さてさて、本作は以前にじファンの方で連載していた『生徒会の一存~もう一人の優良枠~』のリメイク作品でございます。できるだけムチャぶり展開をなくしつつ、のんびりまったり進めていこうと思いますので、どうか最後までお付き合いいただけると幸いです。
それでは、新たな紅葉蓮の日常をお楽しみください。
駄弁る生徒会(上)
「世の中がつまらなくなったんじゃないの。貴方がつまらない人間になったのよ!」
超絶ロリ女子高生桜野くりむはいつものように絶壁の如き胸部をえへんと張ると、パクリ名言を堂々と言い放っていた。
普段の桜野からは考えられないほどマトモな名言だな、とか感心しつつ、俺は先ほどから目を通していた愛読書『縛法大百科』を閉じると彼女の方を向く。
「やっと自分がつまらないと自覚したか」
「第一声が黒いわよ蓮(れん)! 仮にもほのぼの系ライトノベルでその発言はあまりにもダークだわ!」
「つまらない人間。つまらない社会。つまらない人生。……鬱だ。死のう」
「唐突すぎて突っ込みづらいわ! って、鞄から縄出して何やって」
「首つり自殺だが?」
「アウトォオオオオオオオオオ!!」
ダダダッ! と向かい側の席から慌てて走ってくる桜野。輪っかを作りかけていた縄を取り上げると、生徒会室の隅に置かれているゴミ箱へと綺麗にダンクシュートを決めていた。……あぁ、俺の縄が。
「というか、なんで縄が常備してあんのよ。知弦も鞭持ってたし。アンタ達姉弟は不要物の概念を知らないの?」
「縄がねぇと好きな時に姉さんに縛ってもらえないじゃないか」
「はいソコおかしいね。そもそも縛られたがっている時点で健全たる高校生からは全力で遠ざかっているのだけれど」
「そう言われてもな。お互いの趣味だし」
愛すべき双子の姉である『紅葉知弦』は、自他共に認める極度のサディストである。鞄に鞭を常備しているのは当たり前。生徒会室にチェーンソーを配備し、靴は常にブーツ。その殺傷力の高さは多くの下僕達を言い知れない興奮で包み込むのです。あぁ、踵で思いっきり踏まれたい!
ここ『碧陽学園』に通い始めて早三年となるが、姉さんによる被害者は既に全校生徒の半分に及ぶ。先月より趣味で始めた『レンレン何でも相談ダイアル』には電話線がパンクするほどのお問い合わせが殺到しており、姉さんがどれだけ暴れ回っているかを窺うことができる。被害者の多くが生徒だが、相談者の二割ほどに教師が入っているという奇妙な事実に俺は驚きを隠すことができない。そろそろ自重してもらわねば、その内この学校は内側から崩壊していくのではないだろうか。生徒会メンバーが原因だなんて、死んでも笑えない。
『縛法大百科』を読み終えると手持ち無沙汰になってしまったので、生徒会室の備品であるオセロを探し出すと普段ならば姉さんが座っている桜野の左前方へと腰かける。
「……生徒会活動中に遊ぶのはどうかと思うのだけど」
「過半数がいないんだから活動自体成り立ってねぇよ。揃うまではいいじゃん」
「でも……雑務もまだあるわけだし……」
「お前がやっても無駄足だ。というか、迷惑」
「そこまではっきり言われると落ち込む気力も湧かないわね……」
そうは言いながらもしっかり黒石を置く桜野はやっぱり子供だと思う。
さて、本来ならばこの生徒会室には俺と桜野を合わせて六人の生徒会メンバーが揃うべきなのであるが、今日はどうやら揃いも揃って用事があるらしく俺達しかいない。副会長二人はクラスのレクリエーション。会計はゲーム部で同人ゲーム制作。そして書記でもある姉さんは進路指導の真っ最中だ。生徒会なのにこの集合率の悪さ。碧陽学園の今後を案じているようで心配になってくる。大丈夫かこの学校。
しかし、さすがにこのままオセロをするだけだと先ほどの名言(By桜野)が海の藻屑となってしまうので、石を置きながらも俺は俺なりに見解を述べることにした。
「まぁでも、桜野の言いたいこともなんとなく分かるよな。世界の面白さってのは不変なわけであって、自分の捉えようによっては、どんな世界でも楽しくなる。『住めば都』とも言うくらいだし」
「そうそう。今現在は刺激的で楽しくて仕方がないかもしれないけど、半年くらい経ってから周囲の環境が当たり前だと感じてくると思うと、ちょっとねぇ」
「でも人間ってそういうもんだろ? 最初の方は楽しいけど、段々と飽きてくる。一発屋の芸人が消えていくのと同じだよ。俺達はそういう環境に対して、いつまでも『楽しい』気持ちでいられるような生物じゃないってことだ」
何事も初めてがいいという点は本当であろう。初めて百点を取った時は努力の意味を知ったし、初めて彼女ができた時は異性の尊さを知った。初めてだからこそ分かるものがある。そう考えると、やはり初体験というものは大切にすべきかもしれない。
碧陽学園生徒会に相応しくない議論的な空気が流れる。そもそも在籍しているメンバーが頑固な桜野と理屈的な俺なので、そうなるのは避けられないことなのだが。
二人して渋面をすると、同時に大きく溜息をつく。
「……やっぱ、私達だけだとどうもねぇ」
「ムードメイカーが誰一人としていないからな。そもそも俺はそこまでボケ担当じゃない」
「リアルな『優良枠』だもんね、蓮は」
「人気投票一位なのに会話力低いとかマジでないわ」
「余計なお世話よ!」
痛いところを突かれた桜野はバン! と机を叩くと涙目で叫んだ。痛いならやめておけばいいのに。
……さて、今会話に出てきた『優良枠』及び『人気投票』について説明しておこう。
ここ『碧陽学園』の生徒会選抜方法は、他所と比べると著しく特徴的だ。普通ならば立候補者が出て、彼らに対して信任及び不信任かを投票するのだろうが、碧陽は少し違う。毎年年度初めに、学園全体で『生徒会役員選抜人気投票』が行われるのだ。
この人気投票では、一年生から三年生までの全生徒を対象に、自分の憧れの人を投票用紙に記入してもらう。その結果で、メンバーを決めるのだ。勿論本人が認可しないことには生徒会入りすることは無いので、この人気投票自体に絶対性はない。不公平じゃないかと思う人もいるだろう。……しかし、この投票制度は何気に理に敵っているのだ。
勝手に立候補した生徒が上に立っても、一部の生徒は反感を覚えるだけで言うことを聞こうとはしない可能性がある。日頃目立たない類の人物ならば、それが顕著に表れるかもしれない。
だが、人気投票による生徒会メンバーならば、生徒達は自分の好みで選んだ結果であるので、それなりに言うことも聞く。同時に、そういったことで選ばれる生徒というのはカリスマ性も持ち合わせているので、滞りなく活動を行うこともできる。PTAには少しばかり評判がよろしくないが、生徒間及び教師においてはそれなりに評価を得られているのだ。
しかし、やはりそういった『人気』に欠ける人に対する妥協案も存在する。それが『優良枠』だ。
前年度の学年末テスト。その結果で学年一位だった者には、漏れなく生徒会入りするチャンスが与えられるのだ。これならばたとえ人気が無くても、自分の努力次第でどうとでもなる。ナイスな案と言えるだろう。
だけども、そこら辺のいわゆる『秀才』は往々にして生徒会なんていう余計な活動には興味を示さないわけで。基本的には辞退する人が主である。こんな制度使う物好きなんていやしない。
……だがまぁ、そんな物好きの一人が俺ではあるのだが。
「去年の初めはそこまで成績良くなかったのにね。よく学年一位なんて取れたと思うわよ」
「姉さんの猛特訓のおかげだな。正直、血反吐吐く寸前まで追い込まれた。去年一年間は勉強漬けの毎日だったよ。テスト後に久しぶりにゲームをした時は、感動で一晩中咽び泣いたなぁ」
「……受験生かアンタは……」
容姿端麗である姉さんの生徒会入りは確実。自他ともに認めるシスコンである俺は、姉さんと同じ空間で生活するために生徒会入りを決意した。その頃は学年でも真ん中程度の成績だったんだが、一位を獲るには到底及ばない生徒でもあったので、姉さんの地獄のような指導を頼りに一年間頑張ってきた俺である。日を追うごとに増えていくミミズ腫れにクラスメイトが戦慄したのはいい思い出だ。
白石を置く。気が付くと角を三つ占領していた。お、これはいい戦況じゃないか。
「あと一つで勝利確定だよ」
「ぬあー! なんだってアンタなんかに負けるのよもー!」
「碧陽学園内におけるワースト2が騒いだところで悲しいだけだがな」
「私は全知全能たる生徒会長・桜野くりむなのよ!? なのに……こんなのってないわよ……! 死に切れないわよ……!」
「残念ながらここはSSSではないのだよ、ロリ娘」
「ロリ娘!? 響きが良すぎて聞き逃すところだったわ!」
いい渾名だと思うんだけどな、ロリ娘。五文字だから発音的にも良いし。等々力友子と肩を並べる素晴らしさだと思う。
それから数分に渡り黙々とオセロを続行した結果、
「一個差で俺の勝ちでしたやったー」
「勝利宣言に喜びが微塵も感じられない! 接戦のくせになにその余裕! 一時期の『やべぇ……! これはやべぇ……!』はどこに行った!」
「幻覚は中学二年生までにしてもらおうか」
「ドヤ顔やめなさい! あぁっ、くそっ、ムカつくわねアンタ!」
「……はっ」
「何その意味不明なしたり顔。なんでいきなり見下されてんの私」
「……ふっ」
「連続でやった!? お、落ち着きなさい桜野くりむ。相手はただのマゾな変態よ。クールになって対応すればきっと素晴らしい明日が開けるはず」
「……バーカ♪」
「むきぃいいいいいいいいいいいいいい!!」
生徒会長は三秒で瓦解しました。
心底ムカついたような表情を浮かべている桜野は鞄から教科書を取り出すと、テニス選手もかくやといった動きで攻撃を加えてくる。……いや、ごめん。誇張表現だわ。ぶっちゃけ、子供のチャンバラごっこ並の痛さ。
「必殺・チェリーアタック!」
「痛々しいかつ幼稚な必殺技が出たな。どうせならそこはブロッサムだろ」
「ぶ、ぶろ……え、なに?」
「そろそろ桜野の留年を考える時期か……」
「地味にガチで不安になるからやめてくれない!? あぁその表情! ちょっと前に先生が見せたのとまったく同じ! そんなに私は落ちこぼれか!」
「無論」
「クリティカルヒッツ!」
胸を抑えて「うぅ……」と蹲る落ちこぼれ一号。いや、そんなに落胆するなら勉強すればいいのではないかと思う今日この頃だが、このお子様生徒会長が自ら苦行に挑むわけもないのでとりあえず放置。こうやってまた負のスパイラルに囚われていくのだろう。哀れ桜野。
何気にそれが一番心に突き刺さったご様子の桜野は未だに四肢を床に付けて這いつくばっている。見ようによっては背徳的でないわけでもない。写メって友人に流したら高値で売れるかもしれない。
そういう腐った考えに行き着くと行動が速いと評判の俺は、すぐに携帯電話を取り出すとカメラモードにし、ピントを合わせてシャッターを押そうとしたところで、
「ディープサマーソルトキック!」
突如飛来した美少女の飛び蹴りにより、長机を巻き込んで盛大に吹っ飛んだのであった。
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