えようという意志だけは失わずにすんでいる。

 

(俺、なんでこんなに必死に耐えようとしてるんだっけ……)

 

 それでも目の前の桃源郷に、本気で折れかかっていた。

 

(ほんと性癖さえなければ、二人とも最高なんだけどなぁ……)

 

 

 

 

 

 結局彼はあの場から逃げ出してしまった。もはや、最初に抱いた意志は半分ほど折れており、半ば諦めの境地にあった。

 

(アクアも見た目だけは、見た目だけはいいんだよなぁ。最初に出会った時なんか、マジ女神とか思ったもんなぁ……)

 

 重い足取りで夜の街を歩きながら、カズマはただ一人思考の海に沈んでいた。アクアに初めて出会った時、死因を笑われるその時まで、彼女に対する印象はその美しさや荘厳さで埋め尽くされていた。

 女神と言う言葉をそのまま形にしたかのような存在、あまりの存在感に目を奪われた。もし、死因の話などせず、まともに転生特典を選んでいたなら、自分はあの女神のために魔王討伐を目指していただろうか。そんなことを考えてしまう。

 この時、カズマは考え事をしていたが故に、横を通り過ぎた黒い服でおさげのたゆんたゆんちゃんを見逃したのだが、それは余談だろう。

 

(何を考えてんだか、あれはアクアだぞ。どうせどっかでボロが出てたに決まってる)

 

 そんなことを考えながら歩いていたせいか、視界の先に水色の綺麗な髪の後ろ姿が映りこむ。あの時、確かに美しいと思ったその長い髪、完璧とさえ思えたプロポーション、それを前にしたところで、今更相手への駄女神という認識が変わることはない。

 

(けどまぁ、女としてはなしとしても、少しくらい優しくしてやってもいいかも……な)

 

 それは彼が今日一日かけて見つけた一つの答えなのかもしれない。彼女への見方が変わることを恐れ、足掻いた今日と言う日だからこそ辿り着いた答え。

見慣れた後ろ姿に向けて、一歩、足を前に踏み出した。近づく背中、それに辿り着いた時、彼はその背中に手を置く。

 

「なにやってんだ、帰るぞアク……」

 

 口から出てきた言葉は力を失い、表情は光を失っていく。目に映るアクアの顔は据わった眼、口の端に付着するナニカ、そして足元にはナニカの混合物。

 

(やっぱなぁし! さっきのなし! こんな奴にくれてやる優しさも、欲望も何一つないっ!)

 

 いくら女神でも道端でリバースしていれば、色々と台無しというか、マイナスである。さっき見つけた答えとやらは、実は散々たゆんたゆん相手に格闘した結果、頭が疲れ切ってまとも判断ができなかっただけなのかもしれない。

 

 こうして、カズマは人生最大の危機を乗り越えることができた。絶対にこの女神だけは妄想の種にしない、というかできないと心に深く刻まれたのだった。

 




ちょっとだけアクアにヒロインさせてみたかった
次回はいい加減ワニの話になります
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