「ぬきたし」のSSです。
橘霧香(淳之介と桐香の娘)が淳之介、桐香、麻沙音に恋愛の相談をするお話です。
時系列は桐香ルートの10年後を想定しています。

1 / 1
霧香の恋愛相談

★場所:橘家

 

【麻沙音】

「――で、結局リリースできなくなったから、納期遅れってわけ」

 

【桐香】

「それは……災難といいますか」

 

【淳之介】

「チームでアプリ開発となるとそういうこともあるか」

 

【麻沙音】

「うん……。本当に困ったもんだよ。私は何も関係ないってのによぉ」

 

【淳之介】

「そういう理不尽ってどこにでもあるんだなあ」

 

【桐香】

「SHOだってありますからね。以前からそうですが」

 

【淳之介】

「で……慰めてもらうために家に来たってことか」

 

【麻沙音】

「――……うわぁ~ん兄ぃ~! どうしてこんな目に合わなきゃならないんだよ~! こんなことになるくらいなら一人でアプリ作ってる方がよっぽどマシだよあの頃みたいにギュッとして頭なでなでしてくれよぉ~!」

 

【淳之介】

「おーよしよし。大人になっても甘えん坊なところは変わらないな。この愛い妹め」

 

【桐香】

「歳を重ねても兄妹仲が睦まじいのは大変素敵だと思います」

 

【淳之介】

「このレベルはそうそう見られないけどな」

 

【麻沙音】

「ちっくしょぉ~!! いっそのこともう辞めてやらぁ~!! これであいつらとも親方とも縁切れるし一石二鳥じゃい!!」

 

【桐香】

「そういえばたまに美岬さんとも一緒にお仕事なさっていたんでしたね」

 

【淳之介】

「――もうお互い大人だからな。今の会社を辞めるかどうかはアサちゃんに任せる」

 

【淳之介】

「……でも、昔に比べたら立派になったと思うぞ」

 

【麻沙音】

「……兄?」

 

【淳之介】

「10年前、水乃月にいた頃は引きこもりの不登校気味で…………不摂生の極みのような生活一辺倒だった」

 

【淳之介】

「だが、今のお前はきちんと職に就き、苦労を抱えながらも汗を流して懸命に働いている」

 

【桐香】

「それに……霧香が生まれてからはアルバイトをするようになったではありませんか」

 

【麻沙音】

「……さすがに子供ができたとなれば、ニートのままではいられませんよ」

 

【淳之介】

「まだ霧香が小さかったときも忙しい俺たちの代わりに面倒を見てくれたことだってあっただろ」

 

【桐香】

「あのときは本当に助かりました。霧香も麻沙音さんにとても懐いているようですし」

 

【淳之介】

「もはやどっちが母親かわからないくらいにな」

 

【桐香】

「ふふっ……母親の面目丸潰れですね♡」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【淳之介】

「……もうあの頃のような庇護されるだけの妹じゃない。俺たち夫婦にとって、誰よりも頼りになる……()()()の愛すべき妹なんだぞ」

 

【桐香】

「はい。麻沙音さんは私にとっても愛する義妹です。私たちは家族なんですから、お辛いときはいつでも私たちのところに来てください」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【麻沙音】

「…………け」

 

【桐香】

「け?」

 

【麻沙音】

「――結婚して子供ができてアラサーになっても変わらず妹を愛し続けてくれる超ド級のシスコン兄……好き!」

 

【淳之介】

「俺はいつだってシスコンだぞ! 胸に飛び込んで来い、妹よ!」

 

【橘兄妹】

「「(抱擁)」」

 

【桐香】

「……私には、してくれないんですね」

 

【淳之介】

「桐香も混ざればいいじゃないか」

 

【桐香】

「いいえ。間に入るような真似はできません。兄妹おふたりの儀式なのですから」

 

【桐香】

「――ですので、ほら……麻沙音さん。その次は私とも愛の抱擁を交わしませんか?」

 

【麻沙音】

「えっ……あ、その、何と言いますか……。ま、まだ、心の準備ができてないので……またいつかの機会にってことでえっへへへへ」

 

【淳之介】

「まだ慣れないのか……」

 

【桐香】

「義姉なのに……しょんぼり」

 

【淳之介】

「しかしこんなところ霧香には見せられないな。多分そろそろ学園から帰ってくる頃だ」

 

【麻沙音】

「あの子も年頃だからね。大の大人同士がきゃっきゃしてるところを目撃するのも気分的に嫌だろうし」

 

【桐香】

「一番きゃっきゃしていたのは麻沙音さんではありませんでしたか」

 

●SE:玄関のドアが開く音

 

【桐香】

「噂をすれば」

 

【淳之介】

「……帰ってきたか」

 

【麻沙音】

「愛する姪に会うのは久しぶりだからねというわけで私が出迎えて目一杯のハグをかましてくるぞい!」

 

【淳之介】

「元気」

 

【霧香】

「…………ただいまー……」

 

【麻沙音】

「おぉぉい久しぶりだなぁお前の大好きなあさ…………お? どうした?」

 

【霧香】

「……あ。アサおばさん、こんにちは。来てたんだね」

 

【麻沙音】

「……? ……元気ないじゃん」

 

【淳之介】

「お帰り霧香。渋い顔してるようだが、なんかあったのか?」

 

【霧香】

「…………」

 

【淳之介】

「……霧香?」

 

【霧香】

「……………ううん、ごめんパパ。なんでもない」

 

【桐香】

「霧香、学園でなにかあったの?」

 

【霧香】

「あー……勘違いのないように言っとくと、別にひどい目にあったとかじゃないから。どっちかというと……明るい話だよ」

 

【淳之介】

「明るい話?」

 

【麻沙音】

「じゃあそのテンションはどうしたのさ」

 

【霧香】

「…………」

 

【霧香】

「…………その……ちょっと、相談に乗ってほしいんだけど」

 

【父と母と叔母】

「?」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【桐香】

「あらあらまぁまぁ♡」

 

【麻沙音】

「なるほどねぇ……。同じクラスの男子に告白されたのか。道理で言いにくそうな顔してたわけだよ」

 

【桐香】

「さすが私たちの娘。霧香ったらモテモテなのね」

 

【霧香】

「~~~~~~っ!!!」

 

【桐香】

「まぁそんなに照れちゃって♡」

 

【霧香】

「う、うるさい! 料理も出来なければ階段も登れない人に茶化されたくないよ分かってんのか家族からクビにするぞ!」

 

【桐香】

「いつもの調子が戻ってきましたね」

 

【麻沙音】

「で、でも……相談って、恋愛のことだったのか……。いい歳して未通女の私に姪からそんな話を聞かされるとは……夢にも思わなかったぞ」

 

【淳之介】

「…………告白、ねぇ……」

 

【桐香】

「……あなた。そんな難しい顔してどうしたんですか」

 

【麻沙音】

「年頃の娘に恋愛話を持ち込まれた父親特有の面倒なムーブじゃん……」

 

【霧香】

「そ、それで……告白はされたんだけど……」

 

【淳之介】

「別れろ」

 

【桐香】

「話が何段階か飛んでいませんか」

 

【麻沙音】

「まだ何も言ってねぇだろ」

 

【淳之介】

「――まだ!? おい霧香! いずれは付き合うつもりなのか!?」

 

【霧香】

「……だ、だから! 告白されたってことしか言ってないじゃん! パパ落ち着いて!」

 

【麻沙音】

「なんだこいつ想像以上に面倒な親父だな」

 

【桐香】

「ほら霧香にちゃんとお話しさせてあげてください。そんな調子ではただの嫌な父親になってしまいますよ?」

 

【淳之介】

「……す、すまん。告白だなんて急なもんだったから。驚きの余り冷静さを欠いた。ごめんな霧香」

 

【霧香】

「う、うん……。で、話を戻していい?」

 

【麻沙音】

「うちの兄がごめんなぁ。また狂い出したら追い出すから、安心して話していいぞ」

 

【霧香】

「……それで、返事は保留にしてるの。まだ答えが出なくて」

 

【桐香】

「その気が全くないわけではないのね?」

 

【霧香】

「うん。その男子ってクラスの人気者ですごく優しい人だから嫌いではないんだけど、私はそこまで興味を持てないというか……」

 

【麻沙音】

「でも即"No"と返せるほど興味がないわけでもない、と」

 

【霧香】

「だって……ほら、付き合ってみないと分からないこともあるって聞くし。実は趣味が合うとか、波長が合うとか」

 

【桐香】

「それはあるかもしれないわね」

 

【霧香】

「それに一度くらいはお付き合いを通して恋愛ってものを経験しておいたほうが今後の人生の糧になるとも聞くでしょ」

 

【麻沙音】

「10歳とは思えない価値観」

 

【桐香】

「私たち夫婦と違ってしっかりしてるじゃない。成長したわね、霧香」

 

【麻沙音】

「そういう話か……?」

 

【淳之介】

「…………」

 

【淳之介】

「――……確かに恋愛経験の有無が将来に大きく影響する可能性は否めない」

 

【淳之介】

「でも、一番大事なのは自分の気持ちに正直になることだ。恋愛は自由なんだから、無理に付き合う必要はないし、なんとなくでも気があるのなら付き合ってみたっていい」

 

【淳之介】

「……まずは、自分の心に聞いてみるのが良いとパパは思うぞ」

 

【桐香】

「さっきと打って変わって冷静ですね。まるで父親みたい」

 

【麻沙音】

「別人か?」

 

【淳之介】

「父であり兄なんだぞ」

 

【霧香】

「…………」

 

【霧香】

「…………パパは」

 

【淳之介】

「……?」

 

【霧香】

「パパは…………私に、彼氏ができたら……どう思うの」

 

【桐香】

「…………霧香」

 

【麻沙音】

「…………なるほど」

 

【淳之介】

「どう思うって……。さっきはつい別れろなんて酷いこと言ってしまったが、お前がその男子と付き合ってみたいって言うなら俺は止めないぞ」

 

【霧香】

「…………」

 

【淳之介】

「大丈夫だって。そのときはちゃんと応援するから。その男子が霧香を泣かせないことを願うばかりで――――」

 

【霧香】

「もういい。わかったから」

 

【淳之介】

「……? ……なんでそんなに機嫌悪いんだ?」

 

【桐香】

「そういえば今日はまだスーパーへお買い物に行ってませんでしたね」

 

【淳之介】

「…………桐香? なんで今――――」

 

【麻沙音】

「兄、行ってこい。ひとりで」

 

【淳之介】

「は!? な、なんだお前ら急に」

 

【桐香】

「女の子の相談はやはり女の子が聞くべきと判断しました」

 

【麻沙音】

「そういうわけだからここは女子の私たちに任せて早く行ってきな。特売の時間だろ」

 

【淳之介】

「買い物に行くのは別にかまわんが…………それよりお前ら、その歳になって自分で女の子とか言う――――」

 

【女の子ふたり】

「「いいから早く行きなさい(行け)」」

 

【淳之介】

「えっ怖い…………。そ、それじゃ……行ってきます……」

 

●SE:玄関のドアが静かに閉まる音

 

【桐香】

「…………」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【霧香】

「……ど、どうしたの? ふたりとも……」

 

【桐香】

「これで邪魔者はいなくなりましたね」

 

【麻沙音】

「ですね。いい感じに阿吽の呼吸でした」

 

【桐香】

「最高の連携プレーだったと思います」

 

【霧香】

「……ふたりで何を話してるの?」

 

【桐香】

「パパのことで悩んでいるのでしょう?」

 

【霧香】

「……!! ……どうして」

 

【桐香】

「母親ですもの。見てれば分かります」

 

【麻沙音】

「本人が目の前だと話しづらいんじゃないかと思ってわざと追い出したってわけ」

 

【霧香】

「…………」

 

【桐香】

「パパのこと、好きなんでしょう? だから付き合うかどうか踏ん切りがつかない。……違うかしら」

 

【霧香】

「…………さすがママだね」

 

【麻沙音】

「……やっぱりそうだったか」

 

【霧香】

「告白されたときね、なんでかわからないけど、頭の中でパパの顔が浮かび上がったの。『好きです』って言葉より、そっちの方にずっと意識がいっちゃって」

 

【桐香】

「…………」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【霧香】

「……自分でも思ってた以上に、パパのこと好きだったみたい。変だよね。私」

 

【麻沙音】

「別に変じゃ――」

 

【霧香】

「いや変でしょ。父親が好きだからクラスメイトの告白を渋るって、そんなことある? ファザコン拗らせすぎでしょ」

 

【桐香】

「…………霧香」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【霧香】

「こんなんじゃ仮にOKしたとしてもバレたら逆に振られるだろうしというかそもそもファザコンなこと自体がおかしいんだからこうやってOKするかどうかを悩んでること自体も――」

 

【麻沙音】

「そんなことはないと思うぞ」

 

【霧香】

「……アサおばさん?」

 

【麻沙音】

「……そういや、霧香にはまだ話したことなかったっけ」

 

【桐香】

「……麻沙音さん、いいのですか?」

 

【麻沙音】

「いいんですよ。私の中ではとうに吹っ切れてる話ので」

 

【霧香】

「…………あの」

 

【麻沙音】

「いいか、よく聞けよ。実はな、アサおばさんはな…………()()()が好きなんだ」

 

【霧香】

「…………え?」

 

【麻沙音】

「冗談とかじゃないぞ。ほら、女なら普通は男の人を好きになるものだろ? でもおばさんはな、不思議なことに女の人を好きになってしまうんだよ」

 

【霧香】

「…………それって」

 

【麻沙音】

「どう? 私のこと、気持ち悪いと思う?」

 

【霧香】

「!! ううん! そんなことないよ! だって、アサおばさんはアサおばさんだもん! そんなことで嫌いになったりしないよ!」

 

【麻沙音】

「そうかい。そいつはよかった。で、その好きになった女の人、誰だと思う? お前も知ってる人だぞ」

 

【霧香】

「……………」

 

【霧香】

「…………ま、まさか!! みさ――」

 

【麻沙音】

「冗談でもやめろ」

 

【霧香】

「ご、ごめんなさい……」

 

【桐香】

「ツッコんだ方がいいんでしょうか」

 

【麻沙音】

「……私が本気で好きになった人は、奈々瀬さん」

 

【霧香】

「……えっ!!! そうなの!!?? ……あ、でもあんなにカッコイイ人だったら……納得かも」

 

【麻沙音】

「だろ? 奈々瀬さんほどの完璧美人はそうそういないからね。惚れても仕方ねぇってもんよ」

 

【霧香】

「そ、それで――――」

 

【麻沙音】

「告白したぞ? 『好きです』って。もちろん玉砕」

 

【霧香】

「…………そうなんだ」

 

【麻沙音】

「でも、何も後悔してない。むしろすっきりしたくらい。ちゃんと言えてよかったなって今でも思ってる」

 

【霧香】

「……………」

 

【麻沙音】

「世の中にはこんなやつだっているんだぞ? 女だけど女の人が好きで、告白される側だって困ると分かってるのに告白するようなのが」

 

【霧香】

「……アサおばさん」

 

【麻沙音】

「――――別にいいじゃん。父親が好きでも」

 

【霧香】

「……………」

 

【霧香】

「…………そうなのかな」

 

【桐香】

「私もいいと思いますよ?」

 

【霧香】

「えっママが許すのはどうなの? だって自分の旦那だよ? 自分の娘が旦那を本気で好きになるだなんて――――」

 

【桐香】

「アサおばさんも言ったじゃない。女だけど女の人が好き、告白される側だって困ると分かってるのにそれでも告白したって」

 

【桐香】

「それって――――誰かが誰かを好きになることに理由はないってことでしょう?」

 

【霧香】

「…………人を好きになるのに……理由はない……」

 

【桐香】

「それと、自分でも()()に歯止めがきかなくなる。…………本気で人を好きになるってそういうことだとママは思うわ」

 

【霧香】

「…………ママ」

 

【桐香】

「霧香。パパも言ってたけど、こういうのは経験がどうとかじゃないのよ。素直な気持ちが何よりも大事なの。自分に嘘をつくのだけはやめなさい」

 

【霧香】

「で、でも……そしたら私はパパを――――」

 

【桐香】

「ママは全然OKよ。いつものようにママと霧香でパパを盗り合いましょう?」

 

【霧香】

「ママ……!!」

 

【麻沙音】

「なぁんて素敵な家族なんでしょう」

 

【霧香】

「……まあでも何もできない無能なママと違って私は有能だからパパが私の方を選ぶのは時間の問題であってさらに言えばママが捨てられるのも待ったなしで――――」

 

【桐香】

「ふふっ。霧香が元気になってよかったわ」

 

【麻沙音】

「自分の娘に無能とか言われてるんですが」

 

【桐香】

「そのとおりですので。……それより、ごめんなさい。お辛い話をさせてしまって」

 

【麻沙音】

「だーから気にしてないって言ってるじゃないですか。私は愛する姪と……兄と、義姉のためなら、なんだってしますよ」

 

【桐香】

「…………私たちが姉妹になるなんて。10年前は思いもしませんでしたね。義理とはいえど」

 

【麻沙音】

「そうですね。…………でも、兄を幸せにしてくれて、霧香を生んでくれて……()()としては感謝しかありませんよ」

 

【桐香】

「……そうですか」

 

【霧香】

「またふたりだけでイチャイチャ話してる。浮気じゃん」

 

【麻沙音】

「どっちのことを言ってんだい?」

 

【桐香】

「そういえば……帰ってくるの遅いですね」

 

【霧香】

「パパどうしたんだろ。美岬おばさんに絡まれて買った食料盗られそうになってるのかな」

 

【麻沙音】

「今度会ったら海に沈めておくよ……」

 

【桐香】

「濡れ衣がひどいですね」

 

●SE:玄関のドアが開く音

 

【淳之介】

「…………ぜぇっ……ぜぇっ……た、ただいま……」

 

【霧香】

「あ! パパお帰り!」

 

【麻沙音】

「どしたのそんなに息切らして。両手に買い物袋下げて射精しながら全力疾走してきたのか?」

 

【淳之介】

「それどうやんの?」

 

【桐香】

「遅かったようですけど、なにかありましたか?」

 

【淳之介】

「帰る途中美岬に会って食料を全部食われそうになってな。それで急いで走って逃げて来た」

 

【桐香】

「濡れてませんでしたね」

 

【麻沙音】

「あいつ一回退治しておいたほうよくない?」

 

【霧香】

「今度郁子さんから刀と銃を借りてくるね!」

 

【淳之介】

「気持ちは分かるがモンスター扱いはやめてやれ」

 

【桐香】

「それよりすみませんでした。いきなり買い出しに行かせてしまって」

 

【淳之介】

「全然いいよ。それより…………話は終わったのか?」

 

【麻沙音】

「あぁとっくにね。兄がいないお陰でスムーズに進んだよ」

 

【桐香】

「えぇ。買い物に行っていただいて正解でした」

 

【淳之介】

「そこまで邪険にしなくてもよくない……?」

 

【霧香】

「…………パパ」

 

【淳之介】

「……霧香? どうし――」

 

●SE:キス音

 

【桐香】

「あら♡」

 

【麻沙音】

「く、唇に……」

 

【淳之介】

「!! ……ど、どうした霧香!? ……おい、お前ら!! 霧香になにか吹き込んだのか!?」

 

【桐香】

「私は何も」

 

【麻沙音】

「同じく」

 

【淳之介】

「じゃあなんで――――」

 

【霧香】

「パパ言ったでしょ。一番大事なのは自分の気持ちに正直になることだって」

 

【淳之介】

「あ、あぁ。そうだが……」

 

【霧香】

「――――それが()()ってだけの話だから」

 

【淳之介】

「…………」

 

【霧香】

「それじゃ、私は部屋に戻って宿題やるから。ママ、アサおばさん、ありがとね」

 

●SE:階段を登る音

 

【桐香】

「…………娘に旦那の唇を奪われるというのも……これはこれで”燃える”わね……!」

 

【麻沙音】

「私はどんな気持ちでいるのが正解なのか誰か教えてください」

 

【淳之介】

「…………あのキスは……――そうか! そういうことか!」

 

【桐香】

「……あなた?」

 

【麻沙音】

「あ、これ絶対分かってねぇな」

 

【淳之介】

「日頃の感謝を込めた霧香なりの愛情表現ってことだな! それがキスとは……随分と可愛いもんじゃないか……!」

 

【麻沙音】

「ほら見ろ」

 

【桐香】

「ここまで見当違いも甚だしいとさすがに頭が心配になりますね」

 

 

 

■翌日

 

 

 

【麻沙音】

「…………それで、告白は断ったんだ」

 

【霧香】

「うん、やっぱそういう気になれなかったし。…………それに、なんかすっきりした。いろいろはっきりできたってことで」

 

【桐香】

「……こうして子供は成長していくんですね。なんだか感慨深いものがあります」

 

【淳之介】

「というかお前まだ家にいたの?」

 

【麻沙音】

「あんだよいちゃ悪いかなんだ急にやっぱ家族団欒に水を差すなってか妻と子供ができたら妹なんざお呼びじゃねぇってかえぇえぇすみませんねだったらお邪魔虫はさっさと退散してやりますよっと」

 

【霧香】

「おぉ! 元祖早口!」

 

【桐香】

「言うほどそうかしら」

 

【淳之介】

「待て待てそうじゃない。時間的に会社は大丈夫なのかと思っただけだ」

 

【麻沙音】

「有給取ってるに決まってんだろだいたい2日に1回は来てんだからちょっとばかしその足りねぇ頭動かして考えればそのくらいわかるだろうが」

 

【淳之介】

「だとしたら既に有給使い切ってない?」

 

【霧香】

「パパとアサおばさんってホントに仲良いよね」

 

【桐香】

「そうね。あのふたりは世界中の兄妹でも特に仲が良い方じゃないかしら」

 

【霧香】

「まぁ、ああやって口喧嘩するぐらいだし案外そうかもしれないけど」

 

【桐香】

「いいえそうでなく。昔からよくふたりで、何かあったら抱擁し合ってるのよ。口喧嘩の後だって、いつものお決まりのように」

 

【霧香】

「抱擁って……いい歳の兄妹で? さすがのアサおばさんだって妻子持ちの兄を相手にそんなこと――――」

 

【淳之介】

「有給使い切ってまでわざわざ会いに来てくれるとは……! なんて兄孝行な奴なんだ! 愛してるぞ! 我が妹よ!」

 

【霧香】

「…………あ、愛してる……」

 

【麻沙音】

「たとえそれで給料減って素寒貧になっても拾って面倒見てくれそうな兄……好き! 抱いて!」

 

【淳之介】

「結局穀潰しなところは変わってない気もするが飛び込んで来い! 麻沙音!」

 

【橘兄妹】

「「(抱擁)」」

 

【霧香】

「……なっ!! あ、あんながっつり……!!」

 

【桐香】

「今日も仲睦…………霧香?」

 

【霧香】

「…………アサ、おばさん」

 

【麻沙音】

「おっどうした一緒に混ざるか? お前なら全然――――」

 

【霧香】

「なんだよ昨日はあんなに応援してくれたのにあれは嘘だったのかよ!!! いくら兄妹だからってそれはイチャイチャしすぎだろというかパパとイチャイチャしていいのは私だけなんだよパパは私のもんなんだからさっさと離れろよぉーー!!!」

 

【麻沙音】

「なんだぁ急に反抗期か!? 離れろと言われてもなぁ、いくら姪とはいえ譲れねぇもんがあんだよ!! 妹には兄を抱きしめていい権利があるってことを知らねぇのかだいたい年下が生意気なんだよそんなに兄を独り占めしたいなら妹の私に許可を取って――――」

 

【霧香】

「いくら妹だからってちょっとは遠慮ってものがあるでしょいい歳したおばさんのくせに何言ってんだぁーー!!!」

 

【麻沙音】

「こいつ今『いい歳したおばさん』って言ったななんやかんや気にしてんのにはっきり言いやがって戦争だこらぁーー!!」

 

【似たもの同士】

「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」

 

【桐香】

「娘と義妹の喧嘩…………ふふっ。なんだか微笑ましいですね」

 

【淳之介】

「どこが?」

 

 

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。