どれだけいるか分かりませんが、心待ちにしてくれていた方々、本当に申し訳ございません。
「力を伴わない正義は、真の正義とは呼べないのよ!」
超絶ロリ女子高生桜野くりむはいつものように絶壁の如き胸部をえへんと張ると、パクリ名言を堂々と言い放っていた。
若干悪役っぽい台詞を半ば自棄気味に叫んでいる我が親友を見兼ねた杉崎が嘆息しながら声をかけていたが、その視線は完全に長机に散らばる無数の用紙――――端的に言って部活動からの嘆願書に向いている。あまりにも数が暴力的に多すぎる嘆願書は見るだけでストレスを誘発する危険物だが、俺達が生徒会に所属している以上避けては通れない案件だ。諦めて仕事に取り組むしかあるまい。
その中の一枚。男子テニス部からの嘆願書を取り上げると、杉崎は溜息交じりに内容を読み上げる。
「『無我の境地に至りたいから、部費を増やせや、生徒会』ですって」
「無我の境地って経済的に辿り着けるものなのかしら」
「むしろ金掛けるよりは姉さんに調教してもらった方が断然早いと思うけど」
「いやその考えはおかしいし、何よりアンタみたいな変態を生む結果にしかなからないから迅速かつ確実に別の意見を考えてください」
「うぅ、杉崎がなんかいつもに比べて厳しいよ真冬ちゃん」
「自業自得じゃないですか」
結局真冬ちゃんも冷たかった件について。
まぁそんな戯言は置いといて、目の前に散らばる嘆願書は程度に差はあれどどれも酷いものばかりだ。今姉さんが見ている男子バスケ部の嘆願書は某スラムダ○ク的名言を書き殴っているだけだし、深夏が持っている野球部に至ってはタ○チの台詞を丸パクリしている。この学園の生徒達は嘆願書の存在意義を少々勘違いしているのではないだろうか。一応進学校なんだからもう少し考えろよ部活生。
生徒会室に溜息が充満する中、俺は嘆願書の山の中から適当に一枚取り上げる。
「サッカー部のご要望。『桐島、部活やめるってよ』」
「勝手にやめなさいよぉおおおおおおおおおお!!」
「うわぁ! だ、ダメですよ会長さん! 嘆願書破っちゃ!」
「いいのよ! こんなふざけた要望書くような輩の嘆願書なんて、燃やしてしまえばいいんだわ!」
「いや、それは生徒会長としてどうなんだ」
明らかにボケを狙ってきている内容にとうとう堪忍袋の緒が断裂した桜野が奇声を上げながら嘆願書を両手で粉微塵に破っていく。無数の紙片となって宙を舞う嘆願書のなれの果てに真冬ちゃんが「あぁ……」と額に手を当てて良心の呵責と戦っていたが、俺を含む他のメンバーが桜野を止めることはなかった。正直に言って、俺達自身も桜野と同じ意見だったからだ。
部活動の予算に関しては、年度初めに各部長と生徒会が話し合って決定した。教師立会いの下双方同意のまま無事に会議は終了したはずなのだが、いざ年度が始まってみると次々と届く嘆願書の山。中には至極真っ当な理由から部費の増額を要望してくる部活動もあるが、大半は先程のようなふざけ半分の内容である。ウケを狙っているのかは知らないが、処理する立場から言わせてもらうと迷惑でしかない。
俺と同じようなことでも考えていたのか、杉崎は大きく肩を竦めると運動部の嘆願書を眺めていた深夏に話しかける。
「ちなみに、そっちはどんなのが来ていたんだ?」
「バドミントン部。『翼をください』!」
「羽で我慢しろ!」
「ラクロス部。『猫を追いかけさせてください』」
「耳をすませばいいんじゃないかな!」
「空手部。『女子部員を入れてください』」
「切実! そして下心が見え見えだぞ格闘家達よ!」
「調教部。『蝋燭の在庫が切れたんで補充したいです』」
「誰だこんな物騒な部活作ったのは!」
「どう考えても私の親友二人だと思うのだけど」
「紅葉先輩方……」
「ちょっと待ちなさい! 勝手に決めつけないでもらえるかしら!」
「俺達がその部活を立ち上げた証拠は? 言ってみろ!」
『この名前と活動内容が紛れもない物的証拠だろうが』
『その通りですごめんなさい』
大人しく頭を下げる。くそ、まさか適当に立ち上げた調教部がしっかり活動しているとは思いもしなかった。ていうかあの清楚で気弱な真冬ちゃんでさえも冷徹な視線で俺を睨んでいたという事実が非常に気まずい。普段大人しい人が怒りを視線に乗せて睨みつけてくるなんて……御馳走様です!
そんな絶賛女王様モードだった真冬ちゃんだが、呆れた様子で鼻を鳴らすと手元に積まれた文化部の嘆願書を読み上げていく。
「ぶ、文化部も結構酷い内容のものが来ていますね」
「知り合いの顔ぶれからして嫌な予感しかしないんだが……」
「化学部。『僕の爬虫類コレクションを学校内に放ってもいいかな?』」
「放った瞬間そいつら全部動物園にぶち込んでやる」
「料理部。『カツ丼を食べても口から光線が出ないのですが』」
「ミスター味○子か!」
「そして例の新聞部ですが……『雑用として紅葉蓮を寄越せ』と端的に命令が来ています」
「蓮さん送りつけるだけでいいなら許可だろ」
「待てい。さらっと俺を新聞部に渡すな深夏よ」
「でも嘆願書は尊重しないとですよ、蓮さん」
「目の前に嘆願書破り捨てた最高権力者がいるんだが」
「いいじゃない、蓮。マゾなんだから雑用大好きでしょ?」
「それは偏見だ!」
「承認、っと」
「知らぬ間に判子押されたぁああああああ!!」
「これ採用で職員室に回しといて」「了解です」何やら会長と副会長によって無理矢理気味に俺の新聞部配属が決定しているが、これはいわゆるパワハラとかいうやつではないだろうか。主張云々全部無視のクセして俺が被害を受ける内容の嘆願書だけはしっかり承認する我らが会長の優しさと気遣いに怒りの地団太が止まらない。このまま貧乏ゆすりで生徒会室の床を抜いてやろうか。
「(ドンドンドンドンドンドンドンドン!!)」
「騒がしい! 落ち着きのない小学生かアンタは!」
「すまんすまん。ちょっとマナーモードだったわ」
「携帯電話のバイブレーション!?」
「いや、俺自身がマナーモード」
「傍迷惑な! せめて揺れるだけにしなさいよ!」
「揺れてたじゃねぇか」
「足踏みは違うでしょ!」
「……揺れるような胸も持ってねぇ奴が何を偉そうに」
「むきー! 聞こえてんのよこのマゾ蓮!」
「最高の褒め言葉だ!」
「あぁもう、相手が悪すぎる!」
俺が織りなす屁理屈の戦慄に頭を抱える桜野くりむ十八歳。そもそも口八丁な俺を相手にして口論で勝利できると思っているのが浅はかでしかないのだが、馬鹿正直に真正面から勝負を挑んでくるこのお子様生徒会長は本当に単純だなぁと常々思う俺である。「うぁーっ!」と絶賛絶叫中の親友を微笑ましい表情で眺めている我が双子の姉もおそらく同じことを思っているのだろう。
新聞部を皮切りに文化部の嘆願書が次々と読み上げられていくが、その内容はどれも酷い有様だ。あまりの惨状に全員が溜息をつく中、杉崎が思わずと言った様子で呆れたように言葉を漏らす。
「碧陽学園の部活腐敗はどこまで末期なんだよ……」
「キー君が溜息をつくなんて、よっぽどのことよね」
「その言い草は大層遺憾でありますが、まぁいいでしょう。ところで知弦さんは部活やってませんけど、入りたい部活動なんて言うのは心当たりないんですか?」
「私? 私はあまり特定の趣味を続けようとかは思っていないから、あまりないわね」
「紅葉先輩なら、文芸部なんてお似合いだと思いますけど」
「文芸部はねぇ……弟分みたいな存在が所属しているけれど、結構な惨状らしいわよ?」
「嘆願書には『世界の真理を手に入れたいです』とか書かれているな。大丈夫か
「弟分って、水無月君のことだったのですね……」
まぁアイツなら余程のことがない限り大丈夫だとは思うが。
「そういえばアレね。今思いついたんだけど、心当たりならないこともないわ」
「へぇ。知弦さんの入りたい部活って、興味あるぜ」
「えっとね……SM倶楽部なんていいと思うの」
「なんですかそのすすき野辺りにありそうな組織は」
「S行為をして、なおかつ部費までもらえるなんて……もう至福よね。人生最大の充足感を得られるかもしれないわ」
「あなた達調教部はどうなったのよ! そっちでいいじゃない! いや、よくはないけど!」
「それってマゾの方でも入部可能だよな?」
「蓮さんまで食いつかないでくださいよ話が拗れる!」
「姉さんが鞭を振って、俺が叫んで、なおかつお金まで貰える。完璧じゃないか!」
「アンタら姉弟は本当に問題児ね!」
「あら、だって私達の将来の夢は女王様と奴隷ですもの」
「碧陽学園二大秀才がとんでもない二大変態に進化してやがる!」
「つーかそれならホント調教部に入ればいいじゃねぇか!」
頬を赤らめて倶楽部での活動を妄想する俺と姉さんの姿に生徒会メンバーが露骨に戦慄の表情を浮かべているが、この顔ぶれに変態呼ばわりされるのだけは極めて遺憾だ。そもそもマトモな人材がいない以上この生徒会は例外なく変態の集まりであり、俺達だけ変態扱いされるのは納得がいかない。
そういうわけで、深夏にも話を振ってみよう。
「深夏は入りたい部活なんて無いのか?」
「そうだなぁ……あたしも特定の趣味ないし、できるなら色々なスポーツを好きな時にしたい感じだし」
「お姉ちゃんは運動部の助っ人でいっつも活躍しているもんね」
「あたし的にはあれくらいで丁度いいくらいだよ」
「その運動には性的な意味も含まれるのか?」
「ぶはっ! ふ、含まれねーよ! いきなり何言ってんだ蓮さんは!」
「いや、だってさ。やっぱり人類にとって一番重要な運動っていうのは性的繁殖なわけだしさ」
「意味わかんねーから! 別にそこまで重要視するもんでもねーだろ!」
「見ろよ。杉崎なんて今の話を聞いて深夏をベッドまで追い込む作戦を立て始めているぜ?」
「何やってんだこのエロ魔人!」
怒り心頭な様子で杉崎からノートを奪うと、憤怒の形相で八つ裂き。そのままゴミ箱へ勢いよくダンクシュートを披露する深夏。
「あらあら、キー君大号泣ね」
「男の涙安すぎねぇか!?」
長机に顔を伏せて大声あげて泣いている男子役員その1。相変わらずエロが絡むと凄まじい行動力を披露するな杉崎は。そこら辺は見習いたいところだ。行動目的が心底しょうもないという欠点もあるけれど。
意外にも泣いてしまうとは思っていなかったのか慌てた様子で杉崎を慰め始めた深夏を尻目に、俺は隣の席で真面目に嘆願書に目を通していた真冬ちゃんに話しかける。
「真冬ちゃんはやっぱりゲーム部に入ってるの?」
「あ、はい。そうですね。真冬はゲーム部員です」
「ちょっと待とうか真冬ちゃん。なんで君はそんな学校の目を盗んで発足したとしか思えない集団の一員にしれっと仲間入りしているのかな?」
「いやぁ、でもですね……真冬はただの会計ですし」
「生徒会の財布を握っているくせによくもまぁぬけぬけと!」
「……てへっ♪」
「でも可愛いから許す!」
『それでいいのか生徒会副会長!』
今日も杉崎の脳内はパーフェクトに桃色だった。
しかしまぁ、昔から薄々勘付いてはいたが、さすがにこの腐敗っぷりは酷いなぁ。文化部然り運動部然り、生徒達それぞれが個性的すぎるから、各々が奇天烈な要望を生徒会に送り付けている。田中部とかセレ部とか、空を飛部なんていうお遊び部活動なんかはもちろん論外だけれども、それらを抜きにしてもこの嘆願書の内容は酷いの一言に尽きた。生徒会も仕事せずに放課後駄弁っているだけだから文句は言えない立場かもしれないけれど、学校から部費とかいう資金をもらっていないだけマシと言えよう。……まぁ、仕事しない生徒会に存在価値はあるのかと言われればそれまでだが。
逆にこういう状況下でしっかり成績を残している新聞部なんかが要望しているのを見ると複雑な気持ちにもなる。幸い藤堂がアホだったおかげで馬鹿らしい(俺自身には被害あり)要望で終わっているが、これが普通の部活動らしい内容だったならおそらく優先的に嘆願書を処理することになっていただろう。他の部活動が酷過ぎるとはいえ、結果を残しているからと言って新聞部を優先すれば生徒達の不満も募るだろうし。
結果的に言って、面倒くさいの一言だ。
おそらくこういう不真面目な要望に対して一番怒りを覚えているのは桜野くりむだろう。変な部分無駄に生真面目で頑固な彼女の事だ。今頃頭の中は灼熱地獄かもしれない。現に彼女の方に視線をやれば、椅子と共に身体をカタカタ揺らして苛立ちを隠そうともしない。
そして、とうとう堪忍袋の緒が切れたのか。桜野はバン! っと長机を叩いて立ち上がると、右手を握って天井に突き上げて、
「こうなったら、あまりにも酷い部活動は生徒会権限で一斉に廃部にするわっ!」
誰もが恐れていた、そんな宣言を堂々と言い放つのだった。
次回もお楽しみに!