変身する生徒会①
「団結力というものは、時に全ての悪を打破するのよ!」
超絶ロリ女子高生桜野くりむはいつものように絶壁の如き胸部をえへんと張ると、パクリ名言を堂々と言い放っていた。
今回の名言におそらく特定の人物が反応するだろうなぁ、と溜息をつきつつも、とりあえずは左側でうずうずしている副会長を牽制しつつ、先に発言を試みる。
「それを、団結力の欠片もないこの生徒会に要求するのは些か無理な話だと思うが……」
「生徒会役員当人がそんなこと言ってどーすんのよっ! 私達は常に一蓮托生、どんなときも協力して物事に取り組んでいかないと!」
「なるほど……ということは、俺が今体験したいことベスト10に入る『涙目のロリっ娘に股間を足蹴にされたい』という願いも、桜野は協力してくれるんだな? よしこい、カモォン!」
「どうしてそういう話になるのよ!? バッカじゃないの!?」
「でも、俺はお前になら何をされても良いと思っているぜ……(渾身のイケメンスマイル)」
「えっ……そ、そんな……皆も見ているんだし、リリシアにも悪いし……」
「いい加減落ち着きなさいそこの生徒会が誇る馬鹿二人」
『誰が馬鹿か!』
「貴方達よ」
見るものすべて……というか、主に藤堂と桜野を魅了する最大のイケメェンな笑顔で彼女を煽ってはみるものの、あと一押しというところで姉さんに止められてしまった。さすがは自称桜野の保護者。悪い虫が付こうとすると全力で排除しにかかるその精神は尊敬に値する。……藤堂に発破かけられて以来、彼女らの俺に対する反応が微妙に顕著になっているのは気のせいだろうか。確かに俺自身の気持ちで考えてみるとは言ったものの、ここまであからさまにされると少し照れる。
頬を軽く朱に染めて俺から視線を逸らすというあまりにもベッタベタな反応を見せた桜野になんかこう胸の高鳴りを覚える俺ではあったが、彼女の左右……正確には杉崎と姉さんから浴びせられる無言の視線に思わず生唾を呑み込んだ。あれは、やばい。マゾの俺がやばいと思うくらいの密度を持った殺意が向けられている。二人とも桜野ラヴだから、俺に好意が向けられているのが許せないらしかった。理不尽にも程がある。
俺の発言ですっかり逸れてしまった話題を逸らすべく、いつも通り苦労人杉崎が溜息交じりに口を開いた。
「それで、今日は確か、夏休み前の全校集会でやる生徒会の出し物の話し合いですよね。毎年恒例の……寸劇でしたっけ? その内容を決める会議だって聞きましたが」
「そう、なんだけど……ちょっとあんまり気が乗らないというか」
「生理ですか?」
「なんでよっ! なんで杉崎といい蓮といい、私に対してセクハラばっかりしてくるのよ! いい加減訴えても勝てるんじゃない!?」
「失敬な。俺をそこの性癖倒錯気味の被虐趣味者と一緒にしないでいただきたい! 失礼にも程がありますよ!」
「う。た、確かに、少し言い過ぎたかもだね……」
「おい」
杉崎の剣幕に思わず謝る桜野だが、そこで謝罪されると俺の立場がないことに気が付いてほしい。
申し訳なさげに杉崎を見る桜野。そんな彼女を愛おしげに見つめつつも、杉崎は胸を張って盛大にふんぞり返る。
「俺はあくまでも、会長のロリロリしい肢体をこれ以上ないくらいに視姦したうえで舐め回したいだけです!」
「なおのこと酷いじゃない! なに!? なんなの!? つい数秒前に抱いた杉崎への罪悪感を返してよ!」
「ロリが涙目で謝ってくるのって正直萌えますよね」
「分からないよ!」
『分かる』
「分かるな! 知弦と蓮は話がややこしくなるから黙ってて! 具体的には真冬ちゃんが体育の成績で5を取るまで!」
『半永久的に喋るなと!?』
「ちょっと! それはそれで真冬に失礼じゃありませんか先輩方!」
「いや、確かにそれはほぼ確実に無理だとは思う」
「お姉ちゃん!?」
何やら話の流れで特定の腐女子が胸を痛めていたが、俺達には関係のない話なので流しておこう。視界の右端で膝を抱えて死んだ魚みたいな目で俺を見てくるゾンビがいるようにも思えるが、ここで触れると面倒くさいことになるのは火を見るよりも明らかなので無視しておく。深夏がスルーを決め込んでいるから、おそらくはその対応が正しい。というか、実の姉にまで言われるって相当だぞ真冬ちゃん……。
落胆の境地から未だに返ってこない会計は置いといて、今回の議題に戻ろうと思う。
夏休み前の全校集会で生徒会が行う寸劇。かつての生徒会が「堅苦しいことばっかしなくてもよくね?」とかいう思い付きの元始めたのがきっかけとなっており、それ以降は後世の生徒会が流れで受け継いだ結果、伝統となってしまったものなのだ。正直な話、今年でやめていいと思うのだけれど……、
「美少女達がステージ上で脚光を浴びるまたとない機会を失くすなんて、そんなの絶対駄目ですよ!」
……とまぁ無類の女好きであるハーレム王が食い下がるので、仕方なく寸劇の内容を決める始末であった。まぁ確かに杉崎の言い分も分かる。俺だって、生徒会メンバーみたいな目を見張るほどの美少女達がスポットを浴びて活躍するのは見てみたいし、おそらくは碧陽学園の男子生徒ほぼ全員が同じ気持ちだろう。人気投票で決まったメンバーだけあって、それぞれの役員への固定ファンは多い。少々言い方は悪いが、娯楽的な意味で言うならばやった方が良いに決まっている。
だけど、杉崎はどうやら一つ勘違いをしているようだ。まったく同じ考えに至ったらしい深夏が、テンションアゲアゲな杉崎に対してあっけらかんと言い放つ。
「すげぇ盛り上がってるとこ悪いんだけどさ、鍵。お前も今年はあたし達と一緒にステージに立つ側だぜ? もちろん蓮さんも」
「…………ゑ?」
「まぁ、そうだろうなぁ」
「えぇえええええええっ!! そんなっ、聞いてねぇよそんなの!!」
「逆になんでお前は出なくていいと思ってたんだ……」
もっともな指摘をしながら頭を抱える副会長の片割れ。客側として彼女達の寸劇を楽しめないことが発覚した杉崎は見ているこっちが悲しくなるほどに落ち込んでいるが、どうしてそこに気が付かなかったのか理解に苦しむ俺である。お前も生徒会メンバーなんだから出るに決まってるだろ……。
あまりにも惨めで可哀想になってきたから、後で藤堂に録画のお願いでもしてやろう。代わりに何をやらされるか分かったものじゃないが……たまには数少ない男後輩に恩を売るのも悪くない。この借りはいつか十倍にして返してもらおう。
「それじゃあ演目を決めましょうか。意見のある人から挙手していってー」
「会長珍しいっすね。いつもなら自分からやりたいって言うくせに」
「台詞覚えるの苦手だからこういうのあんまりしたくないのよ」
「会長さん、そんなしょうもない理由でやる気失くすのはどうなのですか……」
「真冬ちゃんは前会長を知らないからそんなことが言えるのよ。無駄に真面目なあの人にどれだけこってり絞られたか……」
顔を真っ青にして身震いしている桜野の様子に、前会長を知る俺と深夏、そして姉さんはなんとも微妙な苦笑いを浮かべることしかできなかった。姫椿先輩は悪い人ではないのだけれど、どうにもあらゆることを淡々とそつなくこなす傾向があったため、あまり生真面目な雰囲気が得意ではない深夏や桜野は彼女の事を少々苦手としているらしい。生真面目というか、不器用というか……一生懸命さは伝わってきていたので、おそらく姫椿先輩も碧陽学園特有の残念さを持ち合わせていただけだと結論付けた。ウチにマトモなやつはいない。
閑話休題。桜野と姉さんは特にやりたいこともないようで、そうなると意見を出すのは男二人に椎名姉妹というラインナップになってしまう。自分で言うのもなんだが、まともな人選とは思えない。カオスになる予感がビンビンだぜ。
「それじゃあまずは杉崎から――――」
「俺と生徒会メンバーの蜜月な日々を描いたハーレムサクセスストーリーとかどうっすかね!」
「うん、なんかもう予想通り過ぎて驚きもないよね。あまりにも杉崎らしい答えだったから、もはや伝統芸だよね。でも却下」
「ひどい!」
まずどうしてその内容が女性多数の生徒会で可決されると思ったのか問い詰めたいところではある。
「次は真冬ちゃん――――」
「やはりここは生徒会が誇る二大男子、杉崎先輩と紅葉弟先輩の甘く切ないボーイズラブショートストーリーで行くべきだと真冬は思いますです! むっふぅー!」
「ボケが一辺倒すぎるよ! 真冬ちゃんまで杉崎側のボケをし始めたら、ツッコミの私はお腹いっぱいだよ! 『ファイナ〇ファンタジー風の冒険活劇やりましょう』とか言ってくれた方がまだ話題が広がったよ! そういう特定の少人数しか喜ばないようなコアなネタは却下! 駄目!」
「で、でもでもっ、会長さんだって紅葉弟先輩が顔を赤らめて喘ぐ姿は見たいですよね!? ね!?」
「……………………えっと」
「目一杯悩んだ末にちょっと迷うのやめろ桜野! その反応はあまりにもガチだ!」
だから俺の話になるといつもの調子を失って恋する乙女脳全開になるのはやめてくれ! 俺は俺で、立場上反応がしづらい! お前とか藤堂とかのアピールに毎回毎回胃を痛めているこっちの身にもなってくれよ!
「いや、蓮さんの場合は自業自得だろ」
「正論はときに人を傷つけるだけだと学ぶがいい、深夏よ」
「どこのラスボスだアンタは」
わ、分かってらい! 俺だって自分が悪い事くらいは百も承知だっつーの!
冷静に客観視してみれば相当なゲス野郎である俺にこれ以上ない程の蔑みの視線を送ってくる深夏。俺はその視線を脳内で快感に変換しつつ、名前を呼ばれてもいないのに寸劇のお題を提案しようと試みた。
「じゃあ次は俺の番だな!」
「生徒会全員でアンタを虐めるっていう方向性を除いたうえで発言してもらいましょうか」
「…………」
俺は静かに笑みを浮かべたまま無言で立ち上がると、生徒会室の奥にあるスペース――――壁で仕切られた倉庫のような空間に降り立ち、そのまま膝を抱えて顔を埋めた。あぁ、この仄暗さが心地よい……。
「って! アニメ版で急遽追加された生徒会室の倉庫に身を潜めて一人で黄昏るのはやめなさい! そこ一段下がったところにあるから、私の場所からだと胸から上しか見えなくて怖いのよ!」
「だって……桜野がいじめるから……」
「アンタの発想力はほんと駄目な方向に偏ってるわねぇ!?」
「あ、でもロリっ娘にいじめられるのって思った以上に快感だわ。ふふ、下品ですが……少し興奮してしまいましてね」
「いやぁ――――っ! もう嫌だよこのセクハラマゾヒストォ――――ッ!」
「はぁはぁ、もっと甲高い声で心の底から言ってくれ!」
「少しは懲りなさいよこの馬鹿!」
『逆効果なんだよなぁ』
俺の対応に涙目になりながら叫び倒す桜野が愛おしくて仕方がない。マスコット的な意味で。
いつまでも倉庫で不貞腐れているわけにもいかないので、五分ほど体育座りを続行した後に席に戻る。椅子のゆがみを軽く直すと、そのまま座禅を組み三点倒立を決めて桜野に会話を促した。
「続けてくれ」
「目の前に修行僧もびっくりな姿勢の馬鹿がいる状況で会議進められるわけないでしょーがっ! アホか! アンタは真性のアホなのか!?」
「アホじゃない。マゾヒストだ!」
「今世紀最大の不必要な宣言やめなさい!」
「……蓮。話が全く進まないからそろそろふざけるのやめなさい」
「うーい」
さすがに見兼ねた姉さんに止められて大人しく姿勢を正す。確かに少々やりすぎた感は否めない。だが、止まらなかったんだ。実に二年ぶりのギャグパートで今まで溜まっていた鬱憤がハジケてしまったんだ。悪気はない。
にしても、議題が全く進んでいない。八割方暴走した俺のせいではあるけれども、寸劇のお題が決まる前に司会役の桜野がグロッキーだ。元々体力のある奴ではないからツッコミ疲れしているのだろうが……ここはまとめ役を傍観に徹している姉さんに頼むとしよう。おそらく、俺達の手綱を一番握れるのが彼女だろうし。
アイコンタクトで内容を伝えると、溜息をつきつつも会話を仕切り直す姉さん。
「はい、いい加減話進めるわよ。キー君達は戦力外ってことが分かったから、深夏、貴女だけが頼りだわ」
「俺に意見が求められていない件について」
「変態は黙ってなさい」
「ありがとうございます!」
『うわぁ……』
杉崎と椎名姉妹が割とガチめに引いていたが、今更その程度の反応に堪える俺ではない。
指名された深夏は「そうさなぁ」と豊かな胸の前で腕を組み、考え込む。いつも脊髄反射で答える彼女にしては珍しい黙考の末、深夏は再び立ち上がると胸を張って意気揚々と告げた。
「戦隊モノっていうのは、どうだろう!」
……長考しようがしまいが、彼女の思考回路に変化はないらしい。