TSウマ娘の日記   作:空色

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第1話

〇月×日

ある日目を覚ましたら、TS獣耳美少女に転生していた。書き起こすと意味不明だが実際にそうなのだから、しょうがないと思う。一般的な転生は素晴らしいもののように語られるが実際はそうではない。知らない国に突然放り込まれるようなものなのだ。俺はそれを強く実感している。孤独。ひたすら孤独だ。祖父と名乗る人間と二人暮らしをしているため、一人というわけではない。少し歪んではいるがこの身体は愛されているのだと思う。しかし、どうしようもなく独りなんだと実感する日々だ。何で転生なんてしてしまったのか。

 

〇月×日

転生してから3年が過ぎた。今年10歳になった俺はこの奇妙な世界に少しだけ慣れた気がする。この世界では馬という存在の代わりにウマ娘という不可思議な存在が闊歩している。超人的な身体能力を持ち美少女であること以外は、外面的には他の人間と同じである。しかし、内面はそうではないらしい。走るということにこだわりがあるそうだ。人間には備わっていない本能と言えばいいだろう。まあ、残念ながらそんな御大層なものは俺には備わってないけどな。あるのは中途半端に速い足だけだ。

 

〇月×日

家にいるよりも外にいる方が気持ちが楽という理由で俺は外を走ることがよくある。今日もそうだった。家からは少し遠いのだが人が驚くほどいない過疎った公園があり、暇さえあればそこに来ていた。寂れたジャングルジムの上で空を見る。その時間だけが好きだった。前世の日本とほとんど変わらない日本。それ故に些細な違いが目立つ。学校に行っても精神年齢が合わないせいで、過ごしづらいのだ。どこにいても異物だと見せつけられている。だけど、空を眺めている時だけは前世と同じものを見ている気がする。

 

〇月×日

学校で男子に告白されてしまった。いや元男なので絶対にお断りなわけだが、対処が面倒だったのは女子の方であった。どうやら人気のある男子だったらしい。手ひどく振ったせいで喧嘩を吹っかけられてしまった。しかし、手を挙げるとそれなりに問題になる。相手は普通の子供。ウマ娘の身体能力で手を挙げれば殺してしまう危険性すらある。普通のウマ娘は温厚であるためそんなことは滅多にないらしい。だが、俺は残念ながら普通ではない。それどころか異物なのだ。精神が肉体に影響され始めたとはいえ、押さえなければ。

 

だから言葉だけで言い負かしたのだがやはりよくなかったようだ。

 

〇月×日

祖父の都合で転校することになった。俺は数日前の件を含め、気まずくてだるかった学校を転校出来てうれしかった。

それだけでなく、俺は反省した。大人げなかったなと思った。だけど、人と関わるのも関わられるのもだるい。反省しつつも自分の欲を受け入れた俺は結論を出した。

 

異物である俺が摩擦を生むなら、摩擦の少ない誰かを演じればいいと。

 

結果、たぶん同世代の子供たちとは仲良くなれないが、疑似的に距離を詰めようと思い、ロールプレイを始めた。一人称も僕に変えて笑みを作った。話し方も拒絶を示す冷たいものから、やんわりと距離を取るために誰に対してもですます口調に。例え女子が相手でも見るだけで惚れさせ怯ませるために、容姿と見せ方を鍛える。成績も上位をキープした。正直二週目なだけあってある一点を覗いては楽勝だった。きつかったのはレースだ。ウマ娘と普通の生徒は体育だけは別で行われる。そこで扱う競技はレースだった。俺の学校には数えるほどしかウマ娘はいなかったが、それでも一位を取るのには苦労した。普通のウマ娘からしてもそこそこ速い俺に肉薄する奴がいたからだ。

 

美しい橙色の髪と視線を吸い寄せる琥珀色の瞳を持ったクソガキに、俺は出会ってしまった。

 

〇月×日

ァァアアァァァァァァァァァァァァなんだあのクソガキ!!!!!

 

出会って早々「それ何かの練習?劇とかやるの?」「あ!マヤ、わかちゃった!ちゅーに病ってやつでしょ?」

 

アアァァアアァァァァァァァァァァァァ

 

しかも昨日は手を抜いてたのか俺のこと普通に抜かしやがった。変人に絡まれたせいで俺まで変人扱いされて、想定と違う意味で浮いてしまった。つうか普通に距離詰めてくんな!

 

〇月×日

才能が憎い。何だよあれ。反則だろ

 

〇月×日

もしかしてあいつチート転生者か?何で俺が2週間以上かけて更新したタイムを3日で超えるんだよ

 

〇月×日

今日学校でクソガキの悪口を聞いた。あれだけ才能が有れば、才能で周囲を傷つけたことを自覚しなければ嫌われもすることは予想できる。フッ、ざまーないぜ。俺は予定通り高嶺の花ポジだ。レースも人間関係もポジショニングが大事なんだ。クソガキもそのうちわかるだろ。

 

〇月×日

ちょっと、ヒトミミ怖くね?物隠したりとかは元に戻すことでフォローできたけど、教科書を破くとかはフォローできないって。何をどうしてもクソガキが気づくじゃん。っていうか、クソガキ潰しのために俺を味方にしようってか?マジでうぜぇ。異世界人が気安く触れんな。

 

〇月×日

最近、情緒が不安定だなと思う。ちなみにヒトミミたちの攻撃はクソガキの「つまんない」の一言で終わりを告げた。すげー冷めた目をしてたな。正直俺が逃げたかったわ。

 

□月×日

中学に上がりトレセン学園に入学した俺は何故かクソガキにデートに誘われた。マジでどうしよう………

 

少し頭を整理しよう。俺から見たクソガキはどんな印象だ?

 

周囲と違う。それを気にしていない。

才能があることに罪悪感などない。

その在り方はひどく眩しい。

 

□月×日

それなりの時間、クソガキと過ごしてわかった。天才であるが故の飽き性、物事を「楽しそう」か「つまらなさそう」の両極端で捉えてしまう性格。きっとクソガキの大人への憧れは退屈の裏返しだ。大人になれば…いや、大人の世界に入れば自分と並ぶ退屈じゃない人間に出会えると思っている。いつか自慢していた父親と同じ、『大人』であれば。子供が持つ大人への幻想。

 

しかし何故俺を疑似デートの相手に選んだのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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