TSウマ娘の日記   作:空色

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第7話

4月×日

5月の後半にダービーに出走することにした。皐月賞にも勝ったから勝てるだとかそういった楽観的な理由ではない。あと一回、GⅠに勝つとすればそこが一番勝ちやすいと判断したからだ。大器晩成なウマ娘や敗北を糧に才能を開花させる子、俺を研究する子もいるだろう。だが、今は別だ。皐月賞から時間も経っていない上に追い込みを見せたのは一度だけ。そうトレーナーに言われた。懸念事項があるとすれば、マヤノが出てくることだろう。

 

5月×日

皐月賞を獲ってから周囲にいつもとは違うベクトルで見られるようになった。三冠のうちの一つを取るということは、やはり特別なことらしい。俺は常に他人と摩擦を起こさず、それでいてあまりそっけないと思われない距離感を取っているが、そういった調節を受け付けない猪突猛進タイプの子が最近現れる。どちらかと言えば、マーベラスサンデーもそういったタイプだけど、マーベラスサンデーは聡く気を使えるタイプなので土足で踏み込んできたり、本当に大事なところには来ない。

 

5月×日

新聞記事に日本ダービー出走バの名前が掲載されてた。目立ってるのは3人だろう。一人はタヤスツヨシ。二人目はマヤノトップガン。マヤノは初のGⅠとなるが、今まで5戦5勝の戦績を収めている。GⅡでも勝っているし、OPではあるもののマイルにも出走し勝利。逃げ、先行策、差し、この3種類を使い分けて縦横無尽にレースを蹂躙する様が、ファンを増やしたようだ。三人目は俺だが、これはまあ皐月賞の勝ち方だろう。

 

5月×日

しかし、税金はカスだと思う。賞金にまで税金を掛けるのかよ。

 

5月×日

いよいよだな。日本ダービー。

 

5月×日

日本ダービー、結果は2着だった。1着はマヤノ。いい、その着順は予想していたものだ。だけど、それでも、こんなに遠いとは思っていなかった。理解させられた。圧倒的な才能の差を。今まで俺がマヤノに張り合えていたのは、マヤノが才能を一切磨かなかったから。わかっている、わかっていた、最初からわかっていたことだ………それでも、ここまで心が搔き乱されるのは頭の片隅で実は意外と通用するんじゃないかと思っていたからだ。いつの間にか思い上がっていたんだ。ここ半年、必死に努力して結果が出たものだから。勝てないまでもいい勝負ができると思っていた。しかし、それは幻想だった。

何をこんなに焦っているのか。あの夜マヤノに言われた言葉が頭の中を滑っていく。マヤノから目を離さないでくれだと?言われずとも、あれは俺のだ。だけど………このままではあの子の世界に俺は―――――――

 

滲んでおり解読できない………

 

 

 

 

 

 

深夜2時を回ったトレーナー室。外から差し込む月明りだけが、静謐な室内を照らしている。音も光もないその部屋の扉をユニークナイターは開いた。広い室内には、一人だけ背を向けて座っている人物がいた。

 

「何の用でしょうか?シービー先輩」

 

ユニークナイターは、カーペットを踏む音さえ響きそうな静寂を切り裂くように、そう声を上げた。

 

「………」

 

振り返ったシービーは口元をモグモグと動かして、ハンバーガーを食べている。深夜2時、ハンバーガーを食べるレジェンド。加えてここはトレーナー室だ。無断で忍び込んでいるのである。

 

情報量の多さにユニークナイターは硬直し、ほとんど素の状態で問い掛けた。

 

「何してるんですか?」

 

「え?ハンバーガー食べてるんだけど、食べたいの?」

 

「いや、そうじゃないです」

 

ユニークナイターは頭が痛かった。ダービーでの出来事の整理がついていない状態で、シービーの相手をしたくなかったのだが、それでも応じたのは彼女の瞳に真剣さがあったからだ。

 

「ねえ、ナイターはさ。走るの好き?」

 

「………質問の意図がわかりません」

 

走るのが好きか。その問い掛けに、彼女は咄嗟には答えられなかった。困惑の色が滲んでいる目の前の後輩を真っ直ぐ見るシービーに、少し怯む。

 

「そのままの意味だよ。走るのは好き?」

 

「…好きですよ。ウマ娘ですからね」

 

誰もが魅了し流される笑みを浮かべる。しかし、シービーは目を細めるだけだった。

 

「ナイターはいつも何かを演じてて不自由だね」

 

「………」

 

「話を変えようか。今日のダービー、最初から勝てないと確信してたでしょ?」

 

「ッ!」

 

ユニークナイターは苦虫を噛み潰したように、顔を歪めた。

 

「わかるよ。アタシには。走りを見ればさ」

 

5バ身の大差で負けた今日の記憶がフラッシュバックした。

 

「勝つって思わないとGⅠでは勝てないよ?勝ちたいって執念をエンジンに。歓声も熱も相手も限界も、全部を飲み込んで走り駆け抜ける。ここに全部置いたっていい。その位全力で走らないと得られないのが三冠だ。だってそのレースはその瞬間にしかいないんだから」

 

「勝つという思いで勝てれば苦労はしないでしょう?見ただけでも僕がマヤノに勝てないのは先輩もわかっていたのではないでしょうか?」

 

「レースはアタシたちの世界だよ?ナイターならどうにでもできるはずだよ」

 

「………どういう意味ですか?」

 

「君はこちら側に来れるウマ娘だってことだよ」

 

困惑しているユニークナイターに、シービーは一冊の手帳を手渡した。

 

「何でしょうか?これ」

 

使い込まれた手帳だった。

 

「君の先輩が残したものだよ。ここにはあの子とトレーナーが考案した走法が残されている。本当ならナイターがこちら側に来るまで待ってから渡すべきなんだろうけど、アタシは今渡したいと思ったから」

 

「………これはトレーナーが僕に隠していた走法ですね?」

 

ユニークナイターには、心当たりがあった。

 

「うん、あの子から託された贈り物だよ」

 

表紙の文字は滲み擦れ読みづらいが、辛うじてアリスという文字だけは読み取れる。ページを捲り視界に入ってきたのは、見開きすべてを使用し書かれた文章だった。

 

己と才能を呪うウマ娘に捧ぐ

 

 

 

 

 

 

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