生徒会の一存~もう一人の優良枠~   作:ふゆい

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 後半、形式上すごくダレてるのでご了承くだせぇ……。


知らされる生徒会

 更衣室を出て、私達が向かったのは迷子センター近くにある有名な某喫茶店。中に入るや否や、コーヒーの独特な香りが鼻孔を擽る。

 店員さんに促され、窓際のテーブル席に案内された私達。とりあえず椅子に腰を下ろすと、見慣れない風景に若干視線を泳がせる。普段あまりこういった施設を利用しないから、新鮮な環境にやや緊張感に包まれてしまう。借りてきた猫のように縮こまっている私に何かを察したのか、宮代奏は軽く微笑むと口の端を吊り上げた。

 

「もしかして、こういう場所は初めて?」

「う、うぐ……」

「見た感じお嬢様っぽいからそうだとは思ったけど、イマドキ本当にいるのねぇ」

「は、恥ずかしながら、こういったショッピングモールに来ることすらほとんど初めてなのですわ……」

「通りで迷子になるわけだわ。その歳で箱入り状態だったらそりゃあ好奇心旺盛にもなるわよね」

「は、恥ずかしいですの……」

「いーじゃない可愛い可愛い。それじゃあ今回は私が注文してくるから、お姫様は大人しく座ってなさいな」

「か、可愛いって……い、いや! 私も手伝――――!」

「いいからいいから♪」

 

 そう言うと私を置いたまま、店内カウンターの方へと歩いて行ってしまう宮代奏。おそらくはあのカウンターで注文を行うのだろう。ニコニコと微笑む店員さんに向けて慣れた様子で注文を行っていく彼女の姿が遠目に確認できる。そこまで大声を出しているわけではないのだろうが、静かな落ち着いた雰囲気の店内であるせいか注文の声がここまで届いてきた。

 

「えーっと。じゃあとりあえずこのトールアイスライトアイスエクストラミルクラテを一つと、グランデノンファットミルクノンホイップチョコチップバニラクリームフラペチーノを一つお願いします」

「畏まりました。トールアイスライトアイスエクストラミルクラテをお一つとグランデノンファットミルクノンホイップチョコチップバニラクリームフラペチーノをお一つですね? 完成次第お隣のカウンターでお渡しいたしますので、少々お待ちください」

(全然かしこまりませんですわぁ!?)

 

 聞こえてきたカタカナの羅列に自らの聴覚を割とガチな方向で疑う。え、え? 呪文? 魔法の呪文ですの? ここはもしかすると喫茶店ではなくて異世界からチェーン展開されたマジックショップとかそういう類のお店でしたの!? 

 その商品名とは思えないあまりにも長ったらしい詠唱を前にして庶民の喫茶店という施設への認識が私の中で大きく揺らぎ始める中、宮代奏は先程注文したらしいとーるなんちゃらとぐらんでなんちゃらを両手に持ってテーブルへと戻ってきていた。どうやら完成したらしい。

 冷や汗を流し口元を引き攣らせている私を不審に思ったのか、彼女は少し首を傾げると、

 

「なんか異世界に迷い込んだ転生主人公みたいな表情になってるけど、大丈夫?」

「そのたとえはイマイチよく分かりませんが、大丈夫なような大丈夫ではないような」

「どっちなのよ」

「とりあえずここが現実世界とは隔絶された剣と魔法の入り乱れる異世界だという認識は大丈夫ですわ」

「ぜんっぜん大丈夫じゃないじゃない! 本当に転生したみたいになってるわよ!?」

「安心してくださいませ。生きてますわよ?」

「目が死んでるー!!」

 

 お互いにドタバタ騒ぎを数分程続けながらも、周囲から向けられる奇異の視線に気が付いた私達は恥ずかしさのあまりに無言で席に座る。少々箱入りを拗らせてしまったらしい私としては羞恥心の極みなのだが、そんな浮世離れした私の様子に、宮代奏はやや苦笑が混ざったように表情を綻ばせた。

 

「ふふっ。レンから話だけは聞いていたけれど、思った以上に面白い人ね。リリシアさん」

「あ、あの……さっきから疑問なのですけれど、もしかして私の事、知ってらっしゃいますの?」

 

 今の台詞といい、迷子センターでの言葉といい、どうにも私の事を知っているような口ぶりで話している宮代奏。最初名乗った時は初対面のような雰囲気だったのに……もしかしてわざと知らないふりをしていたのだろうか。何か、彼女なりに思う部分があって。

 私の質問に宮代奏は少々驚いたように目を見張ったが、どこか観念したように溜息をつくと目の前のミルクラテを一口煽った。

 

「ご明察。貴女の事はね、元々レンから聞かされていたわ。とっても面白い親友がいるって」

「し、親友……」

 

 別段マイナスな表現ではないはずなのだが、【親友】という枠組みに入れられていることに少々傷ついてしまう。そんな枠に入れられてしまっては、彼と恋仲になれる可能性がまったくゼロになってしまうではないかとよからぬ心配が浮かび上がる。ただでさえ告白の返事を先延ばしにされているのに、これ以上私の気持ちを否定するような考えを抱いてはいけないのに。

 無意識に、膝の上に置いた拳を握り込む。そんなことを考えていたら、何故だか目の奥が熱くなってきた。駄目、こんなことでいちいち涙を流しては――――

 だが、そんな私の葛藤は、宮代奏が放った一言によって一気に霧散することになる。

 私の変化を悟ってか、彼女はやや焦ったように、こんな事を言ったのだ。

 

「あー、なんか勘違いしているようだから一応言っておくけど……あの子、たぶんリリシアさんのこと大好きよ?」

「…………は?」

「いや、だから……レンは、貴女の事を一人の女性として好いていると思うわよ?」

「……はいぃ!?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げる。話の流れが分からない。私は彼に告白の返事を先延ばしにされていて、桜野くりむの想いにもあえて答えていなくて、それなのに紅葉蓮が本当は私の事を好き? 筋が通ってなさすぎて、頭の理解が追い付かない。だったら、何故彼は私の気持ちにすぐにでも応えてくれないのだろうか。

 理解ができない紅葉蓮の行動に首を捻る。私の気持ちを組んだのだろう、宮代奏は「わかるわかる」と言わんばかりにうんうんと何度も頷いていた。

 

「レンは昔から何事においても考えすぎる節があってね。直感で行動すればいい部分でも無駄に考えて考えて、どんどん卑屈になっていっちゃうのよ。リリシアさんの件に関して言えば、『こんな俺が藤堂からの好意を受け取っていい訳がない』かしらね」

「卑屈になる、ですの……?」

「そ。まぁそれについては私にも非があるのだけれど……ようするに、馬鹿なのよ、あの子は」

 

 困ったような、それでいてどこか懐かしそうな。様々な感情が入り混じった表情で、まるで昔を思い出すかのように話す彼女。彼女の話し方、態度だけで、宮代奏が紅葉蓮のことを好いているのが感じられる。そして、かつては相当に仲が良かったのだろうことも。

 ここまでの仲でありながら、どうして。どうして彼らは、彼女らは、道を違えてしまったのだろうか。

 黙り込んだ私の内心を悟ったのだろう。少し驚いた顔をしながらも、一度ドリンクで喉を潤すと、先程までとは違う、明らかに真面目な表情、雰囲気で、口を開く。

 

「じゃあ……話しましょうか。私とレンに、かつて何があったのかを」

 

 凄まじい緊張感に喉を鳴らす私と共に、彼女の独白が始まった。

 

 

 

 

 

                ☆

 

 

 

 

 

 私はね、親から虐待を受けていたの。

 

 ……いえ、虐待を受けていたっていうのは、最近自覚したのよ。あの時の私は、親から受けた暴力の数々を虐待だとは思っていなかったし、そのすべてを愛情の一種だと勘違いしていた。普通に考えれば有り得ない話なんだけど、昔の私には、その行為全てを愛情だと思い込まざるを得なかった。だってそうでしょう? 親から虐待を受けているなんて、信じたくないじゃない。これも愛だ、愛情だと思わなければ、心が壊れていたはず。もしかしたら、もうとっくの昔に私の心は砕けていたのかもしれないけれど。

 それでね? レンとアカちゃんと……貴女の学校で風紀委員長をやっている雲雀は、幼稚園からの幼馴染だった。後一人、年下のヒロがいたけれど、それはまぁいいわ。レンはね、いつも傷だらけの私を心配して、友達になってくれたの。もしかしたら、私が虐められていると勘違いしたのかもしれない。彼は優しいから、私みたいな人を見過ごせなかったんでしょう。

 

 彼はいつも私の傍にいてくれた。小学生になって周りからからかわれても、中学生になって異性として意識し始めても、ずっと隣にいてくれた。その頃には私が傷だらけの理由も薄々勘付いていたみたいだったけれど、余計な詮索をすることもなく、親友として過ごしていたわ。

 

 そしてある日、私はレンに告白された。

 

 嬉しいというよりは、当然かという気持ちが湧いていたかしら。何年も親友として過ごしてきた私達は、周囲から見れば付き合っていないということがそもそも異様だった。私自身も、今までの関係の延長線上としかとらえていなかったわ。私達が付き合うことにアカちゃんも賛成してくれたし、何一つ障害はなかった。

 ……でもね、私が幸せを掴んだことを知った両親は激怒したわ。

 その頃、パパ達の夫婦仲は酷いの一言に尽きた。パパの会社が倒産して、毎日夫婦喧嘩。離婚の話題もちょくちょく出ていたかしらね。一触即発と言っていい関係にまで冷え込んだ二人にとって、自分達を差し置いて一人で幸せになろうとしている私は裏切り者に見えたんじゃないかしら。

 虐待はさらに酷くなっていったわ。日に日に痣も増えて、化粧だけじゃ誤魔化せなくなるほどに。当然レンには心配されたんだけど、私はなんでもない風を装った。心のどこかでまだ、この痣は彼らからの愛情の証だって信じていたのよ。馬鹿みたいだけれど。

 でもね? 私はやっぱり幸せだった。たとえレンを騙していたとしても、彼との日々はかけがえのないものだったから。私が我慢していれば、この幸せな時間を奪われることはないはずだから。それだけが心の支えで、私の糧で……楔だった。

 だけど、そんな嘘だらけの生活はすぐに崩壊してしまう。所詮中学生でしかない私達の虚勢は、ちょっとしたことで崩れてしまった。

 

 パパが、私の腕を折ったの。

 

 勢いだった、とは思うわ。いつもの虐待の末に、今までの鬱憤が爆発してしまったんでしょう。普段は素手での暴行だけだったのに、その時だけはエスカレート。たまたま居間に置いてあったゴルフクラブで、パパは私の腕を殴りつけた。当然、マトモに鍛えてもいない私の腕はパッキリと。

 痛い、とか、苦しい、というよりも、どうしようっていう感情が真っ先に浮かんだ。さすがに骨折までは隠しきれない。今まで騙し騙しやってきたけれど、ただでさえ察しが良いあの姉弟を躱すことは不可能に等しい。本当はしばらく入院か何かして休めばよかったんだろうけど、ウチにはそんなお金はないし、なによりレンと会えないのは耐えられなかった。彼は、私の精神安定剤だったから。

 そこから先は、たぶん貴女が想像している通り。

 

 私の骨折を見たレンは、今までに見たことがないくらい激怒した。それはアカちゃんも雲雀も一緒で、彼らは私には理由を聞くこともなく怒っていた。レンに至っては手が付けられない程で、私の制止も振り切ってパパを殴りに行ったわ。私が家に辿り着いた時には、彼は馬乗りになってパパを殴り続けていた。十年以上一緒にいたけれど、彼があそこまで怒ったのを見たのは初めてだった。

 結果的に、私の両親は親権も放棄して離婚。今は伯父さんにお世話になっているわ。レンは一か月間の停学。その場にいたけど止めなかったアカちゃん達と私は厳重注意の処分。まぁ、当然と言えば当然の処罰だけれど、退学にならなかっただけマシだったんじゃないかな。まだ義務教育課程だったってこともあるんだろうけど。

 

 ……レンが私に負い目を感じているのは、私にとっては凄くしょうもない事。でも、それは彼にとっては大きなことらしい。

 

「好きな人の痛みを分かってやれず、守ることもできなかった自分が、他人を好きになる資格はない」

 

 馬鹿みたいだけど、そう言われたの。停学明けに、私はフラれた。気にしないでいいと言ったのに、彼は頑なに私を拒んだ。「俺は奏を幸せにはできない」って泣きながらね。そんなに辛いなら、ずっと一緒にいてくれればよかったのにって今でも思うわ。

 私と別れた後、彼はあからさまに私との交流を避けた。まるで、私の記憶から『紅葉蓮』という存在を消し去るかのように。レンは、私と関わるのをやめた。

 アカちゃんはずっと親友でいてくれたけど、レンに避けられる怒りから、私は彼女に危害を加えてしまった。それは俗にいうイジメと言って差し支えない行為で。彼との距離が離れるほどに、それは酷さを増していった。アカちゃんが抵抗しないことがさらに私の怒りを煽った。

 その行為は、まさにかつて私が受けていたものと似通っていたわ。愛情だと信じていたその行為は、どう贔屓目に見ても暴力でしかなかった。

 

 虚しかった。何もできない自分が、どうしようもなく嫌いだった。

 

 アカちゃんへのイジメは、私達が卒業するまで続いた。たぶん彼女とレンが碧陽学園に行ったのは、私と別の道を歩む為だったんじゃないかしら。真実は分からないけれど、ね。

 

 

 

 

 

 

 




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