「ヘンタイ・プリズン」のSS です。
真城と夏海が部屋でふたりで休暇を楽しむお話です。

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警備隊さまふたりの穏やかな休日

※時系列は柊一郎が脱獄してから月日が少し経過した頃を想定しています。

 

===

 

【真城】

「……失礼します。畑でとれた野菜を届けにきたので、ここ置いておきます」

 

【面倒見の良さそうな男囚人】

「おォ、こりゃどうも」

 

【真城】

「…………今日はこれで仕事終わり。よし、帰ろう小太郎」

 

【小太郎】

「ワンッ!」

 

★場所:真城の家

 

【真城】

「…………ふぅ。雨ひどかったな。早くシャワーを」

 

【小太郎】

「ワン! ワン!」

 

【真城】

「? どうしたの小太郎」

 

【小太郎】

「ワンワン!ワンッ!」

 

【真城】

「もしかしてお腹減った? ご飯ならすぐ」

 

【小太郎】

「ワンっ! クゥ~ン……」

 

【真城】

「……私のベッド? がどうしたの……――えっ」

 

【真城】

「な、なんでこんなに濡れてるの……? よく見たら床までびっしょり」

 

【小太郎】

「ワン!」

 

【真城】

「……? あ、天井が……雨漏りしてる……」

 

【真城】

「ど、どうしよう……これじゃ今日寝れないよ……」

 

 

 

★場所:所長室

 

 

 

【葉月】

「――……で、一体どうしたというの。逆茂木」

 

【真城】

「そ、それが……」

 

【夏海】

「真城の家の雨漏りがひどいらしいので、しばらくの間、私の部屋に泊まりたいと」

 

【真城】

「……はい。どうか、許可をいただけませんでしょうか。夕顔かん……所長」

 

【葉月】

「…………」

 

【真城】

「…………」

 

【夏海】

「……葉月さん」

 

【葉月】

「……まぁ、仕方のないことね。いいわ。許可してあげる。飼ってる犬も部屋に泊めて構わないわ」

 

【夏海】

「……ありがとうございます、葉月さん!」

 

【真城】

「……ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 

【葉月】

「えぇ、夜中に騒がしくして他の看守たちの迷惑にならないことね」

 

【夏海】

「よかったね。真城」

 

【真城】

「うん。ありがとう姉さん」

 

【葉月】

「特に犬には気をつけなさい。姫瑠にでも見つかったら面倒なことになるわ。あの子、犬よりよっぽどうるさいのだから」

 

【真城】

「はい。細心の注意を払います」

 

【葉月】

「それと、雨漏りって屋根が傷んでいるのでしょう? 私の方で業者を呼んでおくわ。おそらく明日の朝には到着して、修理に取りかかってくれるでしょう」

 

【真城】

「お手数をおかけします。夕顔所長」

 

【葉月】

「修理にどれぐらいかかるかは明日追って連絡するわ。今日はもう夏海の部屋で休みなさい。逆茂木」

 

【真城】

「はい。それでは、失礼します」

 

【夏海】

「それでは私も。葉月さん、お休みなさい」

 

【葉月】

「えぇ、お休み」

 

●SE:ドアが閉まる音

 

【葉月】

「…………」

 

【葉月】

「……所長って思ったより大変な仕事ね。あのババアの苦労が少し理解できてしまったわ。不本意だけれど」

 

【葉月】

「……グミでも食べて少し休憩といこうかしら」

 

 

 

★場所:夏海の部屋

 

 

 

【真城】

「それじゃ、お邪魔します。姉さん」

 

【夏海】

「うん……真城、私の部屋に来るのいつぶりだっけ」

 

【真城】

「……覚えてない。一度お部屋の中のぞいたことあるぐらい……だったと思うから」

 

【夏海】

「そうだっけ」

 

【小太郎】

「ワン!」

 

【真城】

「あ、そうだご飯。ごめんね小太郎」

 

【夏海】

「……荷物、思ったより少ないね」

 

【真城】

「最小限しか物は持ってないから」

 

【夏海】

「最近流行りのミニモ〇?」

 

【真城】

「……ミニマリストのこと言ってるの? そういうわけじゃないけど。ていうか、なにそれ」

 

【夏海】

「私もよく分からない。むかしSSにいた頃、知り合いのSHOの偉い人が『SSビッグスリーの3人と私でアイドルグループを結成しましょう! きっと青藍島の宣伝になりますよ! 私が子供の頃はモ〇娘やミニモ〇が世間を賑わせてましたからね!』みたいなこと言ってたから……」

 

【真城】

「じゃあ全然最近の流行りじゃないよ、姉さん。むしろ古いってことじゃないの。それにアイドルって言ってるじゃん」

 

【夏海】

「そういえばそうだね。じゃああの人、いい歳してバカみたいなこと言ってたんだ」

 

【真城】

「(姉さんが言えることなの……)」

 

【夏海】

「それより真城。だいぶ遅い時間だけど、ご飯にしない? 私作るよ」

 

【真城】

「あ、そうだね。それなんだけど姉さん、さっきから気になってたんだけど」

 

【夏海】

「なに?」

 

【真城】

「……冷蔵庫大きすぎない?」

 

【夏海】

「そうかな」

 

【真城】

「だってこのサイズ何日分……いや、数週間分は入るよ。これ」

 

【夏海】

「え、私三日くらいで全部食べるよ」

 

【真城】

「…………姉さん、食べすぎ。ちょっと中見せて」

 

【夏海】

「普通の食べ物しか入ってないよ」

 

【真城】

「…………卵、肉、魚……や、野菜がほとんどない……」

 

【夏海】

「気が向いたら食べるけど」

 

【真城】

「……あ、米はちゃんとあるんだ。すごい量だけど」

 

【夏海】

「おにぎりよく作るから」

 

【真城】

「……姉さん。ご飯って一体何を作るつもりだったの」

 

【夏海】

「牛丼」

 

【真城】

「…………」

 

【夏海】

「…………」

 

【真城】

「……牛肉だけ炒めてご飯に乗せて完成、ってことでしょ」

 

【夏海】

「真城は頭がいいんだね。考えてること読み取るなんて、もしかしてエスパー?」

 

【真城】

「私が作るから。姉さんは座ってて」

 

【夏海】

「いいの?」

 

【真城】

「姉さんに任せてたら栄養が偏っちゃうから。私の持ってきた野菜と合わせてご飯作るよ。待ってる間に小太郎に餌あげといてもらえる?」

 

【夏海】

「わかった。ほら、小太郎。餌だよ」

 

【小太郎】

「ワン! ワン! クゥ~ン」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【夏海】

「ごちそうさま、真城。料理上手なんだね」

 

【真城】

「お粗末様です。たいしたものでもないよ。誰でも作れる簡単な料理だから」

 

【夏海】

「私、作れないよ?」

 

【真城】

「……今度、料理教えてあげるよ。姉さん」

 

【夏海】

「うん。ありがとう」

 

【真城】

「……洗い物も済ませたし、今日はもう寝よう。姉さん」

 

【夏海】

「じゃあ私先にシャワー浴びるね。私のベッド大きいから、一緒に寝よっか」

 

【真城】

「……うん」

 

●SE:浴室のドアが閉まる音

 

【真城】

「…………」

 

【真城】

「……思わず夏海姉さんの部屋に泊まることになっちゃったけど。こういうの、楽しいな」

 

【真城】

「ひとりだと、相手がいないし。ちょっと寂しいもんね」

 

【小太郎】

「ワン!」

 

【真城】

「……ごめんね。小太郎がいるからひとりじゃないか」

 

【小太郎】

「ワン! ワン!」

 

 

 

●翌日

■時刻:早朝

★場所:所長室

 

 

 

【真城】

「――……失礼します。お呼びでしょうか、夕顔所長」

 

【葉月】

「早い時間に悪いわね、逆茂木。昨日話した修理の件よ」

 

【真城】

「……修理にかかる時間のことでしょうか」

 

【葉月】

「実はもう業者が来てるのよ。ついさっき屋根の状態を確認したようなのだけれど、どうやら明日までには直せるらしいわ」

 

【真城】

「――――! ほ、本当ですか!」

 

【葉月】

「損傷がそこまでひどい状態ではなかったようよ。一日で直せるようだから、安心なさい」

 

【真城】

「……はい! ありがとうございます!」

 

【葉月】

「それで、ここからが本題よ。修理といっても、まる一日かかるようだから」

 

【真城】

「……?」

 

【葉月】

「――――せっかくだから、今日一日休暇をあげるわ。逆茂木」

 

【真城】

「――……え、休暇……ですか」

 

【葉月】

「ここ最近、働き詰めで疲れが溜まっているでしょう。特にあの坊やの件では大変だったのだから」

 

【真城】

「…………」

 

【葉月】

「そういうわけだから、今日一日くらい体を癒しなさい。特別休暇ということにしとくわ」

 

●SE:ドアが勢いよく開く音

 

【夏海】

「――……はぁ、はぁ……葉月さん! 遅れて申し訳ありません!」

 

【葉月】

「……お前たち、一緒の部屋にいるのよね? なぜ夏海だけ遅れるのかしら」

 

【真城】

「何やらお腹が痛いから、ということで私だけ先に部屋を出たんですが……」

 

【夏海】

「その後……小太郎につい、構ってしまいまして。あの愛くるしい顔に……私、太田部夏海は不覚にも惨敗を喫しました。申し訳ありません、葉月さん」

 

【葉月】

「要は犬と遊んでたから遅れたってことでしょう? 仰々しい言い方でこの私の目を誤魔化せると思っているのかしら」

 

【夏海】

「……ごめんなさい」

 

【真城】

「(犬みたいにうなだれてる……)」

 

【葉月】

「まあ、いいわ。夏海。逆茂木にも伝えたのだけれど、お前にも今日一日休暇を与えるわ」

 

【夏海】

「……休暇? いいんですか」

 

【葉月】

「構わないわ。お前も逆茂木もずっと働きっぱなしだったでしょう。たまにはリフレッシュしなさい」

 

【夏海】

「あ、ありがとうございます! 葉月さん!」

 

【葉月】

「礼などいらないわ。最近本島の方で働き方改革というものが浸透してどこの企業も取り入れているようだから、このチューリップ・プリズンでも徹底しようと考えているの。お前たちはその実験台。それだけよ」

 

【真城】

「夕顔所長……」

 

【夏海】

「葉月さん、感謝してますから。そんな仰々しい言い方しなくても」

 

【葉月】

「犬と遊んでたお前に言われたくはないわ。いいからもう部屋に戻りなさい」

 

【夏海】

「はい。失礼します」

 

【真城】

「失礼します」

 

 

 

■時刻:午前

★場所:夏海の部屋

 

 

 

【夏海】

「…………」

 

【真城】

「…………」

 

【夏海】

「……急に休みになったね」

 

【真城】

「うん。どうしよう、姉さん」

 

【夏海】

「なんの前触れもなくいきなり休みになるなんて初めてだからね」

 

【真城】

「……私ね、行ってみたいところがあるんだけど」

 

【夏海】

「え、どこ」

 

【真城】

「――……青藍島。夏海姉さんが過ごしてた島を見てみたい」

 

【夏海】

「真城……」

 

【夏海】

「…………」

 

【夏海】

「……残念だけど、今日は厳しいと思う。昨日の雨の影響でフェリーの調子が悪いらしいから」

 

【真城】

「…………そうなんだ」

 

【夏海】

「また今度、行こう。葉月さんと三人で」

 

【真城】

「わかった。そうする」

 

【夏海】

「じゃあ、今日どうしよっか」

 

【真城】

「…………ん? 姉さん、これDVD?」

 

【夏海】

「うん。最近は暇なとき映画観るんだ」

 

【真城】

「い、意外……」

 

【夏海】

「そういえばぜんぜん観てないのが一枚あったんだ。よかったらこれ一緒に観ない?」

 

【真城】

「……タイトルは?」

 

【夏海】

「『ROOKI〇S -童〇卒業-』」

 

【真城】

「…………」

 

【夏海】

「…………」

 

【真城】

「……なんの映画?」

 

【夏海】

「高校野球。不良の童〇たちが甲子園で卒業することを目標に努力奮闘する話。けっこう古い映画だけど」

 

【真城】

「その説明だと本当に野球をしているとは思えないよ」

 

【夏海】

「ちゃんと野球やってるよ。それにね、俳優さんたちがすごくカッコいいらしい」

 

【真城】

「へぇ、そうなんだ……らしい?」

 

【夏海】

「実はこれ、島にいた頃、昨日話したSHOの偉い人にもらったものなんだ。その人元々”観抜き”するために持ってたんだって」

 

【真城】

「その人……なんなの……?」

 

【夏海】

「……野球といえば、野球大会を思い出すね。プリズンでやった」

 

【真城】

「懐かしいな。私はサード、夏海姉さんはピッチャーだったね。チーム別だったけど」

 

【夏海】

「湊くんたちとの野球……すごく楽しかったな」

 

【真城】

「…………」

 

【真城】

「…………やってみたら意外と面白かった。野球」

 

【夏海】

「……また今度プリズンで野球大会やるらしいよ。勉強のためにも観てみようか」

 

【真城】

「うん。観たい。強肩の囚人強かったから。今度は負けたくないし早く観よう。姉さん」

 

【夏海】

「じゃ、流すね」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【真城】

「…………」

 

【夏海】

「…………」

 

【真城】

「……面白かった。すごくいい映画だったね」

 

【夏海】

「……うん。私ちょっと泣きそうになったよ」

 

【真城】

「まさか……本当に甲子園で卒業するとは思ってなかったよ」

 

【夏海】

「うん。夢の舞台へ絶頂ったシーンは感動した」

 

【真城】

「特に努力の過程がよかったね」

 

【夏海】

「途中でキャプテンの人が膣内折れしたり、かなりのテクを持った大型ルーキーの1年生が入部したりいろいろあったけど……それが、”いい”」

 

【真城】

「サードの人ちょっと怖かったけど、情に熱い人でカッコよかった」

 

【夏海】

「ピッチャーの人もすごくカッコいい人だった。もし青藍島にいたらかなりヤれてたと思う」

 

【真城】

「最後に学校のグラウンドに集まって、全員で先生を抱くシーンは最高の終わり方だった」

 

【夏海】

「みんなの大好きな先生だからね。本当に夢の舞台へ絶頂かせてくれた一番の勃て役者なわけだし」

 

【真城】

「古い映画って話だったけど、思った以上に楽しめた」

 

【夏海】

「今度これ葉月さんとも一緒に観よう。葉月さんの感想も聞きたい」

 

【真城】

「……姉さん。もうお昼」

 

【夏海】

「そうだね。適当に済ませてから少し運動しよっか」

 

 

 

■時刻:午後

 

 

 

【真城】

「…………」

 

【夏海】

「…………」

 

【真城】

「…………はぁ、はぁっ……なっ、夏海姉さん……」

 

【夏海】

「……ん。どうしたの」

 

【真城】

「姉さんの部屋に……トレーニング器具があるのは、意外でもないし、分かるんだけど……っ」

 

【真城】

「…………な、なんで筋トレなの……?」

 

【夏海】

「真城は体が細い。囚人によっては押し負けるかもしれないから、しっかり筋肉付けよう」

 

【真城】

「わ、私は……別に……ていうか、なんで姉さんは汗のひとつもかいてないの……?」

 

【夏海】

「この程度、私にとっては運動の内にも入らない」

 

【真城】

「……私もっ……訓練はっ、受けてるけど……! こっちのほうが比較にならないレベルでキツい……!」

 

【夏海】

「そうかな。SSにいた頃は普通だったけど」

 

【真城】

「…………はぁ! ……はぁ! もう無理――――っ!!」

 

【夏海】

「……大丈夫、真城? はい、ドリンク」

 

【真城】

「んっ……んっ…………ふぅ」

 

【真城】

「……!! ……う、腕が……足が……あ、上がらない……!!」

 

【夏海】

「真城ならもうちょっとできるかなと思ったんだけど。もう20キロぐらい軽いほうがよかったかな」

 

【真城】

「…………姉さんのは元が重すぎるから。あまり変わんないと思う」

 

【夏海】

「そっか」

 

【真城】

「……姉さんが所属してたSS? の人たちは、全員これできるの?」

 

【夏海】

「私は一番隊ってとこにいたんだけど、そこの人たちは普通にできるよ。文字通り朝飯前」

 

【真城】

「す、すごい……」

 

【夏海】

「これの何倍、いや何十倍? も重いのを持ち上げられる人もいたよ」

 

【真城】

「その人、本当に人間?」

 

【夏海】

「一応人間。たとえば、とんでもない怪力の人がいたんだけど。木を軽々と振り回してた」

 

【真城】

「木? 木っていろいろあるけど」

 

【夏海】

「生えてる木。樹木。そのまま引っこ抜いて、おもちゃみたいにブンブンと。それでトラックを壊したりしてた」

 

【真城】

「…………ぜったい人間じゃないと思う」

 

【夏海】

「大丈夫。意思の疎通はできるから。ギリギリ」

 

【真城】

「ギリギリ……」

 

【夏海】

「意思の疎通と言えば、他にも……いや、あの人は意思の疎通というより、勘違いが多いというか……いろいろとよくわからない人がいたんだけど」

 

【真城】

「……?」

 

【夏海】

「みんなでバレーボールやろうって言ったら野球のグローブを持ってきたり、家庭科の調理実習のときに家からチェーンソーを持ってきてた」

 

【真城】

「…………ごめん、夏海姉さん。何を言ってるの」

 

【夏海】

「私、頭悪いから。一緒にいる時間長かったのに、結局どういうことだったのかわからないままなんだ。ごめんね真城」

 

【真城】

「……姉さんは何も悪くないと思うけど」

 

【夏海】

「そういえば凛さ……花丸凛っていう囚人、知ってる?」

 

【真城】

「うん。一応」

 

【夏海】

「実はここだけの話……その人も元SS。私の同僚だった人」

 

【真城】

「え……そうなの? つまりこのプリズンで再会したってこと?」

 

【夏海】

「うん。最初に会ったときはびっくりした」

 

【真城】

「……姉さんはどういう心境だったの? 元同僚と監獄で再会するなんて……やっぱり少しくらいは温情をかけたりしたの?」

 

【夏海】

「ううん。少しだけ話はしたけど、私にも立場ってものがあるから。心を鬼にして、毅然とした態度で接してる」

 

【真城】

「……そうなんだ」

 

【夏海】

「これが大人ってものだよ。真城」

 

【真城】

「……姉さん、すごいドヤ顔。でも、大人なら簡単な料理くらい作れるようになろうよ」

 

【夏海】

「たしかに」

 

【真城】

「ちょうどいい時間だし、夕食の支度しよっか。一緒に作ろう、夏海姉さん」

 

【夏海】

「うん…ありがとね。真城」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【夏海】

「……それで、何を作るの」

 

【真城】

「畑でトマトがいっぱい採れたから、今夜はトマトの無水カレーを作ろうと思ってて」

 

【夏海】

「『トマトをブスで狩れ』? ……何言ってるの、真城?」

 

【真城】

「…………」

 

【真城】

「…………トマトの水分だけで作るカレー。水を使わないから、無水」

 

【夏海】

「なるほど。そんなのがあるんだ」

 

【真城】

「……うん。トマトの酸味が効いたカレーになってて美味しいんだよ」

 

【夏海】

「そうなんだ。トマトはわかったけど、材料って」

 

【真城】

「姉さんの冷蔵庫全然野菜ないから、野菜とカレールーは私が持ってきたのを使うよ。肉だけ姉さんのもらうね」

 

【夏海】

「うん。了解」

 

【真城】

「じゃあ、野菜は全部私が切るから。姉さんはまずトマトを鍋に敷き詰めて」

 

【夏海】

「わかった。よいしょっと」

 

【真城】

「姉さん、ヘタとってから」

 

【夏海】

「あ、ごめん」

 

【真城】

「それで敷き詰めたら……姉さん。何をしようとしてるの」

 

【夏海】

「え? 水を入れようと」

 

【真城】

「……無水って言ったでしょ」

 

【夏海】

「忘れてた。そうだった」

 

【真城】

「…………」

 

【真城】

「……大丈夫、姉さん?」

 

【夏海】

「全然料理しないから」

 

【真城】

「……まぁ、仕方ないか。じゃあ姉さん、次は豚肉を切って」

 

【夏海】

「了解。せーのっ」

 

●SE:まな板が割れた音

 

【真城】

「…………」

 

【夏海】

「…………」

 

【真城】

「……なんで?」

 

【夏海】

「料理しようとするといつもこうなる。力加減が難しい」

 

【真城】

「さっき『せーのっ』って言わなかった? 全力出す気まんまんだったでしょ」

 

【夏海】

「料理って難しいね。真城」

 

【真城】

「…………もう私ひとりで作ろうかな」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【夏海】

「……完成したね。すごくいい匂い」

 

【真城】

「……疲れた」

 

【夏海】

「お疲れさま、真城。なんやかんや作れたね」

 

【真城】

「後半はほとんど私ひとりでやったからだと思うけど…」

 

【夏海】

「とにかく食べよう。いただきます」

 

【真城】

「……いただきます」

 

【夏海】

「…………」

 

【夏海】

「……美味しい」

 

【真城】

「ね。美味しいでしょ」

 

【夏海】

「カレーにトマトって合うんだ」

 

【真城】

「旨味が凝縮して、味が良くなるんだよ」

 

【夏海】

「……真城が持ってきた野菜も美味しいね」

 

【真城】

「畑で採れたばかりで新鮮だから」

 

【夏海】

「……料理も作れて、野菜も自分で育てて……真城はすごいね」

 

【真城】

「…………そんなことない。姉さんだって力加減さえなんとかなれば、料理の一つくらいできるはず」

 

【夏海】

「そうだね。もっと器用にならなきゃ」

 

【真城】

「戦闘だと器用なのにね」

 

【夏海】

「なんでだと思う?」

 

【真城】

「私に聞かないでよ……」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【真城】

「……今日も隣で寝るね」

 

【夏海】

「うん。どうぞ」

 

【真城】

「…………」

 

【夏海】

「…………」

 

【真城】

「……夏海姉さん」

 

【夏海】

「……どうしたの、真城」

 

【真城】

「……最近いろいろあったな。って」

 

【夏海】

「うん」

 

【真城】

「……彼を助け出したときは、本当に大変だった」

 

【夏海】

「……湊くん」

 

【真城】

「…………」

 

【真城】

「…………私は生きてると思う。大丈夫だよ。姉さん」

 

【夏海】

「……そうだね。なんか、彼ならそんな気がする」

 

【真城】

「……夕顔様が少し変わったのも、彼のおかげなのかも」

 

【夏海】

「葉月さん、所長に就任してから優しい感じになった。ちょっとだけ」

 

【真城】

「正直、働き方改革に取り組むなんて思わなかった」

 

【夏海】

「……少し意外だよね」

 

【真城】

「……うん」

 

【夏海】

「…………」

 

【真城】

「…………」

 

【真城】

「……諸行無常って言葉を思い出したんだけど」

 

【夏海】

「…………」

 

【真城】

「……いろいろ変わっていくんだなって……そう思っただけ」

 

【夏海】

「看守も囚人も入れ替わるものだから。当たり前だけど」

 

【真城】

「…………」

 

【真城】

「…………そういうことじゃないんだけど」

 

【夏海】

「……?」

 

【真城】

「いや、なんでもない…………そろそろ寝よう、夏海姉さん」

 

【夏海】

「そうだね。お休み、真城」

 

【真城】

「お休みなさい」

 

【夏海】

「…………」

 

【真城】

「…………」

 

 

 

●翌日

■時刻:翌朝

★場所:所長室

 

 

 

【葉月】

「……それで、修理はもう終わったそうよ。逆茂木、後で確認しに行きなさい」

 

【真城】

「承知致しました。ありがとうございます」

 

【夏海】

「よかったね。真城」

 

【葉月】

「それで、少しは疲れは取れたのかしら」

 

【夏海】

「はい。お陰様で」

 

【真城】

「今日からまた、なんなりとご命令を」

 

【葉月】

「えぇ。この私のためにせいぜい働きなさいな」

 

【葉月】

「――……ところで、話は変わるのだけれど」

 

【夏海】

「?」

 

【葉月】

「……今度休暇が取れたら、青藍島へ行こうと思っているの」

 

【真城】

「……え」

 

【夏海】

「そ、そうなんですか」

 

【葉月】

「で、お前たちもついてきて私を警備しなさい。あの島は何があるかわからないのだから」

 

【葉月】

「…………」

 

【葉月】

「…………それに。聞いた話によると、あの坊やたちが――――」

 

【夏海】

「――――え。葉月さん今なんて」

 

【葉月】

「なんでもないわ。話は終わり。仕事に戻りなさい」

 

【夏海】

「……承知致しました。失礼します」

 

【真城】

「修理の件、ありがとうございました。失礼します」

 

●SE:ドアが閉まる音

 

【真城】

「…………」

 

【夏海】

「…………」

 

【真城】

「……三人で青藍島行ける」

 

【夏海】

「……そうだね」

 

【真城】

「……楽しみがひとつ増えた」

 

【夏海】

「ううん、ひとつじゃないよ」

 

【真城】

「え?」

 

【夏海】

「――――()()()、だよ」

 

【真城】

「……そっちの方が楽しみって顔してるよ。夏海姉さん」

 

 

 

 


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