「ぬきたし」のSSです。
奈々瀬がサッカーのPKでとある相手と勝負するお話です。
時系列は奈々瀬アフター途中を想定しています。

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奈々瀬のPK対決

★場所:橘家

 

【麻沙音】

「――時に奈々瀬さん。ひとつお願いがあります」

 

【奈々瀬】

「……どうしたのアサちゃん? 急に改まって」

 

【麻沙音】

「たしか……奈々瀬さんってサッカーをやってたんですよね? 兄から聞いたんですけど」

 

【奈々瀬】

「え、えぇ……。もう昔の話だけどね。青藍島に来てからはぜんぜんよ」

 

【麻沙音】

「よろしければ――サッカーのPKで勝負しませんか?」

 

【奈々瀬】

「……え?」

 

●SE:階段を下りてくる音

 

【淳之介】

「……ん? なんの話してるんだ?」

 

【奈々瀬】

「いやそれがアタシも……」

 

【麻沙音】

「おっ、兄。ちょうどいいところに。奈々瀬さんに勝負を申し込んでいたところなんだよ」

 

【淳之介】

「お前が奈々瀬に勝てる要素なんてなにひとつとして存在しないだろ。身の程を弁えたらどうだ?」

 

【麻沙音】

「妹への愛情なさすぎだろちゃんと話聞いてから答えろやこの筋肉ダルマがひとりで海に向かって『パワー』とか叫んでろそれで周りから白い目で見られろ」

 

【淳之介】

「いろいろと失礼じゃない?」

 

【奈々瀬】

「……サッカーよ。アンタがアサちゃんに教えたんでしょ」

 

【淳之介】

「え……サッカー? ……たしかに、奈々瀬が昔サッカーやってたことを教えたのは俺だけど」

 

【奈々瀬】

「そのPKで勝負しないかって。……アタシはぜんぜんいいけど、アサちゃんってサッカーできるの?」

 

【麻沙音】

「そうだぞ。10メートルダッシュで息を切らすような逆体力おばけがどういう了見で」

 

【麻沙音】

「いやいや、やるのは私じゃありませんよ。スポーツ経験自体皆無ですし…………私の代わりは、こいつです」

 

【美岬】

「SGGK!!」

 

【奈々瀬】

「また勝手に忍び込んでるのだわ……」

 

【淳之介】

「いい加減こっそりうちに侵入するのはやめろ」

 

【美岬】

「失礼な! ちゃんと玄関から入りましたよ! 今日もおふたりが一心不乱にイチャイチャしてたので声を掛けにくかっただけです!」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【淳之介】

「…………」

 

【麻沙音】

「それで仕方なく私が出たってこと。死ぬほど不本意だったけど」

 

【美岬】

「あのー……わたしを橘家に呼んでくれたのは麻沙音ちゃんでしたよね……?」

 

【淳之介】

「え、そうなのか?」

 

【奈々瀬】

「……まだいまいちわかってないんですけど……つまり、アタシと美岬でPKをやるってこと?」

 

【美岬】

「麻沙音ちゃんから聞いた話ではそうらしいんですけど、わたしも詳細はよくわかってないんですよね」

 

【麻沙音】

「……はい。畔さんにはこれを装着してもらうから」

 

【美岬】

「ゴーグル……ですか? なんですかこれ?」

 

【麻沙音】

「キッカーがボールを蹴る体勢に入ったら、蹴る方向を瞬時に教えてくれる、ゴールキーパー用のゴーグル。名付けて”ドスコイ・プロトコル”。畔さんにはずっとキーパーをやってもらうからピッタリでしょ」

 

【美岬】

「いろいろツッコみたいところですけど……要は、キーパーの動きを補助してくれるってことですよね」

 

【奈々瀬】

「ねぇ、『美岬がずっとキーパー』って言ってたけど……アサちゃん、詳しく説明してもらえるかしら。背景や経緯がいまいちわかってないのだわ」

 

【麻沙音】

「あっ、すみません……。……実はですね、”例の目的”のために”アリアドネー・プロトコル”を強化してたんですけど」

 

【麻沙音】

「その強化項目のひとつに、『視界に映る敵性器(バンディット)の動きを予測する』ってのがありまして」

 

【奈々瀬】

「はぁ……」

 

【淳之介】

「これは俺が頼んでおいたことなんだ。この機能があれば、敵の攻撃にどう対処すればいいのか瞬時に分かるようになるから」

 

【麻沙音】

「で、そのためには、画面に映る人物の骨格点情報を入手する必要があります」

 

【美岬】

「骨格点?」

 

【奈々瀬】

「頭、手、肘、膝とか……そういう、骨格となる部分のことね」

 

【麻沙音】

「そんな時、奈々瀬さんがサッカーをやってたことを思い出しまして。――――これ、PKに使えるなって」

 

【奈々瀬】

「……どういうこと?」

 

【麻沙音】

「実は、動画像に映る人間の骨格点情報を使うとサッカーのPKにおけるキッカーの蹴る方向を予測できる……という研究結果があるんですよ」

 

【奈々瀬】

「へぇー……」

 

【淳之介】

「使うってどうやって?」

 

【麻沙音】

「キッカーが実際にボールを蹴った方向と、その時のキッカーの骨格座標の情報をセットでニューラルネットワークでAIに覚えさせるの。そうすると、画面に映ったキッカーがボールを蹴ろうとする直前の体勢の骨格点を読み取って、瞬時に蹴る方向を教えてくれるAIが完成するってわけ」

 

【奈々瀬】

「でも聞いたことあるわ。そういうAIを搭載したゴールキーパーロボットがあるって。アサちゃんの場合は、そのAIをいつものゴーグルに組み込んだってわけね」

 

【麻沙音】

「さすがは奈々瀬さん! 理解が大変お速い!」

 

【淳之介】

「多分理解してないの俺らだけだろうな」

 

【美岬】

「ニューラルネットワークとかいう単語が出た瞬間に脳がドロップアウトしましたね」

 

【麻沙音】

「……つまり、”アリアドネープロトコル”強化のついでにお試しで作ってみたってこと。これで骨格点を上手く読み取れてるのかどうかデータを計測したいって目的もあるんだけど」

 

【奈々瀬】

「なるほど。だからアタシたちにPKをさせて、”アリアドネー・プロトコル”の強化実装が上手くいきそうか確認したかったってことね」

 

【淳之介】

「専門的なことはなんもわからんかったが、要はこれも”例の目的”のためなんだな」

 

【麻沙音】

「そういうこと。なので、奈々瀬さんと……畔さん。ご協力お願いします」

 

【美岬】

「任せてください! たとえ奈々瀬さん相手でも、わたしにかかればキーパーなんてお手のものですよ! デブなので!」

 

【淳之介】

「デブだからキーパーみたいな語弊を生む言い方はやめろ」

 

【奈々瀬】

「……あ、でもアタシも”それ”付けるのよね。PKだから攻守を交互に入れ替わるわけだし」

 

【淳之介】

「それは俺も気になってた。美岬にシュートなんてできるのか?」

 

【麻沙音】

「いや、今回のPKは奈々瀬さんがキッカー、畔さんがキーパーで固定」

 

【奈々瀬】

「え……っ? それだと本来のPKとは違うんじゃないの?」

 

【麻沙音】

「おそらく”今度の敵”も運動神経がいいはずなので、キッカーは奈々瀬さんだけで十分なんですよ。畔さんだと参考にならないので」

 

【美岬】

「まあわたし脂肪の塊なのでそもそも骨格なんてありませんからね!」

 

【淳之介】

「無脊椎動物かなにか?」

 

【麻沙音】

「というか、そもそもの話なんですけど……」

 

【奈々瀬】

「……ん?」

 

【麻沙音】

「まともにやったら経験者の奈々瀬さんに勝てるわけないのでこれくらいの条件にしないといい勝負にならないかと」

 

【美岬】

「たしかに。わたしサッカーやったことありませんし、奈々瀬さんからシュートを決められる自信ありませんよ?」

 

【奈々瀬】

「……それもそうね」

 

【淳之介】

「じゃあ従来の攻守交替制でなく、攻守固定なんだな」

 

【麻沙音】

「それなら畔さんにも勝機があるでしょ?」

 

【淳之介】

「珍しいな。お前が美岬にそこまで肩入れするなんて」

 

【麻沙音】

「別にそんなんじゃないよ。…………畔さん、ちょっといい?」

 

【美岬】

「はい? 作戦会議ですか?」

 

【麻沙音】

「まあそんなとこ。…………ってことだから……」

 

【美岬】

「…………あぁなるほど…………はい、はい……」

 

【淳之介】

「……なにをこそこそ話してんだ?」

 

【奈々瀬】

「さぁ……」

 

【美岬】

「…………麻沙音ちゃん、お主も悪よのぉ……うひひ……!」

 

【麻沙音】

「……………………」

 

 

 

★場所:青藍島内 サッカー場

 

 

 

【淳之介】

「へぇー……。この島にこんな立派なグラウンドがあったのか」

 

【ヒナミ】

「いやーとっても広いねぇ。私サッカー場なんて初めて来たかもね」

 

【美岬】

「わたちゃんもお呼びしたんですね」

 

【麻沙音】

「兄もそうだけど、わたちゃんにも仕事してもらおうかなと思って」

 

【奈々瀬】

「……で、アタシはもうアップは済ませたけど、改めて詳しいルールを教えてもらえるかしら?」

 

【麻沙音】

「だいたいこういう感じです」

 

◆ルール・詳細

 ・7本キック

 ・奈々瀬がキッカー、美岬がキーパー

 ・先に4本ゴールを決めたら奈々瀬の勝利

 ・先に4本セーブできたら美岬の勝利

 ・麻沙音はデータ計測

 ・ヒナミは審判兼ポイントカウント係

 ・淳之介は両陣営のマネージャー

 

【美岬】

「ま、シンプルでいいんじゃないでしょうか。あまり長くても疲れちゃいますし」

 

【ヒナミ】

「なるほど! そういうことなら任せて! ……厳正なるジャッジを下したいと思います」

 

【淳之介】

「なんか俺だけ余ったみたいな感じで複雑だけど……疲れたら飲み物とか支給しろってことか」

 

【奈々瀬】

「ねぇ、アタシと美岬の1体1の勝負なのに『両陣営』って言い方……なんなのかしら」

 

【麻沙音】

「――――いいところに気づきましたね。奈々瀬さん」

 

【奈々瀬】

「……アサちゃん?」

 

【麻沙音】

「キーパーは畔さんですけど、その性能を補助してるのは私です。なので、構図としては『畔さん&私vs奈々瀬さん』となります」

 

【奈々瀬】

「えっと……それは、なにか意味があるの?」

 

【麻沙音】

「――――負けたほうは勝ったほうの要求をひとつ聞く、という条件で勝負させてもらいます」

 

【奈々瀬】

「……え!? ちょ、ちょっとアサちゃん!? なによ急に……!」

 

【淳之介】

「すごい嫌な予感がしてきたぞ……」

 

【麻沙音】

「以前、ふたりが毎晩セッ〇スに励んでるせいで、私睡眠不足になって倒れたでしょう? ……奈々瀬さんにこんなこと言うのも心苦しいですけど、これは私に”借り”があるといえませんかねぇ……?」

 

【奈々瀬】

「うっ……! そ、それを言われたらなにも言い返せないのだわ……!」

 

【淳之介】

「さっきこそこそ話してたのって、もしかしてこれのことか……?」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【奈々瀬】

「……わかったわ。もしアタシが負けたらひとついうこと聞いてあげる」

 

【美岬】

「ちなみにその場合、わたしの要求も聞いてもらいますからね? 一応ハンデで2対1ってことですから」

 

【奈々瀬】

「……まず、美岬の要求はなに? ちょっと怖いんですけど」

 

【美岬】

「焼肉食べ放題をご馳走してもらいます!」

 

【淳之介】

「欲望に忠実すぎる」

 

【ヒナミ】

「美岬ちゃんのことだからねぇ。おいくら万円するんだろーねぇ」

 

【奈々瀬】

「破産させる気満々ね……。で、アサちゃんのほうは?」

 

【麻沙音】

「…………キ……キ、キ……」

 

【奈々瀬】

「?」

 

【麻沙音】

「……わ、私とキスしてください!!」

 

【奈々瀬】

「え……っ!?」

 

【淳之介】

「なに言ってんだこいつ」

 

【麻沙音】

「だ、だってこの前3Pしたとき『ホントのキスはお兄ちゃん専用だから、これだけね……♡』とか言っておでこにちゅっとしただけだったじゃないですか!!」

 

【奈々瀬】

「……そ、そんなことも……あったわ、ね……」

 

【麻沙音】

「もし奈々瀬さんが負けたら唇にしてもらいますからね!! あっっついキス!!」

 

【奈々瀬】

「えぇ……だ、駄目ってわけじゃないけど……。……で、でもアサちゃんが倒れる羽目になった責任もあるし……ううぅぅ……!!」

 

【淳之介】

「お前……最初っからこれが目的だったな……!! データがどうとか言っておきながら、俺たちの()()()を利用して……!!」

 

【麻沙音】

「あーそうだよ!! てかあれからも毎晩毎晩パコパコよろしくやってんだろ!? 知ってるよ!! こちとら一度お預け喰らってからムラムラしてたまんねぇんだよ!! ……奈々瀬さん!! 負けたら本当にキスしてもらいますからねあとまた3Pしてもらいます!!」

 

【淳之介】

「さりげなく要求追加するな」

 

【美岬】

「わたしたちがいること完全に忘れてますねこれ」

 

【ヒナミ】

「よくわかんないけど関知しないほうがいいかもねぇ」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【奈々瀬】

「……わ、わかった。アタシが負けたらしてあげる。……キス」

 

【麻沙音】

「おっっしゃああぁぁ!!!!」

 

【ヒナミ】

「こんなテンションの高い麻沙音ちゃん初めて見たな……!」

 

【淳之介】

「狂ってるだけです」

 

【奈々瀬】

「そ、そのかわり!! ほ……本気の、ディープなキスするから、覚悟しといてねアサちゃん!!」

 

【麻沙音】

「ディ、ディープ……っ!! ……ぶほおぉっ!!!!」

 

【美岬】

「あ。鼻血が」

 

【ヒナミ】

「いけない! 止血止血……!!」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【奈々瀬】

「あーもうっ!! アタシなに言ってるのかしら……!! しかもサッカー場のど真ん中で……!!」

 

【淳之介】

「なにしにここに来たか途中忘れてたわ」

 

 

 

   ◆

 

 

 

【ヒナミ】

「……両者、準備のほうはどーですか?」

 

【奈々瀬】

「アタシはオッケー」

 

【美岬】

「――”ドスコイ・プロトコル”、起動」

 

【淳之介】

「ひどい名前」

 

【美岬】

「……おぉ!! こういう感じの視界なんですね!! ……あっこれ、奈々瀬さんを自動でロックオンしてるっぽいですけど」

 

【麻沙音】

「画面に映った人物を自動で特定してるだけだから。一応正常に作動してるようだね」

 

【淳之介】

「……アサちゃん、鼻血はもう大丈夫か?」

 

【麻沙音】

「もう大丈夫。……あ、そういや奈々瀬さんが勝った場合の要求って……」

 

【淳之介】

「そうか。奈々瀬の場合は麻沙音と美岬の両方にひとつずつ要求できるのか」

 

【奈々瀬】

「それは……アタシが勝ってからのお楽しみってことで」

 

【麻沙音・美岬】

「「えっちな要求ですか!?」」

 

【淳之介】

「そうはならなくない?」

 

【奈々瀬】

「……いたって普通。ほら、始めるわよ」

 

●1本目

 

【ヒナミ】

「よーし! それじゃあ……ピッ!!!」

 

【奈々瀬】

「いくわよ美岬! ケガだけはしないでよね!」

 

【美岬】

「問題ありません! いつでもどこからでもかかってきてください!」

 

【淳之介】

「なんであんなに頼もしいんだろ……」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【奈々瀬】

「…………ふっ!」

 

【美岬】

「えっ!? ちょっ!! おおおお!!」

 

【ヒナミ】

「ピーッ!! ゴォール!! 1対0!!」

 

【麻沙音】

「おいなにしてんだよぉ!! 普通に真横だったろうが!!」

 

【美岬】

「いやいやこれけっこう慣れが要りますよ! 予測方向は合ってましたけど!」

 

【淳之介】

「へぇ……予測精度は正確なんだな」

 

【麻沙音】

「『〇〇方向 □□m』って出たらすぐ見てすぐ動くんだよ負けたら承知しねぇぞこら」

 

【美岬】

「……というか、奈々瀬さんのシュートめっちゃ強くないですか? 方向分かってても捕れる気しないんですけど」

 

【淳之介】

「……? 別にきちんと捕る必要はないだろ。ゴールさせなきゃいいんだから、はじいてしまえばそれでいいと思うけど」

 

【麻沙音】

「え、畔さんそういう認識だったの?」

 

【美岬】

「あ、そうなんですね! はじくだけでもいいんですね! もう、早く言ってくださいよー……!」

 

【麻沙音】

「……は?」

 

【奈々瀬】

「素人でもそれくらい分かるでしょ……」

 

【美岬】

「いやぁー……でも、それなら大丈夫です! 次はセーブできます!」

 

【麻沙音】

「いやホントマジで勝ってもらわないと困るぞこの機会逃したら奈々瀬さんとキスなんていつになるかわからないんだから頼むから勝ってくれよお願いだから」

 

【美岬】

「圧がすごいんですけど」

 

【淳之介】

「もうお前がキーパーやればいいのに」

 

【麻沙音】

「できたら最初っからやってるわい!!」

 

【淳之介】

「あ、はい」

 

【奈々瀬】

「美岬ー!! 次、いいかしら!?」

 

【美岬】

「あ、はーい! オッケーでーす!」

 

●2本目(現在のポイント:奈々瀬1 美岬0)

 

【ヒナミ】

「よーい!! ……ピッ!!!」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【奈々瀬】

「…………ふっ!」

 

【美岬】

「!!」

 

【美岬】

「……よっ!!」

 

【奈々瀬】

「う、嘘っ!?」

 

【ヒナミ】

「ピーッ!! 美岬ちゃんセーブ!! 1対1!!」

 

【奈々瀬】

「……き、決まったと思ったのに……」

 

【淳之介】

「おーやるな美岬。きれいにはじいたな」

 

【美岬】

「なんとなくですけど、コツが掴めてきました。シュートはまだちょっと怖いですけど、どう動けばいいのか分かるので、そこに向かって手を差し出すだけでなんとかなりました」

 

【麻沙音】

「…………大丈夫そう?」

 

【美岬】

「はい! 方向も距離もバッチリです! この”ハッケヨイ・プロトコル”すごいですよ! 寸分の狂いもないです!」

 

【淳之介】

「名前変わってない?」

 

【ヒナミ】

「……奈々瀬ちゃん、悔しそうだね?」

 

【奈々瀬】

「……えぇ。まさか本当に止められるとは思ってなかったから」

 

【ヒナミ】

「美岬ちゃんってサッカー素人なんだよね?」

 

【奈々瀬】

「そのはずなんだけど……アサちゃんのゴーグルがすごいってことなのだわ」

 

【ヒナミ】

「……まあ、まだ1対1だよ!! 勝負はこれからだから、頑張って奈々瀬ちゃん!!」

 

【奈々瀬】

「うん、ありがとわたちゃん。美岬を吹っ飛ばすぐらいのシュートをお見舞いしてやるわ」

 

【ヒナミ】

「さ、さっきケガしないでねって言ってなかったかな……?」

 

●3本目(現在のポイント:奈々瀬1 美岬1)

 

【ヒナミ】

「よーい!! ……ピッ!!!」

 

【奈々瀬】

「…………よしっ」

 

【奈々瀬】

「…………はっ!」

 

【淳之介】

「うわっ奈々瀬のやつ上角に。容赦ないな」

 

【美岬】

「うおおおおお!!!」

 

【奈々瀬】

「…………え」

 

【ヒナミ】

「ピーッ!! 美岬ちゃんセーブ!! 1対2!!」

 

【橘兄妹】

「「おぉー……」」

 

【美岬】

「……ふぅー……なんとかセーブできました」

 

【淳之介】

「お前よく止められたな。左の上角ってけっこう難しいと思うが」

 

【麻沙音】

「正直来るとこ分かってても無理じゃない? って思ったけど……よく反応できたね」

 

【美岬】

「わたし思ったよりキーパーの才能があるようですね……!」

 

【麻沙音】

「主に私のおかげだろうが過信にもほどがあるだろ”スットコドッコイ・プロトコル”の恩恵があることもう忘れたのか頭美岬か?」

 

【美岬】

「”ヨッコイ・プロトコル”じゃありませんでした?」

 

【淳之介】

「なんでだれも名前おぼえられないの?」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【奈々瀬】

「…………正攻法じゃ無理そうね」

 

【ヒナミ】

「……奈々瀬ちゃん?」

 

【奈々瀬】

「ううん。ちょっと攻め方変えようと思っただけ」

 

【美岬】

「ほらほら奈々瀬さーん? このまま素人に負けちゃっていいんですかぁ? 焼肉ですよ焼肉?」

 

【麻沙音】

「キース! キース!」

 

【淳之介】

「自分側が言うことある?」

 

●4本目(現在のポイント:奈々瀬1 美岬2)

 

【ヒナミ】

「よーい!! ……ピッ!!!」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【奈々瀬】

「…………ほっ!」

 

【美岬】

「よしいけ…………あっ!!」

 

【ヒナミ】

「ピーッ!! 奈々瀬ちゃんゴール!! 2対2!!」

 

【麻沙音】

「ポ、ポストの跳ね返りで……入った……!」

 

【淳之介】

「いや……偶然だろ?」

 

【麻沙音】

「だ、だよね! さすがの奈々瀬さんとはいえ、そんな狙えるわけ……」

 

【美岬】

「…………」

 

【淳之介】

「美岬ー、ドンマイだー! 今のは仕方ない! 切り替えてけ!」

 

【美岬】

「……は、はい!」

 

【麻沙音】

「……兄、畔さん応援でいいの? 奈々瀬さんは?」

 

【淳之介】

「奈々瀬のことは信じてるから」

 

【淳之介】

「なんたって……俺の、相棒(パートナー)だからな……!」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【麻沙音】

「…………は?」

 

【美岬】

「結局どういうスタンスなんですかね」

 

【麻沙音】

「それより、畔さん頼むよ。またあんな偶然は無いと思うけど」

 

【美岬】

「はい。でもちょっとは警戒したほうがいいですね。奈々瀬さん運動神経いいので、可能性はゼロじゃありません」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

●5本目(現在のポイント:奈々瀬2 美岬2)

 

【ヒナミ】

「ピッ!!!」

 

【奈々瀬】

「…………残念だったわね美岬」

 

【美岬】

「え?」

 

【奈々瀬】

「…………ふっ!!」

 

【美岬】

「よしっ今度こそ…………ちょっ、ま、またっ!!」

 

【ヒナミ】

「ピーッ!! 奈々瀬ちゃんゴール!! 3対2!!」

 

【麻沙音】

「ま、また跳ね返った……」

 

【淳之介】

「狙ってる……いや、”狙えてる”なこれ」

 

【奈々瀬】

「どう? セーブできるものならセーブしてみなさいな」

 

【美岬】

「……やっぱり、わざとだったんですね」

 

【奈々瀬】

「いくら方向が分かってもポストの跳ね返りを防ぐのは無理でしょ? 経験者でもそうできることじゃないんだから」

 

【淳之介】

「素人相手に容赦ないなあいつ」

 

【麻沙音】

「まずいな……このままじゃ……」

 

【美岬】

「……いえ、わたしに考えがあります。……橘さん、メジャー持ってますか?」

 

【淳之介】

「ん? あぁ、持ってるぞ」

 

【美岬】

「わたしの位置からポストまでの距離を測ってもらえます?」

 

【淳之介】

「別にいいけど……」

 

【麻沙音】

「ねぇ畔さん、なにしてるの?」

 

【美岬】

「麻沙音ちゃん、このゴーグルが教えてくれるのは”蹴る方向”だけですか?」

 

【麻沙音】

「……!! もしかして……」

 

【美岬】

「はい。……わたしを信じてください」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【奈々瀬】

「……いったいなにをしてるのかしらねぇ」

 

●6本目(現在のポイント:奈々瀬3 美岬2)

 

【ヒナミ】

「ピッ!!!」

 

【奈々瀬】

「ねぇ、気づいてる美岬? あと1ポイント決めたらアタシの勝ちなんですけど」

 

【美岬】

「えぇ……そうはさせませんけど」

 

【奈々瀬】

「言うじゃない。これで…………仕舞いよっ!」

 

【淳之介】

「奈々瀬が敵側に見えるのは気のせい?」

 

【美岬】

「…………!」

 

【美岬】

「…………いよっ!!」

 

【奈々瀬】

「な……っ!!」

 

【ヒナミ】

「ピーッ!! 美岬ちゃんセーブ!! 3対3!!」

 

【奈々瀬】

「ど、どうして……!」

 

【美岬】

「――――また、ポストを狙ったでしょう。奈々瀬さん?」

 

【奈々瀬】

「え、えぇ。そうだけど……」

 

【美岬】

「このゴーグルはですね……蹴る方向の他に、”()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”も教えてくれるんです」

 

【美岬】

「つまり……自分とポストとの距離をあらかじめ把握しておいて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()すれば、ポストを狙っているとわかるわけです!」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【奈々瀬】

「…………なんかせこいわね」

 

【淳之介】

「俺も思った」

 

【美岬】

「えっ今の『こいつ……考えたな……!』みたいに感心するとこじゃありません?」

 

【淳之介】

「いや、考えたとは思うけど……」

 

【麻沙音】

「そこまでするかなって」

 

【美岬】

「せめて麻沙音ちゃんは肯定してくれないと困るんですけど」

 

【奈々瀬】

「……どっちにしても、”ポスト戦法”は通用しないってわけね」

 

【淳之介】

「そんな名前の戦法ある?」

 

【ヒナミ】

「これで両者リーチだよ! 次で最後だからふたりとも頑張ってね!」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【美岬】

「…………」

 

【麻沙音】

「手に汗握る試合になってきたね……」

 

【淳之介】

「こんないい勝負になるとは思ってなかったよ」

 

●7本目(現在のポイント:奈々瀬3 美岬3)

 

【ヒナミ】

「ラスト!! ……ピッ!!!」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【奈々瀬】

「…………美岬」

 

【美岬】

「…………なんでしょう」

 

【奈々瀬】

「――――本気を出させてもらうわよ」

 

【美岬】

「――――っ」

 

【淳之介】

「いやもう楽しみでワクワクしてきた!」

 

【麻沙音】

「なんだこの緊張感……」

 

【奈々瀬】

「――――はああっ!!!」

 

【美岬】

「?? ゴールバーを思いっきり外してるじゃないですか、わたしの勝ちで――」

 

【奈々瀬】

「それはどうかしら」

 

【美岬】

「――……えっ」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【美岬】

「そ、そんな……」

 

【奈々瀬】

「――――悪いわね、美岬」

 

【ヒナミ】

「ピーッ!! 奈々瀬ちゃんゴール!! 4対3!! 奈々瀬ちゃんの勝利ー!!!!」

 

【麻沙音】

「い、今のって……」

 

【淳之介】

「漫画とかで見たあるぞ、今のシュート……!!」

 

【奈々瀬】

「えぇ。――『ドライブシュート』よ」

 

【美岬】

「あ、あのー……それって、プロとかがやるやつですよね……?」

 

【奈々瀬】

「昔動画見て練習したのよ」

 

【美岬】

「プロ行けますよ? 即”なでしこ”かと」

 

【淳之介】

「普通に世界で活躍できるじゃん……」

 

【麻沙音】

「……そっか。奈々瀬さんは――”ドスコイ・プロトコル”の弱点を突いてきたんだ」

 

【奈々瀬】

「そう。”蹴る方向”は予測できても……シュートの”軌道”は予測できないでしょ?」

 

【淳之介】

「なるほど。変化球には弱いってことか」

 

【麻沙音】

「……完敗です。そこまで考えて実装してませんでした」

 

【美岬】

「奈々瀬さんがあんなプロ張りのシュート打てるなんてだれも思いませんよ」

 

【ヒナミ】

「でもふたり共、すっごくいい勝負だったと思うよ! 美岬ちゃんも経験者の奈々瀬ちゃん相手によく頑張ったよ! えらい、えらい!」

 

【美岬】

「……ありがとうございます。わたちゃん」

 

【淳之介】

「でも、本当に頑張ったと思うぞ。いくらゴーグルの力があるとはいえ」

 

【奈々瀬】

「そうね。正直負けそうって何度も思ったわ。……また再戦したいのだわ」

 

【美岬】

「およ? 珍しくみなさん褒めてくれますね。……なんか照れ臭いです」

 

【麻沙音】

「あーあ負けちまった。まったく、いいとこまで追い込んだってのによぉ」

 

【美岬】

「麻沙音ちゃんはいつもどおりで安心しました」

 

【淳之介】

「うちの性悪妹がごめんね」

 

【ヒナミ】

「それで、奈々瀬ちゃんはふたりになにをお願いするの?」

 

【淳之介】

「そういえばそんなのあったな」

 

【麻沙音・美岬】

「「えっちな要求ですか!?」」

 

【淳之介】

「何回言うの君ら」

 

【奈々瀬】

「だから違うって。……まず、アサちゃん」

 

【麻沙音】

「は、はい」

 

【奈々瀬】

「――――()()()を助け出したら、ちゃんと仲良くすること」

 

【麻沙音】

「…………えっ?」

 

【奈々瀬】

「ほら、いつも変に突っかかってたでしょ? そういうのはやめるように。……いいわね?」

 

【淳之介】

「…………奈々瀬」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【麻沙音】

「…………わかりました。奈々瀬さんのお願いとあらば」

 

【奈々瀬】

「そ。よろしくね」

 

【ヒナミ】

「うんうん。これでみんな仲良く、だね」

 

【麻沙音】

「ま、今回のPKで得たデータを使って”アリアドネー・プロトコル”はちゃんと強化しておくから。……これで絶対()()()()()な、兄」

 

【淳之介】

「あぁ……そうだな」

 

【麻沙音】

「それにしても奈々瀬さんとのちゅーはまたお預けかぁ。…………はっ! こうなったら兄の部屋に先に忍び込んでおいてヤってる最中に飛び込んで無理やり唇を奪うしかないのではいやもはやそれしか方法がないというかここまできたら強硬手段に打って出るしか」

 

【淳之介】

「二度と3Pしてやらんぞ」

 

【麻沙音】

「いーやーそーれーだーけーはー……!!」

 

【奈々瀬】

「……ま、キスはともかく。……3Pなら、アタシはいつでもいいわよ?」

 

【麻沙音】

「な、奈々瀬しゃん……!!」

 

【淳之介】

「お前も奈々瀬も俺の大事な家族だ。ひとり放っておくような真似はしないから、安心しろ」

 

【奈々瀬】

「また……三人で激しいエッチ、しましょ?」

 

【麻沙音】

「は、はいっ……!! 是非っ……!!」

 

【淳之介】

「…………」

 

【奈々瀬】

「…………」

 

【麻沙音】

「…………」

 

【美岬】

「…………あのー」

 

【奈々瀬】

「あ、ごめんなさい。美岬のことすっかり忘れてたのだわ」

 

【美岬】

「……はぁ。奈々瀬さん、すっかり変わっちゃいましたねぇ。……で、わたしへの要求とは?」

 

【奈々瀬】

「運動しなさい」

 

【美岬】

「すごいシンプ――――え?」

 

【淳之介】

「お、そりゃいいな。明日から俺と一緒に筋トレするぞ」

 

【奈々瀬】

「そうね。どうせうちに勝手に侵入してるんでしょ? 淳が捕まえるから、それで部屋で一緒に運動しなさい」

 

【淳之介】

「だがいきなり高負荷なトレーニングはよくないからな。まずは『レイチャン・ブート・キャンプ』から始めるぞ!」

 

【ヒナミ】

「あ、それ礼ちゃんが先生やってるんだよね。私も一緒にやろっかな……」

 

【淳之介】

「お、じゃあわたちゃん先輩も入れて三人でやろう! よし早速今からハメドリくん運動をやるぞ!」

 

【ヒナミ】

「おー!!」

 

【麻沙音】

「家でやれよ」

 

【淳之介】

「僕はハメドリ!! ハメハメパコ!!」

 

【ヒナミ】

「ハメハメパコ!!」

 

【美岬】

「あ結構ですそろそろ夕飯のお時間なのでわたしはこの辺でってちょっと奈々瀬さん!? 捕まえてお腹触んないでくださいよ!!」

 

【奈々瀬】

「ダーメ。アンタは今日うち来て淳に鍛えてもらいなさい。夕飯はアタシが用意してあげるから。高タンパク中心のね。……で、体が仕上がってきたらまたアタシとPKで勝負しましょ?」

 

【美岬】

「い、いやぁ~……!!」

 

【麻沙音】

「いざという時ろくに動けなかったら困るからね。どっちにしても鍛えといて損はないでしょというかどう考えてもその脂肪は邪魔にしかならねぇだろいい加減痩せて細マッチョぐらいにはなったらどう――」

 

【淳之介】

「あ、だったらアサちゃんも俺と一緒にトレーニングな。お前も人のこと言える体じゃないし」

 

【麻沙音】

「…………えっ」

 

【ヒナミ】

「そうだねぇ! せっかくだしみんなで鍛えよっか!」

 

【奈々瀬】

「いいわねぇ! アサちゃんも美岬ももっと筋肉付けなさい! 淳みたいに筋肉と会話できるぐらいにね!」

 

【麻沙音・美岬】

「「だれか助けてぇ~……!!!」」

 

 

 

 


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