大学入学後のヒナミと礼のルームシェア生活の様子を描いたお話です。
■7月中頃
★場所:本島 ヒナミと礼の家(アパート)
【ヒナミ】
「……さってと、お昼ごはん完成!」
【礼】
「じゃあ私のほうで運んでおくから」
【ヒナミ】
「ありがと礼ちゃん。………あ、スプーンスプーン! 忘れてる!」
【礼】
「そうだった。ごめんごめん」
【ヒナミ】
「えっと……お野菜のすーぷもあるから、箸も必要だね」
【礼】
「さてと……それじゃ、いただきます」
【ヒナミ】
「いただきます! ……うん、美味しい!」
【礼】
「……さすがヒナミだな。完璧な半熟だよ」
【ヒナミ】
「いやぁ、卒業前に奈々瀬ちゃんと文乃ちゃんに教わっといてよかったよー。ひとりじゃぜったい作れなかったもん」
【礼】
「……えっ、このオムライスって片桐たちに教わったのか?」
【ヒナミ】
「うん。礼ちゃんと二人暮らしになるから、少しでもお料理のれぱーとりーを増やしたいと思って。せっかくだし、おしゃれなの作ってみたかったから……それで、このオムライスを教わったの!」
【礼】
「……そっか。本当に美味しいよ。でも、これどこかで食べたことある気がするんだけど、なんだったかな……」
【ヒナミ】
「そういや淳くんもこれ教わったって言ってたねぇ」
【礼】
「あーそれだ! 思い出した! むかし淳之介が作ってたんだった!」
【ヒナミ】
「えっそうなんだ! でも、いつの間にお披露目したの?」
【礼】
「ほら、あの、私たちが……例の異世界に行ったって話、おぼえてるか?」
【ヒナミ】
「そんなことも言ってたねぇ。淳くんがSSに入ってたんだよね?」
【礼】
「あぁ。それで淳之介もSS寮に住んでたんだが、そのときに一度振舞ってくれたんだよ。この、卵焼きの中央を割いたら半熟の卵が溢れ出てくるオムライス」
【ヒナミ】
「なるほどねぇ。私も食べてみたかったなぁ」
【礼】
「たしか体得に3ヶ月かかったと言ってたぞ」
【ヒナミ】
「そ、そんなにかかるかな……?」
【礼】
「その上桐香様に心無い言葉を吐かれたからな……。あのときは少し同情したよ」
【ヒナミ】
「淳くんあまりお料理しないからねぇ」
【礼】
「……やっぱりヒナミのほうが美味いよ。淳之介のと違ってふわふわ加減が絶妙で、口当たりもいい。普段から料理してるだけあってすごい完成度だよ」
【ヒナミ】
「この流れでそう言っちゃうと淳くんボロボロだな?」
【礼】
「私も人のこと言えるほうじゃないけどな。淳之介よりはマシだが」
【ヒナミ】
「でもふたりに住むようになって一緒にお料理するようになったでしょ? 礼ちゃんのごはんも美味しいよ?」
【礼】
「そう言ってくれるとありがたいよ。それと、バイトで経験を積んだことも要因かな」
【ヒナミ】
「たしか居酒屋だったよね。でも、ホールの担当じゃなかったっけ?」
【礼】
「基本はそうだけど、たまにヘルプでキッチンに入るんだよ。人の入れ替わりが激しいからね」
【ヒナミ】
「そうなんだ……大変そうだねぇ」
【礼】
「ヒナミのほうが大変じゃないか? 保育園のバイトだろ?」
【ヒナミ】
「ううん、楽しいよ? それに前々からやってみたかったことだし、あまり苦じゃないかなぁ」
【礼】
「園児たちがヒナミを先生と認識してるかどうか……」
【ヒナミ】
「園児じゃありませんけどぉ! ちゃんと先生として慕われてますけどぉ!」
【礼】
「……本当か?」
【ヒナミ】
「……『ヒナミちゃん、遊んで遊んで!』ってよく言われます」
【礼】
「…………」
【ヒナミ】
「うう……何度も『”先生”なんですけどぉ!』って注意してるんだけどねぇ……正直もう諦めてるよ」
【礼】
「まあ、それでも慕われてることには変わりないか。時給もいいし、天職かもな」
【ヒナミ】
「そうかもな。園児のみんなとワイワイ遊ぶの好きだから、ついついサークルよりバイトのほう優先しちゃいがちだな」
【礼】
「私も頑張らなきゃな。二人暮らしな分、このアパートなかなかの家賃だし」
【ヒナミ】
「でもその前に期末試験だよ。もうすぐだからちゃんと勉強しないとねぇ」
【礼】
「う゛っ゛っ゛」
【ヒナミ】
「……礼ちゃん? スプーン落としたよ?」
【礼】
「…………」
【ヒナミ】
「……もしかして忘れてた?」
【礼】
「……うん」
【ヒナミ】
「ありゃまあ」
【礼】
「一応ノートは取ってるんだが内容がさっぱりでな。ぜんぜん自信ない……」
【ヒナミ】
「……しょうがないなあ礼ちゃんは」
【礼】
「……ヒナミ?」
【ヒナミ】
「てってれー! 過去問ー!」
【礼】
「か、過去問……?」
【ヒナミ】
「うん! この前サークルの先輩からもらってね! これやっとけば単位間違いなしだよ! ……はい、礼ちゃんの分!」
【礼】
「ほおおおぉぉぉぉ……!!」
【ヒナミ】
「最悪これやっとけば大丈夫だよ! 多分!」
【礼】
「ヒナえも~~ん……!! 助かったよ~~……!!」
【ヒナミ】
「猫型ロボットじゃありませんけどぉ!」
【礼】
「……ありがとう、ヒナミ。これならなんとかなりそうだよ」
【ヒナミ】
「あ、でもこれ秘蔵だから内緒だよ? 他の人に教えちゃめーだからね?」
【礼】
「ヒ、ヒナミが悪い子に……。複雑な気分だ……」
【ヒナミ】
「そういうこと言う子には過去問はあげません!」
【礼】
「あ~んおぎゃおぎゃばぶぅ~!! かえちてヒナミママ~~おんぎゃ~~!!」
【ヒナミ】
「よーしよし……仕方のない子でちゅねー……。ママのことを悪い子なんて言っちゃいけませんよ~……?」
【礼】
「あう~~!! おぎゃおぎゃ――」
【ヒナミ】
「あ、オムライス冷めちゃうから早く食べよっか」
【礼】
「はい」
■同日 深夜
【礼】
「……ふぅ、ただいまー……」
【ヒナミ】
「あ、お帰りー! バイトお疲れ様!」
【礼】
「うん。……やれやれ、今日は大変だったよ」
【ヒナミ】
「……なにかあったの?」
【礼】
「あぁ、シメにお茶漬けを注文したお客さんがいたんだけど、受け取るときに変によろけて私にこぼしてきたんだよ……それで脚と股間をちょっと火傷してね……」
【ヒナミ】
「えぇっ!? だ、大丈夫だったの?」
【礼】
「まあお客さんにはかかってないから大事にはならなかったんだけど……店長はなにやら私の不注意と勘違いしてな。客の前で られてしまったよ。あれはさすがに参った」
【ヒナミ】
「むうぅ……礼ちゃんはなにも悪くないのに……」
【礼】
「仕方ないさ。接客業ならこういうこともある。それに……あとで勘違いと気づいたのかわからんけど、賄いを振舞ってくれたよ」
【ヒナミ】
「あ、だから今夜は夕飯いらないって連絡してきたんだね」
【礼】
「ああ、ごめんな。せっかく作ってくれたのに。明日の朝にいただくよ」
【ヒナミ】
「そういうことならいいよ。気にしないで」
【礼】
「……それで、至急作業服を洗濯するから、ヒナミも洗濯物あるなら持って来てくれるか? まとめて洗っちゃうから」
【ヒナミ】
「あ、うん! ありがとー! ……はいこれ。数日分あるけど」
【礼】
「わかった。じゃあ、洗剤入れて……ピッと」
【ヒナミ】
「あとで私のほうで干しとくよ。作業服だけ乾燥させて渡すね」
【礼】
「ありがとう、助かるよ。ところで、今日はヒナミはなにしてたんだ? バイト?」
【ヒナミ】
「ううん、お野菜切らしてたからお買い物行ってたよ! あと、リビングの電球が1個切れてたから替えの電球も買ってきた!」
【礼】
「あ、ごめん! あとで買いに行こうと思ってたんだけど……なにからなにまで申し訳ないな」
【ヒナミ】
「一緒に暮らしてるんだから、このくらいとーぜんだよぉ! あ、それとね! 今日スーパーで安売りしてたから買ってきたよ!」
【礼】
「……なにを?」
【ヒナミ】
「お酒のつまみ!」
【礼】
「おお……! 枝豆に冷ややっこにたこわさ……! 豪華ラインナップだな!」
【礼】
「あ、そうだ。私もバイト先でビールもらって来たんだった。せっかくだから私はこれでいただこうかな」
【ヒナミ】
「あれ? ごはんはいらないんじゃなかったの? 明日用にと思ったんだけど」
【礼】
「こんなの見せられたら晩酌したくもなるだろ!」
【ヒナミ】
「それもそうだね! じゃあ私も飲むよ!」
【礼】
「よーし……かんぱーい!」
【ヒナミ】
「かんぱーい!」
【礼】
「……ぷはぁっ!! やっぱバイト上がりのビールは”最高”だなぁ……!!」
【ヒナミ】
「つまみがいいとお酒も進むねぇ……!」
【礼】
「……ヒナミはなにを飲んでるんだ?」
【ヒナミ】
「ライオ〇スタウト!」
【礼】
「黒ビールじゃん……」
【ヒナミ】
「けっこう美味しいよ?」
【礼】
「……というか、二人暮らしをはじめて、ヒナミがビールを飲めると知ったときは驚いたよ」
【礼】
「てっきり、『よぉし、私もいい大人だからビールくらい……ううっ苦いよぉ……! で、でもこれが大人の味なんだな!』って、子供舌を発揮すると思ったのに」
【ヒナミ】
「子供舌じゃありませんけど!」
【礼】
「でも実際ヒナミってビールしか飲まないよな? そんなにビール好きなのか?」
【ヒナミ】
「中の人がビール大好きだからね!」
【礼】
「へ、へぇ……」
【ヒナミ】
「飲みやすさでいえばハイ〇ケンとチ〇タオがおすすめだね! どっちも味わいがすっきりしてるからね! 無難なところはバド〇イザーだけど、こっちのピルス〇ーウルケルも――」
【礼】
「海外のビールばっかだな」
【ヒナミ】
「もーなにさ! さっきから礼ちゃん”すーぱーどらい”じゃん! なんてね! あっはははは!」
【礼】
「おーいキャラ崩壊してるぞ」
【ヒナミ】
「私は元からこんなもんだよぉ! ……あっ枝豆美味しいな」
【礼】
「……ま、いっか! ヒナミ、私もこの〇ックスもらうぞ!」
【ヒナミ】
「なんだか青藍島みたいなビールだね!」
【礼】
「ドスケ〇ックスってか!? ソーセージに合うから実質〇ックスだな!」
【ヒナミ】
「もー礼ちゃんったらぁ! お下品だよぉ!」
【礼】
「今更だろぉ!?」
【酔っ払いふたり】
「「あっはははははははは!!!!」」
■翌日 早朝
【礼】
「…………」
【ヒナミ】
「…………」
【ヒナミ】
「……はっ、いけない! すっかり寝過ごしちゃったな!」
【ヒナミ】
「ど、どーしよ……幸い休日だからよかったけど……、とりあえず片づけなきゃな……」
【礼】
「…………」
【ヒナミ】
「……でも、礼ちゃんぐっすりすやすやだし、起こすのも気が引けるなぁ……」
【ヒナミ】
「……ん? なんか忘れてるような……」
【礼】
「…………」
【ヒナミ】
「…………」
【ヒナミ】
「…………あっ!! 洗濯物!!」
●SE:洗濯機の蓋を開ける音
【ヒナミ】
「うっ……! に、臭いが……!」
【礼】
「…………んん? ……あ、おはようヒナミ。あのまま寝ちゃったのか」
【ヒナミ】
「ううっ……礼ちゃん、ごめんねぇ……!」
【礼】
「ど、どうしたヒナミ!? 飲みすぎの影響で幼児退行か!? あ、いや元から女児だからあまり――」
【ヒナミ】
「幼児でも女児でもありませんけどぉ!」
■数日後
★場所:某大学 学食
【ヒナミ】
「……いやぁ~! ようやく期末試験終わったねぇ!」
【礼】
「あぁ……終わったな……」
【ヒナミ】
「ち、違う意味に聞こえるな?」
【礼】
「……マクロ経済学の問3、ヒナミは何にした?」
【ヒナミ】
「え? ”A”だけど……」
【礼】
「私”B”……やっぱダメだぁ!!」
【ヒナミ】
「だ、大丈夫だよ! ほら、問5はサービス問題だったでしょ! 過去問とまったくおんなじ問題だったし! 配点も大きいから、あれで”C”を選んでおけば――」
【礼】
「え? 私”A”にしたんだが……」
【ヒナミ】
「…………」
【礼】
「…………」
【ヒナミ】
「……礼ちゃん、過去問やってないの?」
【礼】
「や、やった……と、思う……けど…………」
【ヒナミ】
「…………」
【礼】
「…………」
【ヒナミ】
「…………また来年、履修しよ?」
【礼】
「うええ~ん……!! ヒナミに見放されたぁ~……!!」
【ヒナミ】
「ちょ、ちょっと礼ちゃん! ここ学食! 白い目で見られてるよぉ……!」
【礼】
「……だって、ヒナミが諦めるんだもん」
【ヒナミ】
「過去問ちゃんとやってない人にそう言われてもねぇ」
【礼】
「い、一応もらったのは全部やったんだぞ? ただおぼえられなかっただけで――」
【ヒナミ】
「それはやってないのと同じううんなんでもないのだよ」
【礼】
「びえええええん!! ヒナミがいじめるううううう!!」
【ヒナミ】
「お酒飲んでないのに幼児退行してる……!」
【礼】
「よ、幼児じゃありませんけどぉ!!」
【ヒナミ】
「盗らないでほしいんですけどぉ!!」
【近くにいた男子学生】
「あのーすみません……もう少し静かにしてもらえませんか……?」
【ヒナミ】
「あっごめんなさい……! ほら、礼ちゃんも!」
【礼】
「す、すみませんでした……」
【ヒナミ】
「…………」
【礼】
「…………」
【ヒナミ】
「ま、まあできるだけのことはやったんだから、夏休み明けの成績発表まではいったん忘れよ? ね?」
【礼】
「そうだな……はぁ、再履修は嫌だなぁ」
【ヒナミ】
「必修科目だからねぇ。……それより、ついに来週だよ?」
【礼】
「あぁ。……数か月ぶりの再会だな」
【ヒナミ】
「
【礼】
「今頃は受験勉強で忙しいんじゃないか? ……若干名が心配だが」
【ヒナミ】
「でも残りが優秀だから大丈夫じゃないかな? 見放してなければだけど」
【礼】
「そうだな。さっきのヒナミみたいにな」
【ヒナミ】
「むむっ……さては根に持ってるな?」
【礼】
「冗談だよ。ま、あいつらのことは来週のお楽しみとして。今日はこのあとどうすんだ? 私はサークルのほうに顔出すけど」
【ヒナミ】
「私はバイトなのさ。なにやら先生がひとり病欠らしくてねぇ、今朝急に連絡が来たのさ」
【礼】
「そっか、じゃあサークル終わったら私のほうで食材の買い出しに行ってくる。試験終わりだし、今晩は豪勢に寿司でもどうだ?」
【ヒナミ】
「お寿司だわーいわーい!」
【礼】
「きちんとサビ抜きにしといてやるからな!」
【ヒナミ】
「サビありでかまいませんけど!」
【礼】
「……本当か?」
【ヒナミ】
「……少なめでお願いします」
【礼】
「ビールは飲めるのにわさびは苦手って不思議な舌だな」
■同日 夜
★場所:ヒナミと礼の家(アパート)
【ヒナミ】
「おおおお……! きらびやかだな……!」
【礼】
「ちょっといいやつを買ってきた。ネタも豪華だろ?」
【ヒナミ】
「豪華だねぇ……! あ、でもお財布大丈夫?」
【礼】
「なーに、最近バイト頑張ったおかげか余裕ができてな。このくらい――」
【ヒナミ】
「でも来週みんな来たときここでパーティーするんだよ? 先輩の私たちが出すんだから、そーとーな出費になるよ?」
【礼】
「…………」
【ヒナミ】
「…………」
【礼】
「…………大家さんに相談を――」
【ヒナミ】
「目をつけられたくないので却下です」
【礼】
「ですよね」
【ヒナミ】
「みんな帰ったあと、しばらくはもやし生活だねぇ」
【礼】
「節約は免れないかぁ……」
【ヒナミ】
「あ、お母さんに頼んで食材の仕送りしてもらおっか!」
【礼】
「えっ、でもそれはさすがに……」
【ヒナミ】
「大丈夫だよ! きちんとわけを話せば納得してくれるよ!」
【礼】
「……今度電話越しでいいからお礼言わせてもらえないか。ここまでお世話になりっぱなしだと心苦しすぎる」
【ヒナミ】
「もう、堅いよ礼ちゃん。むかし私の家でふたりで夕飯食べたあと、こっそり私の部屋でカップ麺食べたでしょ? あれお母さん知ってたらしいけど、敢えて黙ってくれてたんだって! それぐらい慈悲深いから礼ちゃんが気にしなくてもいいんだよ?」
【礼】
「余計に心苦しくなったんだが」
【ヒナミ】
「あれぇ? おかしいなぁ?」
【礼】
「……さては、学食のときの仕返しだな? ヒナミめ、狡い真似を……!」
【ヒナミ】
「ありゃ、バレちゃったか。まあ、私は悪い女だからね! このくらいは――」
【礼】
「そうかそうか。そんな悪い女にいいネタを先に盗られないようこのエビと甘エビとカニとトロとイクラとホタテはもらったぁ!!」
【ヒナミ】
「あーー!! 礼ちゃんずるい!! じゃあこっちのマグロとサーモンと穴子とたまごはもらったぁ!!」
【礼】
「ははは! チョイスがお子様すぎないかヒナミィ!?」
【ヒナミ】
「お子様じゃありませんけどぉ!」
■数日後
【ヒナミ】
「……ただいま礼ちゃん!! みんな連れてきたよ!!」
【桐香】
「久しぶり、礼。変わってないようで安心したわ」
【郁子】
「レイちゃーん!! 会いたかったよー!!」
【礼】
「おわっ郁子……!! ……元気にしてたか?」
【郁子】
「うん!! レイちゃんも元気そうでなにより!!」
【桐香】
「私たち、会える日を楽しみにしてたのよ。……さあ、
【淳之介】
「お邪魔します。……お久しぶりです、礼先輩」
【奈々瀬】
「お邪魔します。……ふ、ふたり暮らしにしてはお部屋広いですね……」
【文乃】
「……大変ご無沙汰しております」
【美岬】
「おお……! 素敵なお家ですね……!」
【麻沙音】
「お、お邪魔しまー……す……」
【礼】
「……NLNSのみんなも、久しぶりだな。今日はゆっくりしていってくれ」
【美岬】
「ところでお料理のほうは!? あなるなら食べちゃいますよ!?」
【礼】
「……夕方になったら届くから、それまで待っててくれ」
【ヒナミ】
「美岬ちゃんの食欲さんも相変わらずだねぇ」
【麻沙音】
「すみません……うちのブラックホールがすみません……」
【美岬】
「アナルだけにホール……ですか。麻沙音ちゃんにしては普通ですね」
【麻沙音】
「受験落第祈願してやろうかお前……!!」
【淳之介】
「人ん家の玄関でなに騒いでんだお前ら」
【ヒナミ】
「相変わらず仲良しだねぇふたりとも」
【礼】
「いいからとにかく中に入ってくれないか……?」
◆
【淳之介】
「……しかし、思ったより広いですね。9人もいるのにけっこう余裕があるというか」
【奈々瀬】
「ね、ホントびっくり。家賃、けっこういいお値段するんじゃないかしら」
【ヒナミ】
「そんなことないよ? ひとりだとお高いけど、ふたりならバイトしてればそこまで辛くはないかな」
【美岬】
「わ、わたちゃんが……バイト……!」
【奈々瀬】
「ああ~……!! 働いてるとこ見てみたいのだわ……!!」
【文乃】
「……して、どこでばいとを?」
【ヒナミ】
「保育園の先生だよ! 私、大人のお姉さんだからね! 子どもの面倒見るくらいらくしょーですよ!」
【淳之介】
「園児が園児の先生を……!?」
【麻沙音】
「兄、久々の再会だから話盛ってるんだよ。私たちを楽しませるために」
【淳之介】
「そういった気遣いはたしかに大人ですね!」
【ヒナミ】
「園児でも盛ってもいませんけどぉ!」
【礼】
「この兄妹のっけから容赦ないな……」
【郁子】
「そういうレイちゃんは?」
【礼】
「私は居酒屋だよ。普通に給仕してたまに料理を作ってるくらいだ」
【奈々瀬】
「へぇ……いかにも大学生のバイトって感じですね」
【桐香】
「そうですね。……でも、大丈夫? 酔っ払いからもらいゲロとかないの?」
【礼】
「桐香様に心配されるのは納得いきませんが今のところはそんなトラブルはありませんよ」
【ヒナミ】
「え? でもこの前お客さんにアツアツのお茶漬けをお股にぶっかけられて火傷したんじゃなかったっけ?」
【麻沙音】
「えっ、なにそのエピソード……」
【文乃】
「それは……災難でございましたね……」
【礼】
「い、いやそんな大したことじゃないんだが……」
【美岬】
「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!! お、おま〇こ火傷して焼き栗ですか!? より香ばしさが増して美味しそうですねぇ!? あっひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
【礼】
「畔は受験のストレスで精神が不安定なのか?」
【淳之介】
「元からです」
【郁子】
「よく再会相手にそんなこと言えるね」
【奈々瀬】
「しかも先輩に……」
【麻沙音】
「今すぐ帰らせますので平にお許しください」
【礼】
「いや、そこまでしなくていいけど……」
【ヒナミ】
「美岬ちゃん。ここは本島なんだから青藍島のノリを持ち込んじゃダメだよ? そんなこと言ってたらあっという間にお縄だよ?」
【淳之介】
「美岬だけのノリなんだぞ」
【文乃】
「美岬さん、出港前にあれほど気を付けるよう申し上げましたでしょう。本島と青藍島では勝手が違うのだと……くどくど……むべむべ……」
【美岬・桐香】
「「はい……はい……ごめんなさい……」」
【淳之介】
「なんで桐香も謝ってるの?」
【郁子】
「
【礼】
「その辺もなにも変わってないのか……」
【奈々瀬】
「美岬は生粋の青藍島民だから多少は仕方ないのかもしれないけど、限度ってのがあると思うのだわ……」
【ヒナミ】
「ねぇ、それだと私も当てはまらないかな?」
【麻沙音】
「わたちゃん、大学の廊下でドスケベセッ〇スしちゃダメなんだぞ」
【ヒナミ】
「知ってますけどぉ!」
【淳之介】
「青藍島云々の前に失礼が先だからね?」
【礼】
「……ヒナミ、そろそろ料理が届くそうだ。私はちょっと出てくる」
【ヒナミ】
「うん! ……じゃあみんな! そろそろごはんが到着だから、積もった話はあとにしよ!」
【美岬】
「ところでローストビーフってあります?」
【淳之介】
「図々しすぎない?」
【麻沙音】
「切るぞ」
【美岬】
「こらこら麻沙音ちゃん、それだとローストポークですよ~!! うひゃひゃひゃひゃ!!」
【郁子】
「それじゃあもう一品追加といこっか」
【奈々瀬】
「アタシも手伝うわ。わたちゃん、包丁借りるわよ」
【文乃】
「わたくしも助太刀致します……」
【桐香】
「よくわかりませんが刻むのなら私の糸にお任せください♪」
【美岬】
「ごめんなさいごめんなさい!! もう騒ぎませんからお許しを~……!!」
【ヒナミ】
「みんなまた一段と仲良くなったんだね羨ましいね」
【麻沙音】
「言うほどそうか?」
【淳之介】
「一名を除いて苛立ちが限界に達しただけです」
◆
【9人】
「かんぱーーい!!!!」
【ヒナミ】
「……ぷはぁっ!! んーうまいっ!!」
【麻沙音】
「あ、あのわたちゃんが……!」
【文乃】
「びーるを……」
【淳之介】
「くそっ……なんてことだ……!」
【郁子】
「なにが?」
【奈々瀬】
「ううっ……こうして子供は大きくなっていくのね……。複雑な心境なのだわ……!」
【ヒナミ】
「子供じゃありませんけど!」
【美岬】
「ノンアルビールすらダメそうなのに……」
【ヒナミ】
「ふふふ……これでも大人のレディだからね! ビールくらいいけなきゃ大人の女とは言えないのさ!」
【美岬】
「大学デビューしたてでよくイキってる頭の悪い女でもそうそう言いませんよ?」
【淳之介】
「恨みでもあるの?」
【礼】
「…………」
【桐香】
「あら、どうしたの礼? お酒が進んでないようだけど」
【礼】
「ああいえ、本当にみんな変わってないなあって……」
【桐香】
「……ふふっ、でも礼とヒナミさんだって変わってないじゃない」
【郁子】
「そうだよ! ……ねぇ、どう? 大学生活は?」
【礼】
「まあぼちぼちだよ。講義はついてくのがやっとって感じだな」
【ヒナミ】
「礼ちゃん講義中によくおねむだもんねぇ」
【美岬】
「え、マジですか」
【礼】
「だってバイト明けで眠いんだもん……」
【淳之介】
「ダメ大学生の典型じゃん」
【桐香】
「いきなり進級が危うそうね」
【奈々瀬】
「それで……単位は大丈夫なんですか……?」
【礼】
「レポートはともかく、試験はヒナミが過去問仕入れてきてくれてるから多分大丈夫だと思うぞ」
【文乃】
「れぽーと……」
【ヒナミ】
「え、でもこの前の試験で答え外してなかったっけ?」
【郁子】
「えっ、過去問あるのに?」
【麻沙音】
「ずいぶんと落ちぶれましたね……」
【美岬】
「元鬼教官の面目丸潰れですね」
【礼】
「みんながボロクソ言う……」
【淳之介】
「バイトのシフト減らすとかできないんですか?」
【礼】
「家賃の支払いにも関わってくる問題だから無理だ。それに今度サークルで同人イベントに参加するから、その交通費の分とかもある」
【麻沙音】
「えっ、サークル?」
【美岬】
「なんのサークルに入ってるんですか?」
【礼】
「特撮研究会。通称”撮研”。みんなで特撮作品を鑑賞して批評したり、同人誌を作ったりするんだ」
【郁子】
「あー……いかにもレイちゃんって感じ」
【桐香】
「礼も同人誌作りを?」
【礼】
「いえ、今はコスプレ衣装の作成を」
【文乃】
「こすぷれ……とは、なにを目的に……?」
【礼】
「ああ、そのイベントではコスプレして売り子をするのが慣習でな。今年は私がそれをやることになったんだよ」
【奈々瀬】
「それで、なんのコスプレをやるんです?」
【礼】
「悪の女幹部。……下乳丸出しの」
【美岬】
「あの……それ、問題にならないんですか?」
【礼】
「一応大丈夫そうだ。まあ、私もそこまで抵抗があるわけじゃないから、別にいいかなって」
【淳之介】
「どこでやるんですか。見にいきますよ」
【美岬】
「食いついてきましたよこの男」
【桐香】
「分かりやすいですね、先輩」
【奈々瀬】
「これだから童貞は……」
【郁子】
「だいたい青藍島で見慣れてるじゃん。今さら下乳で鼻の舌伸ばすことある?」
【文乃】
「…………」
【麻沙音】
「正直見てて恥ずかしいんですけど」
【淳之介】
「ち、ちがわい!! 俺は礼先輩のおっぱ――コスプレが見たいってだけでそういう目でみてるわけじゃないんだぞ!!」
【麻沙音】
「よくそこまで口に出して修正しようと思ったな」
【美岬】
「これだから男って生き物は……性欲の塊ですねぇ」
【淳之介】
「少なくともお前にだけは言われたくない」
【桐香】
「そもそもなぜ悪の女幹部なの?」
【礼】
「私もよくわからないんですけど……たしか”悪堕ち評議会”というサークルと兼任してる人がいまして、その人の趣味だとかなんだとか」
【奈々瀬】
「どんなサークルなんですかそれ……」
【礼】
「そういうのほかにもあるぞ? ”触手陵辱サークル”、”処女同好会”、”アナル開発研究会”、”NTR完堕ち研究会”、”ギャルビッチ研究会”、などなど」
【郁子】
「青藍島出身の学生でもいるの?」
【奈々瀬】
「あの……そんなサークルに入る学生ってどういう――」
【淳之介・美岬・桐香・麻沙音】
「面白そう……!!」
【郁子】
「身内にいっぱいいたね」
【奈々瀬】
「うん、もういいのだわ……」
【文乃】
「ところで、ヒナミさんは……さーくるは?」
【ヒナミ】
「あ、私はね! 演劇サークルに入ってるんだね!」
【淳之介】
「へぇ、ちょっと意外だな」
【礼】
「だろ? 私も最初聞いたときは驚いたよ。まさかあのヒナミが演劇をやるとはなぁ……って」
【麻沙音】
「……で、なんの役やってんの?」
【ヒナミ】
「…………」
【ヒナミ】
「…………」
【ヒナミ】
「…………しょ、少女の役」
【桐香】
「わかりやすく溜めましたね」
【郁子】
「まぁヒナミちゃんだもんね」
【ヒナミ】
「ううぅ……もっと普通の役やりたいのに」
【郁子】
「諦めたほうがいいと思いますケド」
【礼】
「それに……見てみろ、NLNSの顔を」
【朗らかな表情のNLNS5人】
「…………」
【礼】
「『さすがわたちゃん……!』って顔だぞあれ」
【ヒナミ】
「むむうぅ……いつかぜったい、大人のお姉さん役をとってみせるからね!!」
【美岬】
「というか、そもそもなぜ演劇を?」
【ヒナミ】
「あっそれはね、青藍島での出来事を劇にしてみたくてね」
【文乃】
「……と、いいますと?」
【ヒナミ】
「ほら、”ドスケベ戦役”で条例を変えたことあったでしょ? 私が脚本担当になったらそれを劇にしてお客さんに観てもらおうと思ってね!」
【桐香】
「まぁ、それは素敵ですね♪」
【奈々瀬】
「ううっ……これが”エモい”という感情なのね!! 心にじーんと来る話なのだわ……!!」
【美岬】
「奈々瀬さんは酔ってるんですか?」
【麻沙音】
「……ということは、私たちの役をだれかがやるってことか」
【郁子】
「へぇ、じゃあイクちゃんの役とかあるんだぁ。なんか楽しみぃ!」
【淳之介】
「でも俺の役とかどうすんだ? ”漢勃ち”とかできないだろ」
【郁子】
「それ以前の問題じゃない?」
【文乃】
「年齢制限が必要かと存じます……」
【麻沙音】
「ガチのマジレスやめろ」
【礼】
「というか、ヒナミの役はどうするんだ? 別のだれかにやってもらうのか?」
【ヒナミ】
「もちろん私本人がやるよ! なんたって当事者だからね!」
【桐香】
「でしたら、現3年生のみなさんも同じ大学に入るのはどうですか? 礼も参加すれば少なくとも6人は本人が演じることになるでしょう?」
【淳之介】
「それ劇って呼んでいいの?」
【奈々瀬】
「そもそも合格できると決まってるわけでもないんですけど……」
【ヒナミ】
「そういえば淳くんたちは受験勉強どうなの?」
【淳之介】
「俺と美岬が奈々瀬と郁子に教わってる状態です。あとたまに文乃にも」
【礼】
「容易に想像できるな」
【ヒナミ】
「そっかぁ……淳くんと美岬ちゃんはお勉強ボロボロだったもんねぇ……」
【淳之介】
「そんなしみじみと言わないでください」
【文乃】
「そもそもおふたりは基礎ができていないのです。暗記は反復しておぼえないと身に付かないと再三申し上げておりますのに……」
【淳之介】
「ご、ごめん……」
【奈々瀬】
「なんかガチの説教が始まったのだわ……」
【美岬】
「でも、おかげさまで最近になって基礎がわかってきた感じですね。この前の模試でもD判定取れましたし!」
【礼】
「それでもDなのか……」
【美岬】
「なんたってDは――」
【麻沙音】
「デブのDって言いたいんだろ短絡的すぎんだよ頭と体もうちょっと捻ってみろよ特に体絞れこの胸だけF判定女が」
【美岬】
「違いますぅ~!! ダイエットのDですぅ~!! 焦って答えを急ぎましたね麻沙音ちゃぁ~ん!!」
【麻沙音】
「〇すぞてめぇ」
【美岬】
「シンプルな殺意」
【ヒナミ】
「大丈夫だよ美岬ちゃん! それに淳くんも!」
【美岬】
「……え?」
【淳之介】
「ヒナミ……?」
【ヒナミ】
「”夏を性するものが受験を性する!”って『ドラゴンカーセッ〇ス桜』って漫画でも言ってたからね! 夏の時点でDやE判定でもぜんぜん大丈夫だよ!」
【礼】
「あったなそんな漫画! 受験期はとくにお世話になったな……!」
【麻沙音】
「怒られろ」
【郁子】
「ていうか、そんな受験漫画読んだくらいで感銘受けるようなふたりじゃ――」
【淳之介と美岬】
「おおぉぉ……!」
【桐香】
「とても心に染みてるようね」
【郁子】
「嘘でしょ……」
【ヒナミ】
「それにほら!
【淳之介】
「…………あぁ」
【美岬】
「たしかに! ……ちょっと安心しますね!」
【文乃】
「むべ……」
【麻沙音】
「そういえば奇跡が3つくらい重なって合格した人が身近にいましたね……」
【奈々瀬】
「アタシはノーコメントで」
【礼】
「…………」
【郁子】
「そうだったね! 素因数分解もわからないクソバカだったレイちゃんで受かったんだから、ダーリンも美岬ちゃんもきっと大丈夫だよ!」
【桐香】
「さすがはヒナミさん。相変わらず
【ヒナミ】
「ほら礼ちゃん! 現役の受験生たちにあの頃の苦労話を語ってあげるといいさ!」
【礼】
「……おいヒナミ。私をバカにして――」
【受験生4人】
「「「「先輩お願いしまーす」」」」
【礼】
「…………」
【ヒナミ】
「ほらほら、どうしたの礼ちゃん? 可愛い後輩たちの頼みだよ?」
【礼】
「……ずいぶんと悪い女になったじゃないか、ヒナミィ?」