『リコリス・リコイル』12話後のifルートを想像して書きました。

※タイトル変えました。


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「……なぜだ、なぜなんだ、千束」

 

 ――なぜ、理解してくれない。

 

 重い足取りで急電波塔を降りる吉松と姫蒲。

 

 虚ろに消えるはずだった吉松の問いに、一人の女性が答えた。

 

「なぜなのか? 答えを教えようか?」

 

 声の先――そこには、茶色のくすんだ髪をしている女性がいた。

 

 左手にトランク―スを持ち、右手でタバコを不味そうに吸っている。

 

 濁った眼。どこかで歯車を間違えたせいで人の優しさを忘れてしまった目をしている、そう吉松シンジは思った。

 

「お前は誰だ?」

 

「お前? お前とは失礼だな、()()()()君」

 

 ケケケ、と笑う女性に吉松シンジはイラつきながら質問する。

 

 今の彼の機嫌は、最悪だ。

 

「高杉秀臣? 誰のことだ?」

 

 今吉松の言葉に女性は虚を突かれたように驚く。

 

「これはこれは困ったことだ。ああ、まさか、このパターンは想定をしていなかったわけではないんだけど。私としては外れて欲しかったな」

 

 女性はタバコの煙を吐き、語りだす。

 

「ある男がいた。自分が特別だと信じ、だが才能がないことを誰よりも自覚している男だ。男は自分に才能がない代わりに、才能のある若者を発見することで、その心の穴を埋めようとしていた」

 

「……そこをどけ」

 

 吉松の言葉を無視し、女性は続ける。

 

「だが、その男は知らなかった。才能の中には他者と関わることで発芽するものがあることを」

 

 ピクリと、誰かが反応した。

 

「……きっと、それを知ってアラン機関はその男にチャームを渡したんだろうね」

 

「……誰の話をしている?」

 

「とあるアラン・チルドレンの話しさ」

 

 ――ほら。そう言って女性はアランの象徴である黄金のフクロウを見せる。

 

「君も、アランの者か」

 

「おいおいおいおい、まるで同士を見るような目は止めてくれよ」

 

「なんだと?」

 

「――だろう、姫蒲ちゃん」

 

 女性の言葉に姫蒲は何も反応しない。

 

 ただ、沈黙を通すだけだった。

 

「姫蒲くん。君は彼女のことを知っているのかい?」

 

「いいえ、私は――」

 

「おいおい、嘘を付くきかい? 姫蒲ちゃん。君も薄々気付いているんだろう?」

 

 動揺の目を隠せない姫蒲を睨む女性。

 

 姫蒲が何かに脅えており、その原因は目の前の女性であることを察した吉松は、目を鋭くさせて詰問する。

 

「おい。何を知っている?」

 

「それを説明していたんじゃないか?」

 

 女性は物わかりの悪い生徒を扱う教師のように話す、

 

「いいかい、さっきの話の男には才能がなかったけど、それは男が気が付かなかっただけだ。男には人の才能を咲かせる才能があったんだ」

 

「人の才能を咲かせる?」

 

 その言葉は、吉松の琴線に触れた。

 

「人の背中を押す才能、とでも言うべきなのかな。その人が言って欲しい言葉が分かる、言葉のチョイスが絶妙に上手いスキルと考えてもいい。とにかく、口が上手かった」

 

 私も楽しませてもらったものだと、女性は楽しそうに話す。

 

「やがて男はアラン機関に所属する。アランでの仕事はその男の性に合っていたんだろうね。どんどん自分の才能を咲かせていった。それが、今のアラン・チルドレンだ」

 

「……読めてきたぞ。アラン機関の活動自体はかなり前だが、世間に出てきたのは最近だ」

 

「それも、()()()()()()()()形でだ」

 

 アラン・チルドレンのほとんどが才能を人類と世界に貢献している。だが、世間に出るのは一年に一回程度のはずだった。

 

「総数が増えたんだ。その男の活躍によってね」

 

「凄い才能だ。アラン機関に所属するべく生まれた才能とも言っていい」

 

 吉松の声は震えていた。

 

 同じ機関の人間として誇らしい気持ちなのだろう。

 

 顔に嬉しさが出ていた。

 

 

 

「だが、とある不幸がその男に振ってきた。アラン・チルドレンに相応しい才能を持った少年を見つけたのだが、その少年は既にほかの組織に囲われていた。その組織にいては少年の才能は育たない。やがて、枯れて腐ってしまう。そう考えた男は少年を組織から救うため行動し、そして命を失ってしまった」

 

「その少年の名前は――高杉秀臣」

 

「その才能は変装――姿や口調はもちろん、人格から思想までコピー出来る男だ」

 

 

 

「………………変装の才能、だと?」

 

 知らない味を確かめるように、女性が言った言葉を口にする。

 

「死亡したアラン機関の人間の名前は――吉松シンジ。私がチャームを与えたアラン・チルドレンの一人だ」

 

 吉松シンジは死亡している――その言葉は吉松と名乗る男には届いた様子はなく、ただ「変装、変装、変装、変装、」と壊れたスピーカーのように同じ言葉を繰り返していた。

 

「姫蒲ちゃんは知っているんじゃないかい? どうして吉松シンジという男がアラン機関に入ったのか?」

 

「……ええ。一度、聞いたことがあります」

 

 姫蒲は苦い顔で頷く。

 

 目の前の女性こそが、吉松シンジが言っていた()()であることに気が付いた。

 

「自分のせいで吉松シンジが死んだとは思いたくなかった。なぜなら、吉松シンジの死亡は、未来で人類と世界に貢献されるべき才能が死んでしまうことと同じ意味だから。自責の念に耐えられない高杉少年には、一つこの問題に対する解決策があった」

 

「――それが、()()()()()()()()()()()()()

 

「正解だ」

 

 姫蒲の言葉に女性はニコリと答える。

 

「おかしいと思ったんだ。アラン機関の人間は極力アラン・チルドレンに接触してはいけない。にも関わらず吉松シンジは錦木千束と何回も接触している。それも、不必要な接触もある。彼らしくない。そして調べたら案の定だったわけ」

 

「…………なぜなんだ?」

 

 吉松――いや、高杉秀臣から漏れた声だった。

 

 さっきまでの声とは違う、少し高い声だった。

 

「上手く行かなかったんだろう? 吉松シンジのように行動しても才能の種さえ生まれない。それどころか、吉松シンジが残した才能ばかりが次々と咲いていく。君は焦った。このままでは()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

「沈黙は肯定を受け取る。焦った君は一つの手を思いついた。吉松シンジさえ諦めた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――これを成すことで、これまでの失敗を払拭、ゼロにしようとした。そうだろう?」

 

 その言葉に驚いたのは姫蒲だった。

 

 吉松シンジが狂信的にアラン機関の信念に従っていることを知っていたから。だからこそ、錦木千束の才能を諦めていたという言葉を信じられなかった。

 

「…………どうしてだ?」

 

 高杉は目の前の女性、自分ではなく真にアラン機関に相応しい女性に質問する。

 

「…………どうして、僕は『吉松シンジ』になることが出来なかった。どうして千束は僕の言うことを聞いてくれない。『吉松シンジ』じゃないからか?」

 

「成れたよ、君は。見事に『吉松シンジ』だったよ。協力者であったミカ、自分の救世主だと思っている錦木千束を最後まで騙し通せたんだから」

 

 神が与えしギフトを使いこなしている、そう女性は褒める。

 

「…………では、なぜ?」

 

「そうだね。君の信じる吉松シンジの言葉で言うなら、『人間は、神が与えしギフトを二つ持つことは許されない』かな。いくら『吉松シンジ』に成り代われても、彼の才能まで成り替わることは出来ない。才能は一人に一つが原則だ」

 

 女性の言葉に、高杉は驚いた顔を見せる。

 

「…………違う。僕は『吉松シンジ』だ。千束には残念だったが、僕にはまだ()()がある」

 

「役目って?」

 

「新しいアラン・チルドレンを探す。それが『吉松シンジ』に与えられた役割だからな」

 

「お前は高杉秀臣だろう」

 

「いいや、()の名前は吉松シンジだ。急ぎの用が出来た、そこをどいてくれ」

 

 狂信的な目ではない。知性の宿った目で『吉松シンジ』を名乗る男は言う。

 

 女性は元教え子の面影を感じながらも、やはり()()()()であることを肌で感じていた。

 

 本物の、本当の『吉松シンジ』ならば――その言葉から才能の片鱗を感じるはずだからだ。

 

 今の『吉松シンジ』を語る男から、その欠片さえ感じることが出来ない。

 

 変装の才能は見事だ。もはや、変身と言っていい。人間を超越したレベルでも才能だ。

 

 だが、コピーをするなら、その熱意さえも真似るべきだった。

 

 吉松シンジの、人間らしい感情、()が目の前の男にはない。

 

 彼から出る言葉の全てが寒風のように虚しい。

 

 女性はそう思ってばかりだ。

 

「悪いが、それは出来ない相談だ。アラン機関は君の回収を決定した。今の君は冷静でない」

 

「なんだと?」

 

「才能の暴走とでもいうべきか。神が与えたギフトは人類と世界に貢献しなくてはならない。だが、身に余るギフトは天才自身の破滅を招く可能性がある。それを防ぎ、才能を管理することもまた、我ら『アラン機関』の使命だ」

 

 そう言って女性は銃を取り出し、撃った。

 

 撃って、撃って、虐めるように撃って、合計5発。

 

 全弾着弾した吉松シンジの体から、特融の赤い煙が空気に舞う。

 

「これは、千束の――!?」

 

 痛みに苦悶の表情をしながら吉松シンジは訊く。

 

「君は彼をコピーするさい、彼のデータを参考にしたようだね。パソコンに内蔵しているデータから、アラン機関に提出する資料、プライベート情報まで。だけど、その情報には穴があった」

 

「穴だと?」

 

「錦木千束が持っている銃と弾。あれは、ミカが用意したものではない。()()()()()()が用意したものだ」

 

 女性は懐かしそうに非殺傷の銃のフレームを撫でる。

 

「バカな!! 確かに上層部に提出する資料にはそう書かれてあったはずだ!!」

 

「それは上層部を騙すためのウソの情報だ」

 

 女性の言葉に吉松シンジは声を大きくする。

 

「それこそウソだ!! あの人が『アラン機関』を裏切るような人ではない!!」

 

「酷く動揺した顔だ。だけど、本当さ。酒の席でシンジから直接聞いた。この銃もシンジを脅して手に入れた設計図を参考にして作ったものだ」

 

「それを証明するものがどこにある!!」

 

 ハア、ハア、と息を切らした声が響いていた。

 

 動向を開き、憎しみさえ孕んだ目を向けてくる吉松シンジに、女性は悲しそうに言う。

 

「それを証明する手段も、君を納得させる言葉も私にはない。だけどね。悪い組織から囲われていた君一人を助けるために、シンジは命を懸けることを決意した。そのときは、アラン・チルドレン――それも候補の一人に過ぎなかった君のために、彼は命を懸けたんだ」

 

 女性は吉松シンジの肩をゆっくりと触る。

 

 優しく、慈しむように。

 

 彼の両眼を見て、強く言う。

 

「君がこうして立派な大人に成長出来た。これが、理由にならないかな?」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 これは、あの日の記憶だ。

 

 僕が彼――『吉松シンジ』との最後の会話の記憶。

 

 そうだ、あのとき『あの人』はこう言ったんだ。

 

 ――君には才能があるから、私は君を救うことを決めた。

 

 ――だから、君は私のことを恩に感じることはない。

 

 ――どうしてもというのなら、少しでいい。その才能を人類と世界に貢献してくれ。

 

 ――それで、人類と世界は()()()()()()はずだから。

 

 ――頼んだよ。

 

 そう言って、『あの人』は優しく僕の頭を撫でてくれた。

 

 そうだ、『あの人』は少しで良いって――――

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 言葉にならない絶叫を上げる男を旧電波塔に放置し、女性は階段を下りる。

 

 その二歩後ろで姫蒲という女性がついてきていた。

 

「あとでアラン機関の者が彼を回収する。それまで、姫蒲ちゃんは傍にいてくれ」

 

「判りました――ですが、その前に訊きたいことがあります」

 

 女性は足を止める。

 

「どうして、吉松シンジはミカに錦木千束の『殺しの才能』の補助を依頼したのでしょうか」

 

「依頼って、言い方、言い方よ」

 

 苦い顔をする女性の反応を無視し、姫蒲は疑問の解消を続ける。

 

「それに、非殺傷弾のこともです。あれは明らかに錦木千束の『殺しの才能』に相応しくありません。ミカと吉松シンジのアイディアだと言いましたが、『殺しの才能』を世に貢献させたいシンジと、それに同意したミカが用意したものだとは思えません」

 

「非殺傷弾はレベルアップのため。相手を殺してはいけないというレベルの高い状況を作り出すことで、錦木千束自身の才能の開花を促した――とシンジは言っていたよ。まあ、非殺傷弾に関してはミカにはバレないように情報をリークしたらしいけど」

 

「どうして――」

 

 そんな遠回りなことを? そう姫蒲は訊こうとした。

 

 だが、女性は先に答えを口にする。

 

()()、しているだろう? いいかい、姫蒲ちゃん。人っていう生き物は何かが自分の中で矛盾していないと、考えることが出来ない生き物なんだ。錦木千束も自分の才能が『殺し』に適していることを心のどこかで思っていたと思うよ。あの子は頭の良い子だ」

 

 顔も性格も可愛いから、満点だ――女性はそう微笑んだ。

 

「シンジはそれを全て読んでいた。錦木千束という人間は『殺しの才能』を十全に使いこなせないことも、ミカという人間が彼自身が思うより人情味のある人間であることも、ね。だから、せめて錦木千束の才能を()()()に使いこなすことが出来ないかと一計を案じたのさ」

 

 それが、殺しが許されたリコリスに非殺傷弾という組み合わせだった。

 

「考えるきっかけと与えたかった、そうシンジは言っていた。まあ、それ以上の出会いが錦木千束には合ったみたいだけどね。計画通りとは言えないけれど、狙い通りにはいったからOKでしょう」

 

 女性はカラカラ、と小学生が初めて花火を見たように楽しそうに笑う。

 

 一方、姫蒲は長考に陥っていた。

 

 今は亡き吉松シンジが何を思っていたのかを、理解しようとしていた。

 

「…………それが、()()()()()()()使()()()()()()()、ですか?」

 

 ようやく出た言葉に女性は「正解だ」と微笑む。

 

「そう、あの子は誰も殺してない」

 

 殺しの才能を持ちながら、人を殺していない。

 

 確かに完璧ではない。不完全というよりも――

 

「……矛盾、していますね」

 

「矛盾は嫌いかい? 私はそういうの好きー」

 

 急に距離が近くなった女性に、姫蒲は反射的に距離を取ってしまった。

 

「――すいません」

 

「いいよ、気にしていない。――まあ、シンジが錦木千束に対して、どのように思っていたのか。それは彼自身しか判らない、つまり迷宮入りだ。だけど、彼が()()()()を救ったように、()()()()を救った」

 

 私は考えることにしたよ。

 

 女性はそう言って、再び階段を降り始めた。

 

 姫蒲はその背中を静かに見送った。

 

 吉松シンジから聞いた『先生』――聞いていた通り、どこか冷たい人だった。

 

 けど、少し話してみると良い人だと判る――その言葉は、確かに合っていた。

 

 大きな背中を見送った姫蒲は――旧電波塔の階段を上っていった。




12話のAパートの千束が余りに切なくて書きました。
千束が信じる『吉さん』が本当に『救世主』のような優しさを持った人だった、そんなifルートです。

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