「ヘンタイ・プリズン」のSSです。
姫瑠、夕顔、ソフりん、シスターの4人で麻雀をするお話です。

対局中の描写は大雑把に書いています。
そこまで本格的ではありません。
なんとなくでお読みになっていただければと思います。

各キャラの麻雀経験は以下の設定です。
・経験者:姫瑠、夕顔
・初心者:ソフりん、シスター

※麻雀描写に多少の誤りがあるかもしれません
※本作は姫瑠が主役というわけではありません

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闘牌伝説ヒメル

★場所:プリズン看守棟 姫瑠の部屋

 

【葉月】

「……入るわよ。姫瑠」

 

【姫瑠】

「はい、どうぞ。お入りください」

 

【ソフりん】

「お疲れさまです、夕顔看守長」

 

【樹里亜】

「遅かったですねぇ、葉月ちゃん。待ちくたびれましたよぉ」

 

【葉月】

「仕方がないでしょう。仕事が残っていたのだから。教誨師だか何だか知らないけれど、囚人と遊んでいる暇な樹里亜と違って、私は忙しいのよ」

 

【樹里亜】

「あら、葉月ちゃんだってよく囚人をいたぶって楽しんでるじゃないですかぁ。人のこと言えますかねぇ」

 

【葉月】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「ま、まぁお二人共。もう遅い時間ですので…」

 

【どこまでも犬猿な二人】

「「お前(ソフりんちゃん)は黙っていなさい」」

 

【ソフりん】

「す、すみません……」

 

【姫瑠】

「夕顔看守長。準備は完了しておりますので」

 

【葉月】

「……そう。ではさっそく本題に入るわよ」

 

【ソフりん】

「……あの、これから一体何を」

 

【葉月】

「ここ最近、囚人たちの間でまた賭博が開かれているらしいわ。それも今度は麻雀」

 

【樹里亜】

「へぇ、麻雀ですかぁ。私はやったことありませんけど」

 

【ソフりん】

「わ、私もまったく……」

 

【葉月】

「私たちはそれを監視しなければいけない立場。しかし看守のほとんどが麻雀素人。このままでは看守の面目が立たないわ」

 

【姫瑠】

「そこで、看守長の皆さんと経験者の私で麻雀をやってみようということです。シコレンコ看守長とおね、我妻看守長は未経験なので、この機会にぜひ感覚をつかんでいただきたいと思いまして」

 

【葉月】

「そういうことよ。私も大学の頃に少しかじっていたけれど、お前たちふたりは素人以前の問題。看守長たるもの、ルールを把握し、囚人のイカサマを見抜けるようになりなさい」

 

【ソフりん】

「なるほど……そういうことだったんですね」

 

【樹里亜】

「これもお仕事ですからねぇ。仕方がありません、承知しました」

 

【葉月】

「それに、どうやら参加者の中に”嶺上開花”を必ず決める恐ろしい腕前の女囚がいるそうよ。正直に言えばあり得ない。イカサマの可能性が高いと睨んでいるわ」

 

【姫瑠】

「えぇ。どう考えても怪しいと思います。なので、我々がきちんと麻雀を理解し、膣女を守れるようにしましょう! ……という腹積もりなわけです」

 

【樹里亜】

「ここはプリズンですから。よくわかりませんが、そのような強者がいてもおかしくないでしょう」

 

【ソフりん】

「……そうですね、看守が恥をかくわけにはいきません。今晩は勉強させていただきます」

 

【葉月】

「他にも”海底撈月”の使い手と呼ばれる見た目が子どものような女囚が――――」

 

【姫瑠】

「夕顔看守長。さっそく始めましょう」

 

【葉月】

「そうね。しかしいきなりルールをすべて覚えるのは大変だから、今晩だけで全網羅する気はないわ」

 

【姫瑠】

「ですので、数日にかけて覚えていただく予定です」

 

【ソフりん】

「そうか。それは助かるよ」

 

【樹里亜】

「じゃあ今日はどうするんですかぁ?」

 

【姫瑠】

「今日はあくまで麻雀とはどういったものかをなんとなく把握してもらうため、一部ルールを簡単にしてプレイしたいと思います。……あ! 今のは決してお姉様と簡単にプレイを済ませたいという意味ではなく!」

 

【樹里亜】

「葉月ちゃんとソフりんちゃんがいる前でそういうのやめてもらえますかぁ」

 

【ソフりん】

「簡単にしていただけるのはありがたいのですが、そもそも麻雀がどういうゲームなのか全く知らないので……」

 

【葉月】

「簡単にいえばトランプのポーカーを複雑にしたものよ。そう捉えてくれればいいわ」

 

【姫瑠】

「そうですね。カードの種類と数が多く、点数の計算がより細かい、といった感じですね」

 

【ソフりん】

「な、なるほど。じゃあ役の強さで勝負をするゲームなんですね」

 

【葉月】

「えぇ。お前たちふたり用にルールブックと麻雀役の一覧表を持ってきたわ。これでも読んで覚えなさい」

 

【ソフりん】

「ありがとうございます。…………む、難しいな……情報量が多すぎてとても」

 

【樹里亜】

「だいたい分かりましたぁ♪」

 

【ソフりん】

「えっ!?」

 

【姫瑠】

「さすがお姉様! こんなに早く理解できてしまうとは!」

 

【樹里亜】

「たしかにポーカーの拡大版みたいなものですねぇ。牌も役も多ければ、符というものもあって点数計算も面倒です。運要素もありますけど、けっこう頭使いますねぇ。これ」

 

【葉月】

「ソフィーヤのようにまだ理解できていない人間もいるのだから、今夜おこなう麻雀の点数計算では従来の形式はとらないわ。さっきも言ったとおり、ルールを簡単にしておこなうわよ」

 

【ソフりん】

「も、申し訳ありません……お心遣いありがとうございます」

 

【葉月】

「構わないわ。ソフィーヤだもの」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【姫瑠】

「というわけなので、今日はこんな感じのルールでやってみましょう」

 

■作中の麻雀ルール

 〇従来のような点数を奪い合う形式はとらない

 〇符計算を込んだ点数計算はしない

 ☆アガったときのハン数(翻数)をそのままアガった人のポイントとして加算する

  ・アガり方(ツモ、ロン)によるポイントへの影響はないものとする

  ・親がアガった場合は更に+3ポイント追加。そして、連荘となる

  ・【例】三暗刻、タンヤオ、ドラ1でアガったとする (ツモ・ロン問わず)

    (子の場合):2+1+1   ⇒ +4ポイント

    (親の場合):2+1+1+3 ⇒ +7ポイント

 〇合計ポイントが最も高い順に1位、2位、…と順位をつける

 〇基本的には一般のルールに準拠

 〇その他、細かい点については適当に対応をとる

 

【樹里亜】

「最後が少しいい加減な気もしますけど、いいんじゃないですかぁ。わかりやすくていいと思います」

 

【葉月】

「本当はこの点棒を使って、点数表に準じて互いの点数を奪い合うものよ。今晩はそうでなく、アガったときのハン数をそのままプレイヤーの持ち点とするわ」

 

【姫瑠】

「まだ最初なのでこのような加算制の方が単純でよいかと。親の追加点を+3ポイントと高めに設定しているのは、親番の重要さをある程度に実感してもらうためです」

 

【ソフりん】

「なるほど。その方がわかりやすくて助かるよ」

 

【葉月】

「今日の目的はあくまで麻雀の感覚をつかむこと。従来の細かいルールは明日以降取り入れていけばいいわ」

 

【樹里亜】

「そういうことですねぇ。今は楽な気持ちで望みましょう。ソフりんちゃん♪」

 

【ソフりん】

「は、はい……」

 

※姫瑠を自家とすると、下家が葉月、対面がソフりん、上家が樹里亜、といった配置で座っている

 

【姫瑠】

「こちら、麻雀セットです。開けますね」

 

【ソフりん】

「おぉ……見たことある……。この丸い絵柄が入ってるものとか」

 

【樹里亜】

「それがイーピンですねぇ。ヤオチュー牌の一種。1・9の数牌および字牌のこと。ヤオチュー牌はハン数の高い役をそろえるのにとても重要な牌ですねぇ」

 

【ソフりん】

「ほ、本当に理解してる……」

 

【葉月】

「ルールブックは渡したのだから、その辺は改めて説明しないわよ。ほら、まずはここにある牌を全員でかき混ぜるのよ」

 

【ソフりん】

「あ、はい」

 

●SE:牌をジャラジャラ混ぜる音

 

【姫瑠】

「あぁ、懐かしい……! 友人と朝までやっていた頃を思い出します……!」

 

【葉月】

「ただれた大学生のようなことをしていたのね。お前」

 

【樹里亜】

「偏見じゃありません?」

 

【葉月】

「そうかしら。ろくに睡眠も取らず朝まで麻雀をしている大学生なんて、大概が講義そっちのけでバイトに明け暮れたり一限をサボったりするものでしょう。私もバイトはしていたけれど、そんな連中とは違って成績も良ければ教授陣からの信頼も厚かったわ。一体何しに大学へ来ているのでしょうね、ああいう連中は」

 

【ソフりん】

「なにかあったんですか?」

 

【樹里亜】

「信頼が厚いとか自分で言いますかねぇ。普通」

 

【姫瑠】

「それで、ひと通り混ぜ終わったら各自17枚2段の牌山を作ります」

 

【ソフりん】

「……よっ、と。こ、こうか」

 

【姫瑠】

「次にサイコロを振って親を決めます」

 

【ソフりん】

「親?」

 

【葉月】

「本に書いてあったでしょう。麻雀には親と子という概念があるの」

 

【樹里亜】

「親になったプレイヤーはアガったとき、子よりも多めに点数をもらえる。逆に子にツモられたら親は多めに支払うんですよねぇ」

 

【葉月】

「えぇ。今回はルールを簡易化しているから少し違うのだけれど」

 

【姫瑠】

「それじゃあ、私がサイコロ振りますね」

 

●SE:サイコロが転がる音

 

【姫瑠】

「えぇっと……私が親ですね。このサイコロの目の数だけの山を右に残して、親の私から4枚ずつ取っていきます」

 

【葉月】

「親から順番に左回りだから次が私、その次が樹里亜、そしてソフィーヤよ」

 

【樹里亜】

「なるほどなるほど」

 

【ソフりん】

「……いよっ、と」

 

【姫瑠】

「これを3回繰り返して、各自手元に12枚そろえます」

 

【葉月】

「そうしたら最後に親の姫瑠が2枚、子が1枚ずつ牌を取るの」

 

【ソフりん】

「……山岸刑務官。たしかに2枚だが、その取り方は」

 

【姫瑠】

「あ、これはですね。親が2枚取るときは、私から見た13枚目と14枚目の牌を取るんです。『チョンチョン』って呼ばれたりしていますね」

 

【葉月】

「これで配牌は完了よ。姫瑠から順番にいらない一枚を捨てて、山から一枚とっていらない一枚を捨てて、の繰り返し。こんなところね。あとはルールブックを見返しなさい。わかったかしら?」

 

【ソフりん】

「だ、だいたいはなんとか。多分大丈夫です」

 

【樹里亜】

「私もオッケーです」

 

【葉月】

「ひとまず半荘戦でいきましょう」

 

【姫瑠】

「ですね。東風戦だと少し短いので」

 

【ソフりん】

「では、対戦よろしくお願いします」

 

【樹里亜】

「そのセリフどこかで聞いたことありますねぇ」

 

◇ ===== 東一局 0本場(親:姫瑠)=====

 

◆現在の持ち点

姫瑠  :0

葉月  :0

ソフりん:0

樹里亜 :0

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【姫瑠】

「………っ!」

 

【葉月】

「表情に出ているわよ、姫瑠。よっぽど良い手がそろったということね」

 

【樹里亜】

「さすがにバレバレですよぉ。まぁ、姫瑠ちゃんですからねぇ」

 

【姫瑠】

「おっとこれは失礼しました! バレないようにアへ顔アへ顔……」

 

【葉月】

「なぜ?」

 

【樹里亜】

「ポーカーフェイスという言葉を知らないのでしょう」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「(この『九萬』をそろそろ切らないとな……。まずはタンヤオという簡単そうな役を作ってみたいし…。よしっ)」

 

【ソフりん】

「………っ」

 

【姫瑠】

「あ! それ、ロンです!」

 

【ソフりん】

「えっ」

 

【樹里亜】

「あらら。やってしまいましたねぇ、ソフりんちゃん」

 

【葉月】

「捨て牌を見れば萬子でそろえていると推測できるでしょう。危険牌よ、それ。捨て牌から相手が何を待っているか考えながら牌を切っていくの。気をつけなさい」

 

【ソフりん】

「うぅ……」

 

【姫瑠】

「混一色、ドラ3。親なので、3+3+3で、+9ポイントですね」

 

【樹里亜】

「なかなかやりますねぇ、姫瑠ちゃん。伊達に経験者じゃありません」

 

【姫瑠】

「経験者だなんてそんな! 恥ずかしいですよお姉様!」

 

【樹里亜】

「本当に面倒くさいですねぇこの子」

 

◇ ===== 東一局 1本場(親:姫瑠)=====

 

◆現在の持ち点

姫瑠  :9

葉月  :0

ソフりん:0

樹里亜 :0

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「(……誰も鳴いてないな。みんな高い役を狙ってるってことなのか……?)」

 

【樹里亜】

「(今はあまり字牌いらないんですよねぇ。メンタンピン……いえ、三色と一盃口もいけそうですね。これ)」

 

【葉月】

「(この手なら案外悪くないわね。これ以上姫瑠に点差をつけられたくないし、攻めるにしても守りにしてもちょうどいいわ。あとはどう仕掛けるか、ね)」

 

【姫瑠】

「(お腹減った……お夜食でも作っておくべきだったかしら…)」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「…………」

 

【ソフりん】

「(……やっぱり誰も……あっ)」

 

【ソフりん】

「――ポン!」

 

【葉月】

「…………」

 

【葉月】

「(このタイミングで『白』で鳴くということは、役牌アガりでも狙っているのかしら。一番分かりやすいものね。とはいえ、このままポンポン鳴かれて字牌を持って行かれるのも困るわ)」

 

【姫瑠】

「(シコレンコ看守長はなにか高い役でも狙っているのかしら……いや、でも初心者だし……)」

 

【樹里亜】

「(勝つだけであれば早めに安い手を作ってアガってしまった方が効率的ですねぇ。それだと面白くないのでそんなことはしませんけど)」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「(こ、これでテンパイか。両面待ちだから、これなら多分アガれるかな……)」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【葉月】

「(…………そろそろね)」

 

【葉月】

「リーチ」

 

【姫ソ樹】

「!!!」

 

【葉月】

「…………」

 

【樹里亜】

「(いったい何を狙ってるんですかねぇ、葉月ちゃん。これはちょっと警戒した方がいいですねぇ)」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「(……夕顔看守長のことだ。きっと高い役を……)」

 

【樹里亜】

「(葉月ちゃんの手がなんなのか、どうも読めないんですよねぇ。何を捨てましょう)」

 

【葉月】

「(いくら頭が切れるとはいえ、麻雀に関しては樹里亜も素人。経験不足がここで如実に出るでしょう)」

 

【姫瑠】

「(『和了(ホーラ)』って『ほぉ』と喘ぐ人たちを呼ぶときの言い方みたいですわね)」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【樹里亜】

「(…………これなら通るでしょう)」

 

【葉月】

「ロン。かかったわね、樹里亜」

 

【樹里亜】

「!」

 

【ソフりん】

「に、二枚ずつの手……。それってたしか……」

 

【姫瑠】

「七対子ですね。さすがにそれは読めませんでした」

 

【葉月】

「リーチ、一発、七対子、赤ドラ2……裏ドラが乗って2ね。1+1+2+2+2。+8ポイントよ」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………『西』ならいけると思ったんですけどねぇ」

 

【葉月】

「字牌なら通るだろう、という盲点を突いたのがこの手よ。……残念だったわねぇ、樹里亜。まさかお前が『西』を持っていたなんてねぇ! あははははははっ!」

 

【樹里亜】

「……よくそんな高笑いできますねぇ。姫瑠ちゃん以下じゃないですか」

 

【ソフりん】

「(別の意味に聞こえるのは気のせいか?)」

 

【姫瑠】

「仕方がありません、お姉様。まだ初心者ですから。ここから切り返していきましょう!」

 

【樹里亜】

「……してやられましたねぇ、さすがは葉月ちゃんです。でも次で二局目ですし、まだ序盤です。なんとかなるでしょう」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「(さすがに経験者は違うな……。もう少し攻め方を考えないと……)」

 

◇ ===== 東二局 0本場(親:葉月)=====

 

◆現在の持ち点

姫瑠  :9

葉月  :8

ソフりん:0

樹里亜 :0

 

【葉月】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【姫瑠】

「麻雀やってるとナレーションの声がほしくなりませんか?」

 

【葉月】

「黙ってやりなさい」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「(配牌が悪い……。何シャンテンなのかもわからない……。適当に字牌を切っていくしかないな……)」

 

【葉月】

「(さっきので樹里亜も学習したでしょう。ここからは少し気をつけないといけないわね。あの女のことだから、おそらく安い手ではこないでしょう)」

 

【姫瑠】

「(今日大雨だったら面白かったんだけどなぁ……)」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【樹里亜】

「(……良い手がそろいましたねぇ。せっかくなので誰かに振り込んでもらいたいところですけど……いえ、それよりも――)」

 

【葉月】

「…………」

 

【葉月】

「(……なにかキナ臭いわね。多分樹里亜ね。捨て牌を見るからに索子待ちといったところかしら。早いうちに索子を切っておかないとまずいわね)」

 

【ソフりん】

「(……この手なら先にタンヤオの手を作った方がいいな。まずこれを捨てて……)」

 

【姫瑠】

「(『清老頭』を老人の亀頭と勘違いしていた時期もあったなぁ……)」

 

【葉月】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「(よしっ! これならなんとか……我妻看守長? 少し笑っているような……)」

 

【姫瑠】

「(…………いけませんわ! 集中集中! ……えぇっと、これを切って……)」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【葉月】

「(…………おそらく、樹里亜が狙っているのは"あれ"ね。ずいぶんと分かりやすい手じゃない。やはりまだ素人ね。……とはいえ、この『八索』が危険牌なのも事実。さすがにこれを切るのは躊躇うわね)」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「…………」

 

【樹里亜】

「(……そろそろ()()くれるといいんですけどねぇ)」

 

【ソフりん】

「(……くっ! テンパってるのに! ツモりもしない! 誰かが振り込んでくれるのも期待できないし……どうすれば……)」

 

【姫瑠】

「(…………お姉様?)」

 

【葉月】

「…………」

 

【葉月】

「(…………いい加減この『八索』を切りたいわね……。放銃の可能性が高いのは分かっているけれど……そろそろ勝ちにいかないとまずいわ。点差を広げるためにも、ここは勝負に……)」

 

【葉月】

「…………っ」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【葉月】

「(……通ったようね。これなら――)」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………ふふっ」

 

【ソフりん】

「? 我妻看守長?」

 

【樹里亜】

「――……危なかったですねぇ。葉月ちゃん。一歩間違えたら大事故でしたよぉ?」

 

【葉月】

「は? 何を言って――」

 

【樹里亜】

「――ツモ」

 

【葉月】

「――――!?」

 

【姫瑠】

「チ、清一色! 二盃口まで! ドラまで乗ってるじゃないですか、お姉様!」

 

【葉月】

「こ、この女……! なんて待ちを……!」

 

【ソフりん】

「え、『九索』の単騎待ち、ですよね……? 単騎待ちが難しいのはわかりますけど……」

 

【葉月】

「ソフィーヤ。姫瑠と自分の河を見てみなさい」

 

【ソフりん】

「…………?」

 

【姫瑠】

「――……あっ! 私も気付きませんでした!」

 

【ソフりん】

「……山岸刑務官? いったいどういう――」

 

【姫瑠】

「さすがはお姉様です! なんて大胆不敵なのでしょう!」

 

【葉月】

「普通は思ってもやらないわ。樹里亜の性格でないとこんなことは無理よ」

 

【ソフりん】

「…………???」

 

【姫瑠】

「シコレンコ看守長。よくご覧になってください」

 

【葉月】

「樹里亜の待ちは『九索』。単騎待ち。ソフィーヤと姫瑠の河に『九索』が一枚ずつ捨てられているでしょう」

 

【姫瑠】

「お姉様の待ち牌はすでに河に二枚切れているんです。その上で単騎待ちということは……」

 

【ソフりん】

「…………!!  1枚しか残っていない牌を待ち牌に……そしてその状態で単騎待ちだから、アガれる確率は著しく低い、ということですか」

 

【樹里亜】

「そういうことですねぇ」

 

【葉月】

「いわゆる『地獄単騎』ね」

 

【姫瑠】

「それだけじゃありません。『地獄単騎』は相手の意表を突くために、よく捨てられる字牌で待つものと聞きます。スジを読むのが難しいですからね」

 

【葉月】

「にもかかわらず、局の中盤以降ともなれば皆が手元に抱えるであろう数牌を待ち牌として、この女は地獄単騎を選択した。私ならやらないわ」

 

【樹里亜】

「だからこそですよぉ! 読まれないようにするなら、いっそのこと"主"にお任せになればよいのです! オラピーフを積んだ私だからできることですねぇ! あっははははははっ!」

 

【葉月】

「……この気狂いが……!」

 

【ソフりん】

「……とても我妻看守長らしいと思います」

 

【樹里亜】

「それは褒め言葉として受け取っておきます♪」

 

【姫瑠】

「それで、お姉様のポイントは?」

 

【樹里亜】

「メンゼンツモ、清一色、二盃口、ドラ2、赤ドラ1。1+6+3+2+1なので、+13ポイントですねぇ」

 

【葉月】

「…………!!」

 

【姫瑠】

「ほ、本当の麻雀だったら『数え役満』でしたね……」

 

【ソフりん】

「……数え役満?」

 

【姫瑠】

「アガったときのハン数が13ハン以上だと『数え役満』となり、役満と同じ点数でやり取りされるんです」

 

【葉月】

「ソフィーヤ。ちなみに本当の麻雀だったらおそらく、お前ハコ割れになっていたわよ」

 

【ソフりん】

「ハコ割れ?」

 

【葉月】

「点数がマイナスになること。その時点でゲーム終了。つまり、本来であればこの時点でソフィーヤが最下位となって決着、ということよ」

 

【姫瑠】

「そうですね。東一局0本場で親だった私がシコレンコ看守長からロン上がりしたでしょう? 実はあの時点で、本当の麻雀でしたらシコレンコ看守長の点数はほとんどない状態です」

 

【ソフりん】

「そ、そうだったのか……」

 

【樹里亜】

「で、私が今ツモでアガったので、ほとんど点数のないソフりんちゃんにも当然点数を支払ってもらいます。だから結果としてマイナスになる、ということですねぇ。とはいえ、数え役満でなくてもアウトでしたけど」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【樹里亜】

「よかったですねぇ、ソフりんちゃん。これが本当の麻雀ではなくて。こんなに早く終わったら興醒めですよぉ」

 

【葉月】

「いいから次にいくわよ。今度はソフィーヤ、お前が親なのだから早くサイコロを振りなさい」

 

【姫瑠】

「シコレンコ看守長! まだ序盤ですから、挽回のチャンスはありますよ! 頑張ってください!」

 

【ソフりん】

「……あぁ、そうだな。……すみません。では」

 

◇ ===== 東三局 0本場(親:ソフりん)=====

 

◆現在の持ち点

姫瑠  :9

葉月  :8

ソフりん:0

樹里亜 :13

 

【ソフりん】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「…………」

 

【ソフりん】

「(このままじゃまずいな……なんとかしてアガらないと……)」

 

【葉月】

「(東三局で姫瑠とは1点差。樹里亜とは5点差。今回は加算制だからまだ余裕があるわね。手堅くいきましょう)」

 

【樹里亜】

「(ソフりんちゃんもさすがに気落ちしているでしょう。あとは姫瑠ちゃんと葉月ちゃんをどう攻略するかですねぇ)」

 

【姫瑠】

「(お夜食作ってもいいか聞いても大丈夫かしら……)」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【樹里亜】

「…………」

 

【葉月】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【ソフりん】

「(…………よしっ! この手でアガれば山岸刑務官にとど――)」

 

【姫瑠】

「あっツモです。メンゼンツモ、役牌なので、1+1で、+2ポイントですね」

 

【看守長さまふたりと絶望してる人】

「……………………」

 

【樹里亜】

「……えぇ」

 

【葉月】

「……まぁ。別にいいのだけれど」

 

【ソフりん】

「…………親だったのに」

 

【姫瑠】

「…………えぇっと、その」

 

【樹里亜】

「この流れでそんな安い手でアガるとは。死体蹴りとはこのことですねぇ」

 

【葉月】

「さすがに少し同情するわ」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………よ、よくわかりませんが、その……申し訳ありません……?」

 

【ソフりん】

「……いいんだ。弱い私が悪いんだからな。ははっ……」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「麻雀でそこまで顔色が悪くなった人間を初めて見たわ」

 

【樹里亜】

「どうでもいいですけど次は私が親なのでサイコロ振りますねぇ」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【姫瑠】

「(※↑謎の罪悪感を感じているが理由がよく分からないので黙っている)」

 

◇ ===== 東四局 0本場(親:樹里亜)=====

 

◆現在の持ち点

姫瑠  :11

葉月  :8

ソフりん:0

樹里亜 :13

 

【樹里亜】

「…………」

 

【姫瑠】

「…………」

 

【葉月】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………」

 

【ソフりん】

「(…………字牌が多いな。良い手を作れそうな気もするけど、どうすればいいのか頭が働かない……)」

 

【樹里亜】

「(ソフりんちゃんはもうダメですね。完全に満身創痍です)」

 

【葉月】

「(次で南局……樹里亜と少し点差をつけておきたいところね)」

 

【姫瑠】

「(ど、どうしましょう……。シコレンコ看守長の分を先に作った方がいいのかしら、お夜食……)」

 

【葉月】

「…………」

 

【ソフりん】

「…………あっ、それポンです。夕顔看守長……」

 

【葉月】

「…………そう」

 

【ソフりん】

「(……それにしても字牌が多いな……これじゃ……っ、いや――)」

 

【樹里亜】

「(……これなら『九蓮宝燈』でも狙えそうですねぇ。だったら……)」

 

【ソフりん】

「ポン」

 

【樹里亜】

「…………?」

 

【葉月】

「…………!」

 

【葉月】

「(……まさかね。『白』と『中』を鳴いているけど……もしかして……)」

 

【姫瑠】

「(そういえばまだお夜食作っていいか聞いていませんでしたわ)」

 

【ソフりん】

「(…………いける!)」

 

【ソフりん】

「ポン!」

 

【姫瑠】

「?」

 

【樹里亜】

「(…………!)」

 

【葉月】

「(…………間違いない!完全に狙っているわ……!)」

 

【樹里亜】

「(『白』『中』『西』……ソフりんちゃん、息を吹き返しましたねぇ)」

 

【葉月】

「(……とんでもない手を作るつもりね。もしアガられたら相当まずいわ。字牌は切らないようにし――」)

 

【姫瑠】

「(『北』はいりませんね)」

 

【ソフりん】

「――――ロン!!」

 

【アヘ顔コンビと空腹の人】

「!!!!!!!」

 

【ソフりん】

「…………や、やった! アガれた! しかも……役満だ!!」

 

【葉月】

「……冗談でしょう」

 

【樹里亜】

「……ビギナーズラックにしても、これはすごいですねぇ」

 

【姫瑠】

「は、初めて見ましたよ。シコレンコ看守長」

 

【ソフりん】

「? そうなのか。やはり役満はレアで――」

 

【樹里亜】

「そういうことじゃありませんよぉ。ソフりんちゃん」

 

【葉月】

「三元牌と字牌でそろえた役はただの役満じゃないわ。『大三元』と『字一色』の二つの役満が合わさっているのよ」

 

【ソフりん】

「…………役満がふたつ?」

 

【姫瑠】

「はい、つまり――――」

 

【葉月】

「――――『ダブル役満』よ」

 

【ソフりん】

「……もしかして役満の二倍の点数、ということですか?」

 

【樹里亜】

「そういうことですねぇ。滅多に見られないんじゃないでしょうか」

 

【葉月】

「おそらく1000万分の1ほどの確率よ。私も見たことないわ」

 

【姫瑠】

「大逆転ですよ! シコレンコ看守長! 現状トップです!」

 

【ソフりん】

「そ、そうか……! やった……! やったぞ……!」

 

【葉月】

「役満を数え役満と同じ13ハンとすれば、その二倍だから+26ポイントよ」

 

【樹里亜】

「つまりこうなりますねぇ」

 

◆現在の持ち点

姫瑠  :11

葉月  :8

ソフりん:26

樹里亜 :13

 

【葉月】

「……次の南局で挽回はさすがに骨が折れるわね」

 

【樹里亜】

「それより姫瑠ちゃん。なんで『北』を切ったんですかぁ? ソフりんちゃんが何を狙っているのか見ればわかりません? 経験者でしょう?」

 

【姫瑠】

「お腹が減っていてそれどころじゃありませんでした!」

 

【樹里亜】

「本当なんなんですかねぇこの子は」

 

【葉月】

「…………ちっ」

 

【ソフりん】

「で、でもよかったです。正直もう諦めかけていたので……」

 

【姫瑠】

「良かったですね! でも勝負はここからですよシコレンコ看守長!」

 

【樹里亜】

「放銃しておいてよく言えますねぇ。それより次は南一局です。親は姫瑠ちゃんなのですからサイコロを」

 

●SE:ドアノックの音

 

【葉月】

「…………誰? こんな夜中に」

 

【姫瑠】

「私が出ますね。はい、どちら様…………伯母様!?」

 

【看守長トリオ】

「!!!!!」

 

【水城】

「起きていたのね、姫瑠。少し話が……――っ!! ……あなた達、ここで一体何を」

 

【ソフりん】

「こ、これは、その……」

 

【樹里亜】

「おやまぁ♪」

 

【葉月】

「……所長もご存知の、例の賭博の件です。対策のため、麻雀素人の二人に夜通しで講義していたところでした」

 

【水城】

「なるほど……遊びではなく、仕事のためと」

 

【葉月】

「如何にも」

 

【水城】

「…………わかりました。そういうことであれば大目に見ましょう」

 

【ソフりん】

「(…………ほっ)」

 

【樹里亜】

「(命拾いしましたねぇ)」

 

【水城】

「それにしても麻雀ですか…………よろしければ、私がレクチャーして差し上げましょうか?」

 

【困惑する看守長たち】

「…………え?」

 

【姫瑠】

「そういえば伯母様も麻雀をやっていましたよね」

 

【水城】

「えぇ、昔の話ですが。…………若い頃を思い出しますね」

 

【ソフりん】

「……と、仰いますと?」

 

【水城】

「あなた達が生まれる遥か昔のことです。戦後の日本を裏から支配し、莫大な富を築いた『闇の帝王』と呼ばれる男がいました。その男は頭脳明晰で、恐ろしい程の豪運を持っていました」

 

【葉月】

「…………」

 

【水城】

「そんな怪物を打ち倒した青年がいました。血液を賭けの材料として」

 

【樹里亜】

「…………血液?」

 

【水城】

「文字通りの"死闘"。このご時世では考えられない賭け麻雀を、彼らは行っていたのです」

 

【ソフりん】

「…………まさか」

 

【水城】

「私はそんな彼らと激闘を繰り広げた経験が何度かあります」

 

【看守四人】

「!!!!」

 

【姫瑠】

「さ、さすがは伯母様! 伝説級のエピソードをお持ちで!」

 

【水城】

「あの頃の私は血気が盛んでしたからね。今思えば狂気の沙汰でしたよ」

 

【葉月】

「…………」

 

【水城】

「…………少し語りすぎましたね。そういうわけなので、あの頃の経験をもとに講義をして差し上げようと思った次第です。遠慮はいりませんよ。一晩で強くなれます」

 

【ソフりん】

「…………え、えっと……その……」

 

【樹里亜】

「……怖いんですけどぉ」

 

【姫瑠】

「ちなみに伯母様はプロ以上の腕前ですよ。ベテランのプロ雀士の方々が、伯母様に向かって頭を地面に擦りつけていたのを見たことがあります」

 

【葉月】

「嘘でしょう……」

 

 

 

 


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