絶対零度女学園 【長編ローファンタジー】   作:ミカ塚原

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シックスマン

 南先輩が尊敬してる選手って、誰ですか。

 

 ようやく、憧れの榴ヶ岡南先輩と、試合を通じていくらかコミュニケーションが取れるようになってきた頃だった。百合香と同じようにバスケットボールに打ち込んでいる先輩なのだから、指標にしているNBA選手や、日本の女子選手くらいいるだろう。百合香はそう思った。

 

 ところが、帰ってきた答えは全く予想外のものだった。

 

 あたしが目指しているのは、ミハエル・シューマッハー。

 

 先輩は確かにそう言った。聞き間違いか、それとも過去のNBA選手にそういう人がいたのか。なぜ、伝説は伝説でも、バスケどころか球技でさえない、F1ドライバーなのだ。同じミハエル=マイケルなら、マイケル・ジョーダンでいいのではないか。

 

 そう訊ねると、先輩は笑って答えた。

 

 シューマッハーの凄さは、強さを引き受けている所だ。勝つこと、支配することに躊躇いがない。時には脆さ、弱さ、そして汚さも見せたが、それもこれも含めて競技の種目に関係ない、人間としての強さがあると先輩は言った。

 

 その言葉の意味が、百合香にはわからなかった。強さは強さで、それ以上でも以下でもないのではないのか。強さを引き受けるとは、どういう事なのか。

 

 たったひとつ年上の先輩が、まるで20年も経験を踏んだ人間に思えた。

 

 

 

 

「こちらです。急いで!」

 ロードライト配下の少女は、急場に立てられた壁の奥にある、白色化した百合香が隠匿されたスペースにティージュを呼び寄せた。

 壁の外からは、激しい戦闘音が聞こえてくる。もし、ここに百合香がいる事が知られたらまずい。ティージュは、瑠魅香が宿った聖剣アグニシオンを握りしめて走った。

「百合香!」

 厚い壁に阻まれ、暗いスペースに百合香は立ったままだった。表情は、陰鬱で意志が感じられない。いちおう、生きているのは確かなようだ。

「ティージュ様、あとはお任せいたします。私はロードライト様をお護りに參ります」

「わかった。必ず百合香を元に戻して、そっちに行く」

「お願いいたします。では」

 そう言うと、少女は剣を携えて暗いスペースを駆け足で出て行った。

「さて、任せろとは言ったけど。瑠魅香、どうすればいいの」

 ティージュは、アグニシオンの中にいる瑠魅香に呼びかけた。

『うん。ティージュ、少しばかり危険な事をお願いするけど、いい?』

「この部屋を出たって危険は同じよ。何をすればいいの」

『剣の切っ先を百合香の胸に向けて、できるだけ接近して』

「わかった」

 ティージュは迷う事なく、言われた通りに剣を構えた。黄金の剣が、その主である百合香の胸元に真っ直ぐ向けられる。

『ティージュ。今から私は炎の鳥になって、百合香の中に突入する』

「炎の鳥!?」

『そう。だから、あなたは私が百合香の身体に到達した瞬間、この場を脱出して。何が起こるかわからない』

 その説明を聞いて、ティージュは肩をわずかに震わせた。瑠魅香はさらに説明を続ける。

『私はまだ、炎の鳥の姿で自由自在に動く術を知らない。炎のエネルギーがこの場に吹き荒れるかも知れない。いいわね、私が飛び出した瞬間に、全力でここを脱出するのよ』

「わっ…わかった」

 ティージュは、気持ちを落ち着けて左腕でアグニシオンを構えた。最悪、腕が溶けても利き腕は残すためである。

「いいよ、瑠魅香」

『…わかった』

 瑠魅香が言うと、アグニシオンの全身が黄金の輝きに満たされて行った。

「うっ」

 そのエネルギーは、確実にティージュの氷魔としての身体と相反するものだった。ティージュはグレーヌやラシーヌよりも、いくらか頑丈である。自分が来て正解だ、と思った。

『いくよ!』

 アグニシオンはさらに輝きを増す。やがて、オレンジ色のオーラが剣の周囲に現れた。

「うっ…!」

 ティージュは、左腕が軋むのを感じた。しかし、そのまま真っ直ぐに百合香に剣を向ける。

『百合香――――っ!!!』

 聖剣アグニシオンは一瞬で炎の鳥に形を変え、ティージュの手元から百合香めがけて飛び立った。ティージュは瑠魅香が百合香に到達したのを見届けると、振り返って全力で出口にダッシュする。

「うわっ!!」

 背後から猛烈な火炎が、ティージュの背中を焼く。自慢の長い髪を心配しつつドアを飛び出すと、勢いよくドアを閉じた。

「はあ、はあ」

 多少身構えてはいたが炎は猛烈で、ドアを閉じる瞬間も、隙間から炎が吹き出していた。そして、そのドアは内部からの熱と圧力で変形している。あのまま中にいたら跡形もなかったのではないかと、ティージュは震え上がった。

 

 やがて、炎が吹き荒れる音が止むと、ティージュは恐る恐るドアノブに手をかけた。

「…開かない」

 ドアは変形したせいで、引っ張っても開かなかった。ティージュの力なら壊す事はできるだろうが、もし開けたせいで厄介な事になったら怖い。中の百合香はどうなったのか。相変わらず、外からはサーベラス達が戦っている音と振動が伝わってくる。

「…瑠魅香、任せたよ」

 そう言うとティージュは大剣を構え、加勢するために広間へと駆け出した。百合香は心配だが、瑠魅香を信じて今は自分にできる事をやろう、そう思った。

 

 リベルタの加勢があったものの、強化され、かつ自動制御ではなく氷魔が搭乗した魔晶兵三機との戦闘は、楽なものではなかった。

「ほらほら!!弓使いちゃんが加勢しても、そんなものかしら!?」

 ディジットは自らが乗り込んだ魔晶兵のコクピットから、盛大に煽りながらその腕をサーベラスに振り下ろす。サーベラスとリベルタは、三機の位置を把握しながら反撃の隙を見出さなくてはならなかった。

「くそっ、ラチがあかねえ!リベルタ、まず一機を黙らせるぞ!」

 いい加減痺れを切らしたサーベラスが怒鳴ると、リベルタは頷いて大きく後退し、弓を構えた。

「ライトニング・ブレイク!!」

 リベルタが弦を弾くと、巨大な弓から雷光のような矢が放たれ、サーベラスの間近にいた魔晶兵のコクピットに命中した。搭乗していた氷魔は粉々になり、魔晶兵本体にもわずかに亀裂が入った。

「なにっ!!」

 ディジットが唸る。サーベラスは間髪入れず、大剣にエネルギーを込めて一気に振り下ろした。

「フェイタル・スラッシュ!!」

 魔晶兵よりも巨大なエネルギーの刃が、搭乗者のいなくなったコクピットもろともその胴体を一刀両断する。中枢を壊された魔晶兵の、動力部が鳴動を始めた。

「あぶねえ!!」

 サーベラスはリベルタをドンと突き飛ばすと、自身も飛び退いて瓦礫の影に隠れた。次の瞬間、魔晶兵は爆発を起こしてそのままガラガラと崩れ落ち、瓦礫と見分けがつかなくなってしまった。

「よくも!!」

 戦力を失った事で怒りを顕わにしたディジットは、リベルタめがけて魔晶兵の拳を振り下ろす。

「くっ!」

 だが、それはどこからか放たれた波動エネルギーによって弾かれてしまった。

「おまたせ!」

 その波動を放った主は、大剣を構えたティージュだった。

「ティージュ!」

 リベルタは立ち上がると、ティージュと背中合わせに弓を構える。

「百合香と瑠魅香は?」

「わかんない、瑠魅香に任せてきた」

「ようし、邪魔させないようこいつらを片付けるよ!」

 二人は目線を合わせ、力強く微笑む。ティージュは、大剣を水平に構えて一気にディジットとの間合いを詰めた。

「バーカ!自分から死にに来るなんてね!」

 ディジットは魔晶兵の脚を後に引くと、ティージュめがけて強烈な蹴りを繰り出した。

 しかし、その脚に先程と同じ雷光の矢が命中する。

「あっ!!」

 魔晶兵の巨体は大きくバランスを崩す。その隙をついて、もう一本の脚にティージュは大剣を思い切り打ち付けた。

「なっ…!」

 ティージュの一撃で、ディジットの乗る魔晶兵は完全にバランスを崩し、瓦礫の山の中に倒れてしまう。そこへ、コクピットを狙ってティージュが飛び上がった。

「てや―――っ!!」

 ディジットの脳天めがけ、大剣が振り下ろされる。しかし、ティージュはもう一体の魔晶兵の腕に大きく弾かれてしまった。

「うああ――っ!!」

 ティージュの身体は壁面に叩きつけられ、全身に衝撃が走る。

「ティージュ!!」

 リベルタは、ティージュを守るため弓を魔晶兵のコクピットめがけて放つ。だが、それは巨大な腕によって容易く防がれてしまった。

「くそっ!」

「リベルタ、もう一度やるぞ!」

 サーベラスはティージュの前に立ちはだかると、再び大剣を魔晶兵に向けて構えた。リベルタは頷いて弓を構える。

 だが、魔晶兵めがけて弓を構えたその時だった。

「同じ手が通じると思ってんじゃないわよ!!」

 立ち上がったディジットの魔晶兵は、胸からビームをリベルタに向けて放つ。リベルタは慌てて、攻撃のエネルギーを防御に回さなくてはならなかった。

「くうっ…!」

  リベルタが放ったエネルギーは、傘のように展開して魔晶兵のビームを受け流すように防いだ。しかし、手負いのリベルタにはその障壁を維持するだけのスタミナが足りない。すでに、障壁には亀裂が入り始めていた。そこへ、サーベラスが割って入る。

「でえりゃあぁ―――!!」

 猛然とサーベラスは、魔晶兵に向かってタックルを喰らわせる。その衝撃でディジットの機体がバランスを崩し、隣にいた氷魔少女の機体も巻き添えでよろめいた。

「こっ、この馬鹿力め…!」

 ディジットは舌打ちした。何しろ、生身で何度も魔晶兵の巨体を揺るがし、その胴体を一刀両断してみせたのだ。さすがに、もと第三層にいた氷騎士サーベラスだけのことはある、と認めざるを得なかった。

「…イラつくわ」

 ディジットの、怒りをたたえた視線がサーベラスに向けられた。

「大したものね。私が改造した魔晶兵に、ここまで立ち向かえるなんて!!」

 その叫びとともに、最大出力のビームがサーベラスに向けて発射された。

「ぬおおっ!!」

 サーベラスは大剣を突き立て、魔力の障壁を展開してそれを防ぐ。ビームはサーベラスの眼前で弾かれて、後方の壁や床を破壊した。

「いつまで耐えられるかしら!?アハハハハ!!」

「こっ、この…!」

 サーベラスの障壁はビームを防ぎ切ってはいるものの、その状態では全く身動きが取れない。このままでは、サーベラスのエネルギーが先に尽きるのは見えていた。

「サーベラス!!」

 リベルタがディジットに弓を向ける。しかし、そこへもう一機の魔晶兵が立ち塞がった。

「あっ!」

「残念だったわね、弓使い。しょせん、あんた達が鍛錬を重ねようが、"周到に用意された力"には勝てないってことよ!!」

 ディジットの高笑いが、瓦礫の散乱する広間に響き渡った。

 

 

 瑠魅香は、それまでの氷巌城とはまるで違う世界を一人、走っていた。

「百合香――っ!!」

 瑠魅香は叫ぶ。そこは、真っ黒な焼けただれた岩が冷えて固まった大地が、暗い雲に覆われた世界だった。雲の向こうの空が、不吉な赤い色に燃えている。

「百合香、どこ!?」 

 瑠魅香は声を枯らして叫ぶ。

 

 炎の鳥になった瑠魅香=アグニシオンは、白色化した百合香の中に突入を試みた。激しい抵抗があったが、瑠魅香は気力の全てを振り絞って、百合香が張った目に見えない重圧のベールを打ち破り、その魂の中に力づくで入り込んだのだ。

 しかし、百合香の魂は、黒く、暗い世界だった。あの、いつも太陽のように前向きな百合香の心の中だとは、とても思えない。

「百合香、どこ」

 疲れ果てた瑠魅香は、立ち止まって弱々しく呟いた。

 するとその時、微かに声が聞こえた。

「…して。どうして」

 それは、百合香よりも少し幼い声色の、女の子の涙声だった。瑠魅香は、その方向に息を切らせて駆け出した。

「…百合香…?」

 瑠魅香は、ただれた岩の上に座り込んで膝に顔をうずめた、栗毛色の髪の少女を見つけた。百合香より背丈は低い。セーラー服の左袖には、「死ね」「レズビアン」等とフェルトペンで書かれており、片足だけ靴を履いていなかった。

「…百合香」

 瑠魅香は、それが百合香だと直感でわかった。近付いて声をかける。

「百合香、捜したよ。みんなの所へ帰ろう」

 その肩に手を置いて、瑠魅香は優しく言った。聞こえているのかいないのか、百合香はボソリと言った。

「…どうして私は嫌われないといけないの」

「え?」

「どうして。どうして。私はただ、頑張ってるだけなのに」

 その言葉から伝わってきた感情の波に、瑠魅香は衝撃を受けた。どんな記憶があるのかまではわからないが、百合香は今よりも少女だった頃、何かとてつもない精神的な逆境に立たされていたらしい。それは、服に書かれた悪意に満ちた落書き、片方だけない靴と関係しているらしかった。

「頑張れば、いじめられる。どうして?」

「百合香…」

「強くなりたい。けど、強くなるのが怖い」

 瑠魅香は、胸を締め付けられる思いでそれを聞いていた。百合香に、そんな心の闇があるなどとは考えた事もなかった。それに触れられるのが怖くて、瑠魅香は弾き出されたのかも知れない。

 強くなるのが怖い。それは、ガドリエルが危惧していた事と一致していた。百合香は、自分が何らかの覚醒段階にある事に気付いて、自分自身に恐怖したのだ。

 瑠魅香は、それまで見せた事のない百合香の側面に、どう接すればいいのかわからなかった。

「百合香」

 瑠魅香は、今より幼い百合香を強く抱き締めた。

「正直に言うね。今、あなたに何を言えばいいのか、私にはわからない」

 魂の中ではあるが、初めてその腕で百合香に触れながら、瑠魅香はその気持ちを素直に口にした。

「でもね、百合香。私、強い百合香、好きだよ」

 その言葉に、百合香の肩がぴくりと動いた。

「たまに、どうしてこんな大人しそうな顔してるのに、こんなワイルドなんだろう、って思う事もあるけど。それが、そのまんま百合香なんだよね」

 そう語る瑠魅香の腕の中で、いつしか百合香の背丈は元に戻り、その姿もいつものガドリエル女学園高等部の制服に変わっていた。髪も再び、輝くようなブロンドになっている。

「瑠魅香。わたし、怖いの」

 百合香は、震える唇でぽつぽつと語り始めた。

「力が欲しい、って願った時、自分の中に信じられないような力が眠っている事に気付いたの」

「信じられないような力…?」

 瑠魅香は、百合香の言う言葉の意味はわからなかった。それはどういう意味なのか。百合香は話を続ける。

「その力が湧き起こった時、これは私には制御できない、と思った。もしこの力を使えば、私は何をするかわからない。リベルタや、みんなを傷つけてしまうかも知れない。そう思った時、私の心が、私をこの世界に閉ざしてしまった」

 百合香は、自らの魂の中の世界を見渡す。

「これが私の心の奥底なのね。いつも気張っていたけど、本当は不安だらけで、見えない何かと戦っていたんだわ」

 自嘲するように、百合香は言った。その目には、言い知れない悲しさが湛えられている。

 瑠魅香は腕を離し、両肩に手を置いて百合香の目を見据えた。

「百合香。力を恐れる事なんて、ないんだよ」

「…瑠魅香」

「大丈夫。あなたなら、自分自身でその力をコントロールできる。怪物になんてならない」

 瑠魅香の言葉には何の根拠もなかったが、百合香の目からは涙が溢れていた。それにつられて、瑠魅香も泣いてしまう。

「ほんとに泣き虫よね」

「…お互い様でしょ」

 顔をくしゃくしゃにして、百合香は笑う。瑠魅香は、百合香の手を握って言った。

「百合香。私は、あなたが力を制御する手助けなんか、しないからね」

 そう、半ば突き放すように瑠魅香は言う。百合香は、少しだけ首を傾げながら聞いていた。

「私は、あなたが強い事を知っている。だから、必要ない事はしない」

「……」

「そのかわり、あなたが自分自身を信じられるように、私が隣にいる。たとえ、あなたが怪物になったって、時の終わりまで私があなたと共にいる」

「それでも、もし…みんなを傷つけてしまったら」

 そう語る百合香に、瑠魅香は顔を寄せて言った。

「その時は、私があなたを止める。力づくで。今こうして、あなたの中に入って来たように。それができるのは、私だけ。親友の私が、あなたを止める」

「瑠魅香」

 百合香は、その手を強く握り返した。

「あなたがいてくれて、良かった」

「それは私も同じ」

 二人は、額をぶつけて小さく笑う。いつしか、景色はライトに照らされたバスケットコートに変貌していた。百合香は、ガドリエル学園バスケットボール部のユニフォームを着ている。

「百合香、きっと今、リベルタ達が戦ってる。あなたのために」

「そっか。ベンチ温めてる場合じゃないね」

「そうだよ。チームのピンチに駆け付けるのが、スター選手でしょ!」

「そろそろ、シックスマンの出番ってわけか」

 百合香は、いつもの不敵な笑みを見せて言った。瑠魅香は言葉の意味がわからず訊ねる。

「シックスマン?」

「バスケットボールの、強力な控え選手のこと」

「自分で言うかな」

 瑠魅香が呆れると、百合香はクスリと笑った。つられて瑠魅香も笑う。

「迷いはない?百合香」

「…わからない」

 百合香は、まだ不安が見える表情で呟いた。

「でも、あなたが私の中にいてくれるなら、大丈夫」

「そっか。じゃあ、行くよ」

「ええ」

 二人は、コートの真ん中で円陣を組んだ。凛とした声が、コートに高らかに響く。

「ガドリエル――――ファイッ!!!」

 

 

「どわああ―――!!」

 ビームに弾かれたサーベラスが、盛大に瓦礫を跳ね飛ばしながら吹き飛んだ。しかし、その装甲はまだピンピンしている。

「ふん、さすがにしぶといわね。でも次で終わりよ!」

 ディジットが乗った魔晶兵は、改めてサーベラスの眼前に立ちはだかると、胸にエネルギーを集束し始めた。サーベラスは再び障壁を展開しようとするが、態勢が整っておらず、一歩遅れてしまう。

 そこへ、ティージュが大剣を構えて現れた。

「サーベラス様、私が防ぎます!あなたは攻撃態勢を取ってください!」

「ばかやろう!死ぬ気か!」

「みんな、最初から死ぬ気で戦ってるんです!!」

 その叫びが響いた瞬間、冷徹に輝くビームがサーベラスとティージュめがけて放たれた。

「ティージュ!!!」

 リベルタの悲痛な叫びとともに、バーンと音を立ててビームは弾けた。

「なに!?」

 ディジットは、その妙な手応えに違和感を覚えた。

 ビームが弾けるとともに瓦礫や床が吹き飛ばされ、粉塵がもうもうと立ち込める。その中に、ひとつの影があった。

「待たせたわね」

 その透き通るような声は、リベルタ達が待ち望んだ声だった。

 粉塵が晴れた時、ティージュとサーベラスの前に立っていたのは、銀色の髪をなびかせ、厚く白い鎧に身を包んだ、百合香の姿だった。

「百合香!」

 全員が声を揃えてその名を呼ぶ。百合香は、姿は違えども、いつもの力強い微笑みとともにディジットの目を睨んで叫んだ。

「誰だか知らないけど、まだ試合は終わらないわ。選手交替よ!」


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