けたたましい音を鳴らすアラームで起床。朝は弱い。洗面台で顔を洗い、軽く歯を磨く。
そのまま就寝着から運動着に着替え早朝のランニングと飛行訓練。大体1時間程経てば完全に目が覚める。
家に帰るとシャワーで汗を流し、1枚1枚鱗を入念に手入れする。そして朝食。前世も今世も根っからの米派な俺の朝食メニューはご飯に沢庵、ソーセージに味噌汁だ。
ご飯を食べ終わると食器を洗い、横に立て掛ける。
そしてそのままもう一度、今度は1本1本歯を丁寧に磨く。俺はガブリアス、頂点に立つ者だ。清潔感は大事である。
歯を磨き終えると、立て掛けていた食器の水滴を拭き取り、食器棚に仕舞う。
そしてリビングに戻り、雄英高校から送られて来た制服を着込む。背びれの部分はしっかり通し穴が着いており、腕のヒレももしっかり通しやすいように作られている。流石は雄英高校、そこらの制服とは違い、ある程度の耐刃性はあるようで、自慢の鮫肌が不意に立ってもズタズタに引き裂かれないようだ。
斜め掛けのポーチには適当に筆記用具と財布を入れてチャックを閉める。リュックは背びれのせいで背負えない。
鏡の前に立って1枚写真を撮り、実家の両親に送る。送らないと仕送りを無くすと言われ仕方なくだ。親馬鹿にも困ったものである。だが俺は絶対王者ガブリアス、写真の数百枚撮られようがその程度大したことでは無い。
家から雄英高校までは歩いて数十分程だ。個性が自由に使えるのなら、僅か数秒で着くため、もっとゆっくり出来るのだが仕方ない。
周囲の視線を感じながら道を歩く。雄英高校のブランド力か、大勢からの視線を受ける。
そして辿り着く。雄英高校の門を入試の時振りに…大きな最初の1歩を踏み込んだ。
▽▽▽
目前には様々な個性に配慮した結果か、Aと書かれた190cmはある俺が小さく見えるほど巨大なドア。ドアに手をかける。どうやら見た目よりも軽いようで、弱い力で滑らかにドアが開いた。
もう既に何人かの生徒が登校して来ているようで、全員の視線が俺に向けられる。
「俺は私立聡明中学出身飯田天哉だ、よろしく頼む」
入って早々、眼鏡をかけた今にも真面目そうな少年から話しかけられる。
「不可興和飛影中学、鮫肌牙武」
飯田に短く返し、自身の席を確認し着席する。もう既に仲良くなったのか、楽しそうな話し声も聞こえるが、耳から声をシャットアウトして、持参した本を読む。
バンッと大きな音がした。その音源に目をやると、ドアが全開に開け放たれていた。そこにいるのは金髪の妙に柄の悪い生徒だ。それを見て、中学にいた馬鹿達のことを思い出す。何かと絡んで来て特に良い思い出もないが…
ちょっと目が合えばこんな風に…
「何見てんだトカゲ野郎ッ!!」
金髪、お前もか…
「君ッ!!初対面のクラスメイトに向かってなんだその言い方は!?」
「うるせーよ!てめーどこ中だよ端役が!」
飯田も参戦し更に騒がしくなる。視線を本に移すも、目の前の金髪チンピラに奪い取られる。
「何無視してんだてめー!」
どうやら飯田だけでなく俺の名前も知りたいらしい。素直にそう言えばいいだろうに。
「不可興和飛影中学、鮫肌牙武。これでいいか?なら本を返してくれ」
俺の中学を聞いた途端、金髪チンピラはゲラゲラと嗤い始めた。
「フカヒレ中!?クソ底辺中じゃねぇか!」
「その底辺が入試試験首席、それ以下のお前はなんなんだろうな?」
少し煽ってみれば面白いくらいに彼の目が吊り上がる。まさに怒髪天と言うべきか。なかなか面白い奴だ。
スッと立ち上がって怒り狂う金髪チンピラの本を取り返して再度着席。
「テメェッ!」
「落ち着きたまえ!ヒーロー志望が暴力はいかんぞ暴力は!」
更に怒り狂う金髪チンピラを飯田が羽交い締めにする。
少しすると落ち着いたのか、大きく舌打ちしながら自分の席へと向かっていった。そしてズカッと足を机に乗せて座り込む。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ!」
また騒がしくなってきたが無視して本を読み始めた。
時間か…チャイムが鳴る。本をしまい視線を前に移す。そこにはまだチャイムが鳴ったのに気づかなかったのか、飯田を含めた3人が雑談していた。
すると廊下から、低い男性の声が聞こえてきた。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」
そこに居たのは寝袋に収まった、まるで不浪人のように小汚い雰囲気を見に纏ったオッサンだった。
「ここは…ヒーロー科だぞ」
ヂュッとチャージ系ゼリー1袋を一口で一瞬で飲み干した。凄まじい吸引力だと感心する。
皆がその衝撃に動けないままでいると、男はのっそりと立ち上がり生徒たちを見渡す。
怠そうな雰囲気を放っているが、その中のモノは武人のモノ。背は曲がっているが立ち方に芯が通っており、重心にブレは無い。怠そうな目は、しっかりと此方を捉えており、品定めの様な視線を生徒達に向けている。流石はプロヒーローと言ったところか…
衛生面においては社会人としてどうかと思うが、それはひとまず置いておく。
「担任の相澤消太だ、よろしくね」
まぁそうだろうなと納得する。すると相澤先生は寝袋の中から体操服を取り出し、生徒達の目の前に突き出す。
「早速だが体操服着てグラウンドに出ろ」
▽▽▽
という訳でグラウンドに出された俺たちは、入学式やガイダンスをそっちのけに個性把握テストを実習するそうだ。自由な校風が売り文句らしく、先生が好き放題しても許されるらしい。
相澤先生から何やらメカメカしいボールを投げ渡される。
「鮫肌、中学の時ソフトボール投げ何mだった?」
「252m」
背後で他の生徒達がざわめいている。これも異形型の個性のお陰であり、常時発動する系の個性を持つ奴らは全員人外の記録を叩き出しているためそこまで凄いことでもない。
「じゃあ『個性』を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい、早よ」
何でもしていい…か。なら好きにさせてもらうとしよう。まずはこのクラスという名の群れの生徒達に、生物としての格が違うということを見せつけよう。これは格付けだ。圧倒的に、絶望的な壁がこの世には存在することを見せつけてやろう。
ボールを一先ず地面に放り投げる。
「〈剣の舞〉」
剣が2本、俺の手の中に収まる。そして舞う。2本の剣を使った乱舞。美麗に、優雅に、華麗に、力強く。
チラリと横目に生徒達を見ると、惚けるように俺の乱舞を見ていた。
〈剣の舞〉はゲーム内の効果では2段階攻撃を上げる補助技だ。現実では10秒間、〈剣の舞〉をすることで発動する。それを3セット。30秒。つまりは最大の6段階上昇。俺の、ガブリアスの全力である。
最後に2本の剣を同時に振り下ろすと、剣は蜃気楼のように空気に溶け消える。
「早くしろ」
相澤先生が急かす。もう少しだけ待て。すぐ終わる。
地面に落ちていたボールを広い、腕を振り…
「〈逆鱗〉」
目が赤く、理性的な目から野性的な眼差しに変化する。身に纏う雰囲気は荒々しく、荒ぶる修羅を彷彿とさせるその威圧感は、背後にいるだけの生徒達を身震いさせる。
「ガァブヴァァァァァアッ!!!」
身の毛のよだつような恐ろしい咆哮。そしてそこから放たれるガブリアスのアンダースロー。
天を裂くその1球は…
「消えた…?」
1人の生徒がそう零す。
「消えたのでは無い…俺は見えていた」
口を布で隠す大柄な少年。その肩から生えている口が答えた。
「奴がボールを投げてすぐ…ボールは衝撃に耐えられずバラバラに…それも常人では見えないサイズまでに粉砕された……!」
その言葉に一同が驚愕する。
「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
相澤先生が持っていた端末を皆に見せつける。そこには測定不能と映されていた。
次の瞬間、静まり返っていた生徒達が高らかに声を上げる。
「うおーッ!!スゲェ今の!!」
「投げただけで砕けるとか化け物かよ!?」
「『個性』を思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」
「すげー面白そう!」
「測定不能とか聞いたことねーよ!」
そんな中、ガブリアスであるこの俺は…
「鮫肌君…どうかしたの?」
緑髪の少年に話しかけられる。が、返せない。
ピヨ、ピヨ、ピヨ、と頭上でヒヨコが歩き回り、周囲が歪み、平衡感覚が保てなくなる。混乱状態だ。
「物凄いフラフラしてるよ!?もしかして代償とか必要だったとか!?」
〈逆鱗〉の副作用。強力な技ではあるが、欠点がある。それは、使用後に混乱状態になってしまうことだ。
だが問題は無い。反射的に、頭を思いっきり地面へと叩き付ける。その衝撃で頭上のヒヨコは吹き飛び、混乱状態が解除される。
「治った。問題ない」
心配する緑髪の少年に手で制しながら答える。
混乱は非常に厄介だ。敵味方が分からなくなり、更には自傷してしまう、最悪仲間を間違えて攻撃してしまう可能性もある。だからそれ対策に、混乱すると即座に頭を地面に叩き付けるという動作を体が覚えるまで何度もやってきた。幼い頃は怪我をして両親に叱られたものだが、今では当然無傷で出来るようになっている。
そのまま相澤先生の言葉を待つ。明らかに先程までとは雰囲気が変わった。
原因は何だろうか…恐らくは…
「「面白そう…」」
声が被った。相澤先生は此方を人目見るが、そのまま続ける。
「ヒーローになる為の3年間。そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?
よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「「「「はあああ!?」」」」
浮かれていた生徒達の悲鳴のような、驚愕の声が重なりグラウンドに響き渡った。
そうか…最下位は除籍処分…フフ…フッフッフッフ!!
面白くなってきたな。
所詮この世は弱肉強食、弱い者は喰らいつかれて蹴落とされる。
1人俺は口角を吊り上げた。
▽▽▽
目指すはトータル1位。当然である。俺はガブリアス、敗北は許されない。なので全力で行かせてもらう。
第1種目は50m走。
俺は〈スケイルショット〉で鱗を射出しながら身を軽くする。この技は防御力を一段階下げて、素早さを一段階上げる技だ。現実では俺の体の古くなった鱗を射出している。だが使い過ぎると、新しい鱗まで使ってしまい、ボロボロになってしまう可能性がある。そんな姿を俺が晒す訳には行かない。
〈スケイルショット〉は3度までに留めておく。これが今出来る俺の全力だ。
合図と共に脚に力を溜める。溜めて溜めて溜めて…スタートの笛と共に解放。最高速度のマッハ2には初速度では遠く及ばない。だがそれでも素早さが3段階上がった恩寵は凄まじい。容易にクラスで速い記録を刻む。
第2種目は握力測定。
俺の技による能力値の変動は、およそ20分程残り続ける。そのため、先程使った〈剣の舞〉と〈スケイルショット〉の効果はまだ続いている。
〈怪力〉を使い握力器を握り込む。6段階上昇の〈怪力〉には為す術なく握力器は粉砕される。購入日はつい先日だったらしい。儚い命だった。
第3種目は立ち幅跳び。
飛べるため技など不要。
「何で翼もねーのに飛べんだよ!」
「龍だから」
葡萄頭が騒いでいたが軽く一蹴した。
スタミナ面も考えて、数日掛ければ、法律や制空権などを無視する場合、地球を1周も恐らく可能と伝えると無限扱いになった。
第4種目は反復横跳び。
ここで〈剣の舞〉の効果が切れてしまったが問題ない。〈ストーンエッジ〉で横の線の真横に壁を生み出す。
始まったと同時に横に跳ぶ。そのまま線を越えたと同時に壁を殴打。その反動で停止時の硬直を無くし、逆位置の線へと向かう。それを何度も時間内に繰り返す。岩が砕けてはまた新しく追加する。その回数が5回を超えた時、遂に〈ストーンエッジ〉のPPが切れる。
そう、この世界でもPPは存在していた。
〈ストーンエッジ〉のPPは5。それを全て使ってしまったため、もう〈ストーンエッジ〉は使えない。PPを回復させるためにはただただ待つしかない。一日が経てばPPは復活されている。つまり全ての技に、一日何度使えるかを制限されている。
まあ、この程度。低種族値のヒマナッツや技範囲が極端に狭いポケモン達なら兎も角、600族であり、技範囲も広いこのガブリアスにとって何の枷ともならない。
途中から〈ストーンエッジ〉の代用として〈岩雪崩〉を使用する。
結果は当然の如く1位。葡萄頭の…峰田だったか…とは僅差だったため、圧倒的とまでは行かなかった。駄目だこんな事では…もっと精進しなければなるまい。
第5種目はソフトボール投げだ。
さっき投げたためスキップ。当然ながら俺に並ぶものは…
「記録、無限」
いた。麗日お茶子。砕いた俺とは違い、文字通り宇宙の彼方まで投げ飛ばした。俺のボールが砕けなかったらどこまで飛んだだろうか。確実にこのクラスでは1位を取れるだろう。だが無限を出せるかと言われればNOと答えざるを得ない。
笑いが込み上げてくる。
フッフッフッフ…!面白い…!俺には麗日のように無重力で投げる事は出来ない。なら、周りが無重力になるような環境にすればいい。それは大気圏を超えた先にある領域。ボールを燃え尽きない素材に変え、大気圏を突破させる。そうすれば宇宙で無重力状態となり、俺は麗日と同じ領域に立てる。
それが最高到達点だ。今の結果に満足しては行けない。
そんな事を考えている間に、緑髪の少年、緑谷が相澤先生と何やら1悶着あったようだが、無事に700m越えを出していた。
第6種目は上体起こし。
素早さも元に戻ったため、〈剣の舞〉と〈スケイルショット〉を1度ずつ使う。
2段階上がった力で体を無理やり起こす。結果は1位だったが、あまりスマートでは無い。結果は良かったものの、自分的には納得が余りいっていない。
第7種目は長座体前屈。
〈シャドークロー〉で腕を伸ばす。〈ドラゴンクロー〉もあったが、〈シャドークロー〉の方が形を変えやすく、しかも伸びやすい。当然1位だった。
第8種目、最後は持久走だ。
バフ等必要ない。攻撃と素早さが途中で切れたが、俺は元々素で最高速度マッハ2だ。持久走程度本気で飛べば数十秒で終わる。
総合は圧倒的1位。どう足掻いてもガブリアス。
どう足掻こうが俺には敵わない。当然の結果だった。白と赤の髪色をした少年は俺を睨み、金髪チンピラは俺に調子に乗るなと怒鳴る。順位表を見返して名前を確認する。赤白ハーフが轟、金髪チンピラが爆豪か。
そして相澤先生からの締めの言葉。
「ちなみに除籍は嘘な」
どうやら緑谷は彼のお眼鏡にかなったらしい。
そして慌ただしい初日は終わった。
鮫肌譲頭(41)
個性「サメ」自身が思い描いたサメになれる。ゾンビシャークやシャークトパス等お手の物。
サメの異形型で主人公の父でありハリウッドスター。サメ映画界の重鎮であり、彼無しのサメ映画は考えられないと世界が絶賛するほど。多分本編には名前しか出ない。
どっちがいい?結果によっては変更します。
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どうあがいてもガブリアス
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どう足掻いてもガブリアス