生徒会の一存~もう一人の優良枠~   作:ふゆい

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 生徒会というか、新聞部部長というか。


動き出す生徒会

 紅葉蓮とデートをすることになった。

 

(って、結構冷静に言ってますけど実際にこの場に立ってみると凄まじいくらいに緊張が止まらないですわぁあああああ!!)

「馬鹿みたいに頭抱えてどうした藤堂」

「なんでもないから少し黙りなさいこのマゾヒスト!」

「急に酷ぇ!」

 

 「なんだよ……」と少し不貞腐れた様子で口を尖らせる親友を尻目に、私は心の内から迫りくる羞恥心及び歓喜と盛大に火花を散らしていた。

 生徒会に送り付けた我儘満載の嘆願書。ほとんど自立して活動できている新聞部じゃマトモに使う機会もないから冗談半分に紅葉蓮を要求したわけなのだけれど、碧陽学園生徒会は私が思っていた以上に相当の馬鹿が揃っていたらしい。却下されるとタカを括っていた私の前に実の弟を担いだ紅葉知弦が現れた時は割と全力で焦ったのは記憶に新しいことだ。「貴女になら任せても良いわね」とか聞く人によっては勘違いを招きかねない発言を残して部室を去ったのだが……彼女はいったいどういう意図であぁ言ったのだろうか。誤解してもいいのならそれに越したことはないのだけれど。

 先程の罵倒に悪態をつきながらも、どこか恍惚とした表情を浮かべている真性のマゾ男をちらりと見やる。

 碧陽学園に入学したばかりの頃は、まだ普通の男子学生だった。少しばかり姉に対して依存が強いだけの、どこにでもいるような高校生。マゾの片鱗はあったものの、クラスの中心としていつも笑顔で周囲を明るくしていたムードメイカー。二年生に進級して生徒会入りするために猛勉強を始めた時も、彼は私達と接するときには絶えず笑顔を向け続けてくれた。自分も辛いだろうに、それをおくびにも出さずに。

 この男性は、なんでこんなにも強いのだろう。

 彼と関わっていく内に、私はいつしかそんなことを思っていたのだ。

 

「どうしたよ藤堂。さっきからずっと黙りこくってるじゃないか」

「昨年以前の貴方と現在の貴方を比べて幻滅している最中ですのよ……」

「おいこら。どういう意味だよそれは」

「額面通りの意味ですがそれが何か?」

「なんか今日は俺に対して辛辣じゃありませんかねぇ! お前が嘆願書出したくせに嫌か! 俺と出かけるの嫌なのか!?」

「そ、そんなわけありませんわ! 私はいつだって紅葉蓮と一緒にいたいと思っておりますのよ!?」

「っ……!?」

「あっ……」

 

 失言した、とは瞬時に思った。私の告白に対する返事を保留していることに引け目を感じている彼に対して、致命的とも言える台詞をぶつけてしまった、と。

 言葉を詰まらせて黙ったままの彼の顔を、おそるおそる覗き込む。

 

(あ……)

 

 思わず目を丸くする。

 頬を微かに赤く染め、子供のようにそっぽを向きながらもちらちらと私の方に視線を飛ばしている天邪鬼な彼の様子が、普段の大人ぶった態度からはあまりにも想像できなくて。そして、彼は彼で私を意識してくれているのだということを真正面から感じて。罵倒し合い、互いの傷を舐め合う負け犬根性丸出しな私達でも、互いに対してそれなりに特別な感情を抱いているのだということを再認識して。

 紅葉蓮が恥ずかしそうに口を噤んでいるのを目の当たりにして、私もなんだか恥ずかしくなってしまう。

 

「な、何を真剣に捉えておりますの! じ、冗談ですわ! イッツアリリシアンジョーク!」

「ば、バッカじゃねぇの!? べ、別に真面目に捉えてなんかねーし! 分かってましたよ? 蓮さん最初から分かってましたよー!」

「そ、そうですわ! 今回の放課後ショッピングだって校内新聞のネタ取材のためなのですから、変に深読みしてドギマギする必要はありませんのよ! お、オーッホッホッホ!」

「だ、だよなー! あっはっはー!」

 

 明らかに不自然な高笑いを大空に放ちつつ、肩を組んで歩いていく馬鹿みたいな私達。先程から傍を通り過ぎていくご近所様方の視線が異様に痛いのだけれど、これはヤケクソが極まった末の行動なので今更どうしようもない。大人しく井戸端会議のネタにされようと開き直る私である。帰ったらまた世話役のメイドにからかわれるのだろうが……そこはまぁ、仕方がない。

 ひとしきり笑い終えると逆に色々な邪念が吹き飛んだのか、紅葉蓮は直前とは打って変わって満面の笑みを浮かべると子供のような弾んだ声で意気揚々と言い放つ。

 

「そんじゃあ早く行くか! その取材とやらにさ!」

「……え、えぇ! そうですわね!」

「よっしゃぁー! 遊ぶぜー。じゃんじゃん遊ぶぜー! 付き合えよ、藤堂!」

「勿論ですわ! 私の財力を甘く見ていると、遊び死にしますわよ!」

「なんだよそれ、最高だな!」

 

 一周回って気が狂ったのではないかと錯覚するほどに無理矢理気味なハイテンションで通りを走る私と紅葉蓮。……うん。やはり私達の関係はこうでないといけない。変に考え込んで、気を遣いあうなんて親友のやる事ではないのだ。もっと素直に、笑顔で馬鹿をやっていくべきだと思う。

 紫陽花が咲く路地を走っていく彼の背中を追いかけながら、私はおそらく今年最高の笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

                ☆

 

 

 

 

 

 そして現在、私は独りで迷子センターにいた。

 

「これは……どういう状況ですの!」

 

 両手を握って天に突き上げながら腹の底から怒りの声を上げる。唐突に大声を出した私に驚いた迷子仲間達(幼稚園生)がびくっと肩を震わせて目の端に涙を浮かべ始めたために慌てて積み木遊びを再開しつつ、頭の隅で同行者に対して呪詛を呟き始める私。

 おかしい。私は今日紅葉蓮と二人で駅前に出かけ、ショッピングや食事を楽しみながら距離を縮めているはずではなかったか。そしてあわよくば別れ際にせ……接吻、などという崇高な行いをまっとうしようと決意したはずだ。私なりに勇気を出してデートに誘ったはずの今、私は何故迷子センターで幼稚園生達を相手に年甲斐もなく積み木遊びに精を出しているのだろう。

 

「お姉ちゃんも迷子なのー?」

「ち、違いますわよ! 私はただ、迷子になったあのバカマゾヒストをここで待っているだけですわ!」

「迷子になった人はみんなそう言うんだよねー」

「だまらっしゃい!」

 

 へっ、とあからさまに大人ぶった笑いで高校生を小馬鹿にしてくるクソガキに割と真剣にキレる十八歳。エリスという可愛い可愛い妹を持つ私は年下に対してはそれなりの寛容さを持ち合わせていたはずなのだが、なぜだろうか、紅葉蓮と関わり始めてからどこか言動の端々に幼さが垣間見られるようになってきたのは。最近例のメイドにも「女の子らしくなってきましたね」とか馬鹿にされる始末だし、自分が思っている方向と真逆に成長している気がしてならない。……って!

 

「す、スカートを捲るんじゃありませんのこのガキ!」

「うわっ、すっげぇ派手なパンツ! へんたいだー!」

「へっ、変態なんかじゃありませんわ! イマドキのレディーならばこれくらいは当然の嗜み……」

「こんなガサツなレディーいねーよー」

「こんのクソガキャァアアアア!!」

「うわー! 金髪のお姉ちゃんがキレたぁあああ!!」

 

 乙女の聖域を汚した命知らずの常識知らずを両手で持ち上げると、頭上でぐるぐると振り回して制裁を加える。運動不足の身としては幼稚園生と言えど腕に負担が来るのだが、そんなことを言っている場合ではない。どこぞの副会長に通ずる変態性を持ち合わせているこの変態坊やを野放しにしておいては日本の未来の為にならない。ここで修正しておく義務が、私にはある!

 

「その腐ったエロ根性を叩き直してやる、ですわっ!」

「姉ちゃんあんまし暴れるとパンツ見えるぞー?」

「っ……!?」

「あ、座った」

「うるさい!」

 

 怒れるリリシア終了のお知らせ。

 ……うん。自分でも何やってんだろうとは思うこの状況。若干六歳メンバーの中で何一つ違和感なく溶け込めている状況が芳しくないことは明らかの上に、手玉に取られている情けない事実。紅葉蓮に見られたら爆笑されること間違いなしの光景に自分でも恥ずかしくなって涙目になる。うぅ、なにやっているの私……。

 ニヤニヤ笑いを続ける男の子を赤面涙目で睨みつける高校生と言う特異な方々が見れば興奮ものである状況に置かれてどうしようもない中、そんな私を救ってくれたのは思いもよらない方向から飛んできた女の人の注意だった。

 

「こーらたっくん。あんまりお姉ちゃん虐めちゃだめよ?」

「い、いじめてなんかねーし! カナデ姉ちゃん変なことゆーなよな!」

「はいはい。強がりは良いからさっさとみかちゃん達の面倒見てきなさい。伯父さん達が来るまでちゃんとお手伝いできたら、なんでも好きなもの買ってあげるから」

「マジで!? 約束だぞねーちゃん!」

 

 先程までアナウンスで迷子のお知らせを繰り返していた係員のお姉さんに諭されて顔を真っ赤にしながらも同年代の子達へと駆け寄っていくたっくん。どうやら彼は迷子ではなくお姉さんの親戚の子であるようで、一時的に預かってもらってる立場であるようだ。

 

「大丈夫? ごめんね、ウチの子が迷惑かけたみたいで」

「あ、いえ……こちらこそ、ありがとうございますわ……」

 

 苦笑交じりに謝罪の言葉を口にする係員のお姉さん。カールのかかった焦げ茶色のボブカットに、整った顔立ち。女性にしては長身な背からどこか紅葉知弦を連想させる。落ち着いた雰囲気と大人びた風貌が自分にはない魅力を感じさせて、気がつくと私は彼女に目を奪われていた。別に同性愛の気があるわけではないが、女性の自分から見ても綺麗だと断言できる容姿に軽く見惚れてしまう。

 

「それで、どうして迷子になったのかな? 大きな迷子ちゃん?」

「うっ……十八歳に迷子ちゃんは精神的にクるものがあるのですけれど……」

「大丈夫よ。世の中には赤ちゃんの格好をして女性に世話をしてもらうことが大好きな大人だっているのだから」

「それはおそらく限られた性癖をもつ紳士方の話ですわ!」

「幼児退行って、様式美よね」

「何の!?」

「好きだった幼馴染がひょんなことから記憶を失くして、自分の都合がいいように記憶を刷り込んでいくときの気持ちよさと言ったら……ねぇ?」

「ウチの生徒会役員に通ずる何かを感じますわぁあああああ!!」

 

 容姿だけで人を判断してはいけないとは良く言われるが、目の前の女性は誰よりもその格言に当てはめるべき人間だと思う。言葉の端々からサディズム感がひしひしと伝わってくるし、ヤンデレ度を測定すればおそらくは上限いっぱいにあてはまるだろう。先程の幼馴染発言をした時の目がギャグのそれではなかったことが何よりの証拠だ。なんですのこの人。過去に幼馴染を洗脳したことでもおありですの?

 

「藤堂リリシアちゃん、だったわね?」

「は、はいぃっ!」

「……なんでそんな怯えた声で返事するのよ」

「や、だってぇ……」

 

 無理もない。そんな露骨に傷ついた顔で言われても今のは無理もないと思われるのですわよお姉さん。

 何を考えているのか分からないヤンデレ女を前にして正気で返答できる図太い人間なんて生徒会役員くらいしか見たことが無い。特にあのマゾヒストならば喜んで飛びつくだろうが、私はゴシップ好きなただの一般高校生だ。特に変な性癖を持つわけでもない常識人にとって、ヤンデレ女性は恐怖の対象でしかない。

 肉食動物に追い詰められた小動物のように身を震わせる私にようやくやりすぎた感を覚えたのか、少々気まずそうに頬を掻くと「あはは」と乾いた笑いを浮かべる。

 

「ごめんごめん。ちょっとふざけすぎちゃったわね」

「じょ、冗談には思えなかったのですけど……」

「まっさかぁ、さすがの私もそんな犯罪一歩手前の行為に走ったりはしないわよぉ」

「そ、そうですわよね。さすがにそんなことは……」

「せいぜい、スクールデ○ズ的な展開くらいしか興味ないから♪」

「ヤンデレですわぁあああ!!」

「あ、後は未来○記? ひぐらしの○く頃にも好きね!」

「もはや言い逃れする気もないですわこの人! ヤンデレ! 紛うことなきヤンデレですのよぉおおお!!」

「失礼しちゃうなぁ。この宮代奏を捕まえてあろうことかヤンデレだなんて」

「いや、反論の余地はないと思うのですが……って、え?」

 

 今、何か引っかかった。

 直前に放たれた台詞の中に、聞き捨てならない名前があった気がして、思考が一瞬止まる。まさか、いや、そんなわけ……でも……。

 嫌な予感に全身を支配されながら、私は恐る恐る彼女の名前を問う。

 

「申し訳ありません。失礼ですが、貴女の名前は……?」

「うん? あ、そういえばまだ名乗っていなかったわね。ごめんごめん」

 

 にへらっと表情を崩して笑う彼女。だが、おそらくは彼女のことを人伝いで知っている私はそんな笑顔でさえも鬱屈したものに見えてしまい、頬を引き攣らせてしまう。笑顔を、返すことができない。

 そんな私の心境をまったく知らないであろう彼女は笑顔を浮かべたまま、何もかもを見通していそうな亜麻色の瞳で私を見つめつつ、確かにこう名乗った。

 

「宮代奏。貴女の学校で生徒会書記をやっている紅葉蓮の幼馴染よ」

 

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