TSウマ娘の日記   作:空色

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第2話

5月×日

同室の先輩が怖すぎる件について。マジで怖いんだけど。バチバチに不良じゃん。日本ダービーを制し三冠を期待されるウマ娘らしいのだが、眼光が鋭いし寡黙で喋ってくれないし、ガチで言葉足りないし怖いわ。何で俺のルームメイト、高校生なんだよ!?普通中等部の生徒と同じにするんじゃないのか?マヤノは中等部生と同室だったのに………。

 

6月×日

6月の後半。メイクデビューの時期に差し掛かると、学園内はヒリつき始める。俺は今年のデビューはまだ早いと思い、1年間様子を見ることにしたため関係ないが、今年デビューするウマ娘は大変だ。

 

6月×日

今日は模擬レースを行った。正直に言えばちょろかった。俺は才能がある側のウマ娘なんだと思う。何も考えずに逃げているだけで勝てる。スタミナもスピードも他のウマ娘よりも優れているのだと周囲には褒められた。まあ、他人に褒められてもうれしくないけどな。裏があるんじゃないかとさえ、本気で思うよ。そういえば、マヤノも圧勝だったらしい。俺は今までの積み重ねとか一人の時間に走ってたからスタミナが付いたっていう理由があったりと才能を研磨することを多少してきたからこその楽勝だが、マヤノは違う。才能を研磨する必要すらない。生まれて生きているだけで勝てる。何もしなくてもわかる。本当に羨ましいことだ。

 

7月×日

俺がこの学園を選んだ理由はお金のためである。独りで生きていくためにはお金がいるのだ。そういった理由で走っているウマ娘は多少いるが、憧れや理想もなくただお金だけを目的にしている奴はそうはいない。態度には出さなかったが、熱量のギャップを思い知らされた一日だった。

 

7月×日

マヤノはレースへの出走が禁止されたらしい。正直驚かなかった。最初の数回以降、トレーニングに参加していないのだから、模擬レースも含めた全てのレースに出れなくなるのは当然の処分だろう。前世でもそうだったが、この世界は周囲と違うものを拒絶し否定したがるのだ。まったくもって反吐が出るが、周囲とある程度は合わせないと摩擦で自分がダメージを受ける。マヤノの場合周囲と違うのは絶対的才能。同室の先輩がそういった目に遭っていないのは、最低限の道理がわかっているが故だろう。マイペースであることや他人に歩み寄らないのは同じだが。

 

9月×日

マヤノと同室の先輩は割と共通点が多いと思う。マヤノは退屈に喘ぎ刺激を求める。先輩は渇きを潤すために闘争を求める。自分の何かを埋めるために、レースに夢を求めているのは同じだ。天才肌とか直感で生活しているが故のマイペースさ何かも同じだ。あとはコミュニケーション。先輩は寡黙で言葉足らずでストレートしか投げないから、コミュニケーションが成り立ちにくい。マヤノは自分の繊細な感性を言葉に変換しきれないが故の擬音の多さ。コミュニケーションが得意なやつはいないのか?

 

12月×日

マヤノとかマヤノのルームメイトとクリスマスパーティをした。今の感情は言葉で書けない。

 

 

2月×日

行きつけの喫茶店でナンパされた。あまりにだるいので素の自分で対応しそうになったが、ギリギリロールプレイを続けた。癪だが、間に入ってきて男を追い返してくれたおじさんのおかげだろう。おじさんと言ってもまだギリギリ20代らしいが。感謝しなくもない気がなくもなくない………。やっぱり感謝はないな。あの男、初対面の俺にいきなり「ひどい目だな、クソガキ。ほんとに中学生かよ?」とか言ってきたし。何だ?あいつ。喧嘩売ってんのか?ヒトミミ風情がよ。あばらへし折るぞこの野郎。ロールプレイしてなかったらぶん殴ってた。

 

2月〇日

専属のトレーナーが決まった。業腹だがあの時の男である。かなり口論になったが、最終的に「オレが稼がせてやるからメイクデビューまでのトレーニングで決めろ」と言われ、了承した。

 

〇月×日

マヤノと男が歩いてたんだけど………は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬レースはウマ娘にとってもトレーナーにとっても重要だ。ここから数年は付き合っていくため、相性も大事だしそのウマ娘を勝てるウマ娘に成長させられるかも重要だ。

 

メイクデビューの時期を考えるとこのくらいの時期から、担当を見つけておきたいと考えるトレーナーは多い。だからこそ、会場には様々なトレーナーがいた。

 

大御所トレーナーや新人トレーナー、勉強と娯楽目的で観戦するトレーナーとウマ娘達。

 

空色銀河という男もまた、ここトレセン学園に勤務するトレーナーであった。目元の隈と乱雑にまとめられた長髪が近寄りがたい雰囲気を感じさせるが、顔立ちはいい。

 

様々な思惑が交錯する場所に彼女は現れた。

 

スラリと伸びた手足。身長は高くもなく低くもなく。陽光を反射する美しい茶髪と紅蓮の瞳。

 

まずその容姿に誰もが息を呑んだ。

 

僅かに揺らめく長髪と見られることを完全に知っている動きは、すべての視線を捉えて離さない。端正な顔立ち、ほんのりと上気した頬、吸い込まれてしまいそうな紅色の大きな瞳。多くの人間が見惚れる中、銀河は顔をしかめた。数日前に自分がナンパから助けた少女だったから、ではなくその瞳があまりにも濁っていたからである。

 

「あのときよりも濁ってんじゃねえか」

 

レースを娯楽として見ている観客達だけでなく真剣に担当を探していたトレーナーもその美に飲まれる中、男だけが少女の歪さを見止めた。

 

模擬レースに実況はない。だから簡素な合図だけがスタートを知らせる。

 

いいスタートをほぼすべてのウマ娘が切る。しかし、その数秒後スタートの出来なんて全く関係ないと言いたげな結果が展開される。

 

茶髪の少女はただただ、前を向き走る。それだけで勝負がついてしまう。誰とも関わりたくないと絶叫しているかのような走り。

 

大半のトレーナーは知る由もないが、彼女の走りを見たことがある人間なら怪訝に思うだろう。逃げを好むことは同じだが、彼女は序盤から中盤にかけ後ろのウマ娘を動かしたり、揺さぶったりして削り倒してから勝負を決めるのである。もっとも、マヤノトップガンの動きを模倣しただけの出来損ないであるため、そこまで効果はないが。

 

序盤は少し駆け引きをしているようにも見えたが、後半はただの力押しだった。

茶髪の少女に追いすがろうとして、無駄に体力を吐き出したウマ娘はずるずると下がっていく。

 

最終的に、スパートをかける最終コーナーのあたりで完全に大差がついていた。

 

結果は茶髪のウマ娘、ユニークナイターの逃げ勝ち。それも大差での勝利だ。

 

レースの後、多くのトレーナーが彼女に声を掛けては袖にされていく。唯一オグリキャップを担当していたトレーナーとは少し話し込んでいたが、結局袖に振ったようだった。

 

銀河はゆっくりと歩いて少女に近づく。

 

そして一言文句を言った。

 

「相変らずのクソガキっぷりだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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